一人でも多くの受験生に模試の受験機会を。『全統模試』Web受験サービス開発の裏側
年間のべ299万人(2019年度実績)が受験する高校生・高卒生にとっては馴染みのある「全統模試」。河合塾の模擬試験は、受験生にとって自身の現在の実力や志望大学までの「距離」を測るだけではなく、受験後の効果的な復習などにも活用できる学習教材の側面も併せ持つ利用価値の高い重要なアイテムとなっている。しかし、2020年春から続く新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、河合塾が提供する外部会場を利用した受験機会を見送らざるをえず、多くの受験生が「全統模試」を受験することができないという事態に直面した。しかも今年は「大学入学共通テスト(以後、共通テスト)」の導入初年度。共通テストに誰もが不安を抱く中で、模擬試験すら受験できない・・・!!
このようなコロナ禍と共通テスト導入初年度の状況下、一人でも多くの受験生に模試の受験機会を提供すべく、急遽「Web受験サービス」の開発・導入を行った学校法人河合塾 模試統括部の村瀬秀夫と河崎力に話を聞いた。
(左)河崎 力 (右)村瀬 秀夫
開発期間はたったの3カ月!
2020年春以降、新型コロナウイルス感染症の拡大によって高等学校の多くは休校となり、模試についても高等学校での実施はもちろん、河合塾が提供する外部会場(大学・一般会場での一斉受験)での実施もできない状況となった。そんなコロナ禍がこの後どうなるかわからない緊急事態宣言下の5月初め、全統模試をWeb上で受験できる仕組みを導入できないか、という話が塾内で持ち上がる。導入する模擬試験は、全国の受験生が不安を抱く共通テスト対策の「第2回全統共通テスト模試」。新たなシステム開発は通常半年から1年程度かかるものだが、今回は8月末にはリリースをしなければならない。つまり3カ月強しかない。部長の村瀬は、早速、実現に向けた商品企画に着手する。「そこから8月末のリリースまでは怒涛の日々だった」と振り返る。
全統模試で導入した「Web受験サービス」は、申込から、受験、自己採点、個人成績表の確認、解答解説集の閲覧、復習まで、すべてをオンライン上で行う仕組み。受験は、Web画面上で「問題」を見ながら解き、「解答」もWeb画面に入力するCBT形式だ。プラットフォームはすでに導入していた「模試ナビ※」を活用した。全面的にオンライン化することで、場所を選ばずに受験ができるのはもちろん、休校のために試験問題すら紙で渡すことができないという課題もクリア。また、デジタル化の利点を活用し、試験日の翌日には、自身の解答データが模試ナビに連携され、自動採点機能により即座に採点結果が確認できるようにした。これで速やかに復習に取り組むことが可能になる。模試は受験後の復習が最も重要となるため、受験だけできれば良いという考えではなく、模試が持っている商品性が最大限発揮できるシステムづくりをめざした。また、デバイスはPCだけでなく、受験生にとって馴染みのあるスマホ・タブレットも可能に。これは、今回の目的である「一人でも多くの受験生に模試の受験機会を提供する」という観点に立ち、デバイスがないから受験できないという事態を防ぐためだ。実際、受験した生徒の26%はスマホでの受験だった。
※「模試ナビ」…正式名称は「河合塾 全統模試学習ナビゲーター」。模試ナビは、スマートフォンやタブレット・PCを活用し、「全統模試」を起点とした学習サイクルをサポートする無料のサービス。
こだわったのは模擬試験としての品質
商品企画からリリースまで3カ月強しかない中で、部門メンバー一丸となって取り組んだ。短期間での開発ではあったが、Webの特性は生かしつつも、「品質」にはこだわった。
全統模試は、河合塾のプロ講師たちが毎年入試問題を徹底分析し、それに基づき作問している。この作問の精度の高さにはこれまでも受験生だけでなく、全国の高等学校の教員からも定評がある。だからこそ、Web受験という受験形式が変わっても、現在の実力を正確に測定するアセスメントとしての側面と、受験後の効果的な復習などをサポートする学習教材の側面の両面を実現させることにこだわった。「リリース期間が限られている中では、この機能はいらないのではないか、受験さえできればいいのではないかという議論が出るたびに、いや違う、単に受験できれば良いわけではない、受験者に本番入試の疑似体験をしてもらうことや受験後の復習などのサポートまで含めて全統模試の品質だと説いた。部門メンバーはもちろん、開発に協力いただいたベンダーの方々も大変だったと思います」と村瀬は語る。これまで長年評価されてきた「全統模試」のブランドに妥協はなかった。
