野山で昆虫を採取して食べていた学生が「昆虫食」で社会課題を解決する起業に至るまでの軌跡
今年もセミの美味しそうな鳴き声がする季節になりました。夏休みは子どもたちを対象にした昆虫食講座が盛況です。『昆tuberかずき』こと、近畿大学・農学研究科の清水和輝(しみずかずき)です。
昆虫食のYouTuber『昆Tuber』を名乗り、発信を行なっています。高校生の頃に、イナゴの佃煮の美味しさに感動し、昆虫食に目覚め、野山で昆虫採取をしては、100種類以上の虫を食べて味を確かめてきました。
大学4年間の昆虫食の社会活動を経て、6月に創業したのが、社会課題を解決するための事業を掲げる株式会社POI(products of innovation)です。
POIでは、「昆虫食」などをテーマにした講座やイベントの企画・運営から開催、昆虫などの素材を扱った食品の企画・開発・販売をはじめ、地域や社会の課題を解決するための様々な事業を取り扱っていくつもりです。
創業に至るまでにたどった数奇な運命をこのストーリーでご紹介していきます。
福岡県のフリースクール山ねこでの昆虫食講座・フィールドワークにて
昆虫食の普及・啓発に取り組むきっかけ
『昆虫食』というワードは世間にもかなり浸透したのではないでしょうか?2013年にFAO(国連食糧農業機関)が、昆虫の食用利用の可能性についてレポートを行って以来、『昆虫食』というワードは世間にもかなり浸透し、徐々に注目されるようになりました。
養殖に必要とされる餌や水、場所など資源が少なくて済むため、畜産に比べて排出される二酸化炭素が少ないことが理由です。SDGsという言葉とともに、近年特に飛躍的に認知が広まってきました。
しかし、もともと、昆虫のビジネスの側面を意識していたわけではありません。野山で昆虫採取を行っていた私に転機が訪れたのは2019年のこと、地元の奈良で開催された昆虫食のイベントでした。
そこで、昆虫食の第一人者である内山昭一さん(昆虫料理研究家・NPO法人昆虫食普及ネットワーク理事長)の講演を聞いて、自分もこんな活動がしてみたいと考え、イベントを企画した地元の役所の職員に相談したことをきっかけに、奈良を拠点にYouTubeやSNSで活動を始めました。
【初めてのオリジナル商品】
自分の代名詞になるような商品を作ってみたい、そう考えて20歳の時に企画したのが「コオロギコーヒー」です。
いつも通っていた大阪・天満のsanwa coffee worksの日本で4位の実力を持つ焙煎士・西川隆士さんに相談したところ、快く開発を引き受けていただきました。ブラジル産の上質なコーヒーの中に、焙煎したコオロギの風味が微かに感じられる商品となり思い入れがあります。
sanwa coffee worksでの商品開発の打ち合わせ
【昆虫食の社会的な意義について考える契機となった出会い】
そうした中で、昆虫食の社会的な意義について考える契機になった象徴的な出来事がありました。「人新世の資本論」の著者である経済思想家・東京大学准教授の斎藤幸平先生との出会いです。
行き過ぎた資本主義に警鐘を鳴らす斎藤先生は、世の中で注目される様々なものに興味を持ち、その中のひとつに昆虫食があったといいます。斎藤先生に取材を受け、コオロギ料理を振る舞ったことをきっかけに、著書や考えから学び、昆虫食と気候変動対策について、意識するようになりました。
斎藤先生に振舞ったのはコオロギカレーにコオロギスコーン
広がる活動の幅
そこから、昆虫食とSDGsへの貢献などについて、全国の施設で講演する機会が増え、口コミで少しずつ活動の幅が広がってきました。これまで、地元・関西の公共施設や公園をはじめ、遠くはとうきょうスカイツリーや東京国際フォーラムでも講演に呼んでいただけるまでになりました。
東京ビッグサイトで開催されたifia JAPAN 2023 第28回 国際食品素材/添加物展・会議での基調講演
元環境大臣の小泉進次郎さんにも僕の社会活動を応援いただいており、議員会館で昆虫食の体験会を開催したこともあります。小泉さんがコオロギを食べたことでネットやSNSで炎上しましたが、これは政府の陰謀でも何でもなく、僕との出会いがきっかけでコオロギを食べてもらったことが切り取られていることが真相であるということはあまり知られていません。
普及・啓発の取り組みから、「事業」としての意識をすることになるきっかけ
この普及・啓発の取り組みを「事業」として意識するのは、株式会社NEXT NEW WORLDの高嶋耕太郎さんから影響を受けています。アマゾンジャパンでは最年少で事業部長、都内でSTUDIOUSなどのアパレルを展開するトウキョウベースで取締役を歴任した輝かしい経歴の持ち主です。
桐生市で開催されたレセプションの打ち上げにて、中央右が高嶋氏
高嶋さんは、『養蚕(シルク)』の素材に惚れ込み、自然由来の素材のシェアを伸ばし、気候変動対策を行うことを掲げ、上場企業を退社し、シンガポールと群馬を拠点に起業されています。ちょうど2021年頃、シルクの食品としての活用を検討されており、僕に白羽の矢が立ったのです。
