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人生を変えた一杯の酒から、世界を変える挑戦を始めた株式会社Clear代表、生駒龍史。産業全体をサステナブルに成長させ、日本酒を世界に広げるための物語。

著者: 株式会社Clear

会って話をした誰もが「この人ならば、日本酒の未来をつくるだろう」と本気で信じてしまう人物。それが、生駒龍史、37歳。


数百年の歴史をもつ酒蔵が多く存在する日本酒産業において、日本酒スタートアップのパイオニア的存在として未知の市場に挑戦してきました。


株式会社Clearの代表取締役CEOであり、日本酒ブランド「SAKE HUNDRED」のブランドオーナーを務める生駒龍史が、なぜ人生を懸けて、日本酒の事業に熱く取り組むのか、その想いとこれまでの軌跡をお伝えします。


生駒の人生を変えたのは、“お酒の神様”が造った一本だった


生駒は、生まれながらにして日本酒の業界に関わりがあったわけではありません。ごく普通の一般家庭に生まれました。東京都で生まれ育った生駒にとって、日本酒の原料である米の田園風景は珍しく、酒蔵を訪問するたびに目にする青々とした田んぼや黄金色の稲穂の美しさには、今でも心が打たれると言います。


日本酒との初めての出会いは学生時代。「怖くて得体の知れない、アルコールが強くて美味しくないお酒」と、現在とは180度異なるイメージを抱いていました。もともとお酒に弱い体質のうえ、サークルの飲み会で望まない日本酒を強要された苦い思い出しかなかったのです。


日本酒への情熱に火がついたのは、生駒が25歳の頃。実家が酒屋という友人が「試しに飲んでみてほしい」と、1本の日本酒を持ってきました。それを口にした途端、衝撃が走ります。生駒曰く、「まろやかでコクがある。穏やかな味わいで素晴らしかった」とのこと。


それは、熊本県酒造研究所の「香露」という日本酒で、“お酒の神様”とも呼ばれる醸造家・野白金一氏が生み出したものでした。個人の勘や経験をもとにした酒造りから、科学的な手法を用いた再現性の高い酒造りへの変革を推進した人物で、現在の日本酒の基礎を確立したことで知られています。


「日本酒産業に変革を起こそうとしている自分が最初に出会った日本酒が、“お酒の神様”が造ったお酒であったことに、運命を感じます」と、生駒は当時を振り返りながら話します。



その後、日本酒について調べていくうちに、その奥深さに魅了されていきました。日本酒の海外輸出が伸長していることや、特定名称酒を中心とした高価格帯の日本酒が人気になってきていることなど、ビジネスの観点でも可能性を見出した生駒は、2013年2月に株式会社Clearを設立。日本酒産業へと足を踏み入れました。


現在では、日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES」と日本酒ブランド「SAKE HUNDRED」を運営していますが、ここまでの道のりには、数々の苦難がありました。

誰にも見向きもされなかった、ゼロからのスタート。


2014年に立ち上げた「SAKETIMES」の取材で全国の酒蔵を回りましたが、生駒は「酒蔵の方々から、全く信用されていなかった」と当時の状況を振り返ります。


「多くの酒蔵には数百年もの歴史があり、関係者同士の結束が固いこの日本酒業界において、まだ何者かも分からない新参者である僕を怪しむのは当然のこと。だから、信頼していただけるようになるまで、とにかく誠実に取り組み続けるしかありませんでした。日本酒イベントに足を運んでは必死に挨拶をし、『蔵見学に来てください』と誘われれば、どんなに遠方でもすぐに訪問して、その酒蔵の魅力が伝わるように一生懸命に記事を書きました」


酒蔵に敬意を払い、真摯に勉強し、日本酒を盛り上げたいという純粋な想いを持って活動を続けるうちに、次第に周囲から信頼されるようになりました。そうして酒蔵の取材を重ねる中で、日本酒の可能性をさらに強く感じるようになっていきます。



