子ども食堂「はろはろワイキ」はこうして生まれた ~“住みたい街”で始まる子ども食堂への期待~
株式会社ライフケア・ビジョン(大阪市東淀川区)は2011年に創業し、近畿圏で有料老人ホーム「はっぴーらいふ」やシニア向けスマート賃貸マンション「シニアアップデートマンション」を運営する傍ら、2021年から子ども食堂を運営し、1年後の2022年11月に2件目の子ども食堂「はろはろワイキ」をスタートします。
この子ども食堂をめぐる、様々な人々の想いをお届けするために、3人にインタビューしました。
お話をお聞きした方 (写真左から)
・近藤 量行
(NPO法人WAIKI 理事長 兼 ㈱ライフケア・ビジョン New Value Creation研究所 所長)
・藤井 賀子
(NPO法人WAIKI 兼 ㈱ライフケア・ビジョン New Value Creation研究所 所員)
・奥田 寿史
(子ども食堂はろはろワイキ実行委員会 委員長 兼 ㈱ライフケア・ビジョン 開発部 部長)
1.子ども食堂「わいわいワイキ」をはじめて1年。 「わいわいワイキ食堂」を立ち上げた近藤さんにお聞きしてみました。
──そもそも近藤さんは、ライフケア・ビジョンの社員でありながら、なぜ子ども食堂を立ち上げたのですか?
近藤 : 株式会社ライフケア・ビジョンの中にNew Value Creation研究所という部署があります。私たちはライフケア・ビジョンは主に介護施設を運営していますが、これからの超高齢社会には、高齢者への介護サービスだけでなく、社会全体で新たな価値を創造する必要があります。
また自分自身、地域のなかでコミュニティを創造することに興味があります。子ども食堂は料理人出身の代表がかねてからやりたいと思っていたこともありますが、子ども食堂を通じていろんな人が関われる場になるのではと思い、介護の会社でありながら子ども食堂を立ち上げることにしたのです。
※子ども食堂立ち上げの経緯は「息抜きカフェSTORY」をご覧ください
──子ども食堂を始めてちょうど1年。また新たな子ども食堂をオープンするのですね。
近藤 : 子ども食堂「わいわいワイキ食堂」を吹田市内本町で始めたのが2021年11月16日ですから、ちょうどその1年後の同じ日に2か所目の「はろはろワイキ食堂」を同じ吹田市でオープンすることになります。「わいわい」は当社が運営するシニア向け賃貸マンション1階の共用スペースで実施していますが、「はろはろ」は他社が管理運営する高齢者マンション「ロハス江坂」(大阪市江の木町)の1階にある共用スペースを使わせてもらうことになっています。
──どうしてわざわざ高齢者マンションの共用スペースで開催するのですか?
近藤 : 私たちは高齢者向けの介護や住まいのサービスを提供していますが、高齢者にとって特にコロナのまん延があってから外出の機会が減り、それが閉じこもりを助長し、フレイル(虚弱)が進んでしまいます。それを改善するための活動の機会をつくっていかねばなりません。それには多くの世代と関われるきっかけづくりが要と感じました。
(2021年11月にオープンした「わいわいワイキ食堂」)
──子ども食堂は今では全国に6000か所以上で実施されていると言われます。その中で、「わいわいワイキ」ならではのものはありますか?
近藤 : 同じ子ども食堂とは言っても、それぞれにやり方は違っているようです。ここではとにかく子どもたちに『居心地の良い場所』にしてあげたいという思いで運営しています。こちらからいろいろなことを押し付けて子どもたちにそれを一方的に受け入れていってもらうのではなく、気ままにやりたいことをやって帰りたい時に帰ってもらえるような感じと言えばいいでしょうか。
2.利用者の声を「わいわいワイキ」に毎回参加されている藤井さんにお聞きしてみました。
──そもそも藤井さんは、どういう形で子ども食堂に参加されているのですか?
藤井 : もともとプライベートでも子どもたちに関わるボランティア活動をしていました。子ども食堂をするからと誘われたのがきっかけです。ライフケア・ビジョンでは一社員として、事務仕事をする傍ら、新卒社員のメンタルフォローなどもしています。
──いまでは子ども食堂の大黒柱ですよね。いろんなイベントがありますが、藤井さんが企画しているのですか?
