強みの”編集力”を活かして。名古屋の百貨店がサステナブルプロモーションを成功させた理由
松坂屋名古屋店は、創業410周年を迎える百貨店です。名古屋の地で誕生し、<生活と文化を結ぶマツザカヤ>としてこれまで地域の方に支えられながら歩んできました。
今、様々な業界でSDGsの輪が広がりを見せる中で、百貨店を取り巻くアパレル業界でも課題解決に向けた動きが活発化しています。当社でも、グループ企業として掲げるサステナビリティ方針のもと、本業を活かしながら、地球環境保全と社会課題の解決を図るため、これまで様々なプロモーションに取り組んできました。
そして今回はその成功例とも言える「THINK THE FUTURE」というイベントについて、ご紹介します。お客様から予想を超える反響があっただけでなく、社内でもサステナブル企画として評価され、百貨店だけでなくグループ全体の社内アワードを勝ち進み、注目を集めた企画です。
成功秘話や苦労した点など、担当者がサステナブルプロモーションを実現する上で感じたことやイベントで伝えたかった思い、そしてこれからの展望などについてお伝えします。
サステナブルプロモーション「THINK THE FUTURE」とは?
「THINK THE FUTURE」とは、2019年秋に”環境・ジェンダー・地産地消・復興支援”の4つの観点から”SDGs”の達成に繋がることを目的に松坂屋名古屋店で開かれたイベントです。
このイベントが生まれたきっかけは、当時婦人ファッションのプロモーション業務に携わっていた担当者が、”SDGs”をテーマに松坂屋として何かできることはないか?という考えからでした。
当時を振り返ると、”SDGs”というワードが少しづつ世に浸透しはじめた頃で、百貨店として出来ることは何かないか、地球の未来や環境について考える機会が増えたそうです。
イベントの実現まではおよそ8ヶ月。第1回目となる2019年のイベントでは予想を上回る反響があり、売上は予算を見事達成。そしてこの企画は”SDGs”という社会問題に貢献した企画として社内でも高い評価を得ました。
2018年から大丸松坂屋百貨店やPARCOを含むJFRグループ全体で行われている<発明アワード>でTHINK THE FUTUREの企画が名古屋店の代表にエントリーされ、3回の選考を経て、最終選考の10企画まで勝ち進み、見事準グランプリを獲得。
全国約11,000企画の中から見事2位に選ばれたのです。
<2020年発明アワード上位3企画>
その後、人事異動で当時の担当者が変わった後でも、世代交代しながらイベントは継続して開催されており、今回で3回目を迎えます。また、このイベントから派生して”地産地消”に特化したイベントプロジェクトも新たに始動。サステナブルプロモーションのさらなる発展にも取り組んでいます。
THINK THE FUTURE 成功までの道のり
まずは当時の企画の立ち上げに携わり、THINK THE FUTUREの生みの親でもある小形さんのエピソードを紹介します。
(写真=左)小形さんは入社後、婦人服売場を経験した後、産休を経て復職。現在は化粧品・アクセサリー売場のサブマネジャーを担当しています。
<出展交渉について>
小形「THINK THE FUTUREはそれぞれのテーマに関連した商品を1つの会場に集めて展開することで、買うことでサステナビリティ活動に参加することができるだけでなく、会場一体となって”サステナブル”というワードを訴求することで、訪れたお客様に環境や地球の未来について関心を持ってもらうことも狙いでした。」
またこのイベントは前例がなく、本当に1からのスタートだったと言います。出展先を探すところから始まり、課題は山済み。一宮地場産業ファッションデザインセンターに突撃で電話をして、イベントに参加していただけそうな企業をリサーチされたそうです。
小形「そこから、7月から1社ずつアポイントをとり企業まで直接出向き、私たちの企画説明、想いを聞いていただき出店交渉を重ねて行きました。また賛同していただけそうな他社様をご紹介をしていただき、どんどん輪が広がっていきました。」
小形「汗だくになりながら電車やバスで行ったのは今ではいい思い出です。」
また、小形さんはこの時が入社後初めての出店交渉だったそうです。百貨店に入社して婦人服を販売する仕事をしてきましたが、「自分の足でいいものを探しお客様へ届ける」という本来の入社目的を叶えられたという達成感があったと言います。
小形「地産地消のテーマでは、(小形さんの地元でもある)尾州織物を取り上げました。世界三大毛織物産地としてイギリスのハダースフィールドやイタリアのビエラとともに世界に誇れる生地を生み出しているにも関わらず、地元の人からの認知度が低かったので、露出の機会を作りたいという強い気持ちがありました。」
この尾州織物との出会いが、後にTHINK THE FUTUREから派生した新たなSDGsイベントプロジェクト<びしゅう百貨店>へと発展します。→びしゅう百貨店関連記事はこちら
<準備で工夫したこと>
小形「当時はまだ”サステナブル”や”SDGs”というワードが現在ほど世に浸透しておらず、ワードにピンと来ない人も多かったので、お客様にもいかに分かりやすく訴求するかもポイントでした。そこで装飾のメインビジュアルは、SDGsを4つのテーマに分けて設定しました。」
またお客様にイベント全体を見ていただきたかったので、集客がありそうなブランドを手前、奥に配置し回遊していただけるように、会場のレイアウトを工夫されたそうです。
小形さんはTHINK THE FUTUREのタイトルの名付け親でもあります。出産を経験し、子供達の未来が明るいものであるようにとの思いを込めてネーミング。会場に展示したベビーのマネキンには、さりげなく小形さんの娘さんの小物が付けられました。
<出展された方の反応は?>
小形「今回出展されたお取引先様の方は、製品を作ることは出来ても、それを販売するノウハウがまだ確立しておらず、試行錯誤されている方がほとんどでした。自信のある製品を百貨店で販売できる機会が持てることに好意的な方が多かったです。」
