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「営業と開発が身をもって検証し、医療現場に通って改善を繰り返した」。国内トップクラスのシェアに成長したSATOの医療用リストバンドの開発

著者: サトーホールディングス株式会社

サトーヘルスケア株式会社(以下、当社)は、2014年4月に株式会社サトーから分社化し、医療用リストバンドをはじめ医療分野におけるソリューションの企画・提案ならびにプリンター等ハードウェア商品およびサプライ商品の販売を行うサトーのグループ会社です。


患者さんの氏名や生年月日、性別などのさまざまな情報が集約された医療用リストバンド。当社の製品が国内トップクラスのシェアを占めるまで、どんな思いのもと、どのように開発が進められたのか、また豊富な商品ラインアップはいかにして生まれ、今後どのような進化を遂げていくのか。このストーリーでは、黎明期を知る営業・開発メンバーが振り返って書いています。


左から、サトーヘルスケア株式会社 営業統括部 シニアマネジャー 橋本浩一(営業)、株式会社サトー OB小林一幸(開発)、サトーヘルスケア株式会社 事業企画・開発担当(兼)営業企画部 友澤洋史(営業)、株式会社サトー モノづくり本部 サプライ製造統括部 生産プロセス開発グループ 本田悟(開発)

※所属、役職は取材時のもの。()内は当時の担当領域です。


「バーコードでの患者さん認証は絶対必要だ」という確信があった


医療用リストバンドは、医療現場において患者さんの身分証明と追跡のニーズを満たす製品です。患者の識別や追跡を可能にする簡単で費用対効果の高い方法で、入院患者、外来患者や献血センターの献血者へのタグ付けなどの使用に適しています。1999年の発売以来、サトー製リストバンドは多くのお客さまにご愛顧いただき、国内累計出荷数は2億本を突破しています。


その開発経緯は1990年代後半に遡ります。当時、病院では患者さんを確認するための方法として、手書きのリストバンドを使う病院が徐々に出現していたものの、本人への呼びかけ確認が主流でした。しかし人が確認することなので、ヒューマンエラーやヒヤリ・ハットが起きないとは限りません。患者さんの状態によっては、間違った呼びかけに対しても「はい」と答えてしまったり、言葉を発することができなかったりする場合もあります。当時営業を担当していた当社橋本とそのチームは、「バーコードでの患者さん認証は絶対必要だ」という強い確信を持っていました。


ちょうどその頃、当社は従来よりもはるかに手軽に、場所を選ばずラベル発行できる小型プリンター「L’esprit(レスプリ®)」を発売したこともあり、レスプリで発行できる医療用リストバンドの開発がスタートしたのです。


初期型の「L'esprit(レスプリ®)」


「まったく新しい領域への挑戦でしたから面白そうだと思う反面、どのように進めていけばよいのか悩ましくもありました」と開発担当で当社OBの小林は当時を振り返ります。


それまでの小売用バーコードラベルとの大きな違いは、人が長時間身につけるものであるという点でした。十分な強度を保ちながらも、皮膚への負担を抑え、衛生面での課題もクリアしなくてはなりません。さらに印字の耐久性、そして厚みのあるものに対するプリンターの走行性など、技術的ハードルも高かったのです。


「医療用絆創膏などでメディカル領域での実績を持つ企業をパートナーに迎え、プリンタと基材のマッチングも含め一つ一つ仕様を詰めていったことを覚えています」(小林)。


仕様については、例えば、優しい肌あたりになるよう内側になる面にエンボス加工で肌の接地面積を減らしました。しかし、それだけ用紙の厚みも増してしまい、印字面には細かい凹凸がつくことになります。そこにしっかり印刷できるように、用紙の素材やインクの種類、印刷プロセスをすべて見直しました。


サトーヘルスケア株式会社 営業統括部 シニアマネジャー 橋本浩一


開発と並行して、橋本など営業メンバーは各地の病院にリストバンドのご案内をしていました。ただ、当初は医療従事者の方々になかなか受け入れていただけなかったといいます。


