テスト専門会社が出版した渾身の書、『【この1冊でよくわかる】ソフトウェアテストの教科書』の出版ストーリー:多くのエンジニアに愛される理由とは
『【この1冊でよくわかる】 ソフトウェアテストの教科書 [増補改訂 第2版]』は、初版の発行部数は22,000部、2021年8月出版の改訂版は13,000部に上り、技術書としては異例のシリーズ累計35,000部を突破しました。(2023年6月現在)
ソフトウェアテスト専門企業であるバルテス株式会社の技術者が執筆した、ソフトウェア開発工程のテストについて、基礎からしっかり体系的に学習できる本格入門書です。
このストーリーでは、初心者から上級者まで幅広い層に読まれている、ソフトウェアテストのバイブルともいえる本書完成までの経緯や苦労話、著者であるバルテスの石原 一宏氏と布施 昌弘氏が伝え続けたい想いをお伝えします。
テスト設計に必要な考え方を身につけられる入門書を目指し、執筆を開始
石原氏 2009年、本書発売前に「いちばんやさしいソフトウェアテストの本」を執筆し出版していました。この本の対象はソフトウェアテストのテの字も知らない人が簡単に読めるようにと、新書として150ページぐらいに簡潔にまとめられた薄い本でした。
その後、バルテスも、バルテスの品質教育セミナー(現バルカレ)も社会的知名度を確立させることができたところで、より充実した内容のテストに関する書籍第二弾を、2012年に出版することになりました。
初めてソフトウェアテストに足を踏み入れた人がその一冊を読んで、テスト設計に必要な考え方を身につけられるような入門書を目指し、執筆を開始しました。バルテスの品質教育セミナーのちょうど基礎編から設計編に相当するところが本書の範囲です。これまでのバルテスのセミナーを資産として一つの本にまとめようという考えでもありました。
執筆の過程で苦労したのは、セミナーとは異なり口頭ではなく全て活字でしか説明できないというところ。全く姿の見えない人に文字だけで説明するのは、書き始めてから思った以上に苦労しました。喋るって、楽なんですよ。相手に合わせて後でいくらでも説明できますから。2011年は、ほぼまるまる執筆に費やした気がします。
「ソフトウェアテストの教科書」という本書のタイトルは、担当の編集者の方が名付け親となったのですが、今振り返ってもそのセンスは素晴らしく、その後、本書の立ち位置を決定づけました。「この一冊でよくわかる教科書」というフレーズは、著者の意図する本書の内容を端的に表現しており、多くの人々からの支持を得ることができました。
「会社全体の経験を一冊の本にまとめる」というリアリティを感じながら、議論と改善を繰り返した
石原氏 教科書を作るという点で、各章ごとにストーリーを組み立てることは非常に難しいと感じました。一冊通して読んだ人が十分に役立ったと思える知識とは、どのくらいの範囲を盛り込む必要があるのだろうかと悩みました。
出版企画 構成案「テストケースはどうやってできるのか=テスト設計を考える」
(2010年12月作成)
事例や演習問題についても議論がありました。本書の最後に執筆協力者の一覧がありますが、多くの協力者に事例を作成いただいたことは、今考えるととても懐かしく、そして今も協力して頂いた皆さんには感謝の気持ちで一杯です。事例があることによって、初めて読んだ人でもテストの具体的なやり方をイメージしやすくなったと思います。演習問題を一人で作ろうとすると苦労しましたが、さまざまな人に協力を仰ぎながら作成して、これだけ読みやすい本ができたというのは、会社全体の経験を一冊の本にまとめるというリアリティも感じました。
一人の力だけでは限界がありますが、会社全体が持つ知識やナレッジは、本当に強力な武器なんだなということを改めて実感しました。
ただ、苦労もあって、いろんな人が自分の思うテストを主張するもんですから、それを一冊にまとめるのが大変でした。本って有機体なので一部を変えると、別のところと整合性が合わなくなることが出てきます。そのため、多くの内容を盛り込みたいと思いつつも、一貫性を持たせるために何度も何度も、表現についてなど出版社含めて確認を行いました。
10年を経て、改訂版に着手。メンバー全員で初版を全体的に徹底的に読み直した
布施氏 改訂版に関して、初版発刊から10年が経ってるので、今のソフトウェア開発の現状と初版の内容との整合性やニーズにはズレが生じます。具体的にどのような違いがあるのか、また現状に即した要素は何か、一方で新しい要素を追加すべきところもあるので、初版の分析から始めました。まず、教育専門部署のR&C部メンバー全員で初版を徹底的に読み直し、表現の祖語がないかを、ページ単位で洗い出しました。
次に追加する要素について検討し、現在では「テスト自動化」と「アジャイル開発」は欠かせないということで、追加することになりました。また、カットする要素については、実際にはほとんどカットしていません。
