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能登の素材を活用し、クラフトジンから魅力を伝えたい。IWSC金賞を受賞した「のとジン」開発の裏側。

著者: NTG

能登の里山里海材料を活用したクラフトジン「のとジン」は2023年3月27日、世界三大酒類コンテストのひとつである「インターナショナル ワイン&スピリッツ コンペティション(IWSC)」にて、スピリッツ部門金賞を受賞しました。


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「のとジン」は、ユズや藻塩など能登の素材を使い、甘くさわやかな香りとスッキリした味わいのクラフトジンです。本商品を手掛けるのは、NTGの代表である松田行正。自ら素材の調達から発送作業、営業活動までを一人で行っています。


自らジンブランドを作ると決意し、こだわりを実現するまでには様々な挑戦がありました。「のとジン」が今回の受賞をされるまでのストーリーについて、お伝えします。


憧れから始まった、ジンづくりの決意。50歳で一念発起。

松田がジンと出会ったのは、2017年。初めてクラフトジンという存在を知り、魅力に惹き込まれた。そもそも松田がお酒に興味を持ったのは、20歳の頃、札幌のバーでアルバイトをしていた時だった。初めて飲んだ仕事終わりのハイボールの味が忘れられず、ずっとウィスキー派だったが、20代の頃アロマセラピーに関心を持ち、独学で学び一時期英国への留学も考えていた松田にとって、植物=ボタニカルを活用した自由なお酒であるクラフト・ジンの世界は魅力以外の何ものでもなかった。そして、調べてみると世界の様々な地域で小規模で運営されているクラフト・ジンの蒸留所の存在を知り、とても魅力的に思えた。もしかしたら、自分にも可能性があるかもしれない。そう思えるくらいの距離感だった。


その1年後、2018年に「ジンフェスティバル東京」を訪れた際に、多くの国内外のブランドを知ると共に、自分もいつかクラフト・ジンを手がけてみたいと強く思ったという。その背景には、自身が以前に働いていた会社のアメリカ人の同僚が2011年蒸留所を始めるために離職したということがあった。彼の選択に強い憧れを感じていた。その時、既におぼろげながらも蒸留所での仕事への憧れを抱いていたのだ。



そこから、翌年に再度ジンフェスティバル東京を訪れた際、様々なブランドをテイスティングする中で、自分の好みの感覚とブランドへの評価が一致していたことに自信を持つ。蒸留など遠い憧れと思っていた自分にも可能性があることを知り、どうしても自分のブランドを作りたいという衝動に駆られる。


しかし、当時の松田は一般的な50歳を目前にしたサラリーマン。現実がそう簡単には許してくれない環境にあった。様々な葛藤はあったが、一方で長年の持病を抱えており、人生それほど長くはない、と思っていた松田にとって、50歳という節目が最後のチャンスに思えた。後悔して生きるより、失敗しても挑戦したことの満足感の方が、自分の人生にはふさわしい。祖母が実家でお好み焼き屋を始めたのも50歳を過ぎてから。「後悔はなかった」という言葉を幼い頃から聞いていた松田には、今しかないと思えた。そこで、2020年に「自分の人生をかけてジンのブランドを作ろう」と決意する。

アイディアのきっかけは、ラジオで知った能登の素材。

ジンのブランドを作ろうと決意し、アイディアを探す中で、偶然の出会いが訪れる。2020年当時、社会がコロナ禍だったこともあり、室内を除菌・滅菌をするルームスプレーとして、ノトヒバの香りが注目されていることを、たまたま聴いていたラジオ番組の中で知った。


元々ヒノキの香りはジンに採用したいと考えていたことから興味を持ち、実際に商品を取り寄せ確認してみたところ、強い個性的な香りに可能性を感じる。


そこから石川県の奥能登地域の市町の役場に連絡をして、手がかりを相談してみた。すると、珠洲市の移住担当の方が、松田の構想に興味を持ち、珠洲市にあるSDGsラボと金沢大学里山里海SDGsマイスタープログラムを松田に紹介してくれた。


