運動部活動指導者の実態調査から見えてきた課題と、JSPOの取り組み
すべての人々がスポーツに親しみ、楽しめることを目指し、スポーツを「する」「みる」「ささえる」ための環境づくりに取り組む日本スポーツ協会(JSPO)では、スポーツ少年団や総合型地域スポーツクラブの育成、さらにはそれらの活動を支える公認スポーツ指導者の育成をとおして、青少年期のスポーツに欠かすことのできない運動部活動やその指導者への支援も行っています。
そんなJSPOでは今年2021年、全国の中学校・高等学校から無作為抽出した中学校600校、全日制高等学校400校を対象に、各運動部活動、顧問・副顧問等の教員を対象とした「学校運動部活動指導者の実態に関する調査」を実施。前回2014年の調査結果との比較も含め、様々な課題が浮かび上がってきました。
今回浮かび上がってきた課題をはじめ、いま運動部活動の指導現場では、どのようなことが課題となっているのか。JSPOとして、特に、スポーツ指導者の育成をとおして、どのような取り組みを行っているのか──。JSPOスポーツ指導者育成部 活動推進課主事の阿部めぐみ、浦倫生がお話しします。
(左から)JSPOスポーツ指導者育成部 浦 倫生、阿部めぐみ
■「学校運動部活動指導者の実態に関する調査」2014年と2021年の調査結果を比較
JSPOスポーツ指導者育成部の浦です。学生時代には野球部で汗を流していました。当時、部内で筋力測定を行う機会があり、「スクワットの重量」で部内1位の記録を出したことが良い思い出になっています。
JSPOスポーツ指導者育成部 浦 倫生
私からは、「学校運動部活動指導者の実態に関する調査」についてお話していきたいと思います。
今回2021年の調査は、前回2014年の調査から7年が経過し、学校運動部活動を取り巻く環境が大きく変化していることから、最新の状況を把握するとともに、前回調査との比較などを行うことによって、JSPOや関連団体等における学校運動部活動や指導者を支援する各種取り組みの充実につなげることを目的に実施しました。
前回調査と同様に、顧問・副顧問等の教員を対象とした「指導者調査」と、学校全体に関する「学校単位調査」に分けて実施し、前回調査をベースに、新たな質問項目を追加しました。
前回2014年の調査結果との比較や新たな質問項目の結果などから、運動部活動を取り巻く環境の変化と課題が浮かび上がってきました。
「学校運動部活動指導者の実態に関する調査」 調査結果の概要
https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/katsudousuishin/doc/R3_houkokusho_hikaku.pdf
※2021年の調査結果については、以下のURLよりご覧いただくことができます
https://www.japan-sports.or.jp/coach/tabid1280.html
■公認スポーツ指導者資格の保有率は増加も、教員の負担の大きさは変わらず
まずフォーカスしたいのが、「運動部活動を担当している教員が、担当する部活動の競技経験をどのくらい持っているのか」という問題です。
「担当科目が保健体育以外であり、担当している部活動の競技経験がない」という割合は、中学校で45.9%→26.9%、高等学校で40.9%→25.3%と減少。さらに、「担当教科が保健体育」の教員を中心に公認スポーツ指導者資格の保有率が増加するなど、改善の傾向が見られました。
(JSPO「『学校運動部活動指導者の実態に関する調査』調査結果の概要」より)
次にフォーカスしたいのが、新たな質問項目である「担当している運動部活動の休養日」についてです。
スポーツ庁が定める、中学校段階の運動部活動を主な対象とした「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」では、学期中は、「週当たり2日以上の休養日を設ける」ことが示されていますが、中学校で約2割、高等学校で約6割が「週1日以下」という実態が明らかになりました。
(JSPO「『学校運動部活動指導者の実態に関する調査』調査結果の概要」より)
1週間(週7日)における活動時間
(JSPO「『学校運動部活動指導者の実態に関する調査』概要版」より)
同じく「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」では、「1日の活動時間は、長くとも平日では2時間程度、学校の休業日は3時間程度」とされていますが、実際の活動時間がガイドラインで示された時間数を下回っていると回答した割合は中学で60%程度、高校では26%程度と、十分に浸透していないのが現状です。
運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン – スポーツ庁
さらに、「運動部活動の指導において最も問題・課題であると感じていること」に関する回答では、上位3項目が2014年の調査結果と同じ項目でした。依然として教員が、校務と運動部活動の指導との時間の使い方に葛藤していることや自身の実技指導に不安を抱いていることが分かりました。
