通院・待ち時間や院内感染リスクなく「いつでも」「どこでも」診察を。働くすべての人のためのオンライン社内診療所「Fair-Clinic」開発秘話。
株式会社フェアワークは、参議院事務局や国土交通省など中央省庁の元産業医が起業し、臨床心理士の現場力と最新ITテクノロジーの力をかけあわせ、企業の健康経営・人的資本投資をサポートしています。
「すべての人々が健康かつ幸福に社会参加する世界を創る」を理念に、吉田健一が2019年9月に創業しました。
右:代表取締役会長 吉田健一
中央:代表取締役社長 橋本篤志
事業内容は企業の健康管理・人的資本投資に貢献するヘルステックサービスの開発・販売で、現在3つのサービスを展開しています。具体的には、オンライン社内診療所「Fair-Clinic」、従業員パルスサーベイ「FairWork survey」、法定ストレスチェックサービス「Fair-lead」です。
2023年2月にリリースしたオンライン社内診療所「Fair-Clinic」は、オンラインの特性を生かし、全国どこからでも医師の診察と薬の処方を受けられるサービスです。
この「オンライン社内診療所」を企業の福利厚生としてご導入いただくことで、病院に行く時間がない、オフィスや自宅近くに適当な医療機関がなく、遠方まで通院する必要があるという方でも、通院・待ち時間や院内感染リスクなく、医療サービスを享受できるようになります。
本ストーリーでは、このオンライン社内診療所「Fair-Clinic」の開発秘話を中心にお届けします。
「出社しているけれど、調子悪い」プレゼンティーイズムの損失は19.2兆円〜社内診療所の数は30年で約半減に
私吉田は、参議院事務局を始めとした中央官庁や上場企業を中心に、これまで50団体以上の産業医を務めました。
これらの経験のなかで、忙しいビジネスパーソンは病院に行く時間を確保できず、「会社に出社しているものの、調子が悪い」症状を放置している、または我慢しながら働いている従業員が多いことに、課題を感じてきました。この状態は「プレゼンティーイズム」と呼ばれ、その経済損失は国内で年間19.2兆円とも言われています(具体的には、頭痛・肩腰の痛みやメンタル不調・花粉症・眼精疲労・不眠症から、女性特有の健康課題(PMS・更年期障害)、中高年男性に多い睡眠時無呼吸症候群など)。
我が国では、働く人の健康管理は、会社が選任する産業医や、大規模事業所では「社内診療所」が一定の役割を果たしてきました。産業医に関しては、「名ばかり産業医」の存在が一部で問題化したように、近年はきちんと選任し活用する事業所が増えてきましたが、その反面、社内診療所は全国的に減少傾向にあり、この30年でおよそ半減(1993年2,999院→2021年1,652院)しています。
社内診療所が減少した原因としては、「失われた30年」と呼ばれる日本経済の停滞などがあり、大企業であっても、福利厚生として従業員に社内で医療サービスを提供するコストを負担できないケースが、多々あるものと考えられます。
また、社内診療所は設置されていても、本社の役員専用フロアなど、若手や女性などの一般社員が使いづらい場所にあるという理由のほか、コロナ禍で在宅勤務が増え、社員が出社しなくなったために、社内診療所との接点そのものも減っていることでしょう。
オンラインであれば、働く人が「いつでもどこでも」医療サービスを受けられるように
この点、私は現行の社内診療所や、対面診療を提供する一般のクリニックを補完する役割として、「社内診療所をオンライン化することはできないか?」と考えました。ちょうどコロナ禍を契機に、仕事や生活の様々なシーンにおいて「オンライン」が一般的になり始めた頃です。
オンラインであれば、企業に勤める人が受診したいとき、文字通り「いつでもどこでも」受診することができます。さらに、予約から診療までオンラインで完結し、薬も郵送で受け取れるなら、薬局での待ち時間もなくなり、院内感染のリスクも抑えることが可能です。
(オンライン社内診療所「Fair-Clinic」の利用ステップ…診察から薬の受け取りまで、全てオンラインで完結できるのが特徴)
臨床現場の声がもっとも大事。週1日の外来では100件を超える対面診療をこなしながらのサービス開発〜ローンチ後の市場浸透に課題
従来から私は、自分が運営しているクリニックでのDXに取組んでいましたが、フェアワークグループで利用していたオンライン診療の電子カルテの仕組み等は、そのまま「Fair-Clinic」にも利用することができたことから、オンライン診療の仕組みの構築そのものは、比較的スムーズに進みました。
課題は、サービス構築後のPRや市場浸透です。また、営業を含む組織体制の強化にも手をつけられていませんでした。
医療サービスの開発にとって最も重要なのは、臨床の現場だからこそ感じ取ることができる、患者さんたちの声だと思います。
現在でも私は、平日にクライアント企業の産業医面談をこなすとともに、毎週土曜にはフェアワークグループのメンタルクリニックで、およそ100件の対面での外来診療を行っています。フェアワークのスタッフも、私と同様にメンタルクリニックでの勤務やクライアント企業を訪問しての産業医面談やカウンセリングを行っています。
