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『学研の図鑑 キン肉マン「超人」』誕生秘話(後編)。学研プラス クリエイター・インサイド 第1回

著者: 株式会社 学研ホールディングス

学研プラス(Gakken)が生み出す、数々の個性的で魅力的な商品・サービス。その背景にあるのはクリエイターたちの情熱だ。学研プラス公式ブログでは、ヒットメーカーたちのモノづくりに挑む姿を、インサイドストーリーズとして紹介していきます。第1回は、「超人図鑑」をプロデュースした編集者 芳賀靖彦の『学研の図鑑 キン肉マン「超人」』です。今回はその後編になります。(前編はこちらから


“熱中少年”が出会った二つの本

 芳賀が小学校低学年のころ、夢中になっていたのは、近所で採れる昆虫たちだった。カブトムシやクワガタ、セミにバッタ。個性あふれる形と色。どの昆虫も見ているだけで楽しかった。


 ある日、昆虫好きの芳賀に、両親は1冊の本をプレゼントした。


「それが『学研の図鑑 昆虫』でした。分厚い図鑑を手にしたときのずっしりとした感触と喜びは、いまもはっきりと記憶に残っていますね。その後も何冊か「学研の図鑑」を買ってもらえて、なかでも『飼育と観察』という図鑑が大好きで、ページがぼろぼろになるまで繰り返し読んでいました」


 当時、夢中になったものがもう一つあった。『週刊少年ジャンプ』(集英社)に連載されていた『キン肉マン』だ。兄が買っていた『週刊少年ジャンプ』を、ぱらぱらとめくっているうちに、芳賀少年の心は『キン肉マン』にくぎ付けになった。


 芳賀はいまも昔も、ひとつのことにのめり込む性格だ。広く浅くいろんなことをやってみようという意識よりも、好きなことを見つけたら、そこに集中してとことんハマるタイプ。漫画についても『キン肉マン』“だけ”が好きだったのだという。


「当時の『週刊少年ジャンプ』で連載されていた『キン肉マン』では、不定期に登場キャラクター、超人のデザイン募集が行われていました。『キン肉マン』が好きすぎて、僕もこの募集に超人を投稿し、いくつかが採用されたんです」


 なんと、その中のひとつが、「黄金のマスク編」で悪魔六騎士の一人としても登場することになる「ジャンクマン」。ファンにはおなじみの、かなりメジャーな超人である。


「ジャンクマン」「ハンマーヘッド」「タキング」は芳賀少年のハガキから生まれた

「投稿していたのは小学5年から中学1年にかけてですね。超人募集のたびに10体くらいは投稿しました。そのほとんどは人間っぽいものばかりでしたが、ジャンクマンだけは、“挟む”というコンセプト先行で描きました。投稿する直前には、どこかメカっぽい雰囲気を出したくなって、側頭部に三本線を描き足したんですね。実際に採用された際にはその三本線までもしっかり再現されていて、ものすごくうれしかったですよ」


 ちなみにそのほか採用された超人は、「夢の超人タッグ編」のころに採用となった「ハンマーヘッド」、「王位争奪編」のころに選ばれた「タキング」という超人。いずれも当時は、実際の作品内に登場することはなかったが、ハンマーヘッドは数年前に『グランドジャンプPREMIUM』での読み切りで登場していたのだとか。


 さらに、キン肉マンのスピンオフ作品である『闘将!! 拉麺男』での必殺技投稿のコーナーでは「人輪血水車」という必殺技を投稿。みごと最優秀賞に選ばれているのだ。


夢のかけ橋

 そんな少年時代を過ごしたのち、時は流れ、芳賀は大学卒業後に、学習研究社(現・学研ホールディングス)に入社。英語辞典の編集者としてキャリアを積んでいた。


 辞典編集者の仕事は決して派手ではない。一冊の本ができるまでに年単位で時間がかかり、深い知識と情報整理力だけでなく、忍耐力も要する仕事だ。しかし芳賀は、辞典編集の仕事は自分に合っていると思っていた。膨大な分量の仕事を着実にこなしていくことは好きだし、得意な英語を生かすこともできる。そして本が完成したときの充実感、達成感は何にも代えがたいものだと感じていた。


