油ハネと油の劣化を抑え、揚げ物をより美味しくする「クールフライヤー」の開発。安全で環境にやさしい厨房実現への挑戦。
世界各国で愛される揚げ物ですが、その美味しさの裏には、火災や、油ハネやそれにともなう火傷のリスク、オイルミスト、油の劣化など、調理・清掃などの運用面でも、また食用油の高騰など経済面でも課題が山積しています。クールフライヤーは、これらの課題を独自開発の技術によって解消し、揚げ調理の概念を一新する革新的な調理機器です。既に4件の特許を取得し、2021年の発売以降、導入店様からは「油の交換頻度が減った」「油切れが良い、軽くておいしい」「厨房の熱気が改善した」「もう手放せない」など様々な反響をいただいており、そうした評価が徐々に浸透しつつあります。
- なぜ油ハネしないのでしょうか?
- 本当に油の劣化を防ぎ、使用量を減らすことができるのでしょうか?
このストーリーでは、60代でクールフライヤーの開発・事業化を成し遂げ、70代の現在も第一線で研究開発をリードするクールフライヤー株式会社 創業者の山田光二が、クールフライヤーの開発経緯、技術特性を解き明かし、クールフライヤーが見据える、飲食業と食卓の「揚げ物の未来」をご紹介します。
故障多発で市場撤退したフライヤーへのポジティブな反響に着目
起業前は日本ビクター株式会社で、営業、商品開発、ネットショッピング事業などに携わりました。ネットショッピング事業では、1990年代前半は前例のなかった「ネットで商品を購入、コンビニで受け取り」といった仕組みを提案し、社内起業で実装化を経験。このような経験から「自分自身で事業をやってみたい」という想いが強くなり、2004年、54歳で早期退職を決めました。実はこの時、具体的な事業計画はなかったのですが、大学時代の友人に偶然再会し「仕事を手伝ってほしい」と言われた、それがフライヤー開発の仕事だったのです。
その後2006~2008年の間、フライヤーの研究開発に携わり、特許出願なども手がけましたが、その製品は複雑な構造のため故障が多く開発・事業とも頓挫しました。しかし話はこれで終わりではありません。後に偶然、導入先の食品スーパーから次のような声があがっていたことを耳にしました。
• 美味しくて売り上げが上がっていた
• 油の消費量が明らかに減った
• 厨房がきれいになった
• 完成したらまた持ってきてください
これが私の大きなターニングポイントになりました。揚げ調理は未解決の課題が多い領域であること、課題解決を待ち望むユーザーが多く存在すること、そして、解決できる可能性があることを直感した瞬間です。
「シンプルな構造で高性能なフライヤーができれば、飲食に携わるユーザーが喜ぶだけでなく、経済的、環境的にも貢献できる」。
社会貢献にも繫がる、大きなビジネスチャンスだと確信し、自宅の一室で独自の研究開発を始めました。早期退職から5年後、2009年のことです。
油の飛散と劣化を軽減する「クールフライヤー」発明の原点
過去の経験を振り返りながら、新たなフライヤーの研究を進めるなかで、「これなら」と思う構造を友人たちに話したところ、「おもしろい」という話になり、そのつてで板金工場のオーナーが実験機の試作に協力してくれることになりました。そこでこだわったのが、実験機の油槽の側面に耐熱ガラスで「のぞき窓」を設けてもらうことです。実験機で揚げ調理を行った際の油槽内部の変化を詳しく観察したいと考えたからです。その結果、食材の水分が油槽の底部に降下していく様子、上部の高温の油と下部の低温の油との間に境界面ができる光景に目を奪われました。その後も調理実験、観察、検証を繰り返すなかで、水分の気化による気泡が油の攪拌を招き劣化の要因となることを突きとめました。そして、この発見がきっかけで「水分が油槽下部の低温油槽に沈殿する仕組み」を素早く、安定的に実現できれば、油ハネと、それにともなう油の劣化を抑制する新たなフライヤーを製品化できるという確信に至りました。これが「氷を入れても油ハネしない」、クールフライヤーの構造的特徴である「油槽の周りを水槽で覆って冷却構造を作る」発明の原点です。
資金不足による小型化が産んだ新たな可能性
2012年に最初の特許を出願。製品もかなりの完成度に達したと判断し、2014年7月にクールフライヤー株式会社を設立しました。実はこの間、ベンチャー企業ならではの試練もありました。当初は大型機の製品化を目指していましたが、資金面などで長期間にわたり実験できる環境の確保が難しく、自宅で継続的に実験可能な小型機の開発に転向したのです。これが結果的に現在、お客様から「キッチンカーで使えそう」「ブッフェなどにも使いたい」といった声をいただいている小型卓上機の原点となりました。
独自開発のヒーターと検証実験が手がかりになったフライヤー改良
会社設立後も試作を重ね、2017年には「ものづくり補助金」に採択が決定しました。勢いを得て従来のフライヤーとは一線を画し、デザイン性も重視した試作機を製作。いよいよ製品化、と思ったのも束の間、補助金で行った比較実験で、油ハネの抑制や劣化抑制などの性能において思うような結果が得られず、夢は持ち越しとなりました。一般フライヤーよりは概ね良い結果だったのですが期待値には程遠く、原因究明と改良のための研究開発が始まりました。