私たち百貨店もそうですが、企業がSDGsに本腰を入れて取り組むようになり、地元産業が世間から注目を浴びるようになったと言います。
今回のイベントは、松坂屋としてもCSV *を具現化出来たという意味で、お互いにメリットとなる取り組みになったと言えます。
※(株)大丸松坂屋百貨店を含むJ.フロント リテイリンググループは、2021年度からスタートした中期経営計画において、サステナビリティ経営の考え方、グループビジョンのゴールとしての「Well-Being Life(ウェルビーイング ライフ)」、そして、マテリアリティの充実と拡大を掲げています。サステナビリティ経営とは、社会課題の解決と企業成長を両立する経営です。その具体的な取り組みは「CSV:CreatingShared Value(共通価値の創造)」として取り組んでいます。
継続しながら、進化するイベントへ
そして、今回で3回目となるTHINK THE FUTUREにメインで携わるのは小形さんからバトンを受け継いだ森さんです。
森さんは入社2年目。紳士洋品や化粧品の販売を経験した後、現職の婦人服のプロモーション担当に異動しました。現職に異動してわずか半年のタイミングでこの企画のメインを任された彼女が、継続してイベントを発展させていく上で工夫した点や苦労した部分をお話します。
森さんはいわゆる”Z世代”で、学生時代もサステナブルな活動は身近に存在していました。それゆえ”サステナブル”というワードが普及し始めた今、言葉だけが一人歩きして、具体的に何に貢献しているのかを分かりやすく発信したいという、彼女なりの視点が企画に反映されています。
今回は前回出展がなかった新しいブランドの出展交渉から始まり、blue sergeとMITSUBOSHI1887を新しく展開します。この2ブランドは、サステナブルアクションが明確なブランドです。
<blue serge>THINK THE FUTREに初出展するブランド
例えばblue sergeは、一般社団法人繊維育英会が認証する基金証明書タグを洋服に付けて販売しています。このタグには売上の一部を支援金として寄付しているということが書かれており、手にとったお客様にもサステナビリティが分かりやすく伝わる工夫がされています。
また<地域貢献><環境><チャリティー><震災支援>と4つのテーマを設けたのも、
サステナビリティを分かりやすくお客様に伝えるために工夫した点です。会場のPOPやレイアウトにもそれらが反映されています。
森さんはファッションブランドならではの課題も感じています。
森「どうしてもファッション=デザインが先行するため、サステナブルだからこの服を買うというアクションに結びつけるのは難しい。」
森「サステナブルだから買うのではなく、気に入ったデザインの服がサステナブルだった。このくらいの気持ちでまずはサステナブルファッションに興味を持って欲しい」
そのためにも、デザインとサステナブルを両立させているブランドの発掘や露出をしていくことが、百貨店が持つ編集力を生かせる部分だと森さんは感じているようです。
サステナブルプロモーション成功の鍵
サステナブルはアパレル業界にとっても避けられないテーマですが、サステナブルが洋服の購入動機になるレベルまで消費者の関心はまだ高まっているとは言えません。
今後もTHINK THE FUTUREを継続していくことで、サステナブルアクションにまずは興味を持ってもらいたい。そのためにも、お客様にいかに”分かりやすく”サステナビリティを発信出来るかが、イベントを成功させる上で重要なキーとなります。
またTHINK THE FUTUREをきっかけに<びしゅう百貨店>という新しい派生イベントも生まれました。(2021年9月開催)尾州=織物というブランディングをし、ヴァーチャルとリアルを融合したイベントを企画したいという新たな展望も見据えています。
このようにサステナブルアクションに取り組むブランドを、単体ではなく複数組み合わせた企画を訴求できるのは、編集力がある百貨店の強みです。ですが、”見せる場所”があってもそれがうまく伝わらなければせっかくの企画も埋もれてしまいます。
サステナブルプロモーションは多種多様に捉えることができるため、いかにお客様目線で伝え方を工夫するかが重要なポイントです。
<2019年のメインVP>
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<2020年のメインVP>
SDGs17の目標がPOPに具体的に示され、サステナビリティ活動が更に分かりやすくなりました。
また、出展されるお取引先様と良好な関係性を構築することも、イベント成功の鍵を握ると言えます。
百貨店に出展することが初めてのお取引先も多く、通常のイベントよりも準備や説明が大変だったそうですが、小形さん・森さんはそれら1つ1つに丁寧に対応することを心がけたそうです。
それに応えるように、お取引先の方からワークショップの提案など、アイディアを出して頂くことも多く、イベントを成功させる企画を一緒に作り上げていったと言います。
我々百貨店が取り組む以前から当たり前のようにSDGsに取り組んできたお取引先の方のアイディアは、コンセプトを具現化する上で非常に役立ったと言います。イベントを成功させる上で、お互いの強みを生かすにはフラットに意見交換ができる良好な関係性を結ぶことが非常に重要だと言えます。
今回で3回目を迎えるTHINK THE FUTURE。
イベントを通して1人でも多くの方にサステナブルに関心を持っていただくことが、サステナビリティプロモーションの成功と言えます。
こうした取り組みの輪を広げていくためにも、サステナブルプロモーションを企画している方やこれから考えている方にとって、この記事が少しでもヒントになっていただけたらと思います。
<THINK THE FUTURE 開催概要>
・期 間 2021 年 11 月 3 日(水)~8 日(月)
※最終日は 18 時閉場
・場 所 松坂屋名古屋店 南館1階 オルガン広場
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