”Farm to Bar” 南房総のサトウキビを復活したラム酒の製造「Rhum de la Péninsule de BOSO」。地域から世界へ発信したい、サステナブルな取り組みの背景とこれから
千葉県南房総市でかつて行われていたサトウキビ生産を復活してラム酒の製造を行なっています。熟成に南房総の山々に群生しているマテバシイの木を利用することやサトウキビを資源として活用することで様々な地域課題にも取り組んでいます。
社名の「ペナシュール房総」は、フランス語で房総半島の意。
世界の銘酒に⽣産地の名称を冠するものが多いこと、良質なラム酒の名産地がカリブ諸島のフランスの海外県であることに由来して名づけました。
「南房総のサトウキビ」を搾り「古⺠家蒸留所」で醸造し「釜の蒸留器」を使って蒸留して「マテバシイの⽊」を利⽤して熟成する…
まさしく房総の⾃然を詰め込んだ千葉県房総半島ブランドのラム酒を私たちは造ります。
またサトウキビ⽣産や活⽤を通じて、耕作放棄地の再⽣、援農による交流⼈⼝の増加、
⽜の飼料とすることでの耕畜連携、搾りかすであるバガスの菌床を使ったキノコ栽培などを⾏うことで地域を連携しサスティナブルな事業を確⽴します。
いつしか房総半島発信のラム酒が世界を駆け巡り、
世界中の酒場で「BOSOを⼀杯︕」とオーダーしてもらえることが私たちの⽬標です。
今回は、弊社のサトウキビを使ったラム酒製造プロジェクトの背景についてお伝えいたします。
サトウキビを使ったラム酒製造プロジェクトの背景
真冬に露地花が咲き誇る南房総は関東随一のサトウキビ適地
南房総は暖流の⿊潮が沖合を流れる影響を受け、海岸沿いの地域の無霜地帯では1⽉から露地花が咲き誇る温暖な地域です。
サトウキビと言うと大生産地である沖縄や⿅児島をイメージされると思いますが、江戸時代には日本の砂糖は「和三盆」で知られる四国地⽅を中心に生産されており、緯度も平均気温も近い南房総は関東圏においては最もサトウキビの生育に適した地域と言っても過言ではなく、昭和50年代くらいまでは盛んにサトウキビ生産が行われていました。
九州沖縄農業研究センターの論⽂で、房総半島の外房、内房共にサトウキビの⾃⽣が発⾒された調査データもあります。
2019年に南房総市を通して「南房総のサトウキビ」を千葉県の地域産業資源に認定していただきました。
地元のお酒好きが集まる「Bar Chidoriashi」。サトウキビを使ったラム酒を仲間との会話から企画
ペナシュール房総代表の青木大成は、南房総市千倉町で3代続く寿司割烹店「ちどり」の店主でもあります。
2017年、事業承継を契機に2号店のちどり別館をリノベーションし、店内に本格的なBarスペース(Bar Chidoriashi)を備えた会食処としてリニューアルオープンしました。
以前から頭の中にあった南房総でのサトウキビ生産とラム酒製造のイメージを地元のお酒好きな仲間たちと日々このBarで話している内に漠然としていたイメージが段々と具体的なものになり、青木はこの計画を「Rhum de la Péninsule de BOSO」と名付け企画書としてまとめることにしました。
台風にも負けず成長していくサトウキビに勇気をもらい、本格的な事業開始に決意表明
そんな酒席での話がいつの間にか広がり、ある日、耕作放棄地の活用を目指す地元の高齢者の方々から一緒にサトウキビを生産しないかと声をかけていただき、2019年3月より1反ほどの畑を借りてサトウキビの試験栽培を開始しました。
夏を過ごし想像以上に成長したサトウキビ。
期待に胸を膨らませながら収穫やサトウキビの活用などを計画していた矢先にやってきたのが「令和元年台風」でした。
今まで経験したことのないダメージを受けた地域と人々。
瓦礫の片付けや処分、破損した住居などの対応に1ヶ月以上追われながら、ようやく落ち着き始めたタイミングで畑を見に行くと、強風に捻じ曲げられたサトウキビが健気にも太陽に向かって伸び続けていました。
その姿が復興に向かう自分や地域とシンクロして勇気づけられた青木は、ラム酒製造を本格的に事業化しようとSNSページを立ち上げ決意表明しました。