試作機の改良に取り組むなかで、ヒーターの研究が不足していたことに気づき、独自で実験用のヒーターを開発し、これが様々な発見に繋がりました。小型機に切り替えたことで浮上した構造上の弱点の解明と改善にも繋がり、家庭用の展開など、将来の製品開発のための足掛かりもつかむことができました。
改良と検証実験を繰り返し、2018年、油ハネと油の劣化を抑え、オイルミストも抑え、美味しさを向上する可能性のある技術を確立したとの確証を得て、新たな特許出願に至りました。
その後も製品化に向け改良を重ねる中で、コンビニエンスストアのオーナーからリクエストを受け、1日10kgの揚げ物を10日間、合計100kgを同じ油で揚げ続け、油の酸価(※1)を計測するという調理実験も行いました。通常のフライヤーでは、同じ条件で3~4日で、厚生労働省の規定で使用不可とされる酸価値の2.5を超え、油の交換が必要となるところ、クールフライヤーでは0.69(※2)と、数字で見える驚異的なエビデンスを獲得することができました。
(※1)油脂中に含まれる遊離脂肪酸の量を示す値で、油の精製度合や加熱による劣化の程度の指標として使用される。数値が高いほど劣化が進んでいることを示す。
(※2)一般社団法人 日本食品分析センターでの分析結果
濾過器不要、安全で効率的な油回収を実現する「クールポッド」開発
フライヤー本体の改良、製品化と並行し、専用の油の回収装置の開発も進めていました。水分や揚げカスが油槽底部に沈澱する構造のクールフライヤーの特性を活かすことで、濾過器が必要な従来型の油の処理方法を、抜本的に変えることができるのではと考えたからです。そこから、調理後のフライヤーから上層部の油だけを回収するという逆転の発想で、水分や揚げカスの沈澱と油の冷却を待って、再利用可能な油のみを自動でタンクに回収するという技術開発に成功しました。フライヤーの周囲および油槽の汚れを落としたあと(ここまで調理終了から1分)、本体に専用のノズルを差し込みスイッチを入れるだけ。高温の油を扱う危険のないクールな油回収装置、クールポッドの誕生です。これが4つ目の特許になりました。
コロナによる製造中断を改良期間に。クールフライヤーとクールポッドは世界に通用する製品へ
2021年6月、クールフライヤー(CTF-7)の初号機が完成。そこから20台ほどを製造しました。研究開発スタートから12年が経過していましたが、その後もさらに苦難が待ち受けていました。
コロナ禍に端を発した世界的な半導体不足のあおりを受け、1年以上にわたり製造がストップしてしまったのです。しかしその間にさらなる改良に専念したことで、製造再開後は性能だけでなく耐久性・品質の安定性についても誇れる状態となったので、悪いことばかりではありませんでした。
こうして、油回収装置のクールポッド(CP‐A7)とあわせ、4つの特許で「揚げ調理」を一新する製品として、日本と世界の食文化およびSDGsにも貢献する製品として、自信をもってご紹介できるものになりました。現在は卓上小型機のみの展開ですが、個人経営の飲食店様を中心に全国からお問い合わせをいただき、チェーン店様からの引き合いも増えております。大型機の開発も鋭意進めておりますが、開発をお待ちいただきつつ、現行サイズのフライヤーを複数台導入いただき活用いただいているお客様もいらっしゃいます。一方で、クールフライヤーの技術は小さな家庭用にも展開可能で、家庭用事業も検討段階にあります。実現すれば、ご家庭の食卓で油ハネを心配せず、油の交換頻度も気にせず、揚げ物を今よりずっと気軽に楽しんでいただけるようになるでしょう。
【今後の展望】富士工業との協業プロジェクトで、厨房の脱炭素化に貢献
2023年9月には、神奈川県が主催するオープンイノベーション推進プログラム「ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK)」にて、換気装置の国内トップメーカーである富士工業株式会社様との協業プロジェクトが狭き門である「脱炭素枠」で採択されました。プロジェクトは油煙・排熱などの大幅削減を実現するクールフライヤーと、冨士工業様の空調エネルギーロスを大幅削減できるダクトレス調理油煙回収ユニットを組み合わせた脱炭素・省エネ厨房システムを開発するものです。神奈川県の支援のもと、CO2削減効果や低コスト・省資源・省エネルギー効果の定量的エビデンスの獲得に向けた共創実証を行い、飲食店やコンビニエンスストアに向け、店舗設計を「脱炭素型・省コスト」に一新する省エネ厨房システムとして事業化を目指します。
クールフライヤー導入店から伺う実効果と満足度
最後にいくつか、導入店様の主なコメントとインタビュー動画をご紹介いたします。
ご興味をお持ちいただけましたら、お近くの店舗があればぜひ足を運んでいただき、油ハネを防ぐことで油の劣化を防ぎ、油の鮮度が保たれることによる油切れの良さ、長持ちする美味しさを、実際に体験していただければ幸甚です。
「1ヶ月の油の使用量が断然に減ります」 ―居酒屋(中央区勝どき)
「かき揚げの注文がよく入るように。油消費量も半分以下」―蕎麦屋(大阪市)
「これは揚げ物と?思うほど、さらっとした仕上がり」―和食居酒屋(横浜市)
「口当たり軽く何個でも食べられる仕上がりに」―揚げピッツァ専門店(泉佐野市)
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