あと1週間で倒産からの起死回生。逆転のカギは理念・ビジョンの構築だった
創業1911年。株式会社WORK SMILE LABO(ワクスマ)は、今年で109年を迎えます。しかし、四代目となる私、石井聖博が後を継ぐために戻ってきた2006年は、業績が低迷、社の雰囲気も非常に悪い状況でした。そこから状況はさらに悪化、一時は倒産目前まで追い込まれた当社が持ち直し、「ワクスマ」として復活を遂げられたのはなぜなのか。起死回生ストーリーをお話します。
残り1週間で倒産――必死に回避した最大の危機
父に「もう無理そうだ。別の仕事を探してくれ」と言われたのは、2009年のこと。お恥ずかしいことに、そこで初めて会社が倒産目前まで追い詰められていたことを知りました。その前年、経営に関する研修を受けさせてもらってはいたのですが、今思うと後継者としての当事者意識がまったくなかったのです。
当時の私はただの一社員。父の言う通り、転職先を探しても良かった。しかし、何となくとはいえ4代目になるつもりで戻ってきて、1年間勉強もしました。さらに、当時は創業99年。節目の年まであと1年という時期だったんです。
このまま廃業になると、父母が住む実家もなくなってしまう。父が長年働いてきた最後が、廃業や自宅を失うことになるのは単純に嫌だと思いました。そこで、父と銀行に行ったんです。
銀行からは「何か新しいことをしないとダメだ」と言われました。しかし、父は事業計画書を作ってもいない。そこで、ふと思い出したのが、研修で作成してカバンに入れたままになっていた自社の経営計画書です。それを手渡して言われたのは、「本当に茨の道になりますが、やるんですか」。そこまできて、「やっぱりやめます」とは言えませんから、「やります」と返答し、経営再建スタートを切ったのです。
2011年夏、さらなる危機がやってきます。会社の運転資金がなくなり、手形の決済ができないところまで追い込まれたんです。もう銀行からは借り入れができないため、資産を売る判断を下しました。しかし、持っている資産は田んぼの中にある第二創業地、第三創業地しかない。さらには、宅地化はできない農地だったんです。
それでも売るしかない。銀行からは「他の手立てを探した方がいい」と言われながらも、知り合いを頼りながら買い手を探しました。そして、期日1週間前に建設会社から「資材置き場として買おう」と言っていただけたんです。
しかし、条件は「建物の中の撤去、清掃を済ませる」こと。業者に依頼するお金はない。頼める社員もいないので、弟と私ふたりがかりで掃除、撤去作業を行いました。これが、本当につらくてですね。電気が通っていないため暗く、おまけにすさまじい暑さです。「何でこんなことをする羽目になったんだ」と心身共に追い詰められました。
ただ、苦労の甲斐あって、倒産は回避。手元には300万円が残りました。「残金も返済に充ててくれ」と銀行から言われましたが、会社を立て直すためには元手がいります。銀行を説得し、この300万円で新規事業を始めることになりました。
たった300万円。されど、当時の私にとっては「これで新しい策が打てる」と思える貴重な300万円でした。
理念もビジョンも、何もなかった
2010年に倒産ギリギリまで追い詰められた当社。創業者は、私の曽祖父です。筆や墨、当時では珍しかった万年筆などを売る文具屋としてプレス分野で創業し、時代の流れと共に売るものを変えながら事業を続けてきました。父の代で扱い始めたのがOA機器やオフィス家具、事務用品。これらを企業に販売する事務機屋として生業をしていました。
私が社に戻ってきたのは、2006年。当時の社内の雰囲気は、正直非常に悪かったですね。さぼりに行く社員もいましたし、辞めていく社員も多かった。入社当日の私に、初対面の先輩社員が「私は今日で辞めるんです」と言ってきたほどです。
父を否定するわけではありませんが、当時の当社は「夢も希望もない」会社だったのだと思います。事務機業界はシュリンクしており、売上が下がっているのは当社も例外ではありませんでした。にも関わらず、新たな手を打つわけではなく、目指すべき理念もビジョンも何もない。社員も、何をどうしていけばいいのかわからなかったことでしょう。
当時の私は、典型的な「社長の馬鹿息子」でした。戻ってきたのも、志や覚悟があったわけではなく、「会社を継げばそこそこ楽してお金がもらえるだろう」といった有様で。社の現況も知らなかったものですから、実態を見て初めて「これは大変なんじゃないのか」と驚いた具合でした。
私個人は「石井」という苗字の影響力があり、「社長の息子だから」ということで売上を出せる。ただ、当時はそうした背景にも思い至らず、なぜ他の社員が売上を上げられないのかあまり理解できていませんでした。
2008年にはリーマンショックが発生。そうして、冒頭にお話した2010年、2011年の危機に進んでいってしまったんです。
「価格競争から逃れたい」思いが、新しい価値提供の発想に繋がった
倒産回避後が、起死回生の本番です。まず私が始めたのは、中小企業にセキュリティーツールを販売する事業とIT担当者の代行事業でした。マイナンバー制度が開始され、セキュリティー意識が高まっている時代の流れを捉えたんです。
新規事業立ち上げの際、私の根底にあった思いは「価格競争から抜け出したい」でした。この業界は、いくらいい会社であっても最後には価格がものを言う部分がどうしても大きい。働く側のモチベーションが下がるのも無理がないと感じていました。だから「うちじゃないといけない」を作りたかった。その思いが事業になったのが、働き方を提案する「WORK SMILE LABO(ワクスマ)」です。