中でも金沢大学の担当教官が構想を大変気に入ってくれ、マイスタープログラムへの参加を提案してくれた。当時はコロナ禍ということもあり、リモートで参加できることを告げられ、中途で8月から参加することになった。プログラムに参加し、能登の里山里海について学ぶうちに、能登には興味深い植物があり、社会課題もあることを知った。寒流と暖流が沖で交わる能登半島には昔から植物の多様性があり、少ないながらも様々な果実が取れる。そして何より、日本の原風景とも言える昭和の景色を残しながら、人々は日々の生活を大切にして暮らしている。過疎高齢化が進行する中で、日本の財産であるこの能登の里山里海の営みを後世にも残していくことができたらと強く思った。


結果、香りを楽しむジンで、能登をアピールできないかと現在のもととなるアイディアが固まった。元々自分の中にあった思いと、学びを通じて得た課題解決とがボトルの中で一つになった気がした。命題が決まってからは、具体的な模索を始める。


その後、9月に、元々予定していたイギリス・ウェールズの蒸留所を回る旅に出発。以前から、メールで相談していた蒸留所2箇所と、別の蒸留所1箇所を見学した。その際、元々OEMでのジン製造に力を入れていたIn The Welsh Wind蒸留所を訪問し、「OEMで能登のジンを作りたい」という話を、能登の地図、観光パンフレット、サンプルの香りなどを持参して熱く語ったところ、「面白そうだ」という反応をもらった。



特に「塩を使った蒸留をしたい」ということについては、「塩を使って沸点をコントロールするのは面白い、すでにいくつかのブランドで塩を使った実績もあるので、問題ない」と受け入れてもらえた。この点が何よりも大きかったのだ。蒸留器は銅製のものが多いため、どうしても塩を使ってしまうと大切な蒸留器を傷めてしまう。相談した国内のほとんどの蒸留所では塩を使うことは難しいと返答をもらい、プロジェクト化に困難を極めていた。


詳しい理由を尋ねてみると、三方を海に囲まれたウェールズでは海は身近な存在で、海をモチーフにしたブランドも多いという。遠浅の砂浜、荒々しい海岸線。確かにウェールズの景色は能登の景色に似たところがたくさんあった。里山里海を大切にしているウェールズだからこそ、能登との共通性を見いだすのはとても簡単で、ヨーロッパでは珍しく海藻もよく食べることも関係していたのだ。


こだわりの素材を活用し、現地と協力をしながら「のとジン」が完成

帰国後、マイスタープログラムの中で、試作品を作ることを決意。In TheWelsh Wind蒸留所のOEMサービスに申し込んだ。能登の植物(ボタニカル)を選択するにあたり、マイスタープログラムの講師やOBの方々に情報をもらい、地元の方々にお話を伺いながら、材料の選定をしていった。


使われない柚子の実や榧の実、間伐材で採取される月桂樹や黒文字、全く利用されなくなったスダジイの実、廃材のノトヒバ、間伐材で製塩される藻塩、これらの材料でクラフト・ジンを作ることを決める。アップサイクル型の持続可能性の高いコンセプトがSDGsに力を入れている奥能登地域にマッチした。


その後、自分の中で選択した材料を梱包し、ウェールズの蒸留所にサンプルを送った。すると、スダジイの実とノトヒバは選定から外れることになる。スダジイの実は、須須神社の境内にたくさん落ちる実で、以前は煎って子供のおやつにされたりもした。最近は子供が少なくなったことやおやつを作る手間もあり、全く利用されないまま放置されるが、放置しておくとイノシシが食べに寄ってくるので、掃除をして廃棄処理をしなければならなくなっている。


何か製品の材料として使うことができれば、と期待していたが残念ながら使用されなかった。また、当初から期待していたノトヒバは、香りが強すぎて他のボタニカルとの調整が難しい、ということで選定から漏れてしまった。いずれもとても残念な選択だったが、結果的には、材料を輸出して蒸留を行うので、木材に該当してしまうノトヒバやスダジイの実は、輸出の際に加熱消毒をしなければならないことがわかっていたので、この工程が省けることになり、輸出の手間が大幅に削減されたことが幸いだった。


こうして、現在ののとジンのレシピが完成する。柚子は主に、奥能登地域で実をつけながら採取されない実を集めて、皮の部分だけ乾燥させて利用。榧は、奥能登地域に少量みられるチャボガヤという種類の榧に、高知県で栽培されている榧の実を合わせて、乾燥させて利用。森林保護の間伐材としてすでにエッセンシャルオイルなどでの実績のある黒文字に、同じ間伐材でも香りが爽やかな月桂樹を採用した。


