熊野古道の修繕を行う「道普請」。世界遺産を守るため、官民一体で取り組む活動とは
1千年以上の奥深い歴史と豊かな自然を併せ持つ、世界遺産・熊野古道。
この地では、企業や学校などが参詣道の維持・修復活動をボランティアとして行う「道普請」が、和歌山県により2009年からプログラム化されています。巡礼者が歩きやすい道を整備し、良好な状態の参詣道を次世代へと継承するため、地元だけでなく全国各地から約3万4700人が活動にかかわってきました(2022年3月時点)。熊野古道を泊まり歩く宿「SEN.RETREAT」を運営する日本ユニストも、2020年と2022年の2回にわたり参加しました。
このSTORYでは、2022年10月4日に参加した道普請のレポートとともに、活動の意義などを県職員の方に伺ったお話を紹介します。
地域住民だけでなく、企業や学校なども道を守る
熊野古道は2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録されて以来、日本古来の巡礼文化や宗教観、自然を体感できることから、多くの観光客が訪れています。
国内外から人気を集める一方、熊野古道がある紀伊山地は雨量が多く、台風や大雨による土砂の流出や道路の傷みなどを定期的に修繕する必要があります。かつて地元住民が中心となって取り組んでいたものの、高齢化で担い手の減少に直面。世界遺産登録により巡礼者が増加したこともあり、以前にも増して道普請の必要性が高まっていました。
そこで、県は2009年より、企業や学校などの団体向けに道普請を受け入れるプロジェクトを開始。1千年以上受け継がれてきた貴重な資産を良好な状態で保全し、次世代に受け継ごうと、広く活動参加を受け入れてきました。
10月4日に行われた道普請には、地元企業やトレッキングガイドの方とともに、日本ユニストから4名の社員が参加しました。まず最初に、熊野本宮大社前にある和歌山県世界遺産センターで、熊野古道の文化的・歴史的価値を学ぶ講義「世界遺産入門」を受講。16世紀頃に描かれた那智参詣曼荼羅を用いて、かつての熊野詣の実態を解説するなど、今まで知らなかった歴史についても教えていただきました。
土1トンを投入し、傷んだ道を生まれ変わらせる
予備知識を頭に入れた後はいざ、熊野古道へ。
熊野本宮大社の神域の入口とされる「発心門王子」から、1時間半ほど山中の古道を歩き、かつて三軒の茶屋があった「三軒茶屋跡」で整地を開始しました。
整地箇所から一番近い車道に、軽トラックで運んできた土約1トンを広げ、それを土のう袋に少しずつ詰めていきました。
小分けにした土のう袋はバケツリレー方式で、車道から修復箇所まで運んでいきます。1個1kgほどある土のう袋を持ちながら何往復も山道を登るのは、かなり身体に応えました。
傷んでいる区画に新しい土をどんどん入れていき、「タコ」と呼ばれる道具で、土を平らに敷いて締め固めます。
かなり体力を要する活動でしたが、今まで何気なくトレッキングしていた参詣道は、こうした地道な作業によって良好な状態に整備されていることを実感できました。1トンもの土を用意しても、修繕できる範囲は木と木で区切られた区画わずか2個分のみ。総延長350kmに及ぶ熊野古道全体を保全するには、限りなく多くの方の協力が必要だということにも気づかされました。
和歌山でしかできない、世界遺産の修復体験の意義
今回の道普請で講師を務めていただいた、県世界遺産センターの担当者の方は、「先祖が大事にしてきた地域の財産を、綺麗な状態で将来に受け継いでいきたい」と語ります。実は、世界遺産は保全状態をチェックする監査の定期報告が6年ごとに行われ、状態が悪化すると登録を取り消されるケースもあります(実際にイギリスの港湾都市・リバプールは、再開発計画により昨年登録が取り消されました)。
地元の過疎化が進む中、約350kmもの道を行政だけで整備するのは難しい現状もあるため、県内外の企業や学校の協力が今後も必要になるといいます。「身体を動かして、かつ世界遺産修復という社会貢献活動に参加できる機会は、全国でも珍しいと思います。コロナ禍で道普請の参加者は一時的に減ってしまいましたが、ぜひ多くの方に参加していただけると嬉しい」と、さらなる活動の広がりに期待を寄せていました。
「SEN.RETREAT」の運営を通して、世界遺産・熊野古道の価値や魅力を知っていただこうと事業を行っている日本ユニストにとって、道普請はその神髄に直接かかわれる貴重な体験です。今後も継続的に参加し、美しい巡礼道を守ってまいります。
行動者ストーリー詳細へ
PR TIMES STORYトップへ