史上最多約420体収録! かつての“恐竜少年”の夢が詰まった、本気の恐竜図鑑
学研プラス(Gakken)が生み出す、数々の個性的で魅力的な商品・サービス。その背景にあるのはクリエイターたちの情熱だ。学研プラス公式ブログでは、ヒットメーカーたちのモノづくりに挑む姿を、「インサイド・ストーリー」として紹介しています。今回は、『学研の図鑑LIVE』シリーズの中でも1、2の人気を誇る『恐竜』の改訂を任された、図鑑編集部の松原由幸です。
子どもの頃、誰もが一度は大きな“恐竜”に、心動かされたことがあるのではないだろうか。そんな恐竜に夢中になった一人の少年が、この場所で、夢を叶えた。
子どもたちに絶大な人気を誇る『学研の図鑑 LIVE 恐竜』が、2022年6月、8年ぶりに改訂される。その改訂にあたり、担当として白羽の矢が立ったのは、少年時代から恐竜を追いかけ続けた、松原由幸だ。
学研プラスへの入社動機は、ずばり「恐竜図鑑を作りたかったから」。一昨年、念願の図鑑編集部に配属となり、入社6年目の今年、ついに手にしたチャンスだった――。
■夢の恐竜図鑑制作! 使命は、子どもたちの前に“恐竜をよみがえらせる”こと
編集制作にあたり、松原が最もこだわったのは“恐竜をよみがえらせる”ことだった。
「鳥をのぞいて、恐竜は絶滅してしまっているので、今は生きている姿を見ることはできません。そうした恐竜が『何億年も前に、同じこの地球に生きていたんだよ』ということを、子どもたちにリアルに伝える、感じさせられることこそが、恐竜図鑑にとっての使命だと思っています。そのため、図鑑に描かれている恐竜のイラストは、とても重要なんです」
かくいう松原も、幼稚園児の頃に、親に買ってもらった『学研の図鑑 恐竜』で育った1人。恐竜図鑑に描かれたリアルで臨場感のある恐竜のイラストを見て、ワクワクした体験は、いまも松原の原体験として強烈に残っているという。
今回新たに改訂される『学研の図鑑 LIVE 恐竜』を手にする子どもたちに、あの時の自分と同様の心躍る体験を届けるべく、制作に情熱を注いだ。
■更新され続ける研究をもとに、恐竜をよみがえらせる
恐竜研究は常に知見が更新され続けている分野で、子どものころに知った情報が、今では違う、ということも多い。例えば、子どもたちに人気の恐竜の一種である、“スピノサウルス”は、近年、化石が見つかるごとに“こういう恐竜だった”という形が、どんどん変わっているのだという。
松原が目指すのは、それら最新の研究成果を土台とした、リアルなビジュアルだ。
「スピノサウルスは、2001年に公開された映画『ジュラシック・パークⅢ』に登場し、人気を博しました。映画の中では、ティラノサウルスのように後ろ足で立って二足歩行する姿が描かれています。ただ、それから更にスピノサウルスの化石が更に見つかったことで、復元された姿は変わっていきました」
2014年には、スピノサウルスの後ろ足の化石が報告された。それが、意外にも短いものであり、スピノサウルスは二足歩行ではなく、四足歩行をしていた可能性が示された。さらに2020年には、30以上の尾骨(しっぽ)の化石が発掘されたのだという。
「その化石から、スピノサウルスは縦に幅広いウナギのような尾をもっていたと考えられました。また今年になって、スピノサウルスは、他の獣脚類の恐竜と比べて密度が高く重い骨をもっていたこともわかりました。これにより、スピノサウルスは水の中を泳ぐのが得意だったかもしれないと考えられています。こうして、恐竜の姿は、研究の進歩によってどんどん変わっていきます。今回の図鑑では、スピノサウルスは泳いでいる姿で復元しています」
■類書最多、420体以上のリアルを網羅せよ!