SNS発信をきっかけに地元だけでなく、全国各地からサトウキビやラム愛好家、酒造専門家、Bar関係者などが援農やサトウキビ活用の試作に駆けつけてくれることとなり、南房総ラム酒製造計画 Rhum de la Péninsule de BOSOはさらに進化して行きました。
サトウキビ圃場拡大〜房総大井倉蒸溜所設立までの道のり
CHIBAビジコンでの「ちば起業家大賞」受賞が事業化の追い風に
プロジェクトのサポートメンバーのひとりに企画書を見せながら事業化の相談をしていたところ、千葉県が主催する「CHIBAビジコン」への出場を勧められエントリーすることになりました。
なんとか予選を通過し、2021年1月に行われたファイナルプレゼンテーションで、最高賞である「ちば起業家大賞」と協賛企業5社からサポーター賞をいただきました。
このビジコン受賞がきっかけで、Rhum de la Péninsule BOSOは、事業化に向けて一気に舵を切ることとなります。
農地所有適格法人きびラボ設立とサトウキビ圃場の拡大
ビジコン受賞が地元紙で記事になったことで、地域の農地を管理する組合の方々から圃場を使って欲しいとの提案が殺到し、その中から以前に花摘み観光で賑わっていた畑で、高齢化と台風被害の影響で耕作放棄地が増えていた千倉町平磯区の海岸沿いの圃場を借り受けることにし、農業用の法人である合同会社きびラボを設立、南房総市の認定を受けて認定農業者となりラム酒事業化に向けた本格的なサトウキビ生産を開始することになりました。
1年目に1町歩(1ha)でスタートした圃場ですが、順調に拡大し3年目の現在は別の圃場を含め2町歩(2ha)のサトウキビ生産を行っています。
今後は2024年から開始するサトウキビ酢の生産分を含め自社農園を3町歩(3ha)に拡大、それ以降は地域の農業者に働きかけて農法を共有した委託生産を実施して買い取りを行う予定です。
地域の環境を活用した、ラム酒専用のサトウキビ生産。こだわりが詰まった自然栽培
各地のほとんどのサトウキビ生産が製糖のために行われている一方で、弊社のサトウキビはラム酒のためだけに専用で生産されています。
それはさしずめブドウ畑から手をかけてワインまでを製造するワイナリーの様なイメージで行っており、ラム酒の味わいや香りに影響するであろうミネラルや滋味をたくさん含んだサトウキビ作りを目指して様々な工夫を凝らしています。
農薬や化学肥料を一切使用しないことはもちろん、鎌による手刈りの雑草処理(雑草マルチ)や地元の酪農家にバガスを飼料として提供して堆肥と交換する耕畜連携、ラム酒製造で出る蒸留廃液や不活性酵母を使用した土壌管理、海岸に打ち上がる海藻を肥料として使用するなど、地域の環境をできるだけ活用してラム酒に房総のテロワールを存分に含ませることを目的とした自然栽培を「房総環境活用農法(Boso Environmental Utilization Agriculture)」と名付け、専門家の協力も得て日々研究を重ねています。
いよいよ蒸溜所を設立。オリジナルラム酒製造への大きな一歩
大きな蒸留器を設置できる製造場の候補地を探していたところ、千倉町の山間部にある青木の親戚の古民家を譲ってもらえることになり、いよいよ蒸留所設立工事を開始。
2022年6月に改修工事と設備導入が完了、7月にはスピリッツ製造免許が交付され房総大井倉蒸溜所が誕生し、BOSO Rhumの製造が開始されました。
築150年の大きな山門を備えた古民家をリノベーションした蒸留所。コーポレートカラーの黄色は千葉県の花でもある菜の花をイメージ。
2つの蒸留機で様々なラム酒の製造を可能に
蒸留所のシンボルとなる蒸留器は2基設置されています。
1基は同じ千葉県の袖ヶ浦市に拠点を持つコトブキテクレックス社製のハイブリッド蒸留器で、連続式蒸留と単式蒸留を切り替えて使用することができるタイプ。
もう1基は、プロジェクト開始から設計を練り続けてきた給食などで使用する大きな釜を改造した完全オリジナルの蒸留器です。
この釜蒸留器は、蒸留塔をラム酒製造に合わせて専用設計しており、また蒸留塔が完全に分離することでスパイスドラム製造時などに行うボタニカル(香り成分)を使った浸漬蒸留後の残渣の処理も簡単にできます。
