『学研の図鑑 キン肉マン「超人」』誕生秘話(前編)。学研プラス クリエイター・インサイド 第1回
学研プラス(Gakken)が生み出す、数々の個性的で魅力的な商品・サービス。その背景にあるのはクリエイターたちの情熱だ。学研プラス公式ブログでは、ヒットメーカーたちのモノづくりに挑む姿を、「インサイド・ストーリー」として紹介していきます。第1回は、出版社の枠を越えた異色のコラボ作をプロデュースした、編集者 芳賀靖彦の『学研の図鑑 キン肉マン「超人」』です。
“奇跡”のコラボ図鑑が異例の大ヒット作に
『キン肉マン』が1979年に『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載を開始して今年で40年。そして『学研の図鑑』も来年で創刊50年という節目を迎える。この両者による強力なコラボで、2019年、これまでにない図鑑が誕生した。『学研の図鑑 キン肉マン「超人」』である。
かつては多くの家庭で読まれていた子ども向け学習図鑑だが、近年では、定番タイトルの初版部数は、よくて3万部ほどといわれている。
しかし本作は、発売前にもかかわらず、インターネットの予約だけですでに3万部を越え(2019年5月上旬時点)、初刷部数は10万部と、図鑑ジャンルだけでなく出版業界全体としても異例の事態となっている。
『キン肉マン』といえば、1970〜80年代、子ども時代を過ごした多くの少年たちにとって、一度は触れたことがある、社会現象ともなった作品。
同じころ、昆虫や恐竜などに胸を踊らせた少年少女たちが、常にかたわらに置き、わくわくしながらページをめくっていたのが『学研の図鑑』だ。
そんな時代を駆け抜けたひとりの少年が、数十年後に編集者となり、この図鑑を生み出した。
『学研の図鑑 キン肉マン「超人」』を企画から編集まで担当したクリエイターの名は、芳賀靖彦。図鑑編集室と辞典編集室を統括する室長でもある。
今回は、この異例中の異例ともいえる『学研の図鑑 キン肉マン「超人」』の誕生秘話に迫り、作品に込めた熱き思いをきいた。
超人たちを、学研の図鑑のやり方で「マジメに」分類
子どものころから『キン肉マン』と『学研の図鑑』に触れて育った芳賀が、この企画を構想していた段階から、目指していた形は「図鑑」のフォーマットだったという。
「書店の図鑑の棚で『昆虫』や『恐竜』といったタイトルが並んでいる中に、『超人』の図鑑が混じっていたら面白いだろうなぁ……というのは、実は学研入社当時からうっすらと考えていました。それから漠然とではあるけれど、『キン肉マン』の超人を、こんなふうな図鑑にできたらウケるんじゃないか、ということもずっとアタマの片隅で考えていました。妄想の中での悪ふざけですね(笑)」
ところが、妄想だったものが、次第に年を経て、編集者のスキルが蓄積されていくと、徐々に実現に向けて動き出していく。そして図鑑編集室の室長になったことをきっかけに、しっかりとした図鑑の体裁で超人の図鑑を作る、という内容で11ページの企画書にしたためてしまった。図鑑が完成する、2年前のことである。
登場する超人たちは、昆虫や植物のように「実在している」という想定で図鑑のフォーマットに落とし込んだ。一般的な図鑑と同様に、超人を「魚類のなかま」「哺乳類のなかま」「乗り物のなかま」というように35種のなかまごとに分類したのだ。
もうひとつ、芳賀が『学研の図鑑』とするべくこだわったのが、それぞれの超人のビジュアルだ。オリジナルのコミックでは線画だった超人たちをさまざまな角度から研究し、顔の表情から筋肉、物質感までもリアルに描き、彩色しているのだ。それは昔も今も、学研の図鑑が「リアル」にこだわっているからにほかならない。
「15人の素晴らしいイラストレーターさんを揃えました。ただ、依頼する際には『自分のオリジナルタッチで描かないでください。“塗り”だけでリアルさを表現してください』とお願いしました」
そう指示した理由は、それぞれのイラストレーターが、思い思いに描いてしまっては、ファンが抱く『キン肉マン』の超人とはイメージが離れてしまう可能性があるためだ。求めたのは、原作のタッチを忠実に再現すること。さらに図鑑としてのリアルにこだわるため、彩色については、芳賀が「ここは魚のような光沢感を」というように、例えば実際のイワシの拡大写真を添付した指示書(指定紙)を、一人ひとりの超人に対して作り、描画スタッフに渡したのだ。
「僕も1日に5枚(5超人)くらいの指示書を作るのが精一杯でした。それを2週間おきに、だいたい20〜30体分ずつを、原作者のゆでたまご・嶋田隆司先生にお送りし、確認していただきました。それを1年くらい続けましたね。我々も大変でしたが、全部確認された嶋田先生も大変だったと思います。制作の途中で『この本は完成するのだろうか……』と先生が漏らしていたと、人づてに聞いたこともありました(笑)」
