富士電機機器制御の真面目で真摯なものつくり 世界的な部材不足の中、なぜ生産を続けられたのか?その秘訣は、部品加工から組立・出荷まで一貫した「工場の強靭化」
この2年、FA業界は未曾有の部品不足と納期問題で大混乱した。部品がないから作れない、納期も未定というFA機器メーカーが多くあるなか、富士電機機器制御の生産事業を担う電磁開閉器の吹上事業所、ブレーカの大田原事業所、コマンドスイッチの秩父富士は、いずれもこの深刻な部品不足のなか、一度も生産を止めることなく、製品を作り続けてきた。
通常通りとはいかないものの、少しでも早くお客様に製品を届け、真摯にこの問題に取り組んできた。生産を続けることができた理由は、長年にわたって地道に積み重ねてきたBCP、リスクヘッジの賜物であり、サプライチェーン強靭化を強く意識してきた成果であると関係者はいう。
多くのFA機器メーカーが大混乱に陥るなか、なぜ富士電機機器制御は生産を続け、納期の状況を明確に伝えることができたのか?その秘密に迫る。
代表的な製品:左から順に「電磁開閉器」「ブレーカ」「コマンドスイッチ」
FA業界全体を襲った部品不足と納期問題
コロナ禍やロシア・ウクライナ問題など、2020年以降世界は同時多発的に多くの困難に見舞われた。その影響は製造業のサプライチェーンにも大きな影響を及ぼし、今もその余波が続いている。
2021年に半導体不足で自動車が作れない、工場が停止するというニュースが世間を騒がせ、世界的な半導体の供給不安にフォーカスが当たった。それと前後して、樹脂材料も不足気味になり、銅をはじめとする金属価格も高騰し、全般的に材料・部品の調達がとても難しくなった。
これはFA業界も例外ではなく、半導体に加え、樹脂と銅という最も基本的で重要な部材が入手しづらくなったことによって、サプライヤーや協力工場からの部品供給が滞り、最終製品の生産ができず、納期はどんどん延びるばかりであった。さらに、追い討ちをかけるように入手困難の情報が飛び交ったことでパニックバイが起き、1年以上先の注文まで殺到し、通常時の2倍・3倍の受注が発生し、混乱に拍車をかけた。そのためメーカーに納期を問い合わせても十分な回答は得られず、最長のものでは1年以上または未定というものもあり、「これまでに経験したことがないくらいの規模だ」「ある特定の1社だけでなく、どのメーカーに聞いてもダメだ」「どこにあるのか教えて欲しい」という声が当たり前になるくらい業界全体が危機的な状況に陥った。
写真:吹上工場生産ライン
生産を継続し、納期も見えていた富士電機機器制御
富士電機機器制御も多分に漏れず部材不足に見舞われ、納期問題でお客様にご迷惑をおかけしていた。一方、多くのFA機器メーカーが、ものが作れない、いつ納品できるか分からないという回答に止まったのに対し、富士電機機器制御はペースこそ落としながらも生産を継続し、お客様に納品を続け、また、納期状況レポートの展開も数多く実施してきた。
こうした甲斐もあり、お客様からは多くのお叱りをいただいた一方、納期問題に真摯に向き合い、お客様に情報をオープンにする姿勢を貫いたことを評価する声も多くいただいたという。
社内一貫体制 ~なぜ生産を継続できたのか?~
では、これらの工場が、何があっても製品を作り続け、納期の状況を明確に回答をするという姿勢を貫くことができたのか?