さらに蒸留塔の突起の部分にボタニカルや銅などの触媒を入れることでラムのフレーバーをコントロールしたり、通常の蒸留器よりも幅広い温度帯で蒸留を行えるため、2基の蒸留器を駆使して様々なタイプのラム酒の製造を行うことが可能となっています。
左がコトブキテクレッックス社製のハイブリッド蒸留器、右がオリジナルの釜蒸留器。
BOSO Rhumの誕生とこれから
BOSO Rhum Prologue(房総ラム プロローグ)
本格的な製造に先駆けて、事業化以前に書き留めていた様々な製造方法を試す期間を設けてスモールバッチ(少量製造)で色々な原酒の製造を行いました。
心配していた2基の蒸留器の性能や特性、用意した数種類の酵母と南房総サトウキビの相性や発酵時における実験的な技術もおおむね予測通りの結果となり、正規品となるラム酒の製造を開始しました。
この時に製造された原酒を味わいを調整しながらバッティングした(混ぜた)ラム酒を「BOSO Rhum Prologue」としてボトリングし、クラウドファウンディング限定で先行リリースしました。
このクラウドファウンディングで支援いただいた資金で、長屋門の2階を試飲室、蔵を熟成庫に改修し、蒸留所としての機能をさらに高めることができました。
BOSO Rhum blanc Agricole Soleil-太陽-(房総ラム アグリコール ソレイユ)
最初の正規品として2023年8月にリリースしたのが、ペナシュール房総の象徴的なアイテムとなる「BOSO Rhum blanc Agricole Soleil -太陽- 700ml/59%/7000円(税別)」です。
正規品のネーミングは南房総市として合併する前の千倉町のキャッチフレーズ「花と海と太陽のまち」にちなんで「Fluer(花)」・「Mer(海)」・「Soleil(太陽)」と名付けてそれぞれを位置付けています。
アグリコールラムとは、サトウキビの搾汁液をそのまま発酵させて製造する世界でも希少なプレミアムラム酒です。
房総環境活用農法で育てた自社農園のサトウキビを手作業で収穫から搾汁を行い、搾りたてのサトウキビジュースを可能な限りサトウキビの力による自然発酵を目指しながら仕込んだこのラム酒は、南房総の滋味やテロワールを詰め込んだ、香りと味わい豊かな仕上がりになっており、サトウキビ収穫期間のみで生産される限定商品となっています。
当初の計画では最初のリリースは5月を予定していましたが、昨今の国内のガラス瓶業界の不況と品薄が影響し、元々デザインから作る予定だったボトルの企画がなくなってしまったことやその後に使用を決定したボトルが廃盤になってしまったことなどがあり、3ヶ月遅れてのリリースとなりました。
こちらのSoleilは、販売開始から20日間で1000本の在庫がなくなる人気商品となりました。次回は現在行っている収穫と製造を経て2024年夏頃に販売予定です。
BOSO Rhum Fleur-花-(房総ラム フルール)
正規品第2弾として翌月にリリースしたのが、通年販売アイテムとなる「BOSO Rhum Fleur -花-」。
こちらは、トラディショナルラムと呼ばれるタイプで、製糖の工程での副産物であるモラセスを原材料とした世界でもスタンダードな製法のラム酒です。
こちらの製品化で最も苦労したのが、原材料となる食品グレードのモラセスの入手でした。
他の国では比較的入手しやすいと聞いていたモラセスですが、日本国内においては製糖技術の向上で産出が極端に少ないことや他の食品製造に使用されているなどの背景があり、ラム酒製造用に供給を確保するのが難しい状況でした。
やむを得ず海外からの仕入れも探し始めていたところ、サトウキビ収穫へサポートに来てくれている方の紹介で、比較的近くにある製糖メーカーに相談に乗ってもらえることになりました。
いくつかご提案をいただいた中で、最もラム酒の原料に適していると判断したものが、日本独自製法の砂糖が作られる過程で産出される、香りが高く上品な甘さや味わいを含んだモラセスでした。