藤井 : 最初は食事を出すだけでしたが、いろんなイベントをやりながら、自分たちだけでなく利用する人も、ボランティアの人も、食事提供に協力してもらっている人も、いろんな人が自分たちで考えてやっています。これが楽しいです。たとえば流しそうめんをみんなでつくってみたり、アイシングクッキーをつくったり。
アイシングクッキーは思い入れがあります。ライフケアに介護職として新卒入社した人が、やっぱり製菓学校に行きたかったと言って辞めてしまったんです。子ども食堂でこんなリクエストがあがっているんだけどとその人に話してみると「あ、いいよ。じゃあ作り方を一緒にやりましょう」って言ってくれて。退職してしまったのは残念ですが、こういう形で縁がつながることもあると、毎回(終わったときには子どもたちと遊び疲れてぐったりしていますが)やってよかったなあ、と思います。
──参加している人たちの声としては、いかがでしょうか?
藤井 : アンケートをとらせていただきました。
・「他の子ども食堂も利用していますが、ここでは食事以外にボランティアの大学生の方に勉強を教えてもらえたり、一緒に遊んでもらえて嬉しいです。その分、私も一息つけますしね」(5歳の子のお母さん)
・「流しそうめんなど家では経験できない仕掛けもあって、家族で楽しんでいます」(小学1年生と3年生のお母さん)
・「ごはんがおいしい。いろいろな人たちがいて、家とは違った雰囲気でくつろげます」(中学1年生)
・「ここで学校以外の友だちもできた」(小学6年生)
・「家ではお姉ちゃんたちがいてうるさいけど、ここの方が友だちもいて勉強に集中できる」(小学3年生)
・人見知りの子どもたちもいて、実は僕も人見知りなのですが、それで通じるところがあるのかな。楽しい時間を過ごせています(ボランディア大学2年生)
──それだけ前向きな声をいただければ、やり甲斐がありますね。
藤井 : 子ども食堂に毎回来られるお母さんに街中で出会った際、嬉しい言葉をいただきました。
「子ども食堂が近くにできてうれしかった。子ども達も勉強ができて、大きいお兄ちゃんお姉ちゃんたちと交流出来て喜んでいます。『息抜きカフェ』(※)も、大人の見守りがある中で子どもを遊ばせてもらい、親として伸び伸びさせてもらっています」と。また、よくよくお聞きしてみると、こうもおっしゃっていました。
「親が子ども食堂の開催時間にはまだ勤務していて連れて行ってやれないところもある。仮に一緒に来たとしても、自分が食べることによって他の子どもさんに食事が当たらないとなるのは少し心苦しい」とも。
(10月の子ども食堂の様子。食事提供にはシニアボランティアも参加)
それぞれにご事情があるなかで、精一杯に頑張っておられるのを伺うと、こちらも頑張ろうとなりますね。
(※)息抜きカフェ:隔週土曜に開催しているヤングケアラー向けのカフェ。ヤングケアラーに限らず、子どもたちが集まってワークショップをしている。
──ボランティアをするには、特別なスキルや、誰かの役に立ちたいという気持ちが必要でしょうか?
藤井 : 私自身はボランティアをはじめて8年目になりますが、特別な技能があるわけでもありません。
それまで仕事でも何でも、「さあやるぞ」と気合いを入れて臨むような生き方をしてきました。だからプライベートでボランティア活動を始める時も、頭の中であれこれ考えながら臨んだのですが、「あなたのそのままでいいよ」と言われたのをきっかけに随分気持ちが楽になったのを覚えています。そして、ボランティア活動を通じて仕事とはまた異なるいろいろな方とのつながりを持てたことも財産になっています。特別な何が必要というわけでもなく、その人自身やその人らしさ、そのままでいいと思っています。
3.新しくオープンする子ども食堂「はろはろワイキ」について、実行委員長の奥田さんにお伺いしました。
──2022年11月にオープンする「はろはろワイキ」は、1年前にスタートした「わいわいワイキ」から直線距離で約3km。どうして同じ吹田市に子ども食堂をオープンするのですか?