「バーコード管理なんて、患者さんをモノ扱いするのか」

「囚人のように感じる人もいるのでは?」

懸念を示されるケースも少なくありませんでした。


そうした意識が変わるきっかけになったのが、1999年に起きた医療事故でした。二人の患者を取り違えたまま手術が行われてしまった事故は大きな注目を集め、ヒューマンエラー防止の観点からリストバンドの存在意義も見直されることになったのです。


メンバー総出で「身をもって検証」するサトーのカルチャー


1999年はサトーグループにとっての「メディカル元年」だったと、営業担当の友澤は振り返ります。


「この年、多くの病院からお問い合わせをいただくようになり、リストバンド開発も一気に加速しました」(友澤)。


当時から現在まで当社のカルチャーとして根付いている行動は、自身の身をもってプロダクトを検証することです。この時も、開発・営業を含めたチームメンバー全員でリストバンドを身に付け、着替えたり、入浴したり、布団に入ったりといった生活の中で不都合が生じないか、身をもって確かめました。当社開発OBの小林は、家族にもリストバンドをつけてもらったそうです。



「身を持って検証」の精神は今も健在。

インタビューした日も友澤が開発中のリストバンドを身につけていた



同時に外部の専門機関にもさまざまなテストを依頼し、考えられる限りの検証と改善を重ねた末に、ようやく入院患者向けリストバンドの第1号となる「Bタイプ」を世に送り出すことができました。


しかし「Bタイプ」のリリースはゴールではなくスタートに過ぎません。実際の医療現場で使われ始めると、さまざまなニーズが見えてきました。それに応える形で、一つまた一つと新たな商品を開発していくことになりました。


リリースした直後にまず多かったご要望が、リストバンドの装着感をソフトにしたいというものでした。より柔らかい素材を検討すると、今度は印字が剥がれたりリストバンド自体が反り返るなどの問題が生じました。それらの課題をクリアし、2005年に新たなリストバンド「Nタイプ」がラインアップに加わりました。


他にも、外来患者用のリストバンド「日帰りくん®」や、出産した母親と赤ちゃんのための母子一体型リストバンド「koDakara」など、当初想定していた一般の入院患者以外にも用途が広がっていきました。


母子一体型リストバンド「koDakara」。

同じラベルに二本のラベルをプリントし分娩室で身につけるため、取り違え防止効果が高い

営業と開発が共に現場を訪れることで見えてくるもの


対象や使い方が変われば、それに合わせた仕様が必要になるものです。次々に寄せられるご要望に応えるべく、開発メンバーにはずいぶんと骨を折ってもらったと、橋本は振り返ります。


プロダクトの改善について開発の本田いわく、「大変だったのは否定しませんが(笑)、患者さんの命に関わる商品ですから対応しないという選択肢はありませんでした。改善の過程で役に立ったのは、お客さま先である医療機関を見学させていただいたこと。実際の現場でプリンターやリストバンドがどのような使われ方をしているかを自分の目で確かめられたことは、大きなヒントになりました」。


加えて、営業メンバーが積極的に開発メンバーを病院へ同行させたことにより、開発メンバーは現場の看護師さんから直接製品評価を聞くことができました。そのおかげで、スムーズに開発を進められました。


「オフィスにこもっていては分からないこと、気付けないことはたくさんありますからね」(小林)。


その後「Nタイプ」をさらに柔らかくした「Sタイプ」を2012年に発表しました。さらに現場から寄せられた要望を踏まえて課題を解決した改良型の「Sタイプ」をその翌年にリリース。使用済みのインクリボンから個人情報を読み取れないようにした「セキュリボン®」も併せて開発し、より一層安心してご利用いただけるようになりました。


サトーヘルスケア株式会社 事業企画・開発担当(兼)営業企画部 友澤洋史


2014年、サトー社内のメディカル部門が「サトーヘルスケア株式会社」として分社化しました。手探りの中からスタートした取り組みが事業として大きく花開き、グループを支える柱の一つにまでなったことで、担当したメンバーとしては非常に感慨深いものがありました。