 そんなある日、芳賀の『キン肉マン』好きを知り、職場の同僚が声をかけた。大学の漫画研究会の先輩に『キン肉マン』の初代担当編集者がいて、今度会う機会があるので来ないか、というのだ。その初代編集担当者とは、「キン肉マン」の作中「アデランスの中野さん」のモデルとなった中野和雄さん、その人である。


ゆでたまご先生との出会い。”学研の超人図鑑”誕生前夜

「一緒に飲みにいって、『闘将!! 拉麺男』の最優秀賞の話をしました。そうしたら、中野さんが『それは僕が選んだからよく覚えているよ!』とおっしゃってくれて、すごくうれしかったです。そんなこともあって意気投合し、それから毎月のように一緒に飲みに行くようになりました。あるとき、中野さんがゆでたまご先生(嶋田隆司先生)を紹介してあげるよ、と言ってくださり、そこでついに嶋田先生とお会いすることが叶いました」


 そのときは、先生が打ち合わせ直前のタイミングだったということもあり、挨拶を交わす程度で終わったという。だが、縁とは続くもの。その後、友人のイラストレーター(※今回の図鑑でも挿画を担当したヨシムラ・ヨシユキ氏)が嶋田先生と親しい関係で、その方を通じて、改めて先生と会うことになったのだ。以来、嶋田先生とたびたびお会いし、さまざまなことを話したのだという。


「何度目かにお会いした際、先生の娘さんへのプレゼントで、僕がつくった『スターウォーズ英和辞典』と『アナと雪の女王 ことば絵じてん』を差し上げました。それを気に入ってくださって、また1年後くらいにお会いしたとき『芳賀さん、これをキン肉マンでつくってほしいなぁ』と言われました。ただ、キン肉マンで『辞典』をつくるよりは、ビジュアルが活きる図鑑のほうがよいのではと思ったのと、そもそも『キン肉マンで図鑑を』というのは長年温めていたアイデアでもあったので、『図鑑にしませんか?』とお答えしました」


 その数日後、芳賀はさっそく企画書をまとめ、嶋田先生に企画書を送った。先生からはすぐに「すごく面白いから、ぜひやりましょう」という返事が届いたのだという。


ケースの”図版”に隠されたひみつ

▲「通常版」のケースと表紙


「通常版」のケースには、リアルな色彩のロビンマスクが描かれている。しかしこの図版が実はイラストではなく、写真であることを気づいた方はいるだろうか。


「これイラストではなく写真なんです。フィギュアを撮ったんです。非常に精巧なキン肉マンのフィギュアを作っている、CCPというメーカーさんからお借りして撮影をしました」


 ロビンマスクを選んだ理由は、全超人の中でもトップクラスの高い人気を誇ること、そしてまとっている鎧の質感が、図鑑らしいリアリティのある写真になりそうだったからだという。


「イラストだと、ほかの図鑑と一緒に店頭に並んだときに、“図鑑らしさ”という点で見劣りがするかなと思っていました。どうにかして、学研のほかの図鑑と同じように、写真というリアルさにこだわりたいという思いもありました」


 この写真を撮影したのは、学研の図鑑LIVE『水の生き物』の表紙で、見事なカニの写真を撮影した編集部員の高田竜。学研の図鑑チームが積み上げたノウハウと技術が、このケースには集約されているのだ。(『水の生き物』の表紙はこちらから

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 ちなみに、表紙のアトランティスと裏表紙のウォーズマンもイラストではなくフィギュアを撮影した写真である。アトランティスは画像に細かくウロコや魚のヒレを、ウォーズマンは肌の質感を本物に見えるようレタッチをして制作。通常版ケースの裏側のアシュラマンも、興福寺の「阿修羅像」と同じポーズにするなど、細部のリアリティにこだわった。


