外の地域や集団との関わりによって歴史が動いてきた神奈川県。身近な史跡や文化財から地域史の魅力に迫る『日本史のなかの神奈川県』刊行の思いとは
山川出版社から、いままでにない地域史の新シリーズの一冊として、『日本史のなかの神奈川県』が刊行されました。本シリーズは、歴史教育に携わる方々のみならず、より広い読者層に向けて、地域史の魅力を発信したいという思いから企画・編集されたもの。
本書は、身近な史跡・文化財を通して、神奈川県の歴史と文化を読み直せる一冊となっています。相模川が育んだ先史の史跡、武家の古都・鎌倉、北条氏と小田原、江戸の行楽地大山・江の島・箱根、横浜開港、戦時を語る地下壕・砲台跡。神奈川県には歴史の舞台となった地域が数多くあり、その特徴や多彩な文化を知ることができるのが本書の特徴です。いずれも県の歴史・文化の発信に携わってきた専門家が執筆にあたっています。
大塚歳勝土遺跡
箱根関所
横浜市開港記念会館
古代から現代まで、歴史が転換する舞台となった神奈川県
編者によると、神奈川県域が舞台となり、日本史上のトピックとして特筆される出来事は3つ。鎌倉における武家政権の誕生、小田原開城による戦国時代の終結、そして近代化の出発点となる横浜開港です。いずれも、ほかの地域の集団、勢力との政治的な関係、交渉により、歴史が転換する舞台となりました。
神奈川県の地形(神奈川県立生命の星・地球博物館提供)
この3つの出来事に限らず、ほかの各時代においても、各方面とのさまざまな関係や時々の自然環境の変転のなかで、独特の地域史が積み重なっていることこそが、神奈川県の歴史の特質といえます。
神奈川県では、およそ34,000年前の旧石器時代から人間の活動が確認されていますが、関東ローム層から出土する石器には、信州などから持ち込まれた黒曜石が認められ、縄文時代にも日本海側で産出する翡翠が出土するなど、原始からすでに遠隔地との交流があったことがわかっているのです。
発展と開発から文化遺産を守っていくために
幕末のペリー率いる黒船の浦賀来航から横浜開港に至る開国関連の出来事は、横浜が明治期の近代化に係るさまざまな情報の発信地となる出来事でした。
その後、横浜の輸出入関連産業や横須賀の軍需工業都市としての発展を背景に、神奈川県は発展を続け、湘南から鎌倉方面は温暖な保養地、箱根は避暑地としての評価も定着。しかし、関東大震災と第二次世界大戦時の空襲によって、県土は大きな被害を受けます。
戦後、震災・戦災の二度の痛手から着実に復興。その象徴として、日本伝統の様式ではなくグローバルな 「モダニズム建築」といえる文化施設も建設され、今日では文化財に指定されています。現代では、重工業の発展を象徴する京浜コンビナートの幻想的な「工場夜景」が人気を博するなど、現代ならではの「名勝地」も生まれています。
そうしたなかで、つねに開発の影響にさらされてきた文化遺産の保護にも真剣に取り組む市民意識が醸成されてきたのは、神奈川県ならではの歴史上の特徴といえます。本書は、先人から受け継いだ貴重な財産をどのように将来に継承していくのか、考えていくきっかけともなるでしょう。
執筆者紹介 ※50音順
青木祐介(あおき・ゆうすけ)1972年生まれ。横浜開港資料館・横浜都市発展記念館副館長
安藤広道(あんどう・ひろみち)1964年生まれ。慶應義塾大学文学部教授
大倉 潤(おおくら・じゅん)1967年生まれ。秦野市文化スポーツ部生涯学習課文化財・市史担当担当技官
大村浩司(おおむら・こうじ )1954年生まれ。茅ヶ崎市教育委員会文化財調査員
柏木善治(かしわぎ・ぜんじ)1970年生まれ。公益財団法人かながわ考古学財団事務局長
川本真由美(かわもと・まゆみ )1977年生まれ。横須賀市教育委員会事務局教育総務部生涯学習課文化財係主査
栗田一生(くりた・かづお)1972年生まれ。川崎市教育委員会事務局文化財課課長補佐
佐々木健策(ささき・けんさく)1974年生まれ。小田原市文化部文化財課副課長
鈴木康弘(すずき・やすひろ)1959年生まれ。箱根町立郷土資料館館長
田尾誠敏(たお・まさとし)1964年生まれ。東海大学文学部非常勤講師
髙久 舞(たかひさ・まい)1981年生まれ。帝京大学文学部講師
立花 実(たちばな・みのる) 1962年生まれ。伊勢原市教育委員会歴史文化推進担当部長
谷口 肇(たにぐち・はじめ) 1963年生まれ。神奈川県教育委員会教育局生涯学習部文化遺産課副課長
丹治雄一(たんじ・ゆういち)1973年生まれ。神奈川県立歴史博物館学芸部長
中川真人(なかがわ・まさと)1978年生まれ。相模原市教育委員会主査(学芸員)
山本みなみ(やまもと・みなみ)1989年生まれ。鎌倉歴史文化交流館学芸員
吉川利一(よしかわ・としかず) 1965年生まれ。公益財団法人三溪園保勝会事業課長
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