オーガニックコットンを使う意義とは? 『コットンヌーボー』ヒストリー
違いがあってこそ、本当のオーガニック。
ワインのように、その年ごとのコットンを楽しむ。
そんなタオルを届けたい。
このコンセプトを掲げ、2011年から始まった『コットンヌーボー』。
コットンヌーボーの発案者であり、プロジェクトデザイナーとして関わり続けていただいている佐藤リッキーさん。IKEUCHI ORGANICの池内代表を交え、誕生秘話やタンザニアに足を運んで感じたことをお話いただきました。
リッキーさんは、タンザニアの農家の方々と触れ合うことで、コットンヌーボーを長期的に継続するプロジェクトにしていきたいと強く感じたそう。その理由は、何なのでしょうか?
※本内容は、2019年の2月に開催されたイベントを再編集しております。
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コットンヌーボーは奇跡的な巡り合わせで始まった!?
▲ 佐藤リッキーさん。1975年生まれ。東京都出身。日本大学経済学部卒。プロジェクトデザイナー。2012年、合同会社Yello設立。インテリアデザインやアパレルブランドのエキシビション空間演出を手掛ける一方、プロダクトデザインもスタート。様々なブランドをディレクションする傍ら、ホテル「LYURO」のトータルディレクション、「H&M」「蔦屋書店」のグラフィックなど、ジャンルを超えて幅広くデザインしている。
佐藤リッキーさん:コットンヌーボーのコンセプトは、友人でもある阿部さん(現IKEUCHI ORGANIC社長)と話している時に生まれました。
オーガニックコットンは、オーガニックなゆえに品質が安定しないし、毎年収穫量も違うから、工業製品に使うことがとても難しい。それであれば、毎年品質が違うことを逆にプラスに捉えることはできないだろうかと。
ヌーボーといえば、皆さんご存知のボジョレーヌーボーのワイン。毎年品質が違っていても、その違いを楽しむというコンセプトで多くの人に親しまれています。タオルでも、年ごとのオーガニックコットンを使い、違いを楽しむことを個性として打ち出すことができればと思い、コットンヌーボーという名前にしました。
「これは良い企画ができたぞ!」と思い、阿部さんと一緒に当時の社長である池内さんにプレゼンテーションへ。そしたら、一瞬でボツに(笑)。
池内代表:ボツにした理由は色々ありますが、そもそも糸を年度ごとに作るというのは不可能なんですよ。糸っていうのは、様々な糸を混ぜながら作られているので、その年に収穫したコットンだけで糸を作るというのが、基本的に無理なんですね。
リッキーさん:僕が糸について無知だから、こんな提案ができたんですよね(笑)。多分、糸や繊維に詳しい人であれば、こんな企画は思いつかないと思います。
池内代表:でも、ボツにしてから数ヶ月後に、僕らがオーガニックコットンを仕入れているスイスに本社があるREMEI社から、「タンザニアでつくられているコットンも使って欲しい」というオファーがありました。それまで、日本ではタンザニア産のオーガニックコットンは流通してなかったんです。
REMEI社としては、なんとしても日本でタンザニアのオーガニックコットンを使って欲しいという想いがありました。だから、イケウチがタンザニアのものを使ってくれるなら、収穫年度で区切った糸を作ることに協力しますと言ってくれたんです。同時に、仕入れ量も、当時の僕らのお財布事情に合わせて異例の便宜を測ってくれました。
この条件なら実現可能だと思い、一度ボツにしたコットンヌーボーの企画を、タンザニアのオーガニックコットンで実行に移すことを決めました。
リッキーさん:このように、無知と幸運が重なり生まれたのがコットンヌーボーなんです(笑)。
タンザニアで目にしたものとは?
