お掃除ロボット搭載エアコンが1000万台も売れた裏側~唯一ホコリを自動排出できるパナソニックの匠の技と秘密~
パナソニックのお掃除搭載ロボット搭載エアコンが1000万台を突破した。
2005年の発売開始から記録達成の2022年3月まで、多くの人々に愛されるお掃除ロボット搭載のエアコン「エオリア」。
家電の内部構造や基礎技術に精通し各社エアコンを何十台も使い込んだ技術系家電ライター藤山哲人が、エオリア開発チームが奮闘する滋賀県の草津工場に出向き、「長年愛される製品開発の秘策」を聞いた。想像を超える歴史と苦労とこだわりが詰まっていた。
【取材・執筆】藤山哲人
エアコンの大敵「ホコリ」を知り、ホコリを再現する「ホコリ博士」
今から18年前の2005年。お掃除ロボットエアコンの開発に際してまず調べたのが「ホコリ」だ。ひとくちにホコリと言っても、衣類などから出る繊維や粒子状のものなどさまざまだ。そこでエアコンそのものの開発より先立って、全国およそ100世帯のエアコンに付着したホコリが集められた。「ホコリ」とは何か?何がホコリを構成しどんな割合なのか?いわばホコリの標準モデルの解析である。
パナソニック株式会社 空質空調社の馬場 雅浩氏。三代目「ホコリ博士」の異名を持つホコリ研究のスペシャリスト
わざわざ新規にホコリを研究しなくても、ずっと前からホコリの研究をしている掃除機部門に聞けば即解決するのでは?と聞いたところ、ホコリ研究担当のパナソニック株式会社 空質空調社の馬場 雅浩氏からは意外な答えが。
馬場:「我々もそう思い、掃除機部門に相談に行きました。でも説明を聞いた瞬間『違う』と察しました。掃除機は床に落ちたホコリを吸うので床に落ちる重いホコリ、でもエアコンが吸い込むホコリは空気中を舞う軽いホコリ。掃除機用のホコリのノウハウはまったく使えなかったのです」
そこで「エアコンに付着するホコリ」の研究がゼロから始まった。紆余曲折の末、ホコリの標準モデルが完成する。ホコリを構成するのは「長短さまざまな繊維」「微粒子」「油分」だ。そして門外不出の微妙なブレンドが鍵を握る。
エアコンが吸い込むホコリの3大要素。微粒子、繊維、油(油煙)
馬場氏は笑いながら
馬場:「成分が分かったところで、エアコンに吸い込ませる疑似ホコリを作ります。でもこれには苦労しました。どんな繊維でもいいってワケじゃないんです。実は布団の綿が一番いいんです。それだけじゃない(笑い)凄く使い込んだ『これ何時代の布団?』というのがいいんです。もう社内にも少ないレアな布団ですよ」
こうして古い布団と油を使った、パナソニック独自のリアルな標準化ホコリモデルが完成。加えてホコリの生成装置も開発した。これらは手作りで「エアコンのホコリレシピ」として代々企業秘密として継承されている。
ホコリ博士が手づくりした「ホコリ実験装置」。意外に身近なものでできている
10年分のホコリが付着したエアコン。エアコンの骨組みにはホコリが山になって付着しているが、フィルター部のホコリは取れており下部の熱交換器(重なったアルミ板)が見える
さらにお掃除ロボットの機能を評価するために、特殊実験室にて生成したホコリを稼働中のエアコンに吸い込ませる。こうして耐用年数の10年分ものホコリをエアコンに吸い込ませて実験を重ねるのだ。ホコリの研究・生成・実験方法は2005年発売のお掃除ロボットエアコン第1号機から使われ、18年経った今は三代目の「ホコリ博士」馬場氏に受け継がれている。
1年間にエアコンに付着するホコリの量はこのぐらいになるという
お掃除ロボットエアコンの機能を評価するため、業界標準のホコリに関する基準がある。ただ歴代ホコリ博士は、一般のご家庭から戻ってきたエアコンを調べた結果、それでは不十分であると考えた。そこでより厳しい自社基準を設け、お掃除性能の向上に取り組むことになる。