最新の研究成果が反映されているのは、スピノサウルスのような既知の種についてだけではない。改訂にあたっては、昨年12月に見つかった鎧竜ステゴウロスなどを含め、近年に報告された複数の新種が掲載される。
改訂版では、こうした近年の研究成果をもとに、“かつて存在していただろう恐竜により近い”復元画を掲載している。だが松原によれば、復元画をイラストレーターに発注するのは、図鑑制作の中では後の工程。そこに行きつくまでには一体ずつ、すべての恐竜に関する検討を必要とした。
「図鑑を作り始めた最初の一年弱は、監修の研究者の方々とのディスカッションに重きを置きました。まずは、どの恐竜を掲載し、それぞれの種で何を伝えたいかを話し合い、原稿を執筆していただきました。そして、その原稿をもとに、それぞれの恐竜について、復元画として表現したいことをリスト化していき、最後に復元画をイラストレーターさんにお願いするという順序でした」
『学研の図鑑LIVE 恐竜 新版』の復元画の特徴のひとつは、恐竜の身体的特徴をよりわかりやすく伝えられるように、恐竜一体一体の向きや角度、ポーズなどを吟味していることだ。恐竜それぞれの学問的な魅力が伝わるビジュアルになっている。
「ポーズの一つひとつにも、意味を持たせるようにこだわりました。例えば、このアロサウルスであれば、目の上にある角のような突起が特徴なので、その大きさや形が分かりやすい頭の向きにするとか、とがった歯がずらりと並んでいる様子を見せたいから、復元図では口を開けたものを描いてもらうとか…。それぞれの特徴がもっとも伝わる向き、ポーズが何かを決めるのは、楽しいけれど根気のいる大変な作業でした」
研究者とのディスカッションでは、恐竜のグループごとに、どの恐竜を載せるか、どんな順番で載せていくかを話し合ったという。特に順番に関しては、それぞれのグループ内における進化の流れに沿って掲載していくことにした。ページをめくっていくだけで、自然と進化の流れが伝わる作りにしているのだ。
「例えば、首が長くて体が大きなものが多い竜脚形類を見てみると…原始的な種は、体がそこまで大きくはなく、前足が短く二足歩行しています。これがページを読み進めていくと、だんだんと体が大きくなっていき、重い体を支えるための四足歩行に移り変わっていくことがわかります」
■一流の研究者のワクワクが、子どもたちに伝わる図鑑を
改訂にあたっては、総監修者を中心に、恐竜の獣脚類や竜脚形類、鳥脚類など、分類ごとに監修者を招き、より専門性の高い図鑑を目指した。
総監修は、これまでの『学研の図鑑LIVE恐竜』でも監修を手掛けた、国立科学博物館副館長の真鍋 真氏に依頼。それに加えて、各分野の専門の研究者を監修者として招いた。そして、それぞれの研究者の強みを生かした紙面づくりを目指した。
「恐竜の研究者」と聞くと、化石を発掘して観察する様子をイメージすることが多いだろう。しかし中には、化石を切断して断面を見たり、削って成分を解析したりする研究者もいるという。例えば、化石の断面を見てみると、その恐竜が何歳だったのかが分かったり、骨の中をどのように血管が通っていたのかもわかったりする。
「化石を切断するような研究をしている方には、“化石の中の構造”について、コラムを書いていただきました。また、恐竜の卵の研究をされている方には、“子育て”のコラムを書いていただいています。それぞれのジャンルのスペシャリストの最新の研究成果が、子どもたちにわかりやすいかたちで満載されているんです」
さまざまな専門分野の研究者に依頼することで、より深く恐竜を知りたいという好奇心に応えられる図鑑が完成したと言える。
さらに松原は、研究者が考えていることや、見ている世界や景色を、できるだけ誌面に反映することも、今回の図鑑づくりの大きなテーマだったと語る。
「研究者の方々が、研究の現場で生で感じているおもしろさや興奮みたいなものを、なるべく損なうことなく、子供たちに届けたい。そんなことを思いながら、図鑑を作っています」
■少年時代からの夢、挫折、就職…すべては『学研の図鑑 恐竜』から始まった。
研究者とのやり取りを楽しそうに語る松原だが、彼自身、1991年発行の『学研の図鑑 恐竜』を、幼稚園の頃に穴のあくほど読んでいたという。今も大切に持っているこの図鑑が、人生を決める一冊だったと語る。
「子どもの頃から絵を描くのが好きで、この図鑑を見ながら、恐竜を描いていました。そして、恐竜がきっかけで生き物全般へと関心が広がり、高校生からは生物学の研究者を目指すようになりました」