「振り返ってみると、SAKETIMESを立ち上げた時の想いは、ただ『自分の好きな日本酒をみんなにも好きになってほしい』という、ある種のエゴだったんです。日本酒に出会う前は、他人に誇れるもののないコンプレックスがありましたが、SAKETIMESが評価され、多くのメディアから取材を受けるようになり、僕にとって、日本酒が可能性と成長の象徴となりました。


また、数百もの酒蔵を訪問し、そこで働く方々とお話しし、数千もの日本酒を飲むうちに、日本酒に対する覚悟も強くなっていきました。『この人生を日本酒に捧げたい』『日本酒の未来をつくりたい』と考えるようになったんです」

日本酒に初めて「ラグジュアリー」の概念を生み出し、グローバル市場を狙う


日本酒に対する意識、そして経営者としての覚悟が変わった生駒。厳しい状況にある日本酒産業に、経済的なインパクトを与えられる事業を起こしたいと、次なる挑戦として掲げたのが、日本酒の高価格帯市場の開拓です。


「SAKETIMESの取材で香港に行ったとき、四合瓶の純米大吟醸酒が40万円で販売されているのを見て、こんな世界があるのかと衝撃を受けました。日本酒の出荷量は1973年をピークに右肩下がりですが、量が減ってしまうのなら、質を上げてより高い利益を生めばいい。市場規模が約4,100億円と言われる日本酒市場をターゲットにするのではなく、約200兆円にもおよぶグローバルなラグジュアリー市場を狙おうと考えたんです」


そして2018年7月、日本酒ブランド「SAKE HUNDRED」を創業します。世界中の人々の『心を満たし、人生を彩る』をブランドパーパスに掲げるこのブランドは、味覚だけでなく、お客様の心の充足に貢献し、人と人との豊かな関係を築いていくラグジュアリーブランドです。これまでの日本酒とは大きく異なる価格帯ですが、徹底したサービス、最高の品質、洗練されたデザインなどを通して、お客様に一生輝き続ける日本酒体験をお届けしています。


『私たちの世界を変えてくれた』もっとも心に残るのはお客様の豊かな体験


SAKE HUNDREDを創業してから、生駒の心にもっとも残っているのは、ある老夫婦との出会いです。


「とあるホテルでペアリングディナーを開催した際、関西からわざわざお越しいただいた老夫婦の旦那様が私に話しかけてくれました。その方は日本酒がお好きでしたが、奥様は嗜まないので、いつも1人で日本酒を飲んでいたそうです。しかし、SAKE HUNDREDの『百光』だけは奥様もお気に召したようで、念願の夫婦での晩酌が、『百光』との出会いによって実現したと話してくれました。


『君たちは世界を変えようとしているが、既に私たちの世界を変えてくれているんだよ』というお言葉をいただき、私はこの瞬間のために日本酒事業に向き合っているんだと強く実感しました」

2022年、銀座への出店を直前に中止。この判断が正解だといえる未来をつくる


創業3年目には年商20億円を超え、順風満帆に見えたSAKE HUNDREDも、2022年は苦しい年でした。同年10月に予定していた、銀座のフラッグシップストアの出店を、直前になって白紙に戻したのです。ウクライナ危機を中心とした海外の情勢変化による、資材や設備の高騰と調達の遅延、コロナ禍の影響によるインバウンド需要の回復の遅れから、海外からの需要に対するアプローチが当面困難であることなどを理由に、出店計画を取りやめました。


「経営者としての10年間の中で、もっとも辛い判断でした。自分の無力さを痛感し、眠れない夜が続きました。進んでも、退いても、無傷で済まないことはわかっています。未来のSAKE HUNDREDのために最善な判断は何か。中長期の目線で考え、取りやめを決定しました。その判断が正解であったと確信できる未来を、これからつくっていきます」


