エンタメ企業のポニーキャニオンが異例の音声読書サービスを開始!『YourEyes』サービスで実現する「耳で聞く」バリアフリー読書とは?
音楽や映像、アニメなどのエンタメ分野でコンテンツを供給し続けて来た株式会社ポニーキャニオンが、2021年3月22日に「読書支援サービス YourEyes」というサービスを立ち上げました。視覚障害者や目の機能が低下して自身の目で読書をするのが困難になった人に向けた、スマートフォンで本や印刷物を読み上げるサービスです。なぜエンタメ企業が障害者福祉事業を手がける事になったのか。このサービスを立ち上げた、同社経営本部の黒澤格に話を聞きました。
新規事業を探す日々
黒澤「僕は新卒で入社以来、ずっと映像に関わる仕事をして来ました。最初は大阪営業所に配属され、キッズビデオやスポーツビデオを玩具店や本屋さんに置いてもらう営業。その後本社の映像制作の部署に異動して以来、環境映像やアイドルのイメージ映像、競馬ビデオやカルチャー作品を手がけました。販促や宣伝の部署も経験した後、今度は映画制作の部署で映画のプロデューサーも経験しました。ずっと映像の世界にどっぷり浸っていたんです。ところが2017年、新設された新規事業の部署に突然配属されました。2年間は全然違う新規事業を担当していたのですが、その事業は残念ながらうまく行かず撤退が決定。突然、今までの自分の仕事がなくなってしまった。どうせなら自分の企画で新規事業を立ち上げたいと思い、2ヶ月間ほどはとにかく何かアイデアはないかと本を読んだり、都内をふらふら歩きながら思案を重ねたり、給料泥棒の日々を過ごしました(笑)」
--自嘲気味に新規事業を探す日々を語る黒澤。YourEyesのアイデアにはどのようにしてたどりついたのだろうか
誰もが自由に本を読めるシステムを作りたい
黒澤「ある時、ふと1本の小さなニュースを目にしました。神奈川県藤沢市にある“耳から聴く図書館”という非営利団体が、ボランティアの高齢化により47年もの歴史に幕を下ろしたという記事です。その団体が行っていたのは、目の見えない視覚障害者の為に、本を点字化したり朗読して音声化したりする活動です。そのような世の中で絶対に必要な活動が、ボランティアによって支えられているという事にも驚きましたが、高齢化により活動が継続出来なくなったという事に残念な気持ちとともに寂しさを感じました。そこで、他の同じような団体がどのような状況なのかを確かめようと思ったんです。」
--視覚障害者向けの点字図書や録音図書の制作を行っているのは、主に点字図書館と呼ばれる施設だと知った黒澤は、すぐに都内の点字図書館にヒアリングに向かう。そこで黒澤が目にした状況はどのようなものだったのか。
黒澤「その点字図書館でも、録音図書を制作しているのは高齢のボランティアでした。録音のブースにこもって、1冊ずつ本を読み上げて行く。その前に行う本の選定や固有名詞などの調査を入れると、気の遠くなるような時間をかけて制作をしている。正直、これではなかなか続かないだろうと思いました。その時、現在のOCR(光化学文字認識)技術と、音声合成技術を組み合わせることでもっと簡単に、もっと多くの読書困難者に読書を楽しんでもらえるのではないか、ということを思いつきました。読書における、読書困難者の格差問題を解決できるのではと考えました。」
著作権の壁
--帰宅してすぐ企画書を書き上げ、翌日には上司に提出、社長決裁も通ったのですが、しかしここからサービスの実現にこぎつけるまでが苦難の連続でした。
黒澤「CDやDVDなど著作物をリリースしている弊社内で一番に問題になったのは、書籍の著作権でした。著作物の複製権と公衆送信権の2つの権利の侵害にあたるのではないかとの懸念があって、法務部からは“読書”サービスではなく“文字を読み上げる”サービスとすれば、と代替案を出されました。でも僕が解決したいのは視覚障害者の“読書”の問題です。“読書”と言えなければ意味がないのです。そこで法務部とともに、著作権に詳しい弁護士に意見を仰ぎ、4人もの弁護士から意見を聞くうちに、2019年1月に著作権法が改訂され、著作物をサーバー上に保存し、AI解析に利用するのであれば著作権侵害にはならないということが分かりました。まさに僕ががやろうとしていたことそのものでした。」
