ブリーダーは悪なのか。生体販売に愛を込めた優良ブリーダーと家族のマッチングサイト『ペットの実家』誕生の物語
「命に値段をつけて楽しいですか。」
令和4年度の殺処分数は、犬が1,982頭、猫は6,712頭。譲渡が適切でない(治癒の見込みがない病気や攻撃性がある等)または譲渡先の確保や適切な飼養管理の困難が背景だった。
殺処分される動物がいる中、新しい命を生み出す生体販売に対し、無念さと怒りが入り混じった嫌悪感を抱く人は多くいる。
そんな時代に、 藤本 (当時 25歳)はfumi fumi合同会社を立ち上げ、生体販売事業をスタートさせた。犬・猫優良ブリーダーと、家族を繋げるマッチングサイト「ペットの実家」だ。
犬・猫は家族にとって、一緒に人生を歩む大切な存在である。命が尽きるその時まで、私たちを無条件で愛してくれ、笑顔にしてくれるかけがえのない存在。では、私たちはどうだったか。愛してやまない家族の、本当の家族に対して、私たちは何をしてあげられたか。
ペットの実家誕生の背景には、本当の家族も豊かに暮らしてほしいという想いがあった。
ある写真から痛感した、私たちの親への無関心
「ペットは家族と言うけれど、じゃあ本当の家族はどこにいるの。母親はどんな部屋にいて、何を食べて、どうやって遊んでいるの。ケージの大きさはどれくらいあるの。大地に足を付けて走ったことはあるの。どんな風に、この子を産んで育ててくれたの。」
そう思ったきっかけは、ふと目に入ったTwitterに投稿されたある写真(現在のX)。
「まさか、本当の犬の写真だとは思わなかった。絵だと思った。」
被毛は排泄物で汚れ絡まり、瞳は白濁。身動きがとれないほどの小さな錆びきったケージ。写真からでも悪臭がするような光と魂が奪われた1枚の犬の写真。
そこに写っていたのは人気犬種No1のトイプードル。ペットショップにいるかわいいトイプードルの、親の姿だった。
悪徳ブリーダーに対し怒りが込み上げてきたのと同時に、私たちの親への無関心がこの悲劇を引き起こしたのだと痛感した瞬間でもあった。
「本当に改善しなければならないのは、私たちがペットに求める考え方だと気付きました。」
どうしたら生まれた場所も、親も、大切にしたくなるか
「迎えた子を大切にすることは当たり前。これは家族としての義務ですが、生まれた場所や本当の家族も大切にしなければならないという考えが広がれば、親の環境が分からないペットショップはおのずと規模は縮小すると思いました。
ただ、この考えをどうやって広げていけばいいか。過酷な現実を伝えていくより、もっと楽しく嬉しくなる方法がいいと思ったんですが、なかなか思いつかなかったんです。」
生まれた場所を大切してもらいたいのであれば、ペットショップからではなく生まれた場所、つまりブリーダーから迎える手法でなければならない。
ペットショップよりブリーダーから迎えたくなる「何か」。そして「ペットの実家」という場所を大切にしたくなる「何か」をご家族に提供しなければならなかった。
兄妹を迎えたご家族同士の交流をプレゼント
「何か」は、意外な方法でクリアした。兄妹を繋げる仕組みを思いついたという。
「人と違って、ワンちゃん・猫ちゃんは多頭出産です。大型犬であれば1回につき10頭は生まれてきてくれます。つまり、生涯で同じ母親から40頭の兄妹が生まれてきても不思議ではありません。異母兄弟なら200頭はいるでしょう。そこに、目をつけました。」
「SNSを使うんです。正確にはハッシュタグ。お迎えした後に、ご家族特性のハッシュタグの『文言』をプレゼントすることにしました。このハッシュタグを使うと、兄妹を迎えたご家族同士がSNS上で繋がりやすくなるんです。」
ハッシュタグとは、SNSで使う共通トピックに関する”文言”のことで、# の後に文言付け加えて使用する。ハッシュタグには、特定の人物や団体に向けての宛先のような役割も担っているため、同じハッシュタグを使用している投稿をすぐに見つけることができる。
「例えば、母親がチロちゃんだった場合。#チロちゃん とSNSで検索すると、既に他の方が投稿してくださっていれば、兄妹をSNS上で見つけやすくなります。まだ投稿されていなくても、自分が投稿すれば、今後生まれてくる未来の弟妹を迎えた家族に見つけてもらえる可能性もでてきます。」
この仕組みでペットショップでは出会えるはずのない『兄妹の今』を知ることができるというから驚きだ。
この特典でブリーダーを振るいにかけることもできる。ハッシュタグを使用するということは、ご家族同士がSNSで繋がるということだ。病気を隠して販売をするなど、ご家族に不利が生じるような引き渡しをしているブリーダーは、この特典に懸念を感じペットの実家サイトには登録はできない。
「正直なブリーダーだけを紹介でき、そしてご家族様には兄妹や親とも繋がっていただける。血の繋がった家族も大切にできる仕組みを思いついた時、これだと思いました。」
”ペットが家族を待つ”ペットショップの現場に違和感