また、フェアワークグループで運営するメンタルクリニックである「りんかい月島クリニック」では、うつ病などのメンタル不調によって休職しているビジネスパーソンのための職場復帰支援プログラムを実施しており、私自身もその運営に深く関わってきました。私が精神科医として公立病院に勤務していた頃、治療により病状が改善されても、その後の社会復帰が上手くいかない休職患者さんの事例を多く見てきたからです。
したがって、これらの試みは、いずれもフェアワークの経営理念である「すべての人々が健康かつ幸福に社会参加する世界を創る」を実現するための大切な場であると考えています。現場から聞こえる声、それらひとつずつに丁寧に向き合ってサービスに落とし込んでいく必要がある。だからこそ、1日100件を超える外来対応と、新サービス「Fair-Clinic」のローンチの双方に、フルコミットする必要がありました。
経験豊富なプロ経営者を外部から招聘、市場拡大フェーズを任せる
スピード感を持った経営を実現すべく、2023年6月には株式会社フェアワークの代表取締役社長に橋本篤志を迎え、「Fair-Clinic」の市場拡大フェーズを担ってもらっています。橋本は三菱商事の出身で、様々な業界の第二創業期の企業の変革支援に取り組んできた、プロ経営者です。
フェアワークはまさに第二創業のフェーズにあり、橋本は事業推進のパートナーとして適任です。私は会長及び診療統括医として、サービスの開発とブラッシュアップを中心に引き続きフェアワークの経営にあたっています。
(新たに迎えた代表取締役社⻑ 橋本篤志 (写真右)とともに)
リリース後、女性から大きな反響〜現場の声をサービスに反映したからこそ「こんなサービスが欲しかった」
私もフェアワークのスタッフも、日々の診療や産業医面談から得られた「現場の声」に丁寧に向き合ってきたからこそ、オンライン社内診療所「Fair-Clinic」では、患者さんの声に寄り添ったサービスを構築できています。
①24時間予約ができる
フェアワークグループで運営するメンタルクリニックでは24時間オンライン予約が可能なのですが、これまでの予約実績を分析してみると、実は深夜や未明に初診予約を取る方が多いことがわかってきました。
これは、深夜だからこそ誰にも相談できず「何とかして欲しい、苦しい」という、患者さんの思いが現れていると感じています。
このたびの「Fair-Clinic」も同様に24時間、診察の予約が入れられる仕組みを構築しました。ゆくゆくは診察そのものも、早朝から深夜まで可能にしたいと考えています。
②女性特有の健康課題に対応
「Fair-Clinic」は女性特有の健康課題、具体的には月経困難症、PMS及び更年期障害に対応しています。「Fair-Clinic」のサービスローンチ後、特に女性から大きな反響があったことが大きな気づきでした。
低用量ピルを定期的に服用されている方からは、このような感想をいただいています。
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「いつも服用しているピルが少なくなると、それをもらうためだけに仕事を休んで、または休日に通院する必要がありました。
ピルをもらうための薬局での待ち時間もあり、2時間以上の時間がかかっていましたが、オンライン診療なら5分で終わりました。
オンライン診療であれば通院や待ち時間がなくなり、ビルも郵送ですぐ受け取れて、とても楽になりました。」
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女性特有の疾患は、対面で相談しにくい、症状が重いとそもそも病院に行きづらい、といった課題があります。これから女性活躍推進で女性管理職の登用が求められる企業が増えると思いますが、企業において上級管理職や役員に昇進・昇格する年代の女性は、更年期障害を発症する時期(45〜55歳)と、おおよそ一致します。
実際、企業の管理職の女性患者さんからお話を伺ってみると、自身の心身の不調について相談できる人が社内に誰もおらず、さらにご自身も更年期障害だと気がつかず、我慢したまま就労している方も一定数いらっしゃるのです。
企業の福利厚生として「Fair-Clinic」を導入いただければ、これまで対面での社内診療所を使いにくかった女性社員の方々にも、広く医療サービスを届けることが可能となります。
ちなみに、女性だけでなく近年は「男性更年期障害」の概念も提唱されつつありますよね。弊社では更年期の男性社員様にも、別途対応していこうと考えています。
③漢方薬の処方に対応
社員さんの症状や体質によっては、漢方薬の方が効き目が高いことがあります。
そこで「Fair-Clinic」では大手製薬メーカーと協業の上で、漢方薬の処方もできる体制を整えており、患者さんは様々な選択肢から選んでいただくことが可能です。
50団体以上の産業医を受託し、1万人以上を診察。「働く現場を熟知している」フェアワークグループだからこその信頼性が強み
オンライン診療については、すでに先行サービスがあります。