パナソニック株式会社 空質空調社の西田 晃氏。お掃除ロボット機構の開発担当。歴代の進化を知り尽くしたエンジニア
お掃除ロボット開発担当の西田氏は、ホコリは世相を反映すると言う。
西田:「数年前から変わり始めたのがペットの毛です。故障で戻ってきたエアコンの内部を見ると、想像をはるかに越えるペットの毛がフィルターにこびり付いていました。またテレワークなどでエアコンの運転時間が長くなり、フィルターに付着するホコリが増えています。さらにご家庭で食事を作る機会が増え、油汚れも増えました。コロナ禍は取りづらいホコリが増えているんです」
時代とともに変わりゆくホコリの研究は続いている。
風の抜けよりも細かく性能評価ができるパナソニック独自の光透過率。これでお掃除機能の性能を数値化できる
さてお掃除ロボットがどれだけフィルターをキレイにできたか?という評価はどのように数値化するのだろうか?当初フィルターの風の抜けを調べていたという。つまりフィルターにホコリが詰まっていれば風の抜けが悪くなり、きれいならスイスイと風の抜けがよくなる。しかし風の抜けの評価では、お客様のエアコンが目詰まりすることが判明したという。パナソニック独自の指標を設けることになった当時を馬場氏はこう振り返る。
馬場:「風の抜けの基準も参考になるんですが、実際に掃除を終えたフィルターを見ると“あれ?そんなにホコリ取れていない”というイメージなんです。フィルター表面のホコリは確かに落ちるんですけど、フィルターの目の中にもホコリが詰まるんです。肉眼で見ると僅かな色の違いにしか見えなくても、顕微鏡で見ると違いは一目瞭然です」
実際に顕微鏡写真を見せてもらうと、フィルターの目の中にもぎっしりホコリが絡まっている様子が分かる。
お掃除をする前のフィルター、目の中にホコリが詰まっている
目に詰まったホコリが、キレイに取れている
馬場:「そこで風の変わりに光を使うことにしました。フィルターの表から光を当てて、裏から明るさを測るのです。これなら目が詰まっていれば暗く、キレイになっていれば明るくなるので、顕微鏡を覗かなくてもフィルターのキレイさを数値として定量化できます。パナソニックでは風の抜けに加えて、光を使った独自のテストでよりホコリの詰まり具合を詳しく調べてているのです」
お掃除ロボットの機構。中央に見える青いバーが左右に動き掃除する。写真は2006年モデル
パナソニックのお掃除ロボット搭載エアコン「エオリア」は、より厳しい自社基準をクリアして、耐久年数も担保している。フィルターのホコリをキレイに掃除することで省エネ性能を維持でき、結果として電気代を安くできる製品にしているのだ。
同じように見えて微妙に違うお掃除ロボット
2005年の初代お掃除ロボットは、幅数cmのシリコンパッドがエアコンを左右に何往復もするというものだった。ちょうど指でフィルターをなぞる感じだ。取れたホコリはパッドの脇にある穴からファンで吸い込み、ホースを通して室外に排出する。1回でフィルター全面を掃除するのではなく、今日は最上段の2cm、翌日はその下の2cm……、全面掃除できるまでに8日間を要したと言う。
お掃除ロボット機構の要となるブラシ(左)と半月型のシリコンパッド(中央)、そしてホコリを吸い込む穴(右)。写真は2007年モデル
その後もお掃除ロボットは、お客様からの声やカスタマーサービスからの情報などを交えて毎年機能を強化していく。
まずはフィルター全面を掃除にかかる時間が8日間から4日間と半分に。さらに2008年モデルは、ホコリがよく取れるようパッドにブラシを加え2日間にまで短縮した。
パナソニック株式会社 空質空調社の山本 弘志氏。エアコンの企画担当。パナソニックのエアコンの歴史を知る人物
お客様が何を求めているのか?お客様の期待を超える細かなニーズを掌握して製品を企画する山本氏はこう話す。
