ガラスで作る「食べられない和菓子」とは。愛知発・装飾ガラスメーカー「中日ステンドアート」が、装飾ガラスの実験プロジェクトをはじめた理由。
装飾ガラスメーカー「中日ステンドアート」について
中日ステンドアート(以下、当社)は、愛知県岡崎市を拠点とする、「装飾ガラス」の総合企業です。装飾ガラスは、「アートガラス」とも呼ばれ、商業施設やホテル、集合住宅のエントランスなどで生活者の目に触れています。代表的な事例としては、ルイ・ヴィトン銀座並木通店や、帝国ホテル東京 鉄板焼 嘉門(写真左)、シェラトン都ホテル東京(写真右)や国営沖縄記念公園「美ら海水族館」、最近ではジブリパーク「ジブリの大倉庫」があります。
それぞれのリクエストに応じてオリジナル作品を納めた先は、多岐にわたります。そんな当社が、2023年6月より、装飾ガラスの新しい意味や可能性を探すべく、「装飾ガラスデザイン研究所」を発足します。創業より40年、ガラスにまつわるあらゆるニーズに応えてきた当社が、なぜ、今、こうした取り組みを始めるのかをこのストーリーではご紹介していきます。(話し手:中日ステンドアート 常務取締役 栗原大)
アートガラスメーカーとして、生活者向けプロダクトへの挑戦を決心した
当社のこれまでの取り組みでは、設計事務所、インテリアデザイン事務所、ゼネコン、内装屋さんなどが私たちの「お客さん」でしたが、コロナ禍などの商環境の変化も受ける中で、以前から温めていた「生活者の方へ向けたプロダクト開発」というアイディアが再浮上しました。これまでもアートピースを作った際に、「これは一般向けにも販売できるかもしれない」という事例はありましたが、今、それらを振り返ってみると、すこし中途半端だったようにも思えます。なぜなら、これだけ世の中にたくさんのものがある中で、「筋の通ったもの」やブランドとして「ストーリーがあるもの」、開発からビジュアルまで「一貫した想いがあるもの」でないと、生活者には届かないと思うからです。
そこで、ストーリーのあるブランド創りを得意とする株式会社スマイルズをプロジェクトパートナーに迎えて、会社をあげた新プロジェクトとして、2021年の夏、プロジェクトチームが立ち上がりました。
「ガラスで、何作る?」会社を挙げて考えた、1,000個のアイディア
プロジェクトの初期段階では、まずシンプルに「ガラスで、何を作ろう?」というところから始まりました。2021年10月に、スマイルズチームとの合同ワークショップを開催。社内公募で参加者を募集し、部署や年齢、役職も様々なメンバーが参加しました。営業はもちろん、制作や開発、社長まで。お題は「ガラスで、何作る?」とラフなもので、当社社員もアイディアを多数持ち寄りました。あまりの盛り上がりに当初の予定時間を大幅にオーバーし、結局丸一日、ワークショップを行いました。
でてきたアイディアは1,000個にも及び、それぞれにキーワードをつけ、この日はそこから200案に絞るところまでを行いました。
この日のことを、「この会社には、心底ものづくりが好きな人間が集まっている。だから原点に返って、ガラスでやってみたいことをそれぞれが伝えあう姿は、実にうちらしい光景だったし、大事なことを思い出せた」と、社長も振り返ります。
「装飾ガラスデザイン研究所」の発足と、3つの研究テーマ
プロジェクトが進む過程では、初の試みゆえ、社内ではいくつもの不安を伴いました。これまで「施設の内装装飾」が主だった私たちが、「生活者へ向けたプロダクト開発」も始めるとなると、これまでの建築や内装といったカテゴリからは外れたところでの開発となります。また、安全基準の方向性やクリエーションにおける制約範囲も異なってます。「さらには、どれだけのクオリティのものができるだろうか?」。また、「ビジネスとして成立するのだろうか?」、といった不安の声もあがりました。これまでラグジュアリーな施設への提案や、エレガントなデザインを得意としてきた当社が、「これまでの得意」からちがうところへ目を向けて、「これからの得意」を見つけていくための分岐点にありました。