奥田 : たまたまご縁があり、高齢者マンションの共用スペースをお借りすることができました。大人からみると3kmはすぐ行ける距離ですが、子どもたちにとっては遠く、「わいわい」とエリアが被ることもないので、2件目の子ども食堂をここで開催することにしたのです。
──「はろはろワイキ」は大阪メトロ地下鉄の江坂駅からも近く、オフィスや店舗もあり、とても賑やかな街のようです。こんな賑やかな場所でも子ども食堂は需要がありますでしょうか?
奥田 : 自分が「はろはろ」の責任者として、地域の方々にご挨拶にまわると、そこで地域の歴史をお聞きすることがありました。
かつてはこの辺り一帯は水田だったそうです。それが1970年の大阪万国博覧会のときに、急ピッチで開発が進められたそうです。大阪万博は私もよく覚えていますが、当時では史上最大規模でした。それまで入り組んでいた水田の区画整理をする必要があり、それを通じて地元の方たちは自分たちの目指す街のあり方をずいぶんと考えはじめられたそうです。
いま、地域とのつながりが薄れるにつれ、自治会への加入者が減り、メンバーも高齢化し、わずかな人で回しているところも少なくありません。
こういった地域の歴史をお聞きすると、私たちの子ども食堂を交流のきっかけに、地域のコミュニティづくりの拠点となれれば、と思いました。
──それで、この地域に子ども食堂を設ける意味が出てくるのですね。
奥田 : 新しい子ども食堂「はろはろワイキ」を開催する場所である高齢者優良賃貸物件「ロハス江坂」のオーナー様も、私たちの想いに共感していただき、場所をご提供いただけることになりました。
これまで公民館の一時使用や、近所の人たちを集めたヨガ教室で利用があったようですが、これから子ども食堂を開くことで、地域や通りすがりの人たちとの触れ合いが生まれたり、1階の利用が活性化することで、マンションの入居者の皆さんにも喜んでいただき、地域とのつながりも深くなることを期待していただいております。
4.いま、求められている子どもの居場所
文部科学省の全国調査では、2021年度に30日以上登校せず、「不登校」とされた小中学生は前年度から24.9%増え、過去最多の24万4940人だったことが明らかにされています 。いじめの認知件数も過去最多を更新し、同省では長引くコロナ禍に起因する心身の不調やストレスが影響していると分析しています。
近藤 : 私たちが運営してきた子ども食堂はこの1年間を経て、着実に子どもたちが学校でも家でもない、『第3の居場所』として子どもたちの受け皿となって定着したように感じています。全国的に「不登校」が増えている中にあって、この子ども食堂を増やす意味はますます大きくなっていると感じています。
「将来に向けて誇れる街にしたい」というこの地域の思いを深く心に刻み、地域の人たちとともに子どもたちの成長、地域交流の拡大に向けた取り組みを育んでいきたいと思います。
(息抜きカフェで行っている園芸ワークショップ)
──それでも、介護の運営会社が子ども食堂に関わることに疑問を持つ人も中にはいると思いますが。
近藤 : 実際に子ども食堂に協力してもらっているイートハピネス(高齢者向け給食事業)のスタッフからは、「子どもたちの笑顔に癒されます。毎回食事やイベントの工夫を考えるのも楽しみです。高齢の利用者に合わせて食事を提供するのが私たちの仕事ですから、普段とは違った子どもたちの目線に合わせてそれらを考えることも、私にとって良い刺激になっているように思います」といった声をいただいています。
このように、私たちの仕事に決して関係なくはないのです。
(給食会社スタッフによる調理実習イベント)
それに、そもそも高齢者にとっても、特にコロナのまん延があってから外出の機会が減り、それが閉じこもりを助長し、フレイル(虚弱)の進行が進んでいます。それを改善するための活動の機会をつくっていかねばなりません。
(イベント時にマンション入居者も参加し、社会参加や地域との交流を図る)
子ども食堂は高齢者にも関わり易く、多世代との交流も築きやすい機会を得ることにつながります。そして、生きる意欲を持ち続けてもらえれば、私たちライフケア・ビジョンの目指す「介護を通じて幸せをつなぐ」ことにつながると信じています
──近藤さん、藤井さん、奥田さん、お話ありがとうございました。
(聞き手:株式会社ライフケア・ビジョン 高木)
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