一方で、先行オンライン診療のほとんどは一般消費者向け(BtoC)であるのに対し、「Fair-Clinic」は企業の福利厚生として導入いただくサービスである、つまり「BtoBtoE(employee)」のサービスであるところに違いがあります。
フェアワークグループとしてこれまで50団体を超える産業医を受託してきたこと、また1万人を超えるメンタルクリニックでの臨床実績も強みであり、導入先企業さまから信頼いただけるサービスであると判断いただける土台になると考えています。
従業員サーベイで生産性低下を「見える化」、オンライン社内診療所との”一気通貫”で企業の健康経営・人的資本投資を支援
オンライン社内診療所「Fair-Clinic」は、フェアワークで2021年にサービスローンチした従業員パルスサーベイ「FairWork survey」と合わせてご利用いただくことで、より企業の健康経営・人的資本投資の促進に寄与できるものと考えております。
従業員サーベイ「FairWork survey」は、出社してはいるけれど調子が悪い、従業員のストレスや不調の見える化にフォーカスしたサービスです。
質問への回答はスマートフォンで短時間ででき、従業員のみなさんが定期的に質問に答えるだけで、組織と人のコンディションを可視化し、従業員の心身状態を定点観測することができます。
(「FairWork survey」イメージ図)
この従業員サーベイ「FairWork survey」は、2021年度経済産業省後援HRテクノロジー大賞の「注目スタートアップ賞」を受賞しております。人的資本経営を経営課題に結び付けるために自社に適した指標を選択して測定できるほか、各種健康投資の効果が見える化され、適切なPDCAサイクル環境を構築できる点を高く評価いただきました。
今後の展望〜働く人の健康をサポートする企業とともに歩み、臨床現場と経営両面から社会課題を解決する
今後の展望は、フェアワークがプレゼンティーイズムの予防から改善まで一気通貫でサポートすることで、元気に働く人を増やしていくことです。
ただ、これはフェアワーク一社だけでは実現できません。働く人の健康をサポートする多くの企業様とコラボレーションし、共に取り組んでいくことが必要であると考えております。
フェアワークではすでに、志を同じくする企業・団体及びインフルエンサーなどと協業しながら、「働く人の健康」を促進するために活動しています。
①休眠預金活用事業「うつ病予防支援」に採択
従業員サーベイ「FairWork survey」は休眠預金活用事業「うつ病予防支援」に採択されています。
本事業の資金分配団体である「NPO法人こどもたちのこどもたちのこどもたちのために」とともに、「東京で働く人をうつにさせない」をミッションとして、従業員サーベイを活用したパフォーマンスの見える化・定点観測、医師及び臨床心理士などの介在によるうつ病の早期発見と予防支援の仕組みをつくっています。
②働く人の健康をサポートする企業と共催セミナーを開催
さらに、フェアワークでは働く人の健康をサポートする事業を推進している他業種の企業さまと共催セミナーを実施しています。
まず、カゴメ株式会社と、これまで複数回共催セミナーを実施しております。
●女性活躍を支える職場の健康セミナー(2023年9月14日開催)
本セミナーは、2023年6月に「女性版骨太の方針2023」が出されたことに伴い、女性が働き続ける中で課題となる健康について、周囲で働く職場の同僚がどうサポートすべきかという視点や、産業保健や様々な職場での取組事例を交えてお話ししました。
●働く女性のウェルビーイングを応援!(2022年12月1日開催)
本セミナーでは、女性が働き続ける中で課題となる健康について、野菜摂取の促進を軸とした企業の健康投資の見える化や、ウェルビーイングについてお話しました。
また、2023年8月29日には、働く人の睡眠をテーマに、NTT PARAVITA株式会社との共催セミナーを開催しました。
【健康経営を続ける上での睡眠の必要性】従業員の生産性向上からストレス低減、女性活躍推進まで幅広く効果を発揮!
このセミナーでは、健康経営優良法人の認定を取得されている企業、これから取得に向けて施策を考えている企業に向けて、「睡眠不足と認知機能」「睡眠に問題がある社員の対応事例」「従業員の睡眠改善について会社ができること」など、産業医としての経験と精神科医としての医学的見解から解説しました。
上記以外にも、さまざまな企業・団体及びインフルエンサーなどからお声がけをいただき、共催セミナーを企画中です。
新サービスであるオンライン社内診療所「Fair-Clinic」をはじめとして、フェアワークでご提供しているサービス、フェアワークグループで実施している産業医やメンタルクリニックの診療、さらに他社とのコラボセミナー等の取り組みは、すべての人がそれぞれの強みを発揮し、互いに高め合っていく社会を実現するために取り組んでいるものです。
フェアワークの経営理念である「すべての人々が健康かつ幸福に社会参加する世界を創る」を実現するために、私はこれからも臨床現場と経営両面から、企業の人的資本経営をサポートして参ります。
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