「謎解きゲーム」に超人気「サヴァ缶」… 元外交官が福島・浪江町に移り住み“ワクワク”を生み出し続けるそのワケは
高橋大就(たかはし・だいじゅ)さん
1975年生まれ。1999年、外務省に入省し日米安全保障・通商問題を担当。2008年、日本経済を立て直せるプレイヤーになりたいと外資系コンサル会社マッキンゼー・アンド・カンパニーに転職。2011年、東日本大震災発災を受けて休職、東北支援のNPOに参画。2021年4月から福島県浪江町に移住。現在は、一般社団法人「東の食の会」専務理事、「NoMAラボ」代表などを務め、まちづくりに取り組んでいる。
“謎解きアドベンチャー”を選んだワケ
先日リリースされた、福島県浪江町を舞台にした謎解きアドベンチャーゲーム『時の波へ』。浪江町は、東日本大震災による福島第一原発事故で全域に避難指示が出され、その後一部で解除されて復興が進んでいる。このゲームは、謎解きを楽しみながら町の歴史や思い出を学べる作りになっている。
仕掛け人は、2021年から浪江に移り住み、斬新なアイデアを次々と打ち出しながらまちづくりに取り組む高橋さん。ゲーム制作の狙いを伺うと…
「震災のとき浪江町長だった馬場有(たもつ)さんがずっとおっしゃっていたのが【まちのこし】という言葉。まちを作る前に、被災と避難指示でまち自体がなくなってしまうかもしれない状況だから、まずはまちを残さないと、というお考えです。外から来た者としてはそれを大事にしたいと思いました」
浪江町では未だ地元に戻ってこられない人も多く、発災から12年が経とうとするいま、町のことを詳しく知らない子どもたちが増えてきている。
「ゲームを通して、浪江町の記憶を追体験してもらえたらと思います」
観光や移住などで浪江町に新たにやってくる人も気軽に町の歴史に親しめるこのゲームだが、最後に意外な展開が待っている。
「楽しいことしか広まらない」
みなさんがプレーする楽しみのためここでは明かせないが、『時の波へ』には、私たち取材チームが最初説明を聞いたとき涙が出そうになった“ある仕掛け”が組み込まれている。気軽に遊んだあとに残るメッセージは、かなり素敵な内容だ。
こうしたメッセージを、ストレートに表現するのではなく、エンターテインメント作品に込めたワケは。
「地域には厳しい現実があります。でもそれを眉間にシワを寄せて伝えても、限定的にしか広まらないんです。復興に10何年携わってきて確信に近いことですが、楽しいことしか広まらないんです」
楽しいことしか広まらない―― もっと詳しく知りたいと質問を重ねていくと、高橋さんから出てきた言葉は、
「圧倒的にポジティブな価値を創り出すことが必要なんです」
そのきっかけは、震災直後にあったという。
被災生産者は「超カッコよかった」
2011年3月11日、東日本大震災。翌12日、福島第一原発、水素爆発。当時、マッキンゼーで働いていた高橋さんは、自身の人生に二度とこれだけの危機は起きないと感じ、地域の復興に人生をかけると決意。会社を休職し、一般社団法人『東の食の会』の立ち上げに参画した。
東北の食産業が壊滅の危機に瀕し、風評被害を含め未来への見通しも立たない中、チームが掲げたミッションは『生産者をヒーローにする』だった。
「実際にお会いした農家・漁師のみなさんは、めちゃくちゃカッコよかった。彼らは“施しの対象”ではありませんでした。みんなで支援してあげよう、は全然違うと思った。どれだけこの方たちを輝かせられるか、という考えになりました」
「この地域のみなさんは、歴史上一番ともいえる大変な状況に置かれてきました。だから、ここで農業や水産業をやっている方は一番チャレンジしていると言えます。一番努力しているし、一番研究もしているし、思いも持っているし、手間暇もかけている。ということは、一番美味しいものを作っていると思ったんです」
生産や販売の苦労は半端ではない… でも、これだけ美味しいものを、その苦労をにじませたり押し出したりして展開するのは違う。そう考えた高橋さんたちが選んだ方法が、
「復興、震災、買って応援などは前面に出さず、とにかく、おいしさとダジャレで勝負しました」。
メガヒット商品誕生の瞬間だった。
累計1000万缶超「サヴァ缶」をプロデュース
目をひくショッキングイエローなどカラフルなパッケージに、元気ですか?を意味するフランス語「Ça va(サヴァ)?」の文字。見ているだけで楽しくなるこの商品は、国産サバを使用した洋風缶詰『サヴァ缶』だ。
震災翌年の2012年、衰退した三陸からオリジナルブランドを発信しようと、高橋さんのチームと岩手県釜石市に工場をもつ地元企業とのコラボで誕生すると、売れに売れて、現在累計販売は1000万缶を超える大ヒット商品となっている。
「とにかくポジティブさを前面に出しました。漁師のカッコよさ、サバの美味しさが伝わるよう、クリエイティブで勝負しました」
本来持っている魅力を『圧倒的な価値』に昇華させることでたくさんの方に届くようにする… 高橋さんのこの考えは、浪江町の『記憶』と『未来』をアートにして街中に飾っていくプロジェクトや、ゲームの要素を取り入れた草むしり大会の開催など、移り住んだ浪江町で日々取り組む他のあらゆる活動でも生かされている。
「みんなが当事者」
浪江町の魅力は、自然が美しい、ご飯が本当に美味しい、特に魚は最高…と話す高橋さんだったが、一番は「人。気持ちのいい人が多いです」と挙げた。
震災後、全町に避難指示が出され、一度“ゼロになったまち”。町民はちりぢりとなり、たどり着いた避難先で“移住者”としての生活を余儀なくされた。そうした苦労を経て、一部で制限が解除された今、町に戻ってくる方は、みなさん、まちづくりを自分たちでやっていこうという気持ちが強いのだという。
「この町は、住民みなさんに、まちづくりの“当事者”としての意識があるんです。こんなコミュニティー、他にはないと思います」
冒頭で紹介した謎解きアドベンチャーでも、この部分は展開の軸になっている。
「自分も何かをすることで、人を笑顔にすることができる。みんなで力を合わせて、浪江を居心地のいい町にしていきたいですね」
地元の“当事者”たちと一緒に、楽しくポジティブな発想と発信で、高橋さんは浪江町から『この国一番のワクワク』を生み出し続ける。
本取材について
(公財)福島イノベーション・コースト構想推進機構 ふくしま12市町村移住⽀援センターは、各メディアのみなさまに福島12市町村(※)の魅⼒を取り上げて頂くべく、現地で活躍されている方にお話しを伺い、その内容をご紹介させて頂いております。
今後も、12市町村に移住してチャレンジしている方や著名⼈など、幅広いジャンルの人物が登場する予定です。
記事でお話しを伺った方は取材のご紹介が可能ですので、ぜひお問い合わせください。
復興の最前線で挑戦を続ける方や、大自然の中で自分らしく生活する方たちの日常を通して、「福島12市町村で暮らす魅⼒」に触れて頂けると思います。よろしくお願いいたします。
※福島12市町村:⽥村市、南相⾺市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、⼤熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村
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