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人の数だけ、物語がある

影を落とす水産業、ライバルが手を組んで商品を共同開発

著者: 気仙沼水産資源活用研究会


敬遠されがちな海の生き物「ホヤ」を使った「ホヤドレッシング」を宮城県気仙沼市の小・中学生に食べてもらおうと、ある団体が12月1日から31日まで、クラウドファンディング(以下、CF)に挑戦している。

 


「ホヤの魅力を知ってほしい」「気仙沼をもっと好きになってほしい」との思いで、ホヤ嫌いでも食べやすく開発された。海からの恩恵を受け、経済が回る気仙沼。このCFで見据える先には、影を落としつつある気仙沼の水産業を「もう一度盛り上げたい」という思いがある。

 


CFを始めたのは、市内の水産資源を生かした加工品を開発している、気仙沼水産資源活用研究会「kesemo(以下、ケセモ)」。市内を中心とした21社の知恵を結集し、商品開発に取り組んでいる。



各社の強み持ち寄り商品開発。ある一声に経営者が動いた 


きっかけは2012年。震災後のまちづくり人材を育てる東北未来創造イニシアティブの「経営未来塾」が開設され、塾生たちが自社の事業構想を練り直しながら、気仙沼の“これから”を考えた。

 


「水産資源をこれまでにない形で生かしていこう」。13年10月12日、最後の発表会で、塾生だった1人、横田屋本店の代表・猪狩儀一さん(当時53)の声が会場に響いた。

 


震災直後、人口の流出や高齢化などが問題視されていた。基幹産業である水産業の先細りは、想像に難くなかった。地域経済全体の復興に拍車がかかり始めていた矢先だった。

 


行動は早かった。市からの後押しもあり、同年11月、猪狩さんの声に賛同した36の市内水産加工会社が手を取り合った。もともとライバル同士の事業者だったが、各社が知識を持ち寄ることで、個社ではつくれない商品開発に動き出した。

 


最初に開発したのは、気仙沼産フカヒレのコラーゲンでつくった化粧水やジェル。話題性もあり、市内外から注文が舞い込んだ。そこから、サメを原料にしたドッグフード、ワカメの食感が楽しめるドレッシングなど、業者間の垣根を越えた、16商品を開発してきた。

 


世界的な賞を獲得するも、こだわりがネックに


ホヤエキスを配合した「海かおるホイスターソース」もその一つ。世界の食品・飲料品の味を審査する「International Taste Institute (国際味覚審査機構) 」で、19、20年と2年連続で優秀味覚賞を受賞した。また、団体としては、2021年の農林水産省の「ディスカバー農山漁村の宝」で、地域の活性化に貢献しているとして、全国から優良事例に選ばれた。気仙沼の水産資源の新たな活用で、市場に左右されない販路を生み出そうとしている。

 


その一方で、課題にぶつかった。質の良いものを届けていこうとすると、原価が高くなる。また、製造を委託するとロット数が多くなり、さばききれない。心を込めて作ってきても、販売停止になった商品もあり、会員は頭を抱えていた。

 


 

うまみでホヤの魅力を引き出す「ホヤドレッシング」、起爆剤に


そんな時に開発したのが、三陸特産の「ホヤ」のエキスを加えた「ホヤドレッシング」。好き嫌いが分かれるホヤ独特の風味を抑え、うまみを引き出した。安心して食べてもらえるよう、原料は全て自然由来にこだわる。ケセモ商品の火付け役的存在として期待される。



完成には約2年の月日を費やした。中心となって作ったのは、会員で「いちからコーポレーション」代表の藤代俊久さん(69)。普段は、手作りの米麹、気仙沼産の魚介を使って発酵食品などを作っている。




震災時は、市内の水産加工会社で働いていた。海にほど近かった会社は津波で被災。ガレキの山を見ながら、生きていることを噛み締めた。「経験したことのないことにチャレンジしよう」。そう決意し、60歳の節目で独立した。「目標、世の中に認められるまで」と紙に書いて、工房の壁に貼りつけた。



ある日、ケセモが作った「海かおるホイスターソース」を食べ、ホヤのうまみにほれ込んだ。苦みと甘みが同居する独特の味に、ホヤ嫌いは多い。だが、ホヤエキスは癖なく、うまみがあとをひくおいしさだ。「これならホヤ嫌いの人も含め、多くの人を感動させられる」と思い立った。



ホヤの魅力を全国発信。気仙沼土産の定番商品に 



配合しているホヤエキスは、会員の石渡商店が手がけている。肝となるホヤエキスの量は、会員5社とともに何度も味見したり、市民500人ほどにアンケートを呼びかけたりして、絶妙な配合を探し当てた。調味料開発に特化した会員からは、万が一、食品事故が起きた際の対応を教わった。



口コミ頼りの営業スタイルも変えた。疎かったSNSでの情報発信に、若者から教わりながら挑戦する。海外の取引先にも、ホヤドレッシングの魅力を伝えようと思っている。



藤代さんは言う。「気仙沼、ホヤの魅力を全国に発信していきたい」。狙うは、気仙沼の定番土産だ。



CFサイトはCAMPFIRE(https://camp-fire.jp/projects/view/637130 )で、目標金額は50万円。支援額は8段階あり、返礼品は1月以降に送る。







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