『君はこのシルクを使って自分の作りたい食品を作ってみるとよい』
断るという選択肢はありませんでした。就職を保留し、大学院に進学し、高嶋さんのもとで学び、期間限定で同社の取締役に就任し、取り組みました。
実際に桐生にも足を運び、養蚕も行い「シルク」について学びました。
活動の裏の苦労と挫折
しかし、平凡な学生には、かなり無理がある挑戦でした。動画を撮影したり、編集したり、イベントや商品の企画・開発、本当に時間がかかる作業であり、いつチャンスがあるかもわかりません。限られた時間で効率よく学費を稼ぐため、ホストクラブでアルバイトをしていたこともあります。小さなクラブでしたが、幹部補佐として月の売り上げのNo. 1に輝いたこともあります。しかし、昼夜逆転で生活のリズムが乱れ、心身ともに体調を崩した時期もあり、高嶋さんの期待に応えられないこともありました。
自身のバースデーイベントにて。後ろにはシャンパンタワー
そんな中でも、親身になって人生の相談に乗って、一緒に励ましてくれたのは、ほかならぬ高嶋さん自身であり、地元で活動を支えてくれる社会人の方たちでした。
昆虫食の金字塔を達成した活動の集大成「シルクパン」
挫折を乗り越え、開発したシルク食品が『シルクパン』です。
過去に開発した商品は「コオロギコーヒー」や「コオロギ餃子」など、姿形は封印しながらも、「昆虫」がどうしても残ってしまうものではありましたが、「いまの世の中で大多数の人が受け入れやすいものはなにか」を突き詰めた結果、蚕の繭を煮沸した際に絹糸から溶け出すタンパク質「セリシン」という成分を用いることにしたのです。
都内で開催された次世代の食のコンテストで出会ったクッキングエンターティナー・大西哲也さんに監修を依頼しました。
完成を記念して都内で開催したパーティーにて。後ろにいるのが大西哲也氏。
セリシンには、糖尿病や高血圧・高血糖、結腸がんの予防などに効果が期待できる成分が含まれ、食べることによるメリットも十分に感じることができます。「シルク」というものにネガティブなイメージは感じないことから、昆虫食の食品史上最多の260名を超える支援者を獲得し、金字塔を達成することができました。
シルクパンの完成を記念して開催されたイベント・シンガポールから高嶋耕太郎氏、東京大学から斎藤幸平氏も駆け付けた。
法人化をきっかけに広がる出会いの幅
与えられたミッションを終え、新たに声をかけてくださったのが、株式会社ゼロパートナーズの四辻弘樹さんです。現在、ハンズオンで様々な起業家に指導を行っており、『若者が社会課題を解決するために行っている起業を応援したい』ということで、声をかけていただきました。四辻さんの後押しもあり、これまで個人事業を行っていたのを法人化したのが6月のことです。
近畿大学にて大学発ベンチャーの認定を受ける
起業を意識し始めてから、出会いの幅が広がり、応援してくれる大人も増えました。
手ぶら登園サービスでおむつのサブスクサービスを全国展開しているBABYJOB株式会社の上野公嗣さんもその1人で、一緒に泊まりがけの合宿に誘っていただいたり、川でバーベキューをしたりと公私共に可愛がっていただいています。
近畿大学のピッチコンテストにて上野氏と
様々なチャンスに挑戦
法人化を契機に、昆虫食で社会課題を解決するという視点に加え、様々な地域や社会の課題に「昆虫食」を生かすことができるだろうかという逆の視点も取り入れ、様々なチャンスに積極的にチャレンジしたいと考えています。
先日、兵庫県養父市を舞台にした観光のビジネスコンテストがあり、かねてより温めていた「昆虫」を活用した観光振興について提案し、賞をいただいたご縁で、広瀬栄市長にお招きいただき、養父市を訪問しました。
日本の養蚕のふるさとでもある、養父市を舞台にどういった形で地方創生に取り組めるのか、考えていきたいと思っています。
20年、30年後の地球を見届ける責任のある世代として、羽ばたいていけるようチャレンジしたい
所属している近畿大学では、大学発ベンチャーの創出に力を入れており、世耕石弘経営戦略本部長からは『今後どう成長していくのか、大学としてもしっかりコミットしていきたい』と積極的に応援してくれています。
世耕石弘経営戦略本部長をはじめ、大学がしっかりバックアップする
株式会社POIも、近畿大学発のベンチャーとして認定されており、奈良に構えた事務所とともに、東大阪市にある大学のインキュベーション施設「KINCUBA Basecamp」を拠点に活動を行っています。
2025年には地元で大阪・関西万博が開催され、SDGsの達成や社会課題の解決への貢献に関連した事業がますます注目されていくと考えています。
もうすぐセミの鳴き声も止み、秋にはトンボやバッタが草原を舞う季節です。これから20年後、30年後の地球を見届けていかなければならない責任ある世代として、しっかり羽ばたいていけるよう、チャレンジしていきます。
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