 リアルにこだわるため、通常版のケースや表紙(※本編の表紙は通常版、初回限定版ともに同じデザイン)には写真撮影という手法を選んだが、「初回限定版」では、ゆでたまご先生の描き下ろしイラストという、もうひとつのリアルにこだわった。


 しかし、描き下ろしイラストを掲載することは簡単ではなかった。ゆでたまご先生は当時、40周年イベントの準備で非常に多忙で、描き下ろしの時間が取れなかったのだ。


「しかし、特別な計らいで、『せっかくの企画なので線画だけ描き起こして、塗りは学研さんにお任せしましょう』と調整を図っていただきました。それから3か月後、作画担当の中井先生からイラストが届きましたが、そのメールを開いて驚きました。雄々しくも凛とした3人の超人には鮮やかに着色がされているではないか! 完全な描き下ろしにしていただいていたのです。3人の表情を見て、思わず涙が出そうになりました。感謝以外の言葉が見つかりませんでしたね」

▲「初回限定版」のケース


 果てしなき夢は止まらない。

 少年時代、「学研の図鑑」に出会っていなかったならば。少年時代、兄の持っていた『少年ジャンプ』を開いていなかったならば。少年時代、「キン肉マン」に夢中になって超人のアイデアをハガキに描き続けていなかったならば。そして、学研(Gakken)に入って、辞典編集者としてキャリアを重ねていなかったならば。どの要素が欠けていても、この図鑑は生まれてなかったと芳賀は言う。


 学研(Gakken)には、「科学」「学習」以来のモノづくりに対する真摯な姿勢が伝統として根付いている。その中で生まれた『学研の図鑑』というブランド。その『学研の図鑑』だからこそ、エンタテインメントとの掛け算は無限の面白さと驚きを生み出せるのかもしれない。


 芳賀はすでに次の”サプライズを”準備しているという。それがどんなものになるかはまだひみつとのことだが、学研(Gakken)が持つ”真面目なイメージ”をベースに、自分らしさを込めていくという考え方は同じだという。


 魅力的な本が生み出される背景には、驚きや喜び、楽しさを伝えていく情熱がある。何より、編集者である芳賀自身が熱狂しているからこそ、多くの読者が夢中になるのだ。しかし、芳賀が目指している到達点はまだ先にある。果てしなき夢は、はじまったばかりだ。

(取材・文=河原塚 英信 撮影=多田 悟 編集=浦山 真市、井野 大)

 

クリエーター・プロフィール

芳賀靖彦(はが・やすひこ)

 アメリカ・テキサス州ヒューストンで幼年期を過ごす。1994年学習研究社(現・学研ホールディングス)に入社。辞典編集者としてキャリアを重ね、現在は、学研プラス内のヒットメーカーが集結する、コンテンツ戦略室の室長を務める。これまでの主な担当作品は、『ジュニア・アンカー』英語辞典シリーズ、『スター・ウォーズ英和辞典』シリーズ、『スター・ウォーズ/ジェダイの哲学』など。


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担当作品紹介

『学研の図鑑 キン肉マン 「超人」』

出版社の垣根を超えた「友情パワー」、そして、ゆでたまご先生の全面協力で誕生した、前代未聞の奇跡のコラボレーション図鑑。2019年3月に発売が発表されるやいなや、予約注文が殺到し、出版業界全体でも異例中の異例、初刷10万部が決定した。2019年5月23日に、全国の書店、ネット書店で発売予定。

くわしい内容はこちらの記事で→「キン肉マン40周年☓学研の図鑑50周年が究極のタッグ! 超人約700体を生き物として分類・網羅した、誰も見たことのない超人図鑑が誕生!

▲こちらはゆでたまご先生描き下ろしの、初回限定版ケース(図鑑の表紙は通常版と同じアトランティスのイラスト)

▲こちらはロビンマスクが描かれた通常版ケース。初回限定版と通常版、両方を購入するファンも多い。




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