当初予定していた塩については、珠洲の塩ではなく、能登島の藻塩を活用。リモートワークの際に利用させていただいたゲストハウスのオーナーから、間伐材を活用して海水から製塩する能登島の塩を紹介され、のとジンのコンセプトにぴったりフィットするため、味覚への貢献度も期待して海藻ホンダワラを活用した藻塩を採択。



英国で合わせるボタニカルは、ジュニパーベリー、カルダモンシード、コリアンダーシード、メドゥスィートの4種類。日本への輸出に影響のないハーブ系の材料を使用し、香りと味を整えた。


レシピ作成の当初は、香りのバランスなども考えながら材料を検討していったが、能登で採れる材料で、かつ、採用されたものをみてみると、どれも特徴的な爽やかさを香らせる材料ばかりになった。そのため、非常に爽やかなアロマが出来上がった。

こだわりを込めて作ったお酒が、各賞を受賞。今後も能登から魅力を伝えていくために。

そうして出来上がったのが、「のとジン」だ。

能登の里山里海材料を、英国ウェールズで蒸留。ベースとなる原酒は、一般的に香りがよく乗るとされる英国製のニュートリ・グレーン・スピリッツを採用。ボタニカルを通常の倍量使用した特別なレシピ。製法も伝統的で最も厳しいロンドン・ドライ製法にこだわった本格的なクラフト・ジンが誕生した。

世界的に大人気であるゆずの香りが、独特の甘さと爽やかさを与え、乾燥させた榧の実から発せられるキャラメルのような甘みと爽やかさ、そして多くの女性を魅了して止まない黒文字の清涼感に、ウッディなタンニンを感じる月桂樹の爽やかさ。そして、その香りをさらに引き立ててくれる藻塩というバランスが、これまでにないレベルの爽快感と美味しさを作り出している。美しい能登の里山や里海にふく風をそっと感じるような香り豊かな逸品だ。



商品が完成し、少しずつ届けていくと、様々な声が届いた。


  • のとジン、さっそくすでに半分くらい飲んでしまいまして、ほんとに美味しくて、森の香りがして、心地よい飲み心地です。都内にいるのに森林浴をしている気分になり、なんだかどこでもドアみたいなお酒ですね。(東京都・能教士・女性)


  • 炭酸水で割っていただきました。能登の恵みがたっぷりの香りの良い美味しいお酒でした。あまりジンは飲んだ事がなかったのですが、こんなに爽やかな味なのかと驚きました。本当に美味しかったです! (大阪府・女性)


さらに、それだけでなはない。こだわって制作を進めたパッケージのデザインも評価されるに至ったのだ。米国DesignRush社主催の2023年3月度月間Best Print Designを受賞。マーケティングやブランド認知の目的を超えて、限られたデザイン要素で視覚的な調和を生み出し、本物の芸術作品に仕立てたラベルや印刷物のデザインを評価する部門で、のとジンのパッケージデザインが月間ベストに選ばれた。


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その後、2023年3月にはインターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンテスト(IWSC)で金賞を受賞した。評価には、『フローラルとハーブの香りから、コリアンダー、シトラス(ゆず)ピール(皮)、キャラメルのような土の香りが広がります。味わいは美しくバランスが良く、生き生きとしていて、素晴らしい深みのあるフレーバーと余韻のスパイスが感じられます。素晴らしい逸品です。』と全体的な香りのバランスの良さを評価された。


「もともとデザインが先行して注目されてきましたので、今回初めて味の方も評価いただくことができ本当にうれしいです。今まで香りを試していただいたり、飲んでいただいた方からは、おいしい、というお声をいただいておりましたが、こうして客観的な評価機関からも正式に認知していただけたことで、これまで勇気を持って試していただいた皆さんにも恩返しができたような思いです。」と、松田は喜びを隠さない。


最後に、松田は今1つの目標を掲げている。それは蒸留所の設立だ。今後もNTGは能登の素材を活用し、地域の課題にも目を向けながら商品開発を行っていく予定だ。





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