山本:「ブラシにも色々あるんです。素材も色々あり毛足の長さ、毛の硬さなどきりがありません。さらにパッドも素材から硬さや長さ、そして形状まであらゆるパターンを試します。素材屋さんに電話しまくってあらゆるものを試しましたね。これで行ける!となれば、機械に組み込んで 性能テストの繰り返しです」
こうして2012年には、密度の異なる2種類のブラシと半月型のパッドを使ったお掃除ロボットが誕生。お掃除時間は全面を掃除しても30分程度までに短縮した。
ブラシやシリコンパッドの数々。これらは試した中のほんの一部。組み合わせを考えると相当数になる
歴代のお掃除ロボット機構。左が初代2005年モデル、右が2016年モデル
お掃除ロボット搭載エアコンに逆境が!柔軟な対応でお客様の要望に応える
時とともに住宅事情も変わり、マンションなどに採用され始めた「隠ぺい配管」。一般的なエアコンの配管は、外壁伝いに配管する。一部ではスッキリ見せる配管カバーをすることも。しかし隠ぺい配管は、建屋の景観を壊さないように「壁の中」に配管を通すのだ。そのためホコリを排出すると、壁の中に溜まってしまうという事態になる。
パナソニック独自のホコリ排出機能は、外壁伝いの配管が前提。それゆえ「パナソニック独自のホコリの自動排出」が封じ手になってしまったのだ。
この逆境に立ち向かうために「ホコリを外に排出する」というこれまでのお掃除ロボットの設計を180度転換し「ホコリをエアコン内部のダストボックスに貯める」方式に切り替えることになる。それに伴い従来はお掃除ロボットを左右に動かしフィルターを掃除していたが、方針転換によりブラシは固定したままでフィルターを巻き取って動かし、ボックスにホコリを落とすようにした。
この大方針転換が行われたのは2014年モデル。とはいえ従来からのホコリ排出は手間がかからず人気も高かったため、従来型とダストボックス方式を併売することになる。
左右移動式から180度の設計変更を余儀なくされたフィルター巻き取り方式。
しかし2017年に技術的なブレイクスルーを実現。「ホコリを一旦ダストボックスに落し、そのホコリを寄せ集めて自動排出する」という画期的なお掃除ロボットの開発に成功する。フィルターのホコリを掃除するときは、フィルターを巻き取ってホコリをダストボックスに落す。そしてダストボックスに溜まったホコリを片側にかき寄せ、ひとまとめになったホコリをファンで一気に外に押し出すという解決策を生み出した。
ダストボックスに溜まったホコリは、半月状のツメで本体左側に寄せられ、排気装置で外に排出される
本体左側にある排気装置(黒い部品)。右側のビニール製ホースが本体内に伸びホコリを吸い込む。左側の樹脂製ホースはホコリを屋外に排出する
こうして1台のお掃除ロボットながら、パナソニック独自のホコリ自動排出の便利さも備えつつ、隠ぺい配管のご家庭ではダストボックスにホコリを貯める製品へと進化したのだ。企画担当の山本氏は「お客様のお困りごと」と真摯に向かい合った結果とこう話す。
山本:「エアコンは他の家電と違って高い場所に設置してあります。お年寄りがお手入れするためにイスに乗ったりと危ないんです。お年寄りだけじゃありません。人間だれでもエアコンのお掃除は面倒なんです。しかもダストボックスを外して、ホコリを捨てて元に戻す。隠ぺい配管では仕方ないメンテナンスですが、それ以外の多くのお客様はホコリ自動排出でこの面倒な作業が不要になります」
まだ未完成だった!「黒板消しの原理」という落し穴
2017年にお掃除ロボットエアコンは完成形に至ったかと思いきや、新たなる課題が持ち上がる。それはホコリがフィルターに再付着してしまうという問題だ。開発担当の西田氏は「黒板消しの原理」だという。
巻き取り式で完成形態に見えた2017年モデルだが、まだ改良点が残されていた!
