口下手童貞少年、ナンバーワンホストになる ⑮ 脱出編

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リビングを通って正面のふすまを開けると私とS君の和室があり

入って左手に押入れがあった。

右手にS君のマットレス。

左手の押入れの前に私のせんべい布団。

カーテンフックが壊れた状態で取り付けてある遮光カーテン。

カーテンが傾いている隙間から、

常に光が差し込んでいた。


テレビで見るホスト達の優雅な暮らしとは真逆の暮らしだった。


それどころか、

並以下の暮らしであろう。


それでも、Yの家に比べたら、

とてつもない開放感だった。

今まで我慢していた自分がバカらしくなった。


(自由・・・すばらしい。

   民主主義バンザイ。)


と自由を噛みしめていた。


S君はお客さんの家をしっかりと回り、

お客さん回りがない時は、

寮にいるという感じだった。


たまに仕事から一緒に寮に帰った時には、たわいもない話をどちらかが寝落ちするまで、ずっと話をしていた。


どちらかが疲れていて

会話が一切なくても、

全然気にならない程の信頼関係になっていた。


S君が何故か所有していた

「ブレイブハート」

という、メルギブソン主演の

中世の物語で、

庶民の英雄が、武器を持って立ち上がるというDVDを一緒に見て、

ホストという仕事に全く応用が利かないのに

意味不明にとても奮い立ったのを、今でも鮮明に覚えている・・・・。


ちなみにS君とは、

今でも仲良しだ。



脱出当日は

寮に逃げ込んで、とりあえず深く寝た。

完全に気疲れしていた。

もちろん、何も告げずに家を出たので、

Yから着信がくる。


Y「ちょっと、どういうつもりなの?」


私「・・・・もう無理だよ。限界だよ。」


Y「・・・・・・。」


Yは無言になった。

色々思い出していたのかもしれない。

電話だから強気になれていた自分が情けなかった。


Y「もう、別れるつもりなの?」


私「・・・・・うん。」


当初はそんなやりとりが続いた。

一日では終わらなかった。

複雑な経緯が絡んでいたというのも理由の一つだろう。

ヒステリックに怒鳴られたり、

泣かれたりもした。


付き合っているのか、

別れているのかわからない状況が結局2週間ぐらい続いた。


その後、幸いYが店に来る事はなかった。

そして徐々にお互い連絡をとる回数が減りはしたが

付き合ってはいないが、切れてもいないという状態が1年半程続いた。


絶対によりを戻すつもりはなかったが、

相当の間、私自身は大きな罪悪感を感じていた。


罪悪感と中途半端な情で連絡をとっていたのだろう。


……借用書の事が気になっていたのも、正直ある。


ダサすぎる理由の数々だった……。


好きでなければ、こんな感情にならなかったのに……。


私が売上を強要した訳ではないが、

Y自身がどこからか借りてきたお金だったかもしれない

という事が重かった。



もちろん現在…


Yがどのような暮らしをしているのか、

結婚はしたのか、

などはまったくわからない。



もう少しで21歳という頃に、

男と女の距離感というものを少し学んだ気がしていた。


かなりヘビーな恋愛であった。


同棲という言葉にあれほど憧れていたのに、

すでにその頃には同棲はもうしたくないという気持ちになっていた。


好きだという感情を持っていた女性が、

二度と会いたくない女性になったのは、

初めての経験だった。


(男女関係で自分の意見、

自分の意思表示をしっかりと示さないと、とんでもない方向に行く事もあるんだな。)



…そして私は、

「情」

というものは時として、

悪い意味を持つ時もあると学んだ…



身辺が落ち着く頃には、

もう12月になろうとしていた。




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