新刊絵本『ホッキョクグマのプック』の制作秘話。著者のあずみ虫さんがカナダ取材のエピソードを語る
株式会社童心社は、新刊絵本『ホッキョクグマのプック』を1月13日に発売いたしました。『ホッキョクグマのプック』は、現在アラスカを拠点に活動されている絵本作家のあずみ虫さんが、野生動物を取材して描かれた物語絵本です。本作は、あずみ虫さんがアラスカに住むようになってから現地の生き物を題材にした、初めての作品です。
『ホッキョクグマのプック』
ホッキョクグマを守ることは、地球全体の自然を守ること
あずみ虫さんは、日本を出てアラスカで暮らす中で、温暖化や地球全体の自然を守ることについて考えるようになったといいます。本作には、こうした野生の中で生きる命について考えるきっかけになってくれたらという、作者の強い思いがこめられています。
「アラスカの夜空では、オーロラを見ることができます。ある晩、外にでると、大きな光の幕がくらい空に広がり、だんだんと中心にあつまって、ついには巨大な発光する川となりました。
はじめは、巨大な光にのみこまれそうで、こわいとかんじましたが、ながめているうちに、そのうつくしさに、ひきこまれていきました」。
地球温暖化の影響で、北の海に氷が張る期間が短くなり、主食のアザラシを食べられずに死んでしまうホッキョクグマが増えています。ホッキョクグマを守ることは、氷の海だけでなく、地球全体の自然を守ることにもつながる、とあずみ虫さんは考えています。
「温暖化を止めるために、わたしたちにどんなことができるか、ひとりひとりが考えていかなければなりません。ホッキョクグマやすべての生きものたちが、この地球で、かわらずにずっと生きつづけていけることを、ねがっています」。
(『ホッキョクグマのプック』あとがきより)
(2022年11月17日 童心社にて)
厳しい自然環境の中で生きる動物たちの姿に魅せられて
20年ほど前から星野道夫さんの野生動物の写真やエッセイなどの文章にひかれてきました。星野さんの作品には、野生動物たちへの愛のようなものを感じます。星野さんの作品を通して、アラスカの厳しい自然環境の中でひたむきに生きる動物たちの姿に魅せられてきました。何度も文章を読んだり、写真を見ては絵を描いたりしていました。
絵本の仕事をするようになり、ぼんやりと自分でも野生動物の絵本を描いてみたいと思ったのです。これまでのように写真を見て描くのではなく、実際にアラスカに行って、自分の目で見て体験したいと思うようになりました。それで思い切って、アラスカに行く計画を立てたのです。
ちょうどその頃、写真家の大竹英洋さんとお話する機会があり、アラスカに行く予定をお伝えしたところ、ホッキョクグマを観察するツアーへ参加しませんかと誘っていただいたのです。ホッキョクグマもぜひ見たいと思っていたので、ありがたくご一緒させていただきました。
取材中のあずみ虫さん
『ホッキョクグマのプック』のモデルになったのは、カナダ・チャーチルで出会ったクマの親子
ツアーへ同行したのは、カナダのチャーチルというところでした。カナダとアラスカは隣接していて、文化や生息している野生動物も非常に近いのです。
通常、ホッキョクグマを見るツアーでは、車の中から観察することが多いのですが、そのツアーは徒歩で観察できるというものでした。ガラス越しの観察ではなく、野生のホッキョクグマと同じ空間を共有し、接することができたことは私にとって、ありがたくとても大きな体験でした。
そこで出会ったホッキョクグマの親子がいます。その子グマは私たちに興味をもって、元気いっぱいに走り寄って来ました。
ホッキョクグマの親子(2018年10月 カナダ・チャーチルにて、著者撮影)
しかし、近づきすぎることは危険なので、ガイドの人が子グマに雪をかけると、子グマは慌ててお母さんの後ろに隠れました。でもやっぱり私たちのことが気になって、こちらをじっと見ていました。無邪気なこの子グマをとても愛おしく感じました。
その後も何度かこの親子を観察する機会を持てたのですが、子グマがお母さんに甘えて口をペロペロなめている姿や、くっついてお昼寝をしている姿など、いろんな姿をその親子は見せてくれました。
クマの親子の愛情を感じて、絵本の制作を決めた
