手掛けた建物の持続貢献時間は500年。“つづく”をつくる、空間デザイン会社のこれまでとこれから
建物の持続貢献時間500年。
持続貢献時間とは、株式会社ワサビが創業からこれまで、空間デザインという形で建物の存続に貢献した時間を可視化するためにつくられたオリジナルワード。500年という数字は、ワサビが空間デザインとして手を加えた時から現在までの建物の存続年数の総計だという。
ワサビがこれまでに空間デザインを手掛けた建物は、江戸時代に建てられた歴史的建造物や地域のランドマークである城といった希少性の高いものまで幅広い。今回はワサビの代表取締役・笹岡さんに、持続貢献時間という言葉をつくったきっかけや創業ストーリー、これまでに携わったプロジェクトについてお話を聞いた。
株式会社ワサビの代表取締役・笹岡さん
“持続可能性”を可視化する。コロナ禍で浮かんだ一つのアイデア
持続貢献時間というオリジナルワード。何がきっかけで生まれたのでしょうか。
「最近は日本でもサステナビリティ(=持続可能性)という言葉や概念が定着しはじめていますよね。当社においては創業当初から空間デザインという切り口で様々な建物のリノベーション・改修に携わり、建物の持続可能性という課題に挑み続けてきました。そんな中、2020年、コロナ禍が始まったことで多くのプロジェクトが中止や保留になりました。売上の心配はあったものの、せっかく自分の時間ができたんだし、ということで過去の棚卸しをすることにしたんです。棚卸をしている時に、ふと、世の中の人たちは持続可能性をどうやって可視化しているのか疑問に思うようになりました。地球の自然環境や人々の暮らしを見据えて社会全体がそれらの活動に力を入れることはとても素敵なことですが、実際に活動のプロセスや結果を明確に“可視化”できている事例はそう多くはないなと気付きました。そこで、当社が取り組んできた空間デザインという事業がいかに建物の持続可能性に貢献できたのかを“数字”で可視化し、事業価値を確かめてみることにしたんです。
色々と頭をひねって思いついたのが“建物の持続貢献時間”。当社が空間デザインという形でいかに建物の持続可能性に貢献できたかを可視化する言葉、ツールです。計算方法はシンプルで、対象の建物は現在も残り続けているものに限定し、空間デザインを加えた時から現在に至るまでの建物の存続年数を総計するというやり方です。当社の貢献性を可視化することが目的なので、携わるまでの年数は加えていません。
こうやって数字で可視化してみると、壊されていたかもしれない建物の500年分の存続に事業という形で貢献できたんだと意義を感じることができました。それに、この数字は僕一人だけでなくプロジェクトに関わった社員、お客様、工事会社の方々と共につくり上げた証でもあるので、感慨深くもなりました。
ただ、500年も存続させて偉い!と自負するというよりは、この言葉や数字を軸にサステナビリティを新しい角度で見つめ直してみたり、改めて大事にしていこうといったマインドセットとして活用していけたらと思っています。」
”侘び寂び”を感じるまで長くつづく建物をつくる決意
創業当初から新築物件の空間デザインは受けなかったという笹岡さん。そこには新社会人での経験や一つの疑問が軸になっていると言います。
「ワサビは2007年、僕が27歳の時に創業しました。それまでは大阪のデザイン会社に在籍し、飲食店やブティック、各種専門店、住宅などの設計・監理を担当。そこでの仕事を通じて多くの店舗がもの凄いスピードで入れ替わる様子を目の当たりにしました。段々とその状況に疑問を抱きはじめ、せっかくつくった店舗が短期間でなくなっていくのは無駄ではないか、独立するなら侘び寂びを感じるまで長くつづく空間づくりに携わりたいと思い、退職後、1年のフリーランスを経てワサビを創業しました。そういう思いから始まった会社なので、建物が長く存続するための“空間設計”と、事業が存続しやすくなるための“空間の活用法の提案”という2つの視点を大切にした空間デザインをはじめとする事業を行っています。ワサビという社名は創業当時の決意が由来になっています。」
個人店舗から歴史的建造物を手掛けるまで
固い決意から創業したワサビ。はじめは個人店舗のプロジェクトがメインだったようですが、現在では有形文化財や築100年超えの古民家といった歴史的建造物など、手掛ける幅も広がっていると言います。これまでどのようなプロジェクトを手掛けてきたのか聞いてみました。
「創業第一号のお客さまは、僕の地元である広島で美容室を構えることになった弟です。古い建物の改修を頼まれて、弟と一緒に壁を塗り替えたり、思い出深いプロジェクトでした。その次は知り合いの税理士さんのオフィスや大阪にある飲食店の改修など、個人店舗が中心でしたね。」
弟さんと一緒に壁を塗り替えたという美容室の外観
「大きな転機となったのは、2008年、事業再生を手掛けていたバリューマネジメント株式会社の社長との出会いです。出会って最初に相談を受けたのは、京都の鴨川沿いに建つ、大きな木造建築をつかった結婚式場とレストランのプロジェクトでした。100年を超える歴史があり、4階建てというオオバコの改修は人生初。チャレンジングではありましたが、やるからには本気でやろうと、まずはデザインの拠り所になるコンセプトを組み立て、パースの代わりに誰が見ても分かりやすいコンセプトブックを作りました。コンセプトを『Travel(旅)』とし、日常から抜け出して休息し、自分を解放する。様々な知見を得ることができる。そんな旅先にいるような体験を提供できる空間づくりを提案しました。」
パースの代わりに作成したというコンセプトブック