(前回、今回のJSPO「『学校運動部活動指導者の実態に関する調査』概要版」を基にJSPO作成)
■部活動指導員や外部指導者における「資格未保有」は約半数
教員の負担軽減策として、2017年4月に学校教育施行規則が改定され、中学校・高等学校の部活動において、校長の監督下で部活動の指導・引率を行うことのできる「部活動指導員」の制度化が行われました。今回の調査の結果から、部活動指導員や外部指導者に対して、指導を依頼したいという割合が一定程度確認できましたが、実際に部活動指導員・外部指導者に指導を依頼している割合は、依頼意向の割合に比べて15ポイント前後低い状況となっています。
また、実際に指導している部活動指導員・外部指導者の約50%が、スポーツ指導に関する資格を未保有であるという状況が明らかになりました。
(JSPO「『学校運動部活動指導者の実態に関する調査』調査結果の概要」より)
(JSPO「『学校運動部活動指導者の実態に関する調査』調査結果の概要」より)
このように、運動部活動を担当する教員の負担の大きさ、そして担当競技の経験がない教員や当該競技の専門的な指導方法などに関する学びが確認できない外部指導者等が実技指導を行うことで、子どもたちが技術的にも、心身的にも専門的な指導を受けられていない可能性が高いという課題が浮かび上がってきました。
また、現代の子どもたちを取り巻く環境には、社会・経済の変化等による学校教育等における課題の複雑化・多様化や、少子化の進展があり、学校や地域によっては、運動部活動そのものが存続の危機にもなっています。今回の調査からは、子どもたちがライフステージに応じて多様なスポーツ活動を実現するために、運動部活動における指導実態の改善が急務であることがわかりました。
■休日の部活動は「地域へ移行」の流れに。求められる公認スポーツ指導者の存在
こうした状況のなか、文部科学省は2021年9月1日、これまで学校の管理下にあった休日の部活動に関する業務を、2023年度から段階的に地域へ移す方針を打ち出しました。今回の調査においても、約40%の教員が「休日の運動部活動が地域に移行された場合、地域人材に任せたい」と回答しています。
(JSPO「『学校運動部活動指導者の実態に関する調査』調査結果の概要」より)
休日の運動部活動が地域に移行された場合、その受け皿として大きな役割を果たすことが期待されるのが、総合型地域スポーツクラブやスポーツ少年団です。JSPOとしては、こうした団体に、「スポーツを安全に、正しく、楽しく」スポーツ医・科学の知識を活かし指導することができる公認スポーツ指導者をより多く配置することで、子どもたちのライフステージに応じた多様なスポーツ活動を支援することにつながると考えています。
続いてJSPOスポーツ指導者育成部の阿部より、JSPOとして現在行っている具体的な取り組みについて、お話ししたいと思います。
■プレーヤーの気付きと成長を促す「プレーヤーズセンタード」の指導スタイルへ
JSPOスポーツ指導者育成部の阿部です。中学まではスポーツ少年団、運動部活動でプレーヤーとして、高校・大学ではマネジャーとしてサッカーに打ち込む中で、スポーツに関する仕事に興味が湧いてきたのを覚えています。
JSPOスポーツ指導者育成部 阿部めぐみ
私からは、時代の変化に対応したスポーツ指導者育成、地域における指導者とのマッチング推進など、JSPOが現在行っている取り組みのうち3点について、お話ししたいと思います。
まず1つ目が、養成講習会の実施形態の見直しです。
JSPOでは、子どもたちのより良いスポーツ環境づくりのためには、指導者の知識の拡充と、環境の整備が不可欠と考えており、そのニーズに即した指導者育成を行うため、2019年4月に公認スポーツ指導者制度を大幅に改定しました。
制度改定を機に、資格取得時のカリキュラムや講習形態も大きく見直しました。
カリキュラムについては、グッドコーチに求められる資質能力を確実に習得するために必要な内容を「教育目標ガイドライン(講義概要・到達目標・時間数)」として提示した「モデル・コア・カリキュラム」をベースにしています。また、「プレーヤーズセンタード※」の考えを新たなキーワードとして前面に押し出し、プレーヤーの気づきや成長を支援するアプローチを重視した内容に変更しました。
講習形態については、対面での集合講習会(2020年度と2021年度はコロナ禍によりオンライン講習で実施)ではレクチャー型が中心でしたが、参加者同士でのグループワークなどのアクティブラーニング形態を導入しています。さらに、事前学習(オンラインテスト)や事後課題(講習を踏まえた実践と振り返り)も組み合わせることで、主体的でより深い学びが得られる内容へと一新しています。
この新たな講習形態で取り組んでいる内容を学んだ公認スポーツ指導者を増やしていくため、すでに資格を取得した指導者についても、4年ごとの資格更新に必要となる研修の機会において、これらの内容や実施形態を取り入れるなど、全ての公認スポーツ指導者の皆さまにアップデートいただけるように注力していきます。
