東北一の温泉地を目指して!クリエイター集団「トコナツ歩兵団」による、いわき湯本温泉(福島県)の温泉・炭鉱・フラによる再生の物語
面白企画創造集団・トコナツ歩兵団は、2010年結成のクリエイター集団で、一線で活躍する24名のクリエイターで構成されています。フラットな関係性によるクリエイティビティと、プロジェクト毎の最適解なキャスティングを目指し、会社形態を取らずに屋号にて活動。ソフトからハードまでの一貫したブランディングの元、企画・デザイン・設計・プロデュースを行っています。
いわき湯本温泉には2014年の女将さんたちがアイドルを目指す「フラ女将」(※1)の企画・プロデュースから携わり、以降「フラのまちオンステージ」、いわき市シティセールス「フラシティいわき」(※2)の企画・プロデュース等で関係を深めてきました。
2021年春「常磐地区市街地再生整備」の検討が地域住民と行政の意見相違により頓挫しかけた折、フラ女将の推薦により計画に参加。地域住民と共に「湯本駅前再開発計画 基本構想」を、次いで「湯本駅前再開発計画 温浴事業構想」を作成。その後、地域住民と行政の協力により「新・いわき湯本温泉まちづくりビジョンブック」を作成。2030年の第1期完成に向けて動き始めました。
※1 フラ女将
東日本大震災の風評被害に悩むいわき湯本温泉の女将さんたちがアイドルになって街を盛り上げたいと考え、トコナツ歩兵団に相談。トコナツ歩兵団によるワークショップを重ねて2014年「フラのまち宣言」を行い、翌2015年着物でフラを踊る「フラ女将」と月一イベント「フラのまちオンステージ」を生み出した。
※2 シティセールス「フラシティいわき」
市の魅力を広く発信し、都市イメージ・都市ブランド力を高めるため、市民有志といわき市、トコナツ歩兵団によるワークショップを重ねて2018年に策定。メインコンテンツのフラと共に数ある地域資源を効果的に活用している。
きっかけは、フラ女将たちからの一本のお電話
面白企画創造集団・トコナツ歩兵団の団長/プロデューサーとして行政や民間企業のオファーに全国を飛び回る日々を送っていた私の元に、フラ女将たちから電話が入ったのは2021年春のことでした。
「湯本駅前の再開発計画が地域住民と行政の意見相違により頓挫しそうなので、参加してもらえないか」
私も以前から「常磐湯本地区まちづくり計画(2005、2017)」というのを地域住民と行政が作っているというのは知っていましたが、いわき湯本温泉におけるトコナツ歩兵団の役割は女将さん主体のプロジェクト「フラ女将」等を動かすことであり、宿の旦那さんたちが中心になって進めている印象のあったまちづくり計画とは別の動きをしていました。
トコナツ歩兵団としては静岡県島田市で都市計画「島田金谷IC周辺賑わい交流拠点整備計画」(※3)がちょうど完成したところで、比較的時間が取れるタイミングでもありました。そこで関係者と何度かオンラインでヒアリングやミーティングを重ねた結果、地域住民と行政との意見相違の最大のポイントは地域住民20年の想いがテキストで終わってしまっており、目に見える形に視覚化できていないことにあることが分かりました。そこで湯本のプロジェクトに相応しいメンバーとしてかつてリゾート開発を共に手掛けたことがある建築家の滝口聡司と共に参加することにしました。
※3 島田金谷IC周辺賑わい交流拠点整備計画
静岡県による内陸部の活性化を図る施策として新東名自動車道の島田金谷IC周辺が内陸フロンティア推進区域に指定されたのを契機に、島田市、JAおおいがわ、大井川鐵道、NEXCO中日本の4者連携事業としてスタート。2015年からトコナツ歩兵団によるプロデュース開始。2020年11月に「緑茶・農業・観光の体験型フードパーク KADODE OOIGAWA」としてオープンした。
ワーキンググループの始動と、「基本構想」の作成
まずはまちづくり団体・じょうばん街工房21と「みんなでつくる人と情報のたまり場見える化WG(ワーキンググループ)」を始動させました。ただ東日本大震災以降からさかんになったこの手のWS(ワークショップ)やWGに気疲れしている地域住民には理解されにくいことは分かっていました。だからこそ参加する1-2時間をむしろお金を払って参加したいと思うコンサートなどの催し物のような楽しいものとして構成して、かつアイデアが結実する瞬間を楽しんでもらうようなWGにしました。かつて女将さんたちと一緒に「フラ女将」を産み、「フラのまちオンステージ」を作り、その流れからいわき市と共に「フラシティいわき」を作ってきたのと同じようにWGを設計しました。