もちろん彩色だけではない。すべての超人には、身長や体重、出身地、そして、超人たちの強さを表す「超人強度」までが併記されている。これらの設定情報は、ゆでたまご先生方がすべて設定している。つまり、これまで詳細が明かされていなかった超人たちの公式情報が、この『キン肉マン「超人」図鑑』には網羅されているのだ。
「キン肉マンの作画を担当するゆでたまご・中井義則先生が、今後『キン肉マン』を描くにあたっての教科書になる、っておっしゃってくれたのが、本当にうれしかったです」
また、表紙のデザインは、芳賀が『学研の図鑑「昆虫」』に夢中になっていたころにすり込まれた、レトロな学研の図鑑のアイコンをも取り入れている。
「僕が小学生のころの『学研の図鑑』の装丁には、カラフルな丸のアイコンが6つあしらわれていたんです。これがものすごく強烈にイメージに残っていましたので、この『「超人」図鑑』にどうしても採用したかったんです。これはグラフィックデザイナーの道吉剛さんという方がデザインされたものでした。実は1964年の東京五輪の、バス停やトイレなどのピクトグラムのデザインを考案されたという、すごい方です」
超人の数は700体を超えるものに
当初の企画で考えていた想定を大幅に超える700体以上の超人を収録したという本作。インターネット掲示板やSNSでは「こんな超人まで載っているのか!」という声が続出するほど、『キン肉マン』の世界を図鑑で網羅している。
「もともとの企画段階では500超人くらいを載せるつもりでした。それが作っていくうちに、描画スタッフなど制作にかかわっている人たちから『あの超人は載せなくてもいいんですか?』ということをたびたび言われまして。関わったスタッフは『キン肉マン』が大好きな人を中心に集めましたからね。それなら載せられるだけ載せるしかない! ということで、最終的には700以上まで増えてしまいました」
載せられるだけ、というのは、『キン肉マン』と、その続編『キン肉マンII世』に出てくる超人たちの中で、名前と姿が一致する超人を「できるだけ載せる」ということ。その結果、いま存在する『学研の図鑑』シリーズの中でも、最もページ数が多い図鑑になってしまったのだという。その制作過程を振り返りながら芳賀は言う。
「制作に時間が掛かってしまって、当初の想定よりスケジュールも予算もオーバーでした。会社からはもちろん怒られましたよ(笑)。もちろん、そこで妥協し、例えば各超人の塗りをサラッとシンプルにしてしまい、表紙やメジャーな超人だけリアルにしたとしても、それなりのものにはなったかもしれません。でも、もしそうしてしまっていたら、今のようにこれだけの皆さんが熱狂的に支持してくれることはなかっただろうと思います
芳賀が『キン肉マン』と『学研の図鑑』に対しての「愛」を貫き通したからこそ完成した企画なのだ。
しかし、秘めた物語はこれだけでは終わらない。実はこの図鑑が生まれた背景には、編集者・芳賀の昔日からの縁があったのだ……。
(取材・文=河原塚 英信 撮影=多田 悟 編集=浦山 真市、井野 大)
クリエーター・プロフィール
芳賀靖彦(はが・やすひこ)
アメリカ・テキサス州ヒューストンで幼年期を過ごす。1994年学習研究社(現・学研ホールディングス)に入社。辞典編集者としてキャリアを重ね、現在は、学研プラス内のヒットメーカーが集結する、コンテンツ戦略室の室長を務める。これまでの主な担当作品は、『ジュニア・アンカー』英語辞典シリーズ、『スター・ウォーズ英和辞典』シリーズ、『スター・ウォーズ/ジェダイの哲学』など。
担当作品紹介
『学研の図鑑 キン肉マン 「超人」』
出版社の垣根を超えた「友情パワー」、そして、ゆでたまご先生の全面協力で誕生した、前代未聞の奇跡のコラボレーション図鑑。2019年3月に発売が発表されるやいなや、予約注文が殺到し、出版業界全体でも異例中の異例、初刷10万部が決定した。2019年5月23日に、全国の書店、ネット書店で発売予定。
くわしい内容はこちらの記事で→「キン肉マン40周年☓学研の図鑑50周年が究極のタッグ! 超人約700体を生き物として分類・網羅した、誰も見たことのない超人図鑑が誕生!」
▲こちらはゆでたまご先生描き下ろしの、初回限定版ケース(図鑑の表紙は通常版と同じアトランティスのイラスト)
▲こちらはロビンマスクが描かれた通常版ケース。初回限定版と通常版、両方を購入するファンも多い。
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