ただ、議論に上がったのは、ホワイトボックステストの取り扱いです。本書あとがきにもありますが、現状のプログラム規模と開発環境の進歩、テストの自動化を鑑みると、ホワイトボックステストは意外と現状に即していないんです。あまりにもソースコードの量が多くボリュームが大きすぎてできないというのが、今のホワイトボックステストの現状です。ただ、他にホワイトボックステストの技法について触れているものがあまりないため、ここに残さないと廃れていくと思い、残すことに決めました。
アジャイル開発については、深く掘り下げすぎると本1冊できるほどの量になってしまうし、浅すぎても教科書として不十分になってしまいます。そのバランスが非常に難しかったです。
当時アジャイル開発とウォーターフォールモデルを比較したものがあまりなかったので、著者自身でも整理をしたい目的もあり、アジャイル開発とウォーターフォール開発は別という視点でまとめ、基本的なロジックに沿ってアジャイルを説明していきました。つまり、ウォーターフォールとアジャイルには共通点もありますが違いもあることを基に、アジャイルの説明を行っています。
本書を通じてソフトウェアテストを学ぶ意義
石原氏 バルテス田中社長が目指しているバルテスの姿は、バルテスという存在を知らなかったとしても、書籍やセミナー、知識やツールといった当たり前のように使われていたものが、実は全てバルテスが開発したものであったというような、テスト業界におけるデファクトスタンダードになることです。その意味で、本書が、テストを学ぶ多くの人々の教科書になっていて、テスト技法のデファクトスタンダードとして受け入れられているのではないでしょうか。
今まで体系的なソフトウェアテストを学べる書籍は、翻訳ものがほとんどで、そこで出されてる事例は日本の開発事業にそぐわないものも少なくありませんでした。
日本人テスト技術者のテスト技術者によるテスト技術者のための入門教科書というのがこれまでなかったからこそ、これだけのロングセラーをいただけてるのではないでしょうか。テストというものは、何年経っても変わらない中核的な要素が必ず存在します。その絶対に変わらない部分をしっかりと抑えていることと、時代に応じた変化も敏感に取り入れていること。この両方が結びついているから、この本が教科書としてのスタンダードになっているのだと思います。
本書に込めた著者の想い
石原氏(初版をメイン執筆、改訂版では監修)
初めて飛び込む世界というのは、一人では不安を感じるものです。頼れる存在がないと不安になってしまいます。ソフトウェアテストを初めて経験する人たちにとって、本書がそばにあると安心できる、そんな存在であって欲しいと思っています。皆さんを支えるパートナーとして使っていただけているのならば嬉しいです。
布施氏(改訂版をメイン執筆)
ソフトウェアテストをやる人が「最初にどうやって勉強したらいいんだろう?」、「自分で勉強するにはどうしたらいいんだろう」という前向きな一歩を踏み出した時に、この一冊を手に取ってくれるといいなという想いで、第二版を執筆しました。本書が自己学習の初歩の一助になれば幸いです。
【書籍概要】
タイトル:【この1冊でよくわかる】ソフトウェアテストの教科書[増補改訂 第2版]
著者 :布施 昌弘、江添 智之、永井 努、三堀 雅也
監修 :石原 一宏、堀 明広
価格 :2,750円(税込)
仕様 :344ページ
発行所 :SBクリエイティブ
発売日 :2021年8月3日(火)
Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/481560875X/
【著者紹介】
石原 一宏 Kazuhiro Ishihara
バルテス株式会社 テスト・アライアンス事業部 事業部長
年間2,000名を超える開発エンジニアにテスト・品質を教えるセミナー講師。テスト技法の開発・研究、社内・社外の技術研修・教育業務、プロセス改善コンサルティング業務に従事しつつ、ソフトウェア検証業務に携わる。開発物として大阪大学 土屋達弘教授とテストケース生成ツール『Qumias』を共同開発し、リリースを行っている。
布施 昌弘 Masahiro Fuse
バルテス株式会社 クロス・ファンクショナル事業部 R&C部 副部長
様々なテスト対象(組込み系、Web 系、金融系)の現場でテスト設計、テスト管理などを行う。現在は社内外のテスト関連教育セミナーの講師とコンテンツ制作、コンサルティングを担当する。JSTQB 認定 Advanced Level テストマネージャ。
バルテスのソフトウェア品質教育サービスについて
本書出版のきっかけにもなったバルテスの品質教育サービスですが、2023年6月に名称を「バルカレ」とし、既存の品質教育サービスの3つの教育メニューそれぞれの名称も変更し、下記サービスを現在提供しております。
バルカレ(教育)https://service.valtes.co.jp/s-test/education/
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