トコナツ式WSまたはWG
①教科書やどこかの成功事例を学ぶまちづくりではなく、身近にあるエンターテインメントからまちづくりを一緒に考える。
②誰に否定されることなくいわき湯本温泉のアイデアとイメージのノックを行う。
③デザインのプロが①②を組み立てる。
2021年5月から11月にかけて、私たちはじょうばん街工房21の皆さんとトコナツで「湯本駅前再開発計画 基本構想」というものを作成しました。これは地域住民の皆さんが20年来話し合ってきた内容に新しいアイデアを加えて、コンセプトと平面図、パースに落とした湯本駅前の理想像です。この時に僕らはどうせ行政に提案するものならば、最初から行政に入ってもらうべきだと考えました。それに賛同してくれたいわき市都市計画課等がオブザーバーとしてですが入ってくれました。地域住民とトコナツがどうやってアイデアを形にしていくかという作業を実際に見てもらったのです。構想が完成してからじょうばん街工房21は行政との折衝を再開しましたが、そもそも行政は基本構想の成立の過程を見てくれているので理解が早い。結果双方の関係が深まるという良い結果となりました。
メインの施設である温浴事業の計画づくりへ。肝はビジョンの構築だった
次にじょうばん街工房21の皆さんとトコナツが着手したのが「湯本駅前再開発計画 温浴事業構想」です。前回の基本構想をベースに稼ぐ施設の中心である温浴事業に焦点を当て、コンセプトと平面図、パース、さらに収支計画を追加しました。同じくいわき市都市計画課等に参加して頂いています。これは2022年4月から9月にかけて行いました。
これら2つの作業を通じて、いわき市とも空間と時間を共有する中で、行政からのトコナツ歩兵団に対する見え方が、ソフトをプロデュースする集団からハードをプロデュースする集団へと変わってきたように感じます。元々トコナツはハードを作る集団から始まっているのですが、いわき市ではそのようなプロジェクトに携わる機会がなかったことから、これまではソフト系の見え方しかされなかった。また行政の皆さんがKADODE OOIGAWAに視察に行ってくれたのも見え方が変わった大きな要因かもしれません。
そうした流れの中で、いわき市に対して地域の皆さんと共にトコナツが強く求めたことが2点ありました。いわき湯本温泉全体のブランディングとその第一段階としてのVISIONの構築です。なにせ20年前から始まっている計画ですので、計画を進めることありきになってきてしまっており、誰もが本質を理解できているようで理解できていない。結果的に言語化できていない。それを改めて作る重要性を行政に会うごとに伝えていきました。
その要望に行政が対応してくれて作られたのが「いわき湯本温泉ブランド化作戦会議」です。温泉観光地としてのまちのあり方・デザインの指針となる「いわき湯本温泉ブランド戦略」の策定に向けて、まちづくりの専門家3人とまちづくり組織から2名、地域を代表する団体からのアドバイザーなどを加えた会議です。この会議の座長にトコナツ歩兵団から私、委員に滝口が参加することになりました。
トコナツ歩兵団はこれまで地域住民側からの立場でのみ本プロジェクトのプロデュースを行ってきたのですが、ここからは行政の立場も鑑みながら全体プロデュースを行うことになりました。「いわき湯本温泉ブランド化作戦会議」が全体をより俯瞰してプロデュースできるようになったことは、いわき湯本温泉のブランディングを考え具現化する上で、非常に重要なことだと思います。
いわき湯本温泉ブランド化作戦会議:いわき市長への報告会
地域住民と行政によるワークショップ形式で「VISION BOOK」を作成
同時に「VISION BOOK」づくりに着手しました。公に地域住民と行政が手を取り合って、現時点での共通の目標「VISION」を言語化し視覚化する、この時点での最重要ミッションです。基本構想や温浴事業構想と同様に、じょうばん街工房21他の地域住民の皆さんといわき市と一緒に計6回のトコナツ式WSを重ね、2023年4月、東北一の温泉地を目指す「新・いわき湯本温泉 まちづくりビジョンブック」を完成させました。