池内代表:そして僕らは、最初のコットンヌーボーの完成後、タンザニアのファーマー(農家)の皆さんにタオルを渡すために、タンザニアに足を運ぶことにしました。
リッキーさん:タオルを渡すと同時に、どういう風にオーガニックコットンが栽培されているのかを、自分の目で見てみたかったんですよね。
池内代表:日本からタンザニアまでは、40時間以上。空港からオーガニックコットンの畑までは車で約5時間くらい。すごく時間がかかります。そこまでの道はこんな感じで、 バオバブの木が生えていたりします。
リッキーさん:こうした道を抜けて、到着するのがREMEI社が運営しているトレーニングセンターです。
この施設では、オーガニックコットンの農家さんに栽培の指導などが行われているのですが、とても快適で、トレーニングを受ける場所として素晴らしい環境でした。Wi-Fiも完備されています。
池内代表:センターを視察した後は、オーガニックコットンの綿花畑を見にいきました。
僕らがわざわざ日本から来るということで、手摘みができるように少しだけコットンを残しておいてくれたんですね。ですが、僕は1本とるだけでギブアップ(笑)。綿花としては背が低めで、摘むために中腰にならないといけない。そして、綿の実はバラのようにトゲがあるので、変なとり方をすると手に刺さります。とても大変な作業だと思いました。
この綿花畑が東京ドーム4個分くらいあって、25名の大家族で全て手摘見していきます。これだけやっても大体バスタオル2,000枚分の綿花量。オーガニックコットンは希少な収穫なんです。
リッキーさん:この綿花畑で集めた集めてきた綿花は、すごいツノのついた牛が引っ張って、REMEI社が管理する施設に運ばれます。納めた量に対して支払う金額のレートが決まっているので、ここで収穫量を計測し、安定した収入を得ることができます。
池内代表:REMEI社のすごいところは、どんなに豊作でも、収穫量の70%までは買い取る契約をしているんですよね。だから、農家の人は作りすぎを心配する必要がないんです。
リッキーさん:まさにフェアトレードという言葉を地で行くようなことをやってますよね。
池内代表:高い値段で買うことがフェアトレードだと誤解されているんですが、フェアトレードで大事なのは、必ず買い取るということなんですよ。必ず買い取ると決めて、しかも適正な値段で買うというのが大事なんです。REMEIは、そこがきっちりしています。
池内代表:それとタンザニアは、乾季は川だったところを何メートルか掘らないと水が出てこないような土地なので、水にものすごく苦労しているんですね。だから、REMEI社は井戸を沢山寄付しています。地下を8メートルくらい掘ると完全な真水が出てくるので。井戸をひとつつくると、数百人単位で水の苦労から解放されるんです。
だから、僕らも井戸を1年にひとつ寄付しようという取り組みをしています。
リッキーさん:池内さんが即決で、誰に相談することもなく、寄付をやりますとその場で決めましたよね(笑)。
池内代表:当時は社長だったから、誰に決裁を仰ぐことなく判断できました(笑)。
何もわかってなかった自分が恥ずかしい。
リッキーさん:こうしてタンザニア現地の風景を自分の目で見てきたのですが、僕が一番心に残っているのは、オーガニックコットンの農家さんのご自宅に足を運んだ時のことです。
リッキーさん:その家は隙間風が入ってくるような家なんですが、それでアンハッピーというわけでもなく、とても幸せそうに暮らしていました。子だくさんで、26人家族。貯金もしています。周囲に銀行がないから、当時はなんと現金を土に埋めていました。
でも、こういう暮らしをしている方々なので、タオルを見たことも使ったこともないんです。子供たちは、タオルを見てきょとんとしていました。
しかも、タンザニアは水に苦労している土地なので、透明な水を使えない方がかなりの数いらっしゃるんですよね。僕らは完成したコットンヌーボーを渡したいと思って訪問したんですが、そういう状況の方々に真っ白なタオルをプレゼントに持っていくことに、なんだか空気が読めてない感じがして、すごく恥ずかしく思いました。
リッキーさん:だけど、彼らが大家族で幸せそうに暮らしていけるのは、REMEI社のオーガニックコットンのプロジェクトがあるからなんですよ。彼らの暮らしはオーガニックコットン1本で成り立っているので。
だから、僕らがすべきことはタオルを彼らに贈るということではなくて、彼らが栽培しているオーガニックコットンを少しでもいいから使い、オーガニックコットンを世の中に普及させていくこと。つまり、コットンヌーボーをきちんと継続させていくことが一番大事なんだと思いました。
そのことに気づけたことが、僕は一番記憶に残っています。
ネームタグやカラーバリエーションに込めた想い
リッキーさん:最後にデザインについて少し話させてください。デザインは基本変えていないのですが、ネームタグのカラーは毎年変えています。自分たちなりにその年を象徴する色を選んでいます。
例えば、2013年はIKEUCHI ORGANIC(当時は、池内タオル)の創業60周年だったので、還暦のお祝いで赤にしています。2014年は社名がIKEUCHI ORGANICに変更した年だったので、再スタートの意味を込めて、白。
ちなみに、来年のネームタグの色は既に決まっています。来年はコットンヌーボーの10周年なので、日の出のサンライズにしようと思っています。それで、ひとつ手前の2019年は夜明け前の暗い空が太陽によってピンクに染まっていく時のような色にしてみました。
リッキーさん:また、年によってはコットンヌーボーにピンクやブルーのカラーバリエーションがあります。
リッキーさん:このカラーも現地にある風景だとか、印象の残ったものから落とし込んでいます。例えば、タンザニアの公共の役所が持っている建物は全てピンクなんですが、ピンクの色はここから取っています。
リッキーさん:アフリカのサバンナというと、真っ青な空に緑が生えてみたいな印象を持っていたんですが、実際に足を運ぶと全然違っていました。結構くすんだ色が多くて、建物も原色は少ないです。そういった現地の空気感を少しでもプロダクトに落とし込みたいと思っています。
ものの見方を変えるきっかけとなれたら嬉しい。
リッキーさん:最後に、プロジェクトデザイナーとしてコットンヌーボーをライフワークとして一緒にやらせてもらえていることは、すごいありがたいと感じています。
コットンヌーボーは「違いを楽しむ」をコンセプトを掲げていますが、僕はコットンヌーボーをきっかけに色んなものの見方が変わるキッカケを作れたらと考えています。
もちろん、いい加減ににやって品質に差が出ちゃうのはダメだと思います。ただ、B品になってしまった製品だったり、品質にバラツキがあるからといって取り扱えない食品に関しても、そのバラツキを楽しめる心の余裕みたいなものが広がっていって欲しいと思っています。
「こうやって違いを楽しめばいいんだ」という、ひとつの例として、コットンヌーボーがそのきっかけになったら嬉しいです。
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