「あると便利」ではなく「なくてはならない」商品に


分社後にもリストバンドの開発・改良を続けてまいりました。お伝えしたいエピソードには事欠きませんが、共通しているのは営業・開発が一体となって医療の現場に寄り添い、その声に応える形で商品を進化させてきたということです。一つ課題をクリアすればまた新たな課題が持ち上がり、それにまた対応して……という積み重ねの結果が、現在の多様なラインアップであると当社は考えています。


「命を預かる仕事をしている方々をサポートする以上、こちらも相応の心構えで挑まなくてはなりません。『もっと〇〇してほしい』というご依頼に必死で知恵を絞り、解決につながるアイデアをお持ちして『よくここまで考えてくれた』と言っていただいたことも。そのやりがいは何ものにも代えがたいです」と、営業の友澤は語ります。



株式会社サトー OB小林一幸


今やどこの病院でも当たり前のようにリストバンドは使用されています。

「特に若い看護師さんにとっては、働き始めたときから業務フローに組み込まれた、『当たり前』の存在になっていますから。『あると便利』なものではなく『なくてはならない』必需品になっています。そんな商品に黎明期から携わることができ、多くの患者さんの安全に寄与してこられたことは、開発者冥利に尽きると思っています」(小林)。


コロナ禍を経て、非接触機能の付加などさらなる進化へ


当社の医療用リストバンドは進化を続けます。さらに柔らかく肌に負担の少ない素材のリストバンドの開発を進めており、近年はコロナ禍によって非接触でデータを読み取る「RFID」技術に注目が集まるなど、現場のニーズも刻々と変化を続けています。


株式会社サトー モノづくり本部 サプライ製造統括部 生産プロセス開発グループ 本田悟


「バーコードを使用するタイプでは、手をとってリストバンドに端末を当てないと読み取れませんが、RFIDタグは離れたところから非接触でリストバンドの情報を読み取ることができます」(本田)。


RFIDさらには、就寝中の患者さんを起こすことなく布団の上からリストバンドを読み取ることができ、患者さんへの投与時も、三点認証※をスムーズに行うことができます。コロナ禍で引き合いが増えたことは当社にとって予想外でしたが、当社製品は医療現場で働く方々の心理的・肉体的負担軽減に大きく貢献できる商品なので、広まることは喜ばしいと考えています。


※三点認証:投薬前に、患者、薬剤、実施者を照合することで、患者に正しい薬剤が使用されているか確認するとともに誰が誰に何を実施したかが記録される仕組み


RFID用のICチップを搭載したリストバンド


患者さんが安心して治療を受けられること──「Patient Safety」をコンセプトに掲げて事業を展開してきた当社ですが、2022年からこれを「Patient Happiness」に改めています。安心の先にある「幸せ」を実現する鍵になるのが、医療従事者の皆さんの働きやすさです。それにつながる商品をこれからも展開していくことが私たちの役割であり、RFIDリストバンドもその一つに数えられると考えています。創業者が唱えた「あくなき創造」の精神を受け継ぎ、さらなる未来の「当たり前」を生み出すべく挑戦を続けていきます。




サトーの「ヘルスケア」ソリューションについて

https://www.sato.co.jp/market/healthcare/


ヘルスケア市場では、「Patient Happiness」をコンセプトに、患者の安心の先にある幸せにつなげるため、 医療従事者の皆さまの働く環境を改善し、 QOL※向上に貢献するソリューションを提供します。

※QOL=Quality of life



サトーホールディングス株式会社 会社概要

代表者: 代表取締役 社長執行役員 グループCEO 小沼 宏行

本社 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3 丁目1 番1 号 msb Tamachi 田町ステーションタワーN

電話: 03-6628-2400

創業:1940年 (設立:1951年)

事業内容:自動認識ソリューションの市場調査、企画・開発、設計、製造、販売、保守および販売促進ソリューションの販売などを行うグループ内傘下子会社の経営戦略策定・経営管理。

H P: https://www.sato.co.jp/





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