石炭技術が生み出したカーボンニュートラルなアスファルト
今、世界が目指すカーボンニュートラル社会。
化石燃料からのエネルギー転換や、エネルギーの消費抑制など、二酸化炭素(CO₂)の排出を削減する取り組みが加速しています。しかし、カーボンニュートラルを実現する手段は、CO₂を「減らす・無くす」ことだけではありません。私たち出光興産(以下「出光」)は、CO₂は、私たちの生活に必要な物品をつくるための資源として「使う」こともできると考えています。温室効果ガスであるCO₂を有用な資源に転換する、新しい舗装資材適用技術によって生み出された次世代の舗装を出光は開発しました。
年間50万トンのCO₂を固定化する日本初”グリーンな“アスファルト舗装技術
出光では、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の研究開発委託事業や他社との共同の取り組みで、産業廃棄物に含まれるカルシウムを用いて、ボイラーなどから出る排ガス中のCO₂を固定化する技術の開発を進めています。
2022年3月、CO₂を固定化した合成炭酸カルシウム(以下、合成炭カル)を用いた試験舗装が、千葉県袖ケ浦市の出光 石炭・環境研究所構内で実施されました。排ガス中のCO₂を固定化した合成炭カルを含む試験舗装の実施は日本初*となり、出光の石炭・環境事業部と機能舗装材事業部が部門を超えて共同開発しました。環境にやさしい性質そのものを表す、グリーンのカラー剤を特別に添加しています。※当社独自調査より
本プロジェクトの主担当である、石炭・環境事業部の汲田さん、機能舗装材事業部の呉さん
が開発を振り返ります。
向かって左から:
機能舗装材事業部 アスファルト技術課 呉 悦樵 Wu Yueqiao
石炭・環境事業部 石炭・環境研究所 汲田 章司 Kumita Shoji
CO₂固定化で環境負荷削減に貢献する新素材
私たちが今回使用した合成炭カルは、ボイラーなどから出る排ガス中のCO₂を固定化し、環境負荷の削減に大きく貢献する舗装資材です。
地球温暖化の原因になるCO₂を、何か物質の中に取り込むことを「固定化」といいます。今回の試験舗装は、従来のアスファルト舗装に使用されている「石粉」と呼ばれる天然石灰石(天然炭酸カルシウム)を粉砕したものを合成炭カルに置き換えることで、CO₂の固定化を実現しました。
日本全国のアスファルト舗装材料出荷量は年間4,000万トン。そのうち約3%の120万トンに炭酸カルシウムが使われています。炭酸カルシウム成分の44%がCO₂ですから、すべてを合成炭カルに置き換えることができれば、アスファルト舗装の中にCO₂を年間約50万トンも固定化することができるのです。合成炭カルは、それほど大きな環境貢献のポテンシャルを秘めた新素材といえます。
国と自治体に働きかけ認可取得を目指す
合成炭カルを使用したCO₂固定化舗装の実用化には課題もあります。まず、合成炭カルが本当に天然炭酸カルシウムの代わりになりうるのかという技術的な課題。そして、道路に使用する公共資材として、国の認可を獲得するという行政的な課題です。
技術的な課題はほぼクリアしていますが、なにしろ道路とは長く酷使される社会インフラです。これから時間をかけてデータを追っていかなければなりません。
また、合成炭カルを舗装資材として広く普及させるためには、国管轄の一般公道・国道への適用が欠かせません。そのためには、国が作成する舗装資材規格に適合することが必須です。規格の改正には数年かかりますから、今は公共資材以外のところで実績を積み上げながら、規格に関わる国や地方自治体などに素材の良さをアピールし続けていく必要があります。
自治体によっては特別な舗装仕様を認める事例が複数あります。たとえば、三重県では特産であるアコヤ貝の貝殻、沖縄県ではコーラルリーフロック(隆起サンゴ礁石灰岩)が道路舗装資材として使用されています。今回のCO₂固定化舗装に関しても、自治体独自の規格での認可を目指し、各都道府県に対するアプローチにも取り組んでいきたいと考えています。
廃棄物をリサイクルした環境に優しい新素材