ワクスマに行き着くまでの間には、会社内部の立て直しも行いました。倒産危機を免れてもなお離職者が後を絶たなかったため、理由を知るために月1回ひとり30分の面談を始めたんです。当初は社長の息子が気まぐれに始めた取り組みだと思われてしまい、なかなか意見が出てこなかったのですが、辛抱強く続けることで課題が見えてきました。
面談をきっかけに導入したひとつが、社員の評価制度です。「賞与額をどう決めているのか知りたい」との声が導入のきっかけとなりました。面談では、寄せられた要望について実現可否を必ず伝えること、できない場合は理由も説明すること、できるできないの判断に一貫性を持たせることを指針にしています。継続し続けたことで、社員も本音や意見を寄せてくれるようになりました。
2015年2月には、正式に私が後継者として代表に就任。そこで初めて、経営理念やビジョンの策定に着手できました。会社のあり方を決めるのは、やはりトップにならねば説得力を持って行えないと思っていたためです。策定検討中、女性社員が心身の調子を崩し、働きたいのに出社できなくなるといったアクシデントも経験しました。こうした経験を経て、働き方の理想をより深く考えるようになり、現在当社が掲げている「『働く』に笑顔を!」という言葉が浮かんだんです。
理念やビジョンの浸透と共に、社の雰囲気が前向きに
「ワクスマ」では、従来の訪問販売ではなく、来店体験型での働き方提案を行っています。
お客様が欲するものは「ツール」ではなく「ワクスマの働き方」。「これがほしい」と「これがしたい」とでは見る視点が大きく異なり、他社との比較もされにくい。競合率は2013年の60%から2019年には7.5%と軽減しました。価格競争から抜け出せたんです。事業への独立性、世の中への貢献度を感じられることから、社員の仕事に対するやりがい、誇りにも繋がっていると感じています。
変化が如実に表れたのは、毎朝行う朝礼です。昔は発表を促しても挙手する人間が私しかいなかったのに、今では9割の社員が挙げるんです。ビジョンを明確に伝えることで、合わないと感じた社員は去り、大きく変化した社員もいる。結果、社内が前向きな雰囲気になりました。こうした変化が採用にも影響を及ぼしているのでしょう。新卒採用で岡山県第4位にランクインするまでに至ったのです。
学生から支持を得ている一側面には、テレワークなど働きやすさが挙げられるでしょう。特に女性は、結婚出産後のことも考え、働き続けられるイメージを抱いて応募されるケースが見られます。ただ、働きやすい環境さえ整えたら採用に繋がるのかというと、そうではありません。やはり、前提には働きがいを感じられることが重要だと考えています。理念やビジョン、事業内容ですね。そこに共感できることで、働きがいを感じられる。その前提に加えて働きやすい企業が、その学生にとっていい会社だと思います。
そのため、当社では理念ビジョン共感型採用という手法で採用活動を行っています。説明では理念やビジョンの話が中心で、興味を持った方には「うちに遊びに来て」と伝えているんです。そういったやり方に面白さを感じてくれる学生が多かったことが、岡山4位に繋がったのかもしれません。
事務機業界を働き方支援業界に。中小零細企業のワークスタイルモデルカンパニーを目指して
父から私が受け継ぎ、当社は前社名である「石井事務機センター」が与えるイメージとかけ離れた事業を行うようになりました。全国に取引先が広がり始めたタイミングもあり、2018年「株式会社WORK SMILE LABO」に社名を変更。これまでに積み重ねてきた地元での知名度より、今後の展開を重視しての決断でした。
働き方改革の必要性に加え、今年は新型コロナウイルス感染症の影響も受けました。中小企業が働き方を変えていかなければ成長発展がしづらい社会に、今後ますますなっていくでしょう。政府もより推進に力を入れると思います。しかし、推進だけされても、実際にどうすれば変えていけるのか、特に中小零細企業には具体的な方法がわからない。その「どうすれば働き方を変えていけるのかわからない」ニーズは、今後より膨らんでくるはず。私たちが提供できる価値に対する需要は高まっていくと思っています。
事務機業界と聞いて、どんなイメージを持たれますか。私は、響きが古臭く、価格競争優位で儲けが出しづらい、衰退業だと捉えていました。ただ、そんな事務機業界には全国約5,000社がある。全国津々浦々の中小零細企業に対し、フェイストゥフェイスで対応できる業界は、この業界ぐらいしかないだろうとも思うんです。その強みを活かして、事務機業界を働き方支援業界に変えていきたい、それが今の私の想いです。目指すは日本の中小零細企業のワークスタイルモデルカンパニー。そこから全国の中小零細企業の働き方が多様化し、生産性向上が叶えば、地域活性化にも貢献できるだろう――そんなビジョンを描いています。
■中小企業のDX化無料セミナーはこちら
https://wakusuma.com/seminar-list
■本件に関するお問い合わせ
株式会社 WORK SMILE LABO 瀬尾
所在地:〒702-8035 岡⼭県岡⼭市南区福浜町15-10
HP:http://wakusuma.com/
Mail:ishii-kh@ishiijc.co.jp
電話:086-263-2113
取材・執筆=卯岡若菜、監修=WORK SMILE LABO
行動者ストーリー詳細へ
PR TIMES STORYトップへ