「コンセプトを元にした改修提案におもしろいねと言っていただき、完成したのが今の『FUNATSURU KYOTO KAMOGAWARESORT』です。2008年オープンから現在まで、多くの方の記憶に残る空間として大切にされ続けている建物の一つになっています。」
ワサビが初めてオオバコの歴史的建造物のリノベーションに携わった「FUNATSURU KYOTO KAMOGAWA RESORT」
「それを機にバリューマネジメントさんとご一緒するプロジェクトは数多くあり、安藤忠雄建築の『ザ・ヒルサイド神戸』や京都の伝統的建造物保存地区にある2000平米の敷地に佇む邸宅『AKAGANE RESORT』、古民家を活用した分散型ホテル『NIPPONIA』(一部のエリアを除く)など多種多様です。歴史のある建物は建物構造や順守すべき法令が異なるので、プロジェクト毎にあらゆるリサーチをし、建物構造に合った空間設計や提案を行っています。なかなか大変な作業ですが、課題解決が好きなので難解なほど燃えますね。(笑)」
京都東山エリアに佇む「AKAGANE RESORT」
兵庫県篠山市の分散型ホテル「篠山城下町ホテル NIPPONIA」の客室の一例
最近話題になっている城泊(キャッスルステイ)にも携わられているとのこと。具体的にどのようなことを手掛けているのかも聞いてみました。
「愛媛県大洲市にある大洲城を活用した城泊『大洲キャッスルステイ』には企画段階から携わっています。城内と敷地における空間活用の基本計画から構想の策定、ハードルとなる関連法規の整理や協議、仮設空間の設計監理、宿泊客が使用する備品の選定まで対応しました。
また、城泊だけでなく大洲城下町を活用した分散型ホテルもあるので、そのプロジェクトではこれまでの知見・経験を活かしてつくった『古民家再生ホテルの設計マニュアル』を現地の建築士さんに提供し、監修という形で関わらせていただいてます。マニュアル導入によって関係者それぞれの大事にすべきポイントが明確になり、志を持った建築士さんとのネットワークがつくられていきました。そのネットワークを使って情報や知見交換ができるようになったので、マニュアル導入が関係者全員にとって価値のある効果を生んでくれています。」
全国から注目を集めている「大洲キャッスルステイ」
国内外のデザインアワードの受賞
最近では国内外のアワードにも積極的に参加していると笹岡さんは言います。
「関係者全員でつくったプロジェクトが外部でどう評価されるのかということも検証してみるべきだという考えで、最近ではアワードにもアンテナを張っています。それで、2021年から2022年にかけて2つのプロジェクトが受賞しました。
1つはバリューマネジメントさんとのプロジェクト『NIPPONIA HOTEL 函館 港町』で、世界3大デザインアワード『iF DESIGN AWARD 2022』を受賞しました。これは北海道函館市の観光の中心地にありながらも長年放置され、経年劣化などのリスクから解体される案もあったレンガ造倉庫の修繕・改修にチャレンジしたプロジェクトです。
① レンガ造倉庫をそのまま利活用し、まちに溶け込むブティックホテルへの再生
②レンガ造倉庫らしさや機能性を追求した空間デザイン
③環境とまちづくりの持続可能性の追求
という3つの点から評価され受賞に至りました。」
「NIPPONIA HOTEL 函館 港町」のダイニング
もう一つは城崎温泉 錦水旅館の客室を改修したプロジェクトが、日本を代表するデザインアワード『日本空間デザイン賞2022』で入賞しました。このプロジェクトは子供連れがゆったり過ごせる客室が旅館内にないという課題からスタート。子供の心を掴むアーティストと旅館とのコラボが面白いのではないかということで、クライアントとお付き合いのあった、絵本などの創作活動をおこなうアートユニット・tupera tuperaさんとコラボレーションし、絵本の世界に泊まれる空間をつくりあげました。」
日本空間デザイン賞を受賞した客室「白群」
「どちらも歴史ある建物が改修というアプローチによって後世に残り続ける良い事例であり、企画段階から関係者とあれやこれやとアイデアを出し合い、プロセスを楽しみながら完成させたプロジェクトです。外部評価も持続貢献時間のような活動評価指標になるので、受賞したときは達成感がありましたね。」
“つづく”をつくるから、“つくる人を応援する”、新たな挑戦へ
一つ一つのプロジェクトに丁寧に向き合う姿が印象的な笹岡さんですが、建物の“つづく”をつくるから、今後は新しいことに挑戦してみたいと言います。最後にこれからについてお話を聞きました。
「棚卸をきっかけにできた建物の持続貢献時間。500年という数字が見えた今、この数字を増やすことがこれからの目標なのか自問自答してみたところ、それは少し違いました。これまでは建物の“つづく”に集中してきましたが、もっと広い視野で捉えて、“人”にフォーカスを当てた事業もやってみたいなと。これまでつくる側としてたくさんの課題に直面してきましたが、同時に解決策もたくさん積み上げてきました。なので、これからは自分と同じように“つくる人”が抱える人材不足問題の解消や、集中したい作業にリソースを多く充てられるような環境づくりのためのサービスを提供していきたいと考えています。とにかく、“つくる人を応援する”ことを目的にした新しい挑戦をしていきたいですね。そうやってまた、持続貢献時間のように、つくる人の“つづく”に貢献していけたらいいなと、そんな風に思っています。今後の新しい発表を楽しみにお待ちください!」
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