ワークショップから約2カ月ほど経った、2021年12月、改めて当社の強みやユニークポイントを整理する中で、「装飾ガラスデザイン研究所」の構想が進みました。これまでの技術を応用して、さまざまな実験的プロダクトの制作・探求を行いながら、生活者に向けたプロダクト開発を進めようというものです。
ワークショップの中で生まれたアイディアを発展させながら、3つの研究テーマが採択されました。一つ目は、食べられないガラスのオブジェを追究する「GABEI 画餅」。二つ目は、ガラスで「湖面の表情」を表現する「ON THE LAKE」。三つ目は、廃材ガラスから生みだす、新しい人工大理石「RURI to ISHI」です。どれも未知のテーマですが、どれもやったことがないからこそ、この取り組みによって新たなお客様に出会える可能性も感じました。ここからは、各テーマごとの開発プロセスをご紹介します。
食べられない「ガラスの和菓子」? ‟かわいさ”を大真面目に追究する
『それはまるで画に描いた餅のよう』―。食文化をガラスに落とし込んでみるプロジェクト「画餅」では、本物の和菓子を細やかに観察し、さまざまな造形技術を組み合わせて、ツヤや風合い、透明度を再現した「食べられない和菓子」を作ることに。最初は当社の拠点がある東海地方の和菓子をかたちにしようとしていましたが、各地に広がる和菓子の文化に触れる中で、全国に枠を広げて、和菓子をリサーチすることからスタートしました。和菓子ひとつひとつの表現はもちろん、「パッケージで魅せる」ところにも面白さを感じました。
いざ、制作が始まると、制作での難易度が一気に見えてきました。作る和菓子を決めてからは、それぞれを再現するための技法を制作チームが検討。自社のみで完結しない工程もあり、形として作れてもおいしそうに見えない、色味の再現が難しいなどの課題がでてきました。
リアルさはもちろんですが、この開発において最も議論したポイントは「かわいいかどうか」でした。ガラス加工の高い技術力を持った制作者がいても、「かわいい」の認識を共有するのはまた別の難しさがあり、これ程「かわいい」について議論したのは初めてです。栗饅頭がものすごく無骨になってしまったり、四角い餡ころ餅になってしまったり、サイズひとつとっても、「これはかわいい」「これはかわいくない」という差をチームで議論し、「かわいい」を求めてサイズを2mm小さくするなど、微細なリクエストに困惑しながらも必死に応え続け、何回もやり直しを重ねました。これまでは商業施設などにおさめるアートガラスを制作してきましたから、そもそもスケールが違います。
最終的に完成したのは、栗饅頭、あんころ餅、練り切り(手毬・菊)、栗きんとん、ういろう、水無月、豆大福、水饅頭の9つの和菓子です。和菓子ひとつひとつの特徴に合わせ、キルンキャストやキルンフュージング、バナーワーク、吹きガラス、積層ガラスなど、様々な装飾ガラスの技法を使い分けて和菓子の魅力を表現しました。
先日東京で開催されたインテリアライフスタイル展の出展時には、その「かわいさ」に注目が集まりました。
風化しないガラスのオブジェは、手に持つと程よい重さがあり、その形やサイズ、透明度の高さも、近くで見るほどよくわかります。会場でお手に取っていただけたことで、ご来場の方からの反響を多くいただきました。
ガラスで「湖面の表情」を表現する。自然の美を、人の手で残すこと
「ON THE LAKE」は世界各地のさまざまな湖の表情をガラスに閉じ込め、自然の美しさをガラスで表現するという研究テーマです。ガラスだからできる「表現」を求める中で、日々移り変わる湖の水面を捉えるというアイディアがでてきました。様々な湖をリサーチした結果、第一弾で選んだ湖は北海道の糠平湖。大小さまざまな無数の泡をガラスに封じ、幻想的なアイスバブルの光景を映した「ICE BUBBLES」、透明度の高いガラスの中に白いもやを重ね美しい亀裂をとじ込めた「ICE CRACK」の2種を制作しました。
課題は大きく2つあって、一つは「自然物をどう自然に表現するか」でした。例えば、湖の気泡などは、そこを目立たせたいと思うと気泡を多くしたり、大きくしたりして、特徴を出すことにフォーカスしがちです。自然物を表現するからには、そこの人間っぽさを減らす必要があります。