しかし、上記の案を思いついて、すぐさま事業をスタートさせるということはしなかった。現場を確認するために、ペットショップに転職をしたのだ。そして入社後は、東京都内の店長として就任した。
実務を通して目の当たりした子犬・子猫たちは、想像以上に健康ではなかったと振り返る。
「健康ではないからといって、一生治らない病気を持っているわけではありません。まずは、ごはんを食べない。食欲がないんですね。特に入荷されてきたばかりの子猫は、環境が変わったストレスで1週間は自力で食事ができませんでした。生かすために強制給餌が必要な猫ちゃんばっかりだったんです。」
他にも、どのような環境で育ってきたか分からない犬・猫ばかりの集団生活は、感染症という恐怖と常に隣り合わせだった。
「命を落とす子もいました。軽度の感染症でも、治まるまでには時間がかかります。そうなると、家族と出会うまでの時間もかかっちゃうんです。感染症の症状がでている間はお引渡しができないですから。なるべくはやく家族を見つけてあげたいのに、引き渡しができない。」
子犬・子猫の健康を保つ難しさを痛感したと同時に、家族と出会うまでの道のりに違和感を感じたのだった。
「家族と出会うまでの道のりが、あまりにも長くて過酷だなと。『ペットが家族を待つ』のではなく、『家族がペット待つ』でもいいんじゃないかと思いました。」
スタートしたペットの実家、そして懸念の声も
その後、実際にペットショップで感じた違和感を全てコンセプトに入れスタートしたペットの実家。生まれてくるまで家族が子犬・子猫を待てるように予約制も取り入れ、そして感染症に対して集団免疫をつけるため、親への混合ワクチン接種を義務付けるなど、細かな決め事は多岐に渡った。
なにより、「ペットの実家」という場所も大切にしたいという言葉に、ペット業界の多くが賛同し、口コミで広がっていった。多くの企業やブリーダーに支えられた事業のスタートだったと振り返る。
反面、一般の方からは生体販売に対して懸念を示す言葉もいただいた。
「環境の良いブリーダーでも、所詮は生体販売。生体販売がなくなれば、ペット業界の全てが解決する。保護活動をした方がいいんじゃないか。」
この言葉で、生体販売が嫌われている根幹が、純血種の課題や生体販売の目指す先が伝わっていないからだと考えさせられたのだ。この件について、藤本はこう答えた。
「保護活動と生体販売では、目指す先が違います。保護活動に求められているのは、行き場のない動物たちの場所を確保し、医療を施し、幸せに暮らせる次の居場所を見つけること。」
「反対に生体販売は、未来に健康な命を残していくことが役割のひとつです。」
続けてこうも語った。
「私は、遺伝性疾患のない健康な子を残していきたい。」そう語った背景には、純血種特有の課題が隠されていた。
課題を抱えやすい純血種の未来のために
多くの純血種は歴史が浅く、人為的に改良されてきた。
日本犬も世界大戦中にその数は激減し、絶滅まであと一歩というところまで来ていた。その後、時代の波に翻弄されながらも愛好家によって守り抜かれた血統が、柴犬だった。現在登録されている年間約3万頭の柴犬の父系の血統を遡ると、たった1頭に行き着くという。
このような背景もあり、純血種は遺伝的バラエティーが限られている影響から、さまざまな健康上の問題を抱えやすくなっている。
例えば、人気犬種ダックスフンドは、54.3%が失明する進行性網膜萎縮症(PRA)の変異遺伝子を保有しているという。キャバリアも66.7%が最終的に呼吸麻痺で死亡する神経疾患、変性性脊髄症(DM)の変異遺伝子を保有しているというから驚きだ。
「改善には、最善の注意を払いながら長い時間をかける必要があります。」
変異遺伝子を持っているからといって、キャバリアの66.7%を今すぐ親から除外するわけにはいかない。半数以上を除外してしまえば、さらに偏った血統になるからだ。徐々にその割合を減らしていくことが大切なのだという。
「ちなみに、親犬や親猫って、どんな子でもいいと思われているかもしれませんが、そんなことはありません。血統に偏りがないか血統書で確認する必要があります。
他にも、健康な子を生み出すために、時には海外から100万円以上かけて親を輸入することもあります。ペットの実家に掲載しているブリーダーの大半は、海外から親を輸入しています。
『ポメラニアンならなんでもいい』と思って繁殖していないからですね。親を吟味しているからこそです。ペットショップにいる子たちと、骨格や毛ぶきは全く違いますよ。実際にご覧いただくと、その違いに驚かされると思います。」
次の世代に託していくためには、長い時間をかけ、血統を広げる。そして親を選択するという観点が重要なのだという。意外にも、生体販売にはこれらの行為が求められていた。
知られていない犬の発達障がいにも、目を向ける
「実は、犬にも発達障がいがあるんです。」
犬の発達障がいとは、人でいう自閉症のような症状のことを言う。落ち着きがなく、環境の変化に敏感で衝動的などの特徴がある反面、体には大きな病気は見つからない。しかも、ワンちゃんは診断方法さえ定まっていない。そのため、ペットショップではそのままご家族へ引き渡しを行うケースが多いという。