大学では脊椎動物の骨格形成や進化の研究に熱中し、そのまま大学院の博士課程に進もうとしていた松原に、転機が訪れる。大きな挫折だった。
「研究自体はとても好きでした。ただ、色んなことが重なって、自分の一生の仕事にはできないな…と思うようになりました。それまで研究漬けの生活をしていたので、自分がこれから何をしたら良いのかわからなくなり、お先真っ暗というくらいにまで、気持ちが落ち込んでいました」
思い悩んでいた松原を救ったのは、友人の言葉だったという。
「ずっと勉強をしてきたんだから、学ぶことが好きなんでしょ? と。それなら、出版社で教材や図鑑とかを作ればいいんじゃない、と言われました。その言葉を聞いた瞬間、僕が生き物を好きになった原点、『学研の図鑑』のことを思い出したんです。それで、研究者にはなれなくても、博士号を取った上で“研究者をサポートする道”があるじゃないかと思い直しました」
そして博士課程を終えて、志望した学研プラスへと入社した。さらに念願だった『学研の図鑑LIVE 恐竜』の改訂にたずさわることになる。図鑑の制作では、かつて共に論文を執筆した研究者とも再び関わることにもなった。
挫折を乗り越え、自らが掴んだ道。心躍る瞬間だったに違いない。
そんな松原だから、研究者に見えている世界や景色、研究の現場で感じているおもしろさや興奮を、はっきりと感じられるのだろう。今回の『学研の図鑑LIVE 恐竜 新版』には、そうした研究者と松原の想いが詰まっている。
■正解だけが大切じゃない、「わからないことに出会う」面白さを知ってほしい
松原の熱い想いも載せた『学研の図鑑LIVE 恐竜 新版』。改めて、子どもたちに、どう読んでもらいたいかを聞いた。
「まずは、恐竜のリアルさを感じてもらいたいです。図鑑は未就学児から小学生、中学生、大人までと読者層が幅広い。未就学児がパッとページを開いてイラストだけ眺めるだけでも、十分に楽しめる図鑑になったと思います。それでいて、一つひとつの細かい文章やコラムも、すごくこだわって作りました。最初は絵だけでも楽しめる、そのあと数年経ってから、恐竜や生き物のことを少し知ってから読み返すと、さらに噛みごたえのある、そんな本に仕上がっています」
松原によれば、いきなり全てを理解できなくても良いのが図鑑ならではの魅力だという。未就学児の頃に買ってもらって、松原のように場合によっては大人になってからも読み返す人もいる。そういうふうに、長く付き合えるのが図鑑なのだ。
恐竜についての知識は、学校のテストで出題されるものではなく、受験などには不要だ。そうした、一見、役に立ちにくそうな知識が詰まっている図鑑を、子どもたちに提供する意味を、さらに松原に聞いてみた。
「“役立つ”知識はもちろん大切ですが、まず子どもたちには、好きなものを見つけてほしいです。好きなことを知るのは楽しいです。図鑑をきっかけにして、「役立つ・役立たない」以前に、そもそも学ぶことって楽しいと思うようになってくれたら嬉しいです。そうすれば、自ずと“役立つ”知識も身に付きやすくなると思います」
さらに松原は「世界は、分からないことであふれていることを伝えたい」とも語る。
「学校教育などでは、どうしても正解を出すことが重視されます。そのため、まだ解明されていないことが、世の中には多いということに、気付きづらくなっている気がします。でも、恐竜に限らず、世の中は分からないことだらけ。だから、図鑑の中でも分かっていないことは、そう明記するようにしています。『こんなことも実は分かっていないんだよ』ということを、図鑑を通して子どもたちに伝えたいです。だって、分かっていない方が、解き明かしたくなって、ワクワクするじゃないですか」
絵を描くことや恐竜が大好きで、かつては研究者を志していたひとりの青年が作った『学研の図鑑LIVE 恐竜 新版』。手にとってくれた全ての子どもたちに、新たなすばらしい世界との出会いを届けるべく、この夏、書店に並ぶ。
(取材・文=河原塚 英信 撮影=多田 悟 編集=櫻井 奈緒子)
クリエーター・プロフィール
松原由幸(まつばら・よしゆき)
愛知県出身。2017年名古屋大学大学院理学研究科 生命理学専攻博士後期課程修了。博士(理学)。同年学研プラスに入社。学参・辞典編集室で参考書などの編集制作に携わり、2020年より図鑑・科学編集室に配属となる。
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