運動部活動の現場において、指導者による体罰や暴言等は、非常に大きな問題となっています。指導者とプレーヤーの間にコミュニケーションの齟齬が生じてしまうことや、「教える人」と「教えられる人」の側で、必要以上の上下関係が発生してしまうことも少なくありません。
JSPOとしても、健全であるべきスポーツ指導が誤った結果を生み出さないよう、適切な資質能力を身に付けた指導者を青少年のスポーツの現場に送り出していきたいと考えています。
※プレーヤーズセンタード:プレーヤーを取り巻くアントラージュ(プレーヤーを支援する関係者)自身も、それぞれのWell-being(良好・幸福な状態)を目指しながら、プレーヤーをサポートしていくという考え方。
プレーヤーズセンタード全体像
(立教大学・松尾哲矢 2019)
■必要最低限の知識・技能を学ぶエントリー資格の新設、永年資格の更新制への移行
2つ目は、「スタートコーチ」「コーチングアシスタント」の新設です。従来の資格に加え、より取得しやすい資格を設けることで、これまで様々な理由で資格取得が困難であった方々に、しっかりと学んでいただき、資格を取得いただきたいと考えています。
「スタートコーチ」は、地域スポーツクラブ・スポーツ少年団・学校運動部活動等において、必要最低限度の知識・技能に基づき、当該競技の上位資格者と協力して安全で効果的な活動を提供する方向けの資格です。この資格は競技別指導者資格ですので、特定の競技における指導を始めたばかりの方や、自身が経験していた競技とは異なる競技の運動部活動の顧問となった方などを想定しています。
「コーチングアシスタント」は、公認スポーツ指導者資格の中でも、共通科目Ⅰというカリキュラムのみで取得可能な「スポーツ指導者基礎資格」となります。従来、永年認定資格として養成・認定していた「スポーツリーダー」という資格に置き換わるものです。地域のスポーツグループやサークルなどにおいて上位資格者を補佐し、基礎的な指導に当たります。この資格は、現在、NHK学園による通信講座のみで取得可能となっており、コーチ1以上の競技別指導者資格の取得を考えている方や、スポーツ指導に関する基礎的な内容を学びたい方などを想定しています。
他の公認スポーツ指導者資格と同様に、4年ごとの更新制となるため、学び続ける過程で、競技別指導者資格などへのステップアップをしていただくことを望んでいます。
■「公認スポーツ指導者マッチング」の推進
3つ目が、JSPOの運営する「公認スポーツ指導者マッチング」の推進です。
公認スポーツ指導者マッチング
https://my.japan-sports.or.jp/matching.html
今回の調査からも、学校運動部活動において公認スポーツ指導者が活躍できる余地がまだまだあると感じています。JSPOでは、2019年3月から「公認スポーツ指導者マッチング」という、スポーツ指導の専門家を求める学校や団体と、公認スポーツ指導者をつなぐサービスの運用を開始しています。公認スポーツ指導者の資格を持つ方、もしくは公認スポーツ指導者を募集したい学校、団体であれば、どなたでもご利用いただけます。
指導者側は、自らが保有している資格の情報に加え、「指導可能な時間・場所」を登録でき、募集側は「指導してほしい競技や時間・場所」、「指導対象の年齢層」などの情報を登録することで、条件にあう指導者とのマッチングが行えます。
このほかにも、「県大会出場レベルの指導」「競技志向の指導」「エンジョイ志向の指導」など、指導レベルや指導方針の指定が行えるほか、指導者側からも、自由記述欄にて過去の指導実績などを登録し、検索対象とすることができます。
ぜひ、このサービスをより多くの学校や団体にご利用いただき、それぞれが抱えている課題解決の一助となればと考えています。
■学校に縛られず、子どもたちが安心してスポーツに取り組める環境づくりを
青少年がスポーツに関わる環境のなかで、運動部活動は非常に大きな機会です。しかし今回の「学校運動部活動指導者の実態に関する調査」では、部活動指導員や外部指導者がスポーツに関する資格を未保有のまま、指導に臨んでいる実態が明らかとなりました。
スポーツ指導に関する資質能力を身に付けていない指導者から指導を受けることで子どもたちがスポーツや運動を嫌いになってしまうことのないよう、スポーツ現場に関わる全ての人たちが、主体的に取り組み、かつそれが持続可能であるよう保証された形で続く仕組みや環境を整備することが急務です。
従来よりも気軽にスポーツを楽しめる「ゆる部活」の登場や、部活動の地域移行など、そのかたちは必ずしも学校に縛られないものとなりつつあります。JSPOは本日お話した各種の取り組みを促進することで、子どもたちがあらゆる場所において安心して、そして楽しくスポーツ活動を享受できる環境の構築に取り組んでいきたいと思います。
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