1.ビジョン
(1)いわき湯本温泉のビジョン「マイプレイスを想像・創造できるまち」
ビジョンとは、まちづくりのよりどころとなる「土台」。湯本で暮らす人にはまちなかにもっと「居場所」がほしい、という想いがありました。それはただの場所ではなく、そこで何かを体験できる(アクティビティがある)ところ。それを「プレイス」(場所+人+アクティビティ)としました。いわき湯本温泉が目指すのは、自分たちがつくったいろいろな種類のプレイスが、エリアのあちこち点在しているまち。たくさんのマイプレイスで行われるアクティビティが、湯本らしいまちの魅力をつくり出します。
(2)いわき湯本温泉のアクション「つくる→あつまる→かせぐ」
「つくる→あつまる→かせぐ」のサイクルが生まれるとまちが活性化して、継続させていくことができます。
「つくる」マイプレイスを想像・創造できるまち。暮らす人が大切にする場所は訪れる人にとっても魅力的です。
「あつまる」何度でも通いたくなるまち。人が集まる場所、人が過ごす場所にはお金も集まります。
「かせぐ」未来に向けて成長を続けるまち。未来の街へ投資することで成長が持続します。
(3)コンテンツ「温泉・炭鉱・フラ × 新しいアイデア」
例えばフラ×女将で「フラ女将」が生まれたように、すでに湯本にあるコンテンツ「温泉・炭鉱・フラ」に新しいアイデアを掛け合わせて、新しい何かを生み出します。それをうまく発信できた時、湯本は選ばれる「東北一の温泉地」となります。
(4)新しいまちのつくりかた「3つの日帰り温泉」
2030年に向けて、駅前広場・交流拠点に「フラの湯」(仮称)、みゆき山に「みゆき山露天の湯」(仮称)、支所跡地・温泉神社周辺に「温泉神社の湯」(仮称)という3つの日帰り温浴施設の開設を目指します。3つの新しい温浴施設をつなぐようにマイプレイスを想像・創造して、まちのなかの魅力的な居場所を増やしていきます。
2.新しいまち
(1)マイプレイスのエリア分けとイメージ
エリア①駅前広場・交流拠点
いわき市常磐支所や図書館が移転してきて、温浴施設「フラの湯」(仮称)や地元のお店と合体。駅前広場と共に次世代モビリティを取り入れた新しいロータリーの設置を目指します。
エリア②駅前緑地周辺
駅前とみゆき山をつなぐエリア。みゆき山に登る大階段と地上の緑地は、新・湯本の顔として、あらゆる人を迎え入れます。
エリア③みゆき山
現在は利用者の少ないみゆき山。高台に温浴施設「みゆき山露天の湯」(仮称)や芝生広場、公衆トイレを設置して、皆が安心して使える憩いの場に。また夜の小径は新しい湯本の夜景スポットにもなります。
エリア④軌道みち
県道と温泉神社をつなぐ通りは、たくさんのお店が立ち並び、歩いて楽しい湯本の目抜き通りのような存在に。
エリア⑤支所跡地・温泉神社周辺
温泉神社と支所移転後のエリアは、温泉街の新しい中心地として、誰もが訪れる湯本を象徴する場所に。温浴施設「温泉神社の湯」(仮称)の開設も目指します。
エリア⑥表町通り・裏町通り
表町通りは温泉神社の表参道としてにぎわい、裏町通りは個性的かつ実験的なお店がひしめき合う、注目のホットスポットに。
今後の展望について
この「新・いわき湯本温泉 まちづくりビジョンブック」が完成したことで、まちづくりに関する全てのプロジェクトの指標ができ、今年からはこれを分解していくことで詳細を組めるようになりました。
新・いわき湯本温泉の第1期完成は2030年を予定していますが、まだまだ課題や問題は山積みです。トコナツ歩兵団としては地域住民と行政、そしてこれから参画してきてくれるだろう地元企業が手を取り合い、かつ楽しく事業を進めていけるような関係性を作りながら、東北一の温泉地を目指していわき湯本温泉の再生プロジェクトをプロデュースしていきたいと考えています。
プロジェクト情報
いわき市・市街地再生に向けた取り組みについて(常磐地区の検討状況)
https://www.city.iwaki.lg.jp/www/contents/1599438023049/index.html
トコナツ歩兵団・公式HP
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