沖縄らしさをそのままに、琉球建築を新たな解釈でリデザイン。石垣島の平家を一棟貸し別荘「deigo-泥娯-」へと生まれ変わるまで

一棟貸し別荘「deigo-泥娯-」を運営するLIBLES HOUSEは、アパレルブランドやアーティストなどと共創し、新たな価値を創造する宿泊施設ブランドです。第一弾として「日本の伝統×最新技術」をコンセプトに商品を創りだすブランドgoyemon（ごゑもん）とコラボし、沖縄県石垣島に「deigo-泥娯-」を2022年9月にオープンいたしました。

今回は泥娯の企画背景から、デザイン設計のポイントやこだわりをお伝えします。

宿泊施設を企画するにあたり、場所の候補地となったのが沖縄県の石垣島。国内外から多くの観光客が訪れる、のどかで自然豊かな場所です。石垣港からフェリーで八重山諸島に向かうことも出来る為、八重山の玄関口にもなっています。

観光地でもある石垣島は宿泊施設が充実している印象ですが、意外にも市街地近くに大人数で泊まれるような宿泊施設が多くはありません。また、コロナが流行したことにより、観光客が激減。宿の形態としても、不特定多数の方が宿泊するホテルよりも、一棟貸し別荘の方が周りを気にせず安心してお泊まりいただけると考えました。

宿の雰囲気も沖縄らしさを感じられるものにしたいと、琉球造りの平家をリノベーションをすることに。今回クリエイティブを担当するブランドgoyemonのデザイン設計のもと、新たな宿に生まれ変わらせる為のプロジェクトが発足しました。

LIBLES HOUSE

不動産ソリューション事業を展開するARPROコンサルティング株式会社による宿泊施設事業。建築業界とあまり関わりの少ないアパレルブランドやアーティストなどと共創し、新たな価値を創造する宿泊施設ブランドです。

goyemon™️

大西藍、武内賢太による 2018年結成のプロダクトデザインブランド。

2019年にリリースした、雪駄×スニーカー「unda-雲駄-」をはじめ、切子×ダブルウォールグラス「Fuwan-浮碗-」など、『日本の伝統×最新技術』を融合させた商品を創りだすことで、現代の生活にフィットした、伝統を身近に感じられる商品を展開しています。

https://www.goyemon.tokyo/

沖縄らしさをそのままに、新たにリデザイン

泥娯へと生まれ変わった旧仲村渠邸は平成21年に建設されました。比較的新しい建築物ですが、その建築方法は伝統的な琉球建築を思わせる様式美が色濃く残っています。

旧仲村渠邸は平家建て、赤瓦、高い石垣に礎石には珊瑚が用いられ、実に沖縄らしい意匠をまとっていました。現代的な琉球建築をスケルトンの状態にしていくと、そこに現れたのは立派な木造屋根、そして強靭なコンクリートブロック造の壁たち。

現地の職人の手によって丁寧に作られているのが分かります。そのほとんどが手仕事によるもので、ケミカルな素材は見当たらず何とも沖縄らしさを感じられるものでした。

今回、当プロジェクトでクリエイティブディレクションを担当した者は「これを活かさない手は無いと思いました。創造が巡り、そう思ってからデザインを起こすまでは早かったです」と話します。

琉球建築を紐解き、行き着いたテーマが「土（泥）」

建物からのインスピレーションをもとに全体のデザインやコンセプトを練りあげていきます。そこで着目したのが、琉球建築で使用されている素材。

琉球王国時代に現在の様式に発展したとされる沖縄の伝統的琉球建築。様式や素材・技術などで他地域の日本建築との類似点が多くありますが、風土・社会・資源等の面で異なる為に独自の発展が見られます。

そんな琉球建築をgoyemon流に解釈し、再定義。紐解くと「土（泥）」に行き着きました。

“ 泥を娯しむ。”

17世紀後半から作られ、今日まで用いられる沖縄の伝統的な赤瓦。南部一帯で取れる「クチャ」という泥岩を使ってつくられます。柔らかく扱いやすいクチャは、泥パックなどの化粧品としても使われるほど。そんな沖縄の人には馴染みの深い「泥」を旗印とし、現在の建築様式になぞらえ落とし込みを図りました。

そして「泥娯」に生まれ変わる

落ち着きのあるトーンで統一され、こだわり抜かれた家具や建築で構成された空間。

「土（泥）」をテーマとしたデザインに加え、goyemonらしい日本の伝統と現代的なテイストが随所に感じられます。

照明は、琉球建築の表情と島の風土を感じてもらうため、必要最低限の明るさで設計。夕暮れから朝焼けまでの移り変わりを楽しめる空間に。屋内の全体的な明るさよりもインテリアに照明を集めることに重点を置くことで、美術館のようなドラマチックな照明計画になっています。

象徴的な泥娯のロゴは、泥と影がモチーフとなっています。「身体や体温が拡張し、泥娯という空間に溶け込んでいく」イメージで漢字の「泥娯」のアウトラインを拡張し、泥跳ねのような、泥だまりのようなかたちを意識し制作されました。「見知らぬ土地を影が長くなるまで堪能してから帰る場所」という意をこめ、影のような伸びと傾きが感じられるデザインに仕上げました。

玄関の扉を開けると、「30畳、天高5m」の超開放的空間が視界いっぱいに広がります。

全長3mの特大アイランドキッチンは、自然と人が集う場所に。

和室には、コンクリート壁と共存する現代版「床の間」が。

扉を開けると浴室いっぱいにヒノキの香りが広がります。

障子越しの優しい朝日は、自然の目覚まし時計に。

少ない手荷物で快適に過ごせるようアメニティ類や便利な家電も備わっています。

加えて、人気のキッチン家電をはじめ、空気清浄機や洗濯乾燥機も。

その他、自由に使える貸出自転車も用意されています。

石垣の風を感じながら友達や親子、恋人と楽しくサイクリングができます。

見えてきたもう一つのテーマ「時間」

このプロジェクトを進行していく中で、石垣の地に何度も足を運び、現地の人たちと触れ合い、1日1日を過ごす。するといつの間にか、沖縄特有のゆっくりとした “時間” をデザインしていたことに気がつきました。

「せっかく石垣にきたのに、なんだか宿でゆっくりしたくなる」

空間を楽しんでいただくのはもちろん、是非、泥娯での “時間”を体感してみてほしいと思います。

現在では、海外からの需要も増えてきています。

コロナ禍で減ってしまった観光客を再び石垣島に呼び戻していけるよう、泥娯としても、今後さらに観光誘致に力を入れていきます。