西田「黒板消しって汚れたままだと、せっかく黒板を消したのに白いチョークが付着して、黒板が白っぽくなっちゃうじゃないですか。お掃除ロボットも同じで、汚れたブラシでフィルターを掃除すると、フィルターに汚れが再付着してしまうんです。そこで2020年モデルのお掃除ロボットエアコンからは、お掃除のブラシを掃除する機構もついています。ブラシの汚れもダストボックスに落ちますから、自動排出することも可能です」
フィルターをブラシが半回転しながら掃除。と同時にブラシをゴムで掃除する写真
こうしてお掃除ロボット搭載エアコンは、今日まで改良が続けられている。また時代とともにエアコンが吸い込むホコリが変わっているので、改良や機能強化に終わりはないのだ。
「当たり前に動かす」当たり前ではないテストと努力
お掃除ロボット搭載エアコンは、日本全国北から南まで利用されている。そこで問題になるのが気温だ。たかが気温と思われるかも知れないが、性能や故障を大きく左右する要因となる。
フィルターやブラシ、パッドは気温の影響を受けやすく硬さが変わってしまう
まずフィルター。柔らかいプラスチック樹脂を使っており、これをギアとかみ合わせて巻き取っている。しかしフィルターが柔らかすぎると樹脂のギア(の歯)が壊れてしまい、硬すぎるとパッキリと折れたり、曲げたときにギアが噛んで動かなくなることも。また掃除に利用するブラシやシリコンも、夏は柔らかく、冬は硬くなってしまうが、どんな季節でもフィルターを掃除できなければならない。
マイナス3℃の環境から40℃の高温下でのテストを繰り返し耐久性や性能を調べる
家電は日本全国、春夏秋冬動いて当たり前。しかし当たり前に動かす技術は意外と難しいのだ。そのためパナソニックではマイナス3度の低温状態から、40度の高温状態で連続して動作させ、厳しい環境下でも正しく動作するようテストしている。こうして人知れず過酷なテストを受け、ようやくお客様のお手元に「エオリア」が届くのだ。
すべては「お客様のお困りごと」解決のために。パナソニック「もの造り」のキーワード
企画の山本氏は、お掃除ロボット搭載エアコン18年間の歴史を振り返る。
山本:「その昔は冷暖房の性能の開発競争でした。しかし当時、お客様のお困りごとを調査した結果、意外にも1位は『フィルターのお掃除が面倒』だったのです。そこで私たちはこの『お客様のお困りごと』を解消するべく取り組んできました」
ホコリ博士の馬場氏は、世代交代も見据えている。
馬場:「隠ぺい配管でホコリの自動排出ができなくなり、時代とともにホコリはどんどん変わってきました。18年前は全国から取り寄せたおよそ100軒のエアコンのホコリを研究しましたが、現在は全国から故障の情報やサンプルを入手して、さらに詳しく「今の」ホコリを研究しています。研究に終りはないので、次の世代に色々引き継がなければと思っています」
開発の西田氏は、お客様の小さなお困りごとが開発の推進力になっていると話す
西田:「その時代時代にあったベストなフィルターの清掃ができるように開発しています。でもホコリを取るだけがお掃除ロボットではないんです。フィルターがキレイになれば、今度は時間が長いというお困りが出てきます。またお掃除中の「チリチリ」というブラシの音が気になるなどさまざまです。そんなお客様のご要望にもお応えできるよう日々開発しています」
お掃除ロボットエアコンの累計出荷台数が1000万台を越えたその影には、小さな「お客様の困りごと」を「くまなく」すくい取っていくパナソニックの開発体制が大きく影響しているようだ。それは製品の機能やスペックとして現れるモノだけでなく、使い勝手や耐久性、故障の少なさといった無形の性能としてもエアコンに実装されている。
今回はエアコンの中でも「お掃除ロボット」という一部を見てきたが、エアコン全体、さらには家電全体にも「お客様の困りごとに向かい合い真摯に実験・設計・開発」している。それがパナソニックの家電だ。
【取材・執筆】
藤山哲人
あらゆる家電を内部構造も含めてレビューする技術系家電ライター。趣味はハード設計とソフト開発。「マツコの知らない世界」番組史上最多の6回(TBS)はじめテレビ出演番組80本以上。「家電Watch」「現代ビジネス」「文春オンライン」などのWeb媒体やラジオのレギュラーを持つ。
【関連情報】
・お掃除1,000万台突破記念 キャンペーン実施中
パナソニック ロボット掃除機が当たる
https://panasonic.jp/aircon/campaign/cleaning_robot_cp2022.html
・エアコンお掃除ロボット特設ページ公開中
https://panasonic.jp/aircon/contents/cleaning_robot.html
行動者ストーリー詳細へ
PR TIMES STORYトップへ