「はじめて発達障がいの疑いがある子犬と接した時、『最後まで一緒に暮らそう!』というセリフは綺麗事なのかもしれないと思いました。」そう藤本は口にした。
子犬と、コミュニケーションが取れなかったのだ。
「犬の発達障がいは、まだ知名度がありません。だから、悩みを解決しようとご家族が獣医師やドックトレーナーに相談しても、『個性のひとつ』と言われてしまいます。
このひと言で、『私たちの努力不足か』と悩み苦しむご家族はたくさんいると思います。そして、一緒に生活するのが困難になり・・・やむなく手放すご家族も、いるでしょう。」
続けて、このようなことも語った。
「行き場のない子を減らすためにできることは、保護活動だけではありません。
最後まで一緒に暮らしやすい子を育み、引き渡し後はご家族のサポートを行うことも、行き場のない子を減らすことに繋がります。
なにより、一緒に暮らすことが難しそうな子だったとしても、その事実を伝えて引き渡すことが、生体販売に求められていることではないのでしょうか。」
実際に、ペットの実家に掲載しているブリーダーは、犬・猫の性格やメンタル部分に注意を向けてブリーディングしている人が数多くいるという。物おじしない、明るく元気な社交的な子に育つようにするには、幼少期の工夫や親の性格も関係があるのだ。
命を託すために、信頼できるブリーダーだけを
命を引き渡す仕事というのは、アーティストのように感動させ、アイドルのように笑顔にさせる、そんな人の生活と心を豊かにする仕事に近いと感じるという。
家族にとって、15年一緒に人生を歩む存在を引き渡す。命が尽きるその時まで、私たちを無条件に愛してくれ、笑顔にしてくれる家族のアイドル。そんな彼らの身になにかあれば、家族は無気力になるほど悲しみに暮れてしまう。
だからこそ、プレッシャーも感じるという。
「元気な子を引き渡すために、正直で素敵なブリーダーを紹介しなければと常々思います。
ペットの実家は仲介業です。仲介業のため、私が犬・猫を直接みることはありません。健康かどうかは私が判断できるものではないので。
だからこそ、信じられるブリーダーさんしか紹介しません。ブリーダーが正直な人ではないと、病気を隠して引き渡しをする可能性もあるわけですから。
ただもっとブリーダーさんを増やしてくれとお客様に言われるんですが…。私が少しでも違和感を感じたら紹介していません。ブリーダ数より、ブリーダーさんのお人柄や子犬・子猫の健康を大切にしています。
珍しさを追い求めた毛色が生まれる繁殖や、小さなサイズだけ目指したブリーダーさんは、申し訳ないですがお断りをしています。」
見えない裏側まで愛してほしい
ペット業界は、現在たくさんの課題がある。劣悪な環境での繁殖、ペットショップに行くまでの流通死が主な課題だ。
ペットの実家のキャッチコピーは、「あなたと出会うまでも、幸せに」だ。あなたと出会ってからの幸せは当たり前。しかしその前があまりにも不透明だ。その見えない裏側も愛してほしいという意味を込めて付けたという。
ペットの実家の掲載ブリーダーは、なるべくその裏側の姿を動画や写真で残している。
「引き渡しまでに撮った母親や兄弟と過ごした小さな頃の写真も渡すと、とっても喜ばれます。ペットショップでは見ることはできないですからね。」
現在ペットの実家のお客さんは、生まれるまで待ってくれるご家族は多いという。
「一般的にお迎えするときは、ペットショップで探したり、ブリーダー仲介サイトで希望の子を探す方が多いんですが。
ペットの実家のお客様は、素敵なブリーダーから迎えるためにペットショップに行かずに、生まれるまで待ってくれるんです。待ってくださることが、とっても嬉しいですね。
中には、『藤本さんが紹介する子じゃないと迎えません。』と言って1年も待ってくださる方も、片道6時間かけてお越しいただける方も、たくさんいらっしゃいます。
しかも、待っている間に『家をリフォームしてキャットタワーを備え付けました』とか、『人工芝をひきました』って、連絡をくれるんですよ(笑)。
待っている間のご家族様の行動に、愛を感じます。
ワクワクして待ってくださるのであれば、こちらも全力で素敵なブリーダーさんと、運命の子犬・子猫を紹介しないといけないですよね。
家族になってからの思い出だけではなく、生まれるまで待つ間の思い出も、大切にしていただけるととっても嬉しいです。お迎え後は、兄妹を迎えたご家族と共にファミリー会を開催することもありますよ。本当の家族との交流も、是非楽しんでいただきたいです。」
参考資料:
・環境省 統計資料 「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html 2024年4月24日現在
・ペットの実家 「遺伝子検査について」https://petzik-breeder.co.jp/about 2024年4月24日現在
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