合成炭カルには、廃コンクリート・残コンクリートから取り出したカルシウムと、火力発電所やゴミ焼却場の排ガスに含まれるCO₂を使用できます。合成炭カルの生成によるCO₂の固定化自体は汎用的な技術ですが、廃棄物である「廃コン」「残コン」をリサイクルする上では、どのようにしてこれらの資源からカルシウム成分を抽出するのか、そのカルシウムをどうやってCO₂と結びつけるのかなど、技術的に多くの課題がありました。また、量産化に向けた一度に大量の合成炭カルを製造する技術の確立も難関であり、現在も試行錯誤を続けています。
目に見えない小さな違いも検証
従来のアスファルト舗装に使用される天然炭酸カルシウムと、今回使用している合成炭カルは、肉眼で見ると同じ白い粉末ですが、微妙な違いがあります。それは粒子の大きさ。石灰石を粉砕して製造した天然炭酸カルシウムの方が若干大きく、合成炭カルの方が小さいのです。この差が実用化にあたっての大きな懸念でした。石粉としての炭酸カルシウムは、骨材の隙間を埋め、アスファルトを保持することで混合物の安定性・耐久性を上げるために用いられる材料です。粒子が細かいことで、その分アスファルトの必要量が増え、補強の強度が弱まって、舗装の耐久性に影響が出る可能性がありました。実験のデータ上では代替可能でも、合成炭カルを使ったアスファルト舗装は初めての試みですから、実際に試験舗装を行って耐久性を検証し、実用可能であることを証明する必要がありました。今年3月に石炭・環境研究所の道路で試験舗装を行ってから現在に至るまで、問題は起きていませんが、引き続き観察を継続し、時間の経過に伴う強度と耐久性を検証していきます。
日本の舗装業界に、出光の高い技術力を広めていきたい。
こういったコラボが社内外でもっと生まれたら、広く深い社会貢献が可能になる。
石炭・環境研究所 × 機能舗装材事業部
本プロジェクトは、社内の部門を超えたコラボレーションから生み出されました。プロジェクト主担当2人の社内共創や事業への想いを対談形式で紹介します。
互いに誇る技術を結集
汲田 2019年の旧出光と旧昭和シェルの経営統合以降、各社・事業部の組織を超えたさまざまな話し合いが重ねられました。今回のプロジェクトも、当時の出会いから芽吹いたものでしたね。
呉 今だから言えますが、初めは上手くいくかどうか不安でした。統合してすぐのことでしたし、事業部間のコラボというのも初めての試みで。
汲田 結果、異なる技術分野の2つの事業部でひとつのものをリリースするという、貴重な事例をつくることができました。
呉 昨年の社内研究発表会で「社内コラボを成功させるコツ」を発表しました。鍵は「共通言語」「高い技術力」「社会実装への具体像」「開発戦略の共同構築」です。技術者、研究員ですから、専門用語はもちろん、それ以上に、自分たちの技術にかける熱量や自信が、互いに真っすぐに伝わるものです。石炭・環境事業部には、今回用いた合成炭カルに絶対の自信がありましたし、私たちにも、その材料をいい道路にできるという自信がありました。互いの持つものに自信があったから、共にさまざまな課題を乗り越えてこられたと思います。
汲田 社内だからこそなんでも腹を割って話せたのも良かったですね。「実はこのプロセスには結構コストがかかる」とか「それは他社でも事例があって」とかね。
呉 言いにくいことや裏話も率直に話し合うことで、開発の課題に対する戦略がどんどん出てきたのかなと。コロナ禍でも交流を絶やさず、実証実験までこぎ着けられたのは本当に嬉しいです。ただ、ここからが本番ですよね。
汲田 そうですね。目指すところは、一般道路や高速道路にこの舗装技術を適用して、大きく社会実装することです。それをやり遂げたい。合成炭カルは、舗装以外にも土木資材の需要を見込めるので、さらなる用途開発を進めて、脱炭素社会に貢献できると思っています。
呉 舗装業界の中でも、総合化学メーカーとしての特徴を持っていて、材料の設計・開発から手がけられる当社は異質な存在です。多様な事業部や人が集まる出光だからこそできること、出光にしかできない舗装があります。日本にとどまらず、海外のインフラにも貢献していきたいですね。このリソースや環境を、世界に生かさない手はないですね。
産業廃棄物と排ガス中のCO₂を活用した新時代の舗装資材。
日本国内で年間出荷されるすべてのアスファルト舗装資材に含まれる石粉が合成炭カルに代われば、固定されるCO₂は年間約50 万トンと推計され、環境負荷削減への大きな貢献が期待されます。
人の暮らしと社会の安心がつながる未来へ。出光は多彩なエネルギーと素材で持続可能な社会構築に貢献していきます。
行動者ストーリー詳細へ
PR TIMES STORYトップへ