このモラセスで試作したラム酒は、独特の華やかな香りや甘さ、酸味をまとったトラディショナルラムとなり、製品化に向けて発酵のテストやサトウキビの葉を使用したヴェイパーインフュージョン(蒸気抽出)などを繰り返した末に、ようやく「BOSO Rhum blanc Fleur -花-(フルールブラン)」が誕生しました。
さらに原材料となった良質なモラセスの風味と甘味も商品として味わっていただきたいと考えて、フルールブランに酒税法でスピリッツとして認められる量のモラセスを加えた「BOSO Rhum Fleur -花- Contient de la mélasse(フルールメラス)」がラインナップに加わりました。
共に、700ml/40%/3600円(税別)
BOSO Rhum Fleurシリーズは、ラム酒をBarなどの専門的な場所だけでなく幅広いシーンで楽しんでいただけるアイテムとして提案されており、シンプルなソーダ割りを推奨した「BOSOハイボール」を中心にプロモーションを展開しています。
BOSOハイボールプロモーション用のポスターと三角POP。
BOSO Rhum Mer-海-Cuvée spéciale(房総ラム メール キュヴェスペシャル)
正規品の基本ラインナップの第3弾となるのが「BOSO Rhum Mer -海-」です。
他の2種とは違い、キュヴェスペシャルと呼ばれるカテゴリーで、ペナシュール房総独自の製法やテーマで少量製造を行う限定シリーズとなります。
2024年初頭に発売を予定しているのは、世界でも製造方法が謎とされカリブの一部の蒸留所でしか造られていないエステル香を多く含んだミステリアスなラム酒です。
その他にも、他業種の企業や研究機関とのコラボレーションしたラム酒や当地でしかできない製法のラム酒の開発が予定されており、ラム酒ファンのみならず多くのお酒ファンにラム酒のコアな面白さを体感していただける様なコンセプトで製造を行います。
マテバシイを活用した熟成手法の研究
今まで製造した原酒は、ホワイトラムとしてリリースしたもの以外は蔵をリノベーションしたウエアハウス(熟成庫)で熟成を行っています。
バーボンやシェリーの中古樽を中心に色々な樽に詰めて熟成を行っており、数年後には熟成を経たBOSO Rhumのゴールドやダークタイプが市場に出る予定です。
また戦時中に燃料の薪を作るために植えられて、地元の山々に群生しているマテバシイという樹があり、樽に使用するオークと同じブナ科の樹木であることから樽や熟成の素材として活用し、熟成に関してもワンアンドオンリーなシステムを構築すべくテストを繰り返しています。
マテバシイの活用は山荒れを軽減し、昨今問題となっている害獣被害の対策の一環とも捉えており、地域課題への取り組みとして他の蒸留所との連携も推進しています。
リキュール製造免許を受け、新シリーズ「BOSO RUM SPICED」が2024年より始動
2023年11月22日にリキュール製造免許の交付を受けました。
これは今世界で人気が高まっているスバイスドラムを製造するために申請していたもので、現在製造しているラム酒に香りや味を付けるためのボタニカルとして、ハーブやスパイス、フルーツ、自社製のサトウキビシロップなどを添加や浸漬することで、さらにバリエーションと個性が豊かなラム酒の開発を行います。
従来のスピリッツ製造免許でもある程度の製品化は可能だったのですが、リキュール免許があることで、制限なく自由度の高いスパイスドラムの製造が可能となりました。
最後に
その他にも、サトウキビ酢の製造やバガスを菌床として使用したキノコ栽培などを計画しており、房総半島の環境や文化を最大限に活かしたサトウキビ生産とラム酒製造を行いながら、サスティナブルで地域性の高いプロジェクトとしてRhum de la Péninsule de BOSOを世界に向けて発信していきたいと考えています。
サトウキビから生分解性の素材であるPlaXを開発するBioworks社とのコラボレーションTシャツ。ボディのTシャツはPlaX100%で製造されています。
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