たとえば、マーク式の試験の場合、本番の紙ベースでの受験ではマークを塗りつぶすのに時間がかかる。それを前提に、CBT形式でマークを入力したときに、即座に白黒反転するのではなく、必要な解答時間の再現をするために、じんわりとマークが塗りつぶされるように工夫をした。また、受験中にWeb画面に表示する「時間」も、カウントアップにすべきかカウントダウンにすべきかなど、さまざまな観点から受験生の立場になって議論を重ねた。
生徒・保護者・高校現場からの期待は想像以上
この品質へのこだわりを支えたのが、生徒・保護者・高校現場からの全統模試に対する強い要望・期待だ。
5月に行われた第1回全統共通テスト模試は、緊急事態宣言下のため、高校・公開会場含めて多くが実施できなかった。新たな受験機会を創出するため、自宅に問題を送付し自宅で受験できるサービスを導入したところ、想像以上のお申し込みがあった。生徒・保護者・高校現場から「どうやったら模試を受けられますか?」「初めての共通テストなので模試が受けられないと困る」といった問い合わせも多く寄せられた。あらためて模擬試験を提供する側としての責任も強く感じたという。このときの「模擬試験を受けたい!」という生徒・保護者・高校現場からの強い要望・期待が、次の共通テスト模試では、何とかして受験機会を提供しなくてはならないという思いを支え、この3カ月強という短い期間でのWeb受験サービスの開発につながった。
第2回全統共通テスト模試のWeb受験は9月上旬に行われた。参加は約1万人。生徒は自宅で受験するため、Webサイトには試験時間の目安となる「参考時間割」を提示したが、受験当日のアクセス状況を確認すると、多くの受験生が参考時間割に従って受験していたことが判明した。つまり、自宅など、試験会場ではなくとも、決められた試験時間をしっかりと守り、真剣に取り組む受験生たちの姿がデータから垣間見えた。「受験生たちが試験監督がいない中でも真摯に取り組んでくれていることがうれしかった。同時にあらためて身の引き締まる思いがした」と河崎は語る。
一人でも多くの受験生に模試の受験機会を提供するために、改善は続く
初めてのWeb受験では、お客様からの問い合わせや要望が多く寄せられた。河崎は「開発~テストまでも大変だったが、Web受験当日のお客様からの問い合わせ電話をコールセンターとして自分たちで受けたのも大変だった」と振り返る。しかし、一方で「自分たちで直接お客様の問い合わせに対応したことで、どんな点に改善が必要かわかった」と語る。この経験を生かし、次の模試へ向けて今日も日々改善を進めている。
今後、模擬試験はCBT化していくのだろうか。村瀬に聞いた。
「CBT化はあくまでも手段であり、目的ではない。本番入試が紙ベースでの試験を実施する形式である以上、模擬試験はそれに準じた形式、環境で受験機会を提供することが重要と考えている」。つまり、本番入試がCBT化しない限り模試をCBTのみにすることはない。一方で、CBT化は、新たな受験機会の創出と受験生の選択肢拡大に寄与できるものと考えているため、「今回のコロナ禍のような感染症や、台風等の自然災害や試験日に都合が合わない場合、模試会場まで行くのも難しい受験生の受験機会を喪失させないための有効な手段として引き続き提供していく」。
今や、受験生にとってのインフラともいえる「全統模試」。コロナ禍、大学入試改革と、変化し続ける世の中にも柔軟に対応しながら、これからも一人でも多くの受験生に質の高い模試の機会を提供するべく、河合塾は総力を挙げて努力を重ねていく。
※2020年度の全統模試の公開会場は中止。2021年度以降については河合塾ホームページをご覧ください。
■村瀬秀夫(むらせひでお)
学校法人河合塾 模試統括部 部長
1990年入塾。2001年より全統模試の業務に携わり、2010年以降、模試を含む高校向け商品・サービスの企画開発に従事し、2019年より現職。
『全統模試』の全体を統括する、河合塾における模試の第一人者。
■河崎力(かわさきつとむ)
学校法人河合塾 模試統括部模試統括チーム チーフ
1997年入塾。2009年から校舎現場での受験生支援業務に携わり、2012年自由が丘現役館の館長、2016年札幌校の校舎長を経て、2020年より現職。現場で生徒指導に当たっていた知見も生かし模試の開発に挑む。
◆河合塾「全統模試」サイト
https://www.kawai-juku.ac.jp/trial-exam/zento/
◆河合塾サイト
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