二つ目の課題は「いかに引き立て役として作るか」。今回の2種は、用途としてペーパーウェイトや店舗什器、アクセサリートレイを想定しています。ですが、これまで当社が作ってきたものは、マンションやホテルエントランスでの“主役級”の装飾でした。このテーマについては、メインを引き立てる、一歩引いた役割としての表現を目指したのが新鮮でした。
今年の1月には、北海道の糠平湖でメインビジュアルの撮影を、ネイチャーカメラマンの方々と行いました。極寒ですし、温暖化の影響で結氷のタイミングも読めず、自然との闘いとはまさにこのこと。
限られた時間のなかで、本物の湖とこのプロダクトを並べて撮影する中で、制作プロセスが報われるような気がしました。経年変化を恐れずに、記憶や景色を記録する「媒体としてのガラス」の可能性が見えてきたところに、この研究テーマの意義を感じています。
「産廃」から「資源」へ。廃材ガラスから生みだす新しい人工大理石
「RURI to ISHI」は、産業廃棄物である廃材ガラスを使って、人造大理石のテラゾーにするプロジェクトです。廃材ガラスは、そもそも再活用が簡単ではありません。それぞれのガラスごとに特性があって、膨張率が違うため、温度によってどれだけ伸びるのかが異なるため、ガラス同士をくっつけても割れてしまう可能性があります。そのため、当社でもこれまで積極的な活用ができませんでした。
ですが、ダル・ド・ヴェールという分厚いガラスを用いた技法を応用すれば、テラゾーにすることができるのでは?と議論が進みました。
自社のステンドグラスの端材をはじめ、廃棄となる鏡や太陽光パネルなどをパートナー企業より譲り受け、様々なパターンを検証しました。できあがってみると、バリエーションもあって、それぞれの個性が生きてきました。ステンドグラスの細かな廃材を混ぜ込んだカラフルなもの、素地とガラスを同系色にまとめたもの、廃材のガラスを幾何学の形に切り出して意図的な造形を加えたもの、鏡や太陽光パネルの廃材を混ぜ込んだもの。特にこのカラフルなパターンでは、三角や丸のパーツの背景に白色ガラスを入れることでビビッドな発色を実現するなど、装飾ガラスメーカーとしてのこれまでの技術も細やかに織り込んでいます。
テラゾー自体の認知度は高いですが、今までにないテイストで作ることができましたし、他の素材の応用もできるので、可能性が一気に拡張されました。生活者の方向けのプロダクトとしてはもちろん、建材などへの活用も期待しています。先日の展示会では、テーブルの天板として活用したものをご用意しました。ポップな色合いとガラスの個性で、気持ちが明るくなるデザインに仕上がっています。
装飾ガラスメーカーとして、装飾ガラスの「実験」を重ねたい
これまで取り組んできた大規模なプロジェクトも引き続き取り組みつつ、今まで試みたことのない表現や在り方に挑戦し装飾ガラスの新しい意味や可能性を探っていきたい。このプロジェクトを進める中で、「ガラス」にまっすぐに向き合ってきた当社の「原点」に立ち返ることが多々ありました。これらの取り組みを通して、中日ステンドアートの新たな一面を知っていただきつつ、若きデザイナーや建築家など、企業単位だけでなくクリエイターとの協業も進めていきたいと考えています。
<本記事に関連するプレスリリース>
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000122745.html
<企業情報>
株式会社中日ステンドアートは、愛知県岡崎市を拠点として、創業から40年にわたりオーダーメイドの装飾ガラス・ステンドグラスの制作、及び販売施工を行っている会社です。装飾ガラスの総合企業として、建築用装飾ガラスの他、アートに関するオリジナル作品専門の受注も承ってきました。学校、官庁等のパブリックアートからサイン工事まで大型商品や、 特注品の実績も多く、すべて手作り作品で、デザイン力・開発力・技術力・機動力・営業力を駆使し満足して頂ける作品づくりに努めています。
■株式会社中日ステンドアート公式サイト:https://www.studio-csa.com/
■装飾ガラスデザイン研究所:https://lab.studio-csa.com/
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