新型コロナウイルスの影響で読み取りボックス製造が暗礁に
---最大の難関を乗り越え、アプリの制作は順調に進んだものの、黒澤の前には別の問題が立ちはだかります。
黒澤「僕が実現したい事のひとつに、“目の不自由な方にも本のページを1ページずつめくって読み進める楽しさを届けたい”ということがありました。“視覚障害者にとってはただの紙の束でしかない”と話す人たちに、少しでもページをめくるワクワク感を届けたい。「読み取りボックス」は本を正しく読み上げるためのツールですが、そこに“本の手触り感”や、“次に書かれていることへのドキドキする感覚”を残したいと思ったのです。」
---黒澤は撮影するための光源の確保のために全面アクリルのボックスを試作し、アクリル加工会社に向かいました。ところが2020年からの新型コロナの蔓延により、対面の際に立てるアクリルパネルの需要が全国的に高まり、メーカーに材料を他へ回す余裕などないことがわかりました。
黒澤「仕方なく、本体の素材をアクリルからプラスティックにすることにしたのですが、今度はプラスティック製造メーカーから「このような製品開発は通常1年かかる」と言われてしまいました。3ヶ月程度で出来るかなと考えていたのですが、この時ばかりは自分の無知を恥じました。でも悪い事ばかりでもありません。本体は遮光して、スマホのライトを使って本のページを撮影した方が、OCRの精度が高まる事が分かったのです。怪我の功名でしたね。」
---黒澤はなんとか小回りの利く開発製造会社を見つけ出し、設計から製造までを少しでも早く行えるよう協議を重ねました。それでも新型コロナは世界中のモノづくりに大きな影響を及ぼします。工場の閉鎖や物流の遅延など、専用ボックスの完成時期が見えない日々が続くことになります。
遂にサービスがスタート
一難去ってまた一難。しかし黒澤の「YourEyes」サービスを提供することに対する想いは困難が生ずるたびに、それを乗り越えるたびに強くなっていきました。そして2021年3月サービスがローンチします。しかしサービスがローンチしたからといってそれはゴールではなく「スタート」です。サービスを知らしめるプロモーション、実際に稼働したサービスの改善や読み取りボックスを早期に発売すること、本の読み上げ修正を行って頂けるボランティアを増やすこと、などなど、やらなければならない事はたくさんあります。ただ嬉しいこともありました。4月には電子出版分野の制作と流通に関して優れた製品・サービス・業績・研究等について表彰される電流協アワードの「特別賞」を「YourEyes」が受賞しました。受賞理由は「読書のアクセシビリティが注目される中で保有する本をスマホで撮影することで合成音声により読み上げる機能や、ボランティアが正しい読み上げに修正するためのツールを提供。独自のOCR技術やTTS技術を組み合わせることで、視覚障害者や学習障害者をはじめ加齢による視力低下など読書が困難な人が幅広く利用できる」点が高く評価されたのです。ローンチしたばかりのサービスが業界内で評価されたこと、黒澤にとって何よりの誉め言葉でした。
黒澤「サービスがスタートして、電流協さんにこのサービスの革新的な部分を評価して頂けて凄く嬉しかったです。ただ、本当に皆さんには良く聞かれるんです。『なぜポニーキャニオンがこの事業をやるんですか?』と。その時にはこう答えています。『読書は最も身近なエンターテイメントです。エンターテイメントを提供する企業として、全ての人にそれを提供したいと思いました』と。」
---サービスは3月にスタートし、6月には専用ボックスが発売されました。しかしまだまだ道半ば、今後の黒澤の目標はこのサービスをより知らしめ、目の不自由な方の日常に寄り添うアプリ、読書を気軽に楽しめるアプリとして多くの方に使って頂く事です。その為に、本日も黒澤は東奔西走、色々な場所で「YourEyes」の魅力を語っている事でしょう。
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