その理由は、これまで富士電機機器制御が長年に亘り築き上げてきた「一貫生産を中心とした工場の生産能力の強化とサプライチェーン強靭化」の成果。
吹上事業所、大田原事業所、秩父富士は生産品目こそ異なるが、いずれも外部からの調達品をなるべく少なくし、主要な部品は素材を仕入れて自前で作る「一貫生産」をとっていることだという。部品から完成品の生産まで社内で手掛け、外部環境に影響されにくい体制をとることでサプライチェーンを強化し、それが部材不足のなかでも生産継続を可能にした結果である。
写真:大田原工場生産ライン
ねじとばね以外の構成部品は自社生産
例えば秩父富士で製造しているコマンドスイッチは、本体の樹脂部品と接点の金属部品、そのほかにねじやばねなどの機械要素部品で構成される。このうち、ねじとばねは市場で入手しやすい汎用品のため外部調達とし、それ以外の樹脂部品と金属部品はほぼ全て社内で製造している。
樹脂成形品は、素材として樹脂ペレットを購入し、社内にある射出成形機で1から生産。電極と回路に使う銅部品も、銅板を仕入れてプレス機で打ち抜いて自社製造している。樹脂部品の製造ラインには射出成形機30台以上がズラリと並び、24時間体制で樹脂部品を作り続け、隣のエリアでは同じくプレス機が一定のペースで金属部品を打ち出している。
更に、これらの加工に使う金型も自社に専門の部門を設け、金型の設計から製造、メンテナンスまですべて自社で手掛けている。
写真:(株)秩父富士 LED検査工程
「外部調達が難しい品はすべて自前で作り、内製率を高く保つようにしている」とのこと。
「他のメーカーは外注比率が高く、彼らが生産できなかった最大の理由は、必要な部品をすべて揃えるのが難しかったことだと思います。それに対し当社は、樹脂も金属も、およそ70%の部品を社内で加工しており、素材さえ手に入れば自分達で部品を作って生産ができます。この違いが大きかったのではないでしょうか」と生産の担当者はいう。
写真:(株)秩父富士にてお話を聞かせていただいたご担当者
吹上も樹脂成形品を社内製造。大田原は見える化
社内一貫生産は電磁開閉器を生産する吹上事業所も同様で、以前から内製化比率を高め、樹脂成形品はコロナ禍が起きるずっと前、7年以上前に成形工程を他の工場から移管して社内製造できる体制を整えている。また、ブレーカを生産している大田原事業所も、SCM(サプライチェーンマネジメント)改革、自働化、見える化カイゼンを10年以上取り組み続けてきたことや、過去にもあった部材調達難からの苦い経験等を活かし、小回りが利く工場へと変革を進めてきた結果がこうして生きているとのこと。
生産を止めない ~グループ間の調達力と、拠点でのものつくり~
しかし社内一貫生産と言え、樹脂も金属素材は世界中で逼迫し、他社と取り合いの状況が続いており、素材が調達できなければ生産もできない中、この素材の不足感にはどう対処したのだろうか。
「素材調達の面では、富士電機グループ間で情報共有をし、世界中から素材を確保することができました。素材の調達は各企業の調達力・交渉力に左右されます。この2年間、素材も部品も不足していた状況では、中小規模の製造メーカーでは調達が難しく、『作れない・納められない』という状況が数多く発生してと伺っておりますが、当社はこのようにグループ間で連携をした『規模での対応』が上手く機能し、なんとか乗り越えることができたと思います」と担当者は語る。
写真:吹上工場にてお話を聞かせていただいたご担当者
リスクヘッジを意識したものつくり
さらに製品についても、設計変更や使用できる部材を拡大し、1社調達よりも選択肢を増やし、より調達がしやすく、生産を継続しやすい環境を整備しました。開発担当者いわく、
「今回の部品不足以前から地道に取り組んでいたこととして、部品に使う素材については、1社に限定せず、複数社で作れるように準備をしていました。
例えば、A社製の素材を使っていたところに、B社製も使えるようにすることで、1社調達による素材の調達難での影響が出ないように、設計変更や材料評価を以前から行っていました。特に弊社の場合、独自の評価部門があり、材料評価と設計が同時にスピーディーに行えるという特長があります」
コロナ以前から整備してきた一貫生産とサプライチェーン強靭化
社内一貫生産、グループ調達力の活用、使用可能部材の拡大など、ここまで紹介してきた取り組みは、コロナ禍になり、部品不足による納期問題が出てきてからスタートしたものではない。これからはBCP、サプライチェーンの強靭化が必要であるとし、何年も前から試行し、整備してきたものである。
社内一貫生産の整備は、リーマンショックをきっかけに取り組みをはじめ、もう十年以上になる。リーマンショックで製品の需要が激減する一方、工場や従業員は従来通り変わらないことから、お客様のそば、消費地に近い場所で、なるべく自分達の手で作る方向性を打ち出し、分業や海外生産中心から、工場の集約や内製化、国内生産の強化へと舵を切った。
富士電機グループ間での連携、設計変更や使用可能部材の評価と追加も同様で、そのほとんどはコロナ禍前から取り組み、今回慌てて始めたものではない。