親子の写真を撮ると、同じポーズになってしまうほど、子グマがしょっちゅうお母さんの真似をしていてました(笑)。何でもお母さんと一緒で、子グマは本当にお母さんが大好きなんだなと思いましたし、親子の愛情を感じて、このホッキョクグマの親子の絵本を作りたい!と思ったのです。
観察をしていてとくに印象に残ったのは、鼻を高く上げてにおいをかぐ様子です。ホッキョクグマにとって、においをかぐことはとても大事なことなのです。鼻を高く上げて、空気中のにおいをかいで、目に見えない広い範囲で起きていることを把握しています。
死んだクジラか何かが浜にうちあげられた時にも、鼻を高く上げて、においを察知し、死骸を食べに出かけていました。
この絵本で出てくるようなホッキョクグマの親子も、オスのクマに出会い襲われないように、時々においをかいで、注意しながら移動していました。
あずみ虫さんの制作技法とは。「アルミの金属板をカットして、絵の具で着彩」
カットし着彩されたアルミの金属板をレイアウトした本作の原画
本作の絵はアルミの金属板をはさみでカットして、絵の具で着彩しています。アルミだと、紙では出せないざくざくとしたフォルムができ、エッジが光って立体感が出るのですね。
アルミを切る時に、下書きはしないで、まっさらな状態からカッティングするようにしています。その方がおもしろいフォルムになりますし、意図しないものが生まれるのがおもしろく、魅力ですね。
今回描いた動物たちは、ホッキョクグマ以外にも、シロフクロウやホッキョクウサギ、ライチョウなど、雪の世界にとけこむ白い動物がどうしても多いのですが、雪もただ白いだけじゃなくて、光の反射や、天気や時刻によっていろいろな見え方をします。子グマのプックが初めて巣穴から外に出るシーンでは、喜びを感じる、明るい日差しの雪の世界も見せられたらいいなと描きました。
アラスカにはじめて行った4年前に見たオーロラが強く印象に残っています。
ひとりで森のなかのロッジに泊まっていて、夜は濃い暗闇の世界でした。
外に出ると夜空が白っぽく曇っていて、オーロラは見られないと残念に思っていたのですが、空の端の方が妙に発光してきたのです。不思議に思ってよく見上げると、実は空が曇っていたのではなくて、空全体を大きなオーロラが覆っていたことがわかりました。
光はそのうち端から中心へと集まって強くなっていき、端からはカーテンのような光があらわれて、また巨人の手を思わせるような光も降ってきました。
とても怖く、美しくもあり、宇宙を感じるような、異次元の本当に不思議な体験でした。
この絵本のオーロラの場面で「そらが おどっている」とプックが言いますが、初めて私がオーロラを見たときに思った言葉なのです。
この絵本の制作中、オーロラの場面の本絵を描くにあたり、どうしてももう一度実物を見たいと思いました。しかし私の暮らす南東アラスカのシトカでは、オーロラが滅多に現れないことから、フェアバンクスまでオーロラを見に行きました。
その際の観察で、明け方にとても薄い羽衣のようなオーロラが上空から降りてきたのです。たくさんの星たちが、オーロラからすけて光っているのを見ることができました。
ラフでは星を描いていなかったのですが、オーロラと星の重なりがあまりにもきれいだったので、星を描くことに決めました。
星があることで、プックとオーロラがひとつにつながり、絵の中にも動きが生まれたように思っています。この夜のオーロラに出会えたからこそ描けた一枚でした。
このオーロラの場面は、自分でもとても思い入れのある絵になりました。
『ホッキョクグマのプック』あらすじ
『ホッキョクグマのプック』 あずみ虫 作(童心社)
さむい冬のある日。カナダの北極地方で、ちいさなホッキョクグマのあかちゃんが生まれました。
おかあさんは、あかちゃんにプックという名前をつけました。
春になると、プックははじめて巣穴の外にでます。
はじめてみる外の世界は、とてもひろくて、みたことのないものがいっぱい!
プックのだいぼうけんのはじまりです。
プックが、おかあさんのまねをして鼻を空たかくあげて、まわりのにおいをかいでみると、
今までかいだことのない、こわいにおいが近づいてきて……。
ホッキョクグマの親子のあたたかな愛情を、親しみやすいイラストで描きます。
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