創業60年、岐阜県土岐市の業務用食器の陶磁器メーカーによる新たな挑戦。うつわの製造から、うつわのエンターテイメントへ。
岐阜県土岐市。この地域で作られる陶磁器は「美濃焼」と呼ばれ、日本の食器の約7割がこの地域で製造されると言われる全国有数の陶磁器産地です。光洋陶器株式会社は、この地で1964年に誕生しました。
以来、約60年にわたり、光洋陶器は日本国内のホテル・レストランでの使用を想定した業務用食器のメーカーとして成長してきました。現在の商品数は約15,000点。和食、洋食、多国籍料理など、実にさまざまな料理スタイルに合う、多様な食器を作り続けています。
光洋陶器の食器にとって、主役は「料理」であり「お店」。さらに流通経路の大半が卸問屋を通してお店に届くため、多くの人は光洋陶器の名前を知ることはありません。テーブルを支えるよき黒子としての製造メーカーであるとも言えます。
その雰囲気が一変したのが、2023年1月。うつわの“複合体験施設”『KOYO BASE』のオープンです。
土から食器にいたるまでの製造工程を間近に眺めたり、伝統の絵付けを実際に体験したり、岐阜の地元食材をうつわとともに愉しんだり、お気に入りの食器を探してご自宅におむかえしたり。食べる、買う、楽しむ、学ぶ。そのすべてを、この空間で体験することができます。
取引業者しか来なかった工場に、連日、地元や県外から一般客が訪れるようになりました。来客数は半年間で延べ10,000人。現在は同業他社はもちろん、他業界のメーカーや銀行などの異業種、地域の学校からなど実にさまざまな人がここを訪れます。
陶磁器の製造メーカーである光洋陶器が、どうしてこの施設を始めることになったのか。そこにはどのような意図があったのか。代表の加藤伸治に聞きました。
ー KOYO BASEを始めようと思ったきっかけはなんですか?
直接ではありませんが、元の構想になったのは2019年にスマートファクトリー AWARD 2019で表彰されたときでしょうか。これは、生産管理や製造現場の先進化・効率化といった点で優れた工場を表彰する賞です。
僕らの工場が目指したのは、人と機械、どちらの技も活かして自在に行き来できる製造ラインです。機械でしか出せない、精確な曲線や繊細な形状。手作業ならではの、温もりを感じる色づかいとやわらかな表情。そのどちらも大切にしたいと思い試行錯誤を続けてきて、それが評価されたのはシンプルに嬉しかったですね。そしてこの頃に「この工場を一般の方も見学できるようにしてほしい」という声もいただきました。いわゆるオープンファクトリー化ですね。
ー 元々は、工場をオープンにするという構想だった?
はい。自分たちの製造の現場を見てもらう、最初はそれが目的でした。でも、色々と具体的に考えていこうとした折に新型コロナウイルスが流行します。今でこそ落ち着いていますが、当時は恐怖が強かったですから。不特定多数の人を受け入れるオープンファクトリーの計画は泣く泣くお蔵入りとなりました。
……でも、中止を決めてからもずーっと考えていたんですよね。何かできないだろうかって。そのうちにイメージがどんどん膨らんできて、せっかく来てもらうなら自社の食器で食事を楽しんでもらいたい、直接手に取って食器を購入してもらいたい、さらに自分でも作ってみる体験を提供してみてはどうだ? と、オープンファクトリーの枠を超えて、お客さまが楽しめるような場づくりを構想をしていました。
そんな折に、事業再構築補助金の募集がありまして。これを後押しとして誕生したのがKOYO BASEです。もともと出荷倉庫として利用していた、工場の隣にある建物を改装して実現にこぎつけました。
ー KOYO BASEでは、どんな体験を目指したのでしょうか?
陶磁器の生産量は年々低下しています。その要因は様々ですが、産地や作っている人、過程が全然伝わっていないことも問題だと考えていました。
KOYO BASEには、食べる、買う、楽しむ、学ぶ、という4つの体験があります。お客様が食器が作られている過程を知り、学び、実際に料理を盛りつけて食事をする。土から食卓までを体験することで、何気なく使っているいつもの食器をより大切に使ってもらえるのではないかと考えました。
また、これまで内に閉じていたメーカーが外に向けて開放することで、社内外が混ざり合って新しい変化が生まれてくるかも、、、、という期待もあります。
ー 実際は戸惑った社員も多かったのではないでしょうか?
やはり、長く働いてきた方ほど戸惑いがあったようです。知っている人や、何十年もの付き合いのある取引先の人としか会わないような環境から、いきなり不特定多数の一般のお客さんが来るわけですからね。抵抗はあります。
カフェで提供する料理にも賛否両論ありました。これまでお客様に合わせて15000種類もの商品ラインナップを作ってきたわけですから。どのジャンルの料理を提供するか、実にさまざまな意見が出てきました。最終的には、小皿や、小鉢、お椀など数多く食器を使う創作和食に至りましたが、ここまでには何度も何度も話し合いがありましたね。
それでも、オープンしてみて社員にもいい影響があったと感じています。たとえば30年以上働いて、マグカップの取っ手を一日に2,000個もくっつけている社員がいるんですが、自分が作ったマグカップでコーヒーを飲んだことがなかったんです。でも、やはり本当に良さは使ってみないとわからない。
今、KOYO BASEの定休日である火曜日と水曜日は、工場で働いている社員の方に開放しています。ランチを提供したり、自分たちがつくった商品を手に取ったりして、できる限り社員にも施設を使ってもらえるようにしています。
ー 今後の展望を教えてください。
オープンするまではどのような施設になるのか、お客様は本当に来てくれるのか不安ばかりでしたが、初日から現在に至るまで多くのお客さまにお越しいただいています。
来客数は半年間で延べ10,000人を超えました。これはKOYO BASEができるまでは想像もできなかった状態です。決して立地がいいわけではありません。最寄駅は遠いし、小高い丘を登った先にあります。それでも、想像以上の人が来てくれたことに、自分たちへはもちろん、産地への期待も感じます。
今後は、引き続きおいしい料理や楽しめる工場見学、イベントなどを開催しつつ、よりユーザーと産地を繋げていきたいですね。エンターテイメント性を感じる場所にしたい。つかう人と、つくる人が常に交わっていくことで、新しいモノが生まれるでしょうし、その交流自体がひとつの文化になるといい。そうなるまで時間はかかるでしょう。でも、地域と一緒になりながら、どこまでも走り続けたいと思います。
KOYO BASE
岐阜県土岐市泉町久尻1496-5
0572-55-5501
営業時間11:00 - 17:00 (CLAY Table L.O.16:30)
[交通アクセス]
電車土岐市駅から徒歩約20分
車多治見ICから約10分
名古屋から約45分
駐車場KOYO BASE敷地内に22台、200m先に21台
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