そう話す生駒のもと、その後もSAKE HUNDREDは歩みを止めません。2023年1月には28年熟成のヴィンテージ日本酒『現外』を24.2万円で、5月には13年氷温熟成の『礼比』を16.5万円で販売開始。いずれも語り尽くせないほどのストーリーを持った魅力ある日本酒で、豊かな体験をお客様にお届けしています。


各地の酒蔵と酒米農家の利益創出により、産業のサステナブルな成長の起点となる


生駒は、自社の事業について「自分たちだけが儲かるものにはしたくない」と言います。


「SAKE HUNDREDは自社の醸造設備を持たず、日本各地の複数の酒蔵と共同開発をしています。そうすることで、当ブランドがお客様にご愛顧いただいた分が、パートナー酒蔵やその周辺の地域社会の利益も生み出していくような、事業が産業全体のより良い未来に繋がることを大事にしています」


SAKE HUNDREDには、精米歩合18%の商品が複数存在します。約200時間もかけて丁寧に精米し、その中心部分のみを使用することで、雑味のない透明感のある味わいを生み出しています。米の大半を磨く分、たくさんの米を安定的に仕入れる必要があるため、酒米農家にもメリットがあります。酒造りに使用しない米糠は廃棄せず、米菓の原料や家畜の飼料として活用しています。


「日本酒は、米・水・麹を基本とした、自然の恵みがなければ成り立たない産業です。環境への配慮は当たり前に必要ですし、同時に利益を生み出すことも企業経営の根幹です。私たちは、生み出した利益がサプライチェーンの上流にも届くような、産業全体がサステナブルな成長を遂げる起点をつくりたいと考えています。


その一方で、もっとも大事なのは『お客様』です。産業課題のために高い商品を買ってもらうという発想は、ただのエゴ。前提として、まずはお客様に満足していただけるような価値をつくることを大切にしなければなりません」



生駒は、一見競合とも言えるような、日本酒の高価格帯市場へのアプローチが活発になってきていることも、喜ばしいと考えています。プレーヤーが増えることで日本酒の多様な魅力がさらに多くの方に広まっていくと期待しているからです。国税庁が主催する「日本産酒類のブランド戦略検討会」に有識者として参画し意見を提言する生駒の目は、Clearや日本酒産業の未来だけでなく、世界を変えていく未来を見据えています。

人生の中で輝くひとときを生む未来を見据えて


2023年、Clearは設立10周年、SAKE HUNDREDは創業5周年を迎えます。これまでの歩みを振り返り、生駒は次のように話します。


「ここまでの道のりを歩いてこれたのは、日頃より、SAKETIMESやSAKE HUNDREDをご愛顧いただいているお客様、事業を支えてくださっている皆様のおかげです。心から感謝しています。


SAKE HUNDREDの歩みを始めてから、見える景色は、大きく変わってきたように感じます。創業した2018年当時、高価格の日本酒は少しずつ出てきてはいましたが、まだまだ“飛び道具”のような扱いで、新しいカテゴリ、新しい市場としては確立しないだろうと評価されていました。


しかし、素晴らしい技術や哲学、そして熱い想いをもった酒蔵・酒販店・飲食店などの関係者の皆様とともに取り組みを続け、日本酒の新しい可能性に挑戦するブランドとしてSAKE HUNDREDが与えた影響は、決して小さくなかったと感じています」



世界中の人々の『心を満たし、人生を彩る』ことをブランドパーパスに掲げる日本酒ブランド「SAKE HUNDRED」。最高の体験をお届けしたいお客様は、まだ世界中にたくさんいます。ニューヨークのレストラン、パリのホテル、ドバイのバーなど、世界中のさまざまな場所で、SAKE HUNDREDの日本酒がお客様の最高の笑顔に寄り添い、人生の中でもっとも輝く一瞬を次々と生み出していく未来を見据えて、生駒龍史の挑戦はこれからも続きます。





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