インクルーシブデザインの可能性を広げるバッグ【ブラインドサッカーバックパック・5周年記念インタビュー】
■語り手
加藤健人(右)
2007年から2021年まで日本代表として、アジア選手権や世界選手権など15の国際試合に出場。埼玉T.Wings に所属(キャプテン)。小学3年から高校までサッカーを行っていたが、高校3年の頃に遺伝の病気で視覚に障害をもつ。「これから先、何もできないのではないか」と悩んでいた時に、両親がブラインドサッカーを見つけ、2005年からブラインドサッカーを始める。現在はブラインドサッカーを通して様々な経験や人との繋がりで感じたことを伝えるため、子供から大人までブラインドサッカーの体験会や講演などを行っている。
山崎大祐(左)
1980年東京生まれ。慶應義塾大学総合政策学部に在学中、ベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持つ。大学卒業後、ゴールドマンサックス証券でエコノミストを4年間務める。2006年、代表兼デザイナー山口絵理子と共に「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念とする株式会社マザーハウスを立ち上げ、取締役副社長として経営に参画。経営ゼミ「Warm Heart, Cool Head.」を主宰。日本ブラインドサッカー協会外部理事を務める。
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日本ブラインドサッカー協会(以下、JBFA)とマザーハウスのコラボレーションで、2018年に誕生した「ブラインドサッカーバックパック」。視覚に障がいを持つ選手たちにヒアリングを重ねて作られたバッグには、白杖の出し入れがしやすいポケットがあったり、掴みやすいループ状の引手が付いていたりと、様々な工夫がされています。
「選手にとっての使いやすさを突きつめたら、誰にとっても使いやすいバッグになるはず」
そんな想像から始まった商品の発売から5年、今ではたくさんのお客様に受け入れられています。仮定が現実になった背景には、どのような物語があったのでしょうか。商品開発に携わった二人に、今までと未来の物語、そして5周年記念の新しいショルダーバッグにまつわる裏話を聞きました。
(聞き手:広報・佐々木)
2018年、共同開発により誕生した『ブラインド サッカー バックパック』
プロジェクトの始まり
ー2018年の初代バックパック発売から5年が経ちました。あらためて、コラボレーションが始まったきっかけについて教えてください。
(山崎)当時、日本代表だった落合啓士さんとのつながりが始まりでした。初めてブラインドサッカーに触れて、競技としてのすごさと、社会に発信したいモチベーションを同時に感じました。あとは純粋に、徹底的に選手に寄り添ったバッグを開発して、応援したいと思ったんです。それで、「どういうバッグを作ったら良いですか?」というヒアリングを始めました。
2019年からは、日本ブラインドサッカー協会の外部理事も務める山崎大祐
ー加藤選手は、プロジェクトが始動した時どのようなモチベーションだったのでしょうか?
(加藤)初めてのことだったので、「どんなものができるんだろう」というワクワク感が、とてもありました。
仕事が終わってから練習をしていたので、ジャージに合うだけではなく、通勤時の服装にも合うバッグにしたい。土のグラウンドで練習があるので、汚れても大丈夫な素材にしたい。白杖を気軽に出し入れしたい・・・
そういった話をしていく中で、この形になりました。
プロジェクトの立ち上げ当初から携わる加藤健人選手
ー加藤選手は、このバックパックを5年間ずっと使い続けてくださっていますね。
(加藤)ブラインドサッカーの体験授業や学校の講演に行くとき、着替えとかボールを入れて持ち歩いています。
正直このバッグが売れるか、使ってもらえるのかっていうのは不安でした。でも、たくさんの方に届いているというのを聞いて、開発に携わった者として嬉しく思っています。
ーおっしゃっていただいたとおり、今ではマザーハウスのお店に欠かせないプロダクトとなりました。一般のお客様にはどのように受け入れられたのでしょうか。
(山崎)軽いとか、素材が良いとか、背景を知って「だからここにポケットあるんだ」みたいなことに納得してもらったりと、とにかく色々なお客様に届き続けています。
徹底的に機能性にこだわって作られたバックパックは、幅広いお客様に届いている
途上国の可能性をバッグにしていくっていうのが僕らのミッションなんですけど、それとはまったく違う形で作って。マイノリティと言われる人たちの声に応える商品を作ることが、実はたくさんの人たちに届く商品ができるって、頭で想像はしても、実現できるかどうかわからない。「理想論ではそうだけど、本当にそうなるの?」みたいなね。それを5年かけて、結果として見せてくれた商品になりました。
これだけロングセラーになる商品を作れたっていうのは、すごく大きくて。それも、丁寧に障がい者の声を聞いて作ったバッグが、それ以外の人にも届いていく世界って言うのを実現できたっていう点で、途上国を起点としたものと違う意味で、すごく価値のあるバッグだと思います。
視覚障がいとファッションの関係
(山崎)加藤選手には、モデルとしてずっと出てもらっているのですけど、その理由は、当時お話を伺った選手の中で、一番のファッショニスタだったんですよ。正直言うと、視覚障がいの方は目が見えないから、色に対するこだわりがどこまであるんだろう、みたいに思われがちなところもあるかもしれないのですが。
(加藤)視覚に障がいがある人がファッション気にするのかなとか、そこってどうなってんだろうって思っている方は、いるんじゃないかと思いますね。
プロジェクトローンチ時のメインビジュアル(2018年)
(山崎)加藤選手のこだわりは強くて、こういうのが欲しいです、こういうふうに見えたいんです、みたいな話をたくさんしてくださったんですよね。
ーこのあと話題にする新作も、色が決まる前から「ブラックが出たら絶対買います!」とおっしゃっていたのが印象に残っています。加藤選手は、YouTubeなどでファッションのトレンドをチェックされてますよね。
(加藤)はい、ファッション系のYouTubeはよく見ていますよ!今は、身の回りのものに黒が多かったりするんですよ。なので、ブラックが出てくれたって言うのは嬉しいポイントのひとつですね。
新作ショルダーバッグ 開発ストーリー
5周年を記念して作られた新型のショルダーバッグ
(山崎)今回シリーズに新しいバッグが加わるのですが、なにか最初リクエストしてもらったものってあるんですか?