実際に秩父富士では「一貫生産と内製化は昔からやっていましたし、納期問題が取り沙汰されるようになった際も、しっかり作って納めることに集中しました」と担当者はいう。
普段からBCP、サプライチェーンの強靭化を欠かさないことと、それらを常に鍛えていくという富士電機の社内文化、伝統として根付いているのが最大の強みであり、今回の生産継続ができた最大のポイントではないだろうか。
安心を伝える ~お客様のために明確な納期状況にこだわりたい~
今回、長く取り組んできた社内一貫体制とサプライチェーンの強靭化は、この大混乱のなかでの情報管理やお客様とのコミュニケーション面に関しても良い効果をもたらした。今回、富士電機機器制御は納期情報レポートの更新頻度を多くしたことで、お客様から「生産計画を立てるのにとても助かった」との声を数多くいただいたようだ。
他社はサプライヤーからの納期が分からないこともあり、「○○カ月以上」や長いものは「未定」とするなど曖昧な回答をせざるを得ず、情報の更新頻度も数カ月に1回程度にとどまっているなかで、富士電機機器制御の場合、部品から完成品までの一貫生産をしていることにより、素材の納期と仕入れ量、保有在庫量から、どの部品が、どれくらいの数量を、いつまでに作れるかという計算ができ、そこから完成品の大まかな納期目安が算出することができた。そのため納期状況は「○○カ月〜○○カ月」と具体的に期間を区切って情報提供し、また納期状況の更新も状況が変化したらすぐにそれらを公開、お客様へのレポートも2年間で延べ36回を数える。
「最新の納期状況はお客様が一番必要とし、知りたいものなので、月2回は必ず出すことを目標として決めていました。また〆切を切ったのは、お客さまのため。お客様が納期状況を必要とするのは、自社の生産計画を立て、お客様のお客様に回答するため。それを私たちが「○○カ月以上」と回答していては、お客様は生産計画を立てることができなくなります。何カ月で確実に入ると〆切を切ることでお客様も生産計画が立てられます。今回はそこにこだわったことで、喜びの声も多くいただけましたが、これらも普段からおこなっていたものを強化しただけです」と担当者は言う。
写真:大田原工場にてお話を聞かせていただいたご担当者
今後の展望 ~技術承継やデジタル活用でさらに進化する一貫生産~
業界を挙げて解消に向けて取り組んできた甲斐があり、部材の調達がスムーズに行くようになり、生産力の強化もあって少しずつ正常化に近づいてきた納期問題。とは言え、まだ通常納期よりは長く、現在も正常化に全力を注いでいる最中であるが、この先どんな取り組みを進めていくのだろうか。
吹上事業所や大田原事業所では、これまでの一貫生産に、デジタル技術を加えて、さらなる高度化を目指すという。
「実際のところ、一貫生産は自分達の手で部品加工や部材の管理をしなければならず、その分の手間が増えています。現状の人手のまま、安く効率良く製造するためにはデジタル技術の活用は不可欠です。そこで、合理化の手段のひとつとしてデジタル化のエッセンスを加え、低コストで効率的に作れる仕組みを検討しています。
例えば、デジタルで遠隔からも材料の移動状況が分かるようにしたり、一貫した見える化を進めたいと考えています。ものづくりがせっかく一カ所に集約されているのだから、デジタル技術を活用し、さらに見える化を進化させれば、もっと効率化できるはずです」
また、秩父富士では、金型の設計・製造から、部品加工、組み立て、検査までの一貫生産にとどまらず、工場内の自動生産装置の設計・製造も自ら手がけており、さらに自動化率を高め、より生産力を強化したいとのこと。
「製造業における労働人口の減少により、安定したものづくりのためにもっと自動化を進めなければいけません。まだ最終組み立てや目視検査など人の手作業で行っている工程もあり、そこは手から機械へ、自分達の強みを活かしたものづくりに進化させていきます。社内に生産技術、自動生産装置を作る部隊がいるからできることであり、今後に向けて、この自動化の技術と思想を次の世代に伝承していきたいと思います」と想いを語って頂いた。
最後に
富士電機機器制御では、部材不足、納期問題が起こる前から『社内一貫生産』によるサプライチェーンの改善を行い、部品の内製化率を高め、どんな状況になっても『生産を止めない』工場の強靭化を進めてきた。
そして、調達難の中では、『情報発信力』を強化し、お客様へ製品を届け続けた。
「実際にはこの2年間で起きた事態は想像をはるかに超えるもので、当社も納期の長期化を避けることはできず、お客様にご迷惑をおかけしてしまいました。しかし、その環境下でも一貫生産によって『生産を止めなかったこと』『納期状況レポートを発信し続けられたこと』は事実としてあり、高い生産力・供給力に自信を得た反面、改善点も見えてきました。
今後も引き続き一貫生産を磨き上げ、どんな状況下でも平常時と同じ生産を行い、お客様に安定した製品供給できるように、さらに取り組んでまいります」
と、吹上、大田原、秩父の担当者は口をそろえて熱く語ってくれた。
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