(加藤)最初のバックパックは、練習着とかモノをいっぱい入れられるために作ってもらったので、もう少し小さいバッグというか、ちょっと家族で買い物に行くぐらいの感じで持てるバッグがあったらいいなと思ってました。
(山崎)最初、小さめのバッグって出てきたサンプルを見てどうだったんですか?
(加藤)最初の段階で、正直いいなって思いました!(笑)
(山崎)うちのスタッフなかなか頑張りましたね、それは(笑)
(加藤)これはみんな使うでしょ!って思いました。
(山崎)それはどういうところで?
(加藤)小さいバッグはいっぱい世の中にあるんですけど、なかなかこの白杖ポケットの発想ってないと思います。他にも、障がい者手帳がちょうど入るサイズのポケットだったり、開け閉めしやすいループ状の引手だったり。使いやすいところがたくさんあるなと思ってます。
白杖ポケットには、折りたたみ傘や水筒などの収納が可能
外側からは見えないゴムバンドで、モノが落ちづらい仕組みに
最近では、こういうインクルーシブデザインと言われる、視覚障がいの方が使いやすいものだけど、他の誰でも使いやすいよねっていうのが、今後ますます大事になってくるんじゃないかと思ってます。
掴みやすいループ状の引手は、誰にとっても使いやすい形状
国境をこえたものづくり
ー山崎さんは、バングラデシュの生産現場にも行きました。
(山崎)工場で衝撃だったのが、バッグを作っているスタッフに、「どうしてこういうデザインになっているか知ってる?」って聞いたんですよ。そしたらなんと、白杖を持ってきて、「これが入るものでしょ?」って。現地のみんなで、このバッグを作る意味を共有してくれてたんですよ。
バングラデシュの自社工場で、職人たちと話す山崎
(加藤)そういう所から作ってくれてるって嬉しいですね。ただ作っているだけじゃなくて、わかって作ってくれてるだけでも全然違うなと。
(山崎)すごい嬉しかった。僕も嬉しかったし、作り手にとっても力になるバッグになっている。マイノリティの力が、一般の価値になるんだよっていうのが伝わることも、バングラデシュのみんなにとって新しい価値に触れる機会だから、本当にありがたいなと思っていて。
隔たりのない社会へ
ー加藤選手は今年、個人のオフィシャルホームページ(https://kento-kato-official.spo-sta.com/)を立ち上げられました。様々な活動を通じて実現したいこと、夢があれば教えてください。
(加藤)たまたま障がいを持ったり、ブラインドサッカーの経験で学んだことって、すごく大きいなと思っていて。自分だけではなくて、他の方々にも活かせる部分があるので、いろんな方に伝えていけたらと思っています。
(山崎)知らないだけで、僕らって勝手な思い込みとか、悪い意味じゃないハードルを作ってる部分がある。こういう話題に触れちゃいけなんじゃないかなとか、どうやってケアしていいかわかんないな、とか。実は今日、この会場に来るまでにも、視覚障がいの方が満員電車に乗られてて、僕が窓際に立ってたので位置を変わったりして。
良い距離感みたいなのを前より作れるようになってきたってことなんですけど、それはやっぱり、このプロジェクトがあったからなんです。
こういう機会を持てる人が増えると良いんじゃないかなと思ったときに、加藤さんの役割って大きいですよね。
(加藤)自分は17~18歳の頃に、遺伝性の病気で視力が低下したんですけど、障がいを持つ前、障がいを持つ方々に持ってたイメージって、あんまり良くなかったんですね。正直、なんか近寄りがたいというか、「自分たちとちょっと違うんじゃないか」という感情があったので。
よく最近、多様性という言葉も聞きますけど、ただ同じ場所に存在すれば良いわけじゃないと思うんです。混ざり合ってからが大事というか、その方々に対してどういう風に接していくかっていうのはすごく大事かなと。
そういう意味では、知るきっかけとか、コミュニケーションっていうのはすごく大切になってきますよね。その中で、ブラインドサッカーの体験を通じて感じてもらえることがあると思っています。
(山崎)僕らもこの商品に教えてもらったことがたくさんあります。だからやっぱり続けていきたいし、今回の新作も、お客様に届くことによってみなさんがプレイする環境がもっと良くなってほしいと思うし、混じり合う社会を一緒に作っていけたらいいなって思ってます。これからもよろしくお願いします。
(加藤)よろしくお願いします!
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