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多様性と思いやりをゲームで学ぶ ~藤沢清流高校の生徒が、オリジナルゲームを通じて追体験~

著者: 株式会社セガ エックスディー


私たち株式会社セガ エックスディーは、ゲーミフィケーション※1やエンタテインメントのノウハウを活用した体験設計を強みに、これまで様々な企業・自治体の皆さまと共創してまいりました。


毎月17日は、中小企業を支援する「経営革新等支援機関連合会」が設定した「国民的SDGsの日」です。また、SDGsは「誰一人取り残さない(社会的包摂)」を基本理念として掲げており、近年、ダイバーシティ&インクルージョン※2という考え方が注目されています。


この日を迎えるにあたって、今回は、社会的包摂を推進し、誰にでも開かれた社会づくりに貢献する事例として、株式会社omniheal社(以下、omniheal社)とともに開発した、放課後等デイサービスや就労支援施設向けのオリジナルゲーム『ゼツミョーション』と『うんこメンコ』をご紹介します。


※1 ゲームのメカニズムを非ゲームの分野に応用することで、ユーザーのモチベーションを高め、その行動に影響を及ぼすこと(URL:https://segaxd.co.jp/gamification/overview/

※2 人々の性別、年齢、国籍などの様々な違い(多様性)を尊重し、その違いを受け入れ・活かしていくという考え方

 

 

開発背景は、不登校の増加など、“若者の生きづらさ”という社会問題

文部科学省が発表した問題行動・不登校調査※3によると、2022年度の全国の小中学校における不登校児童生徒数は29万9,048人。前年度と比較すると、22.1%に当たる5万4,108人が増加し、過去最多を更新しました。小中学性ともに10年連続で増加傾向という結果です。

しかし、この不登校の数は「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にある者(ただし、『病気』や『経済的な理由』『新型コロナウイルスの感染回避』による者を除く)という条件で算出されており、精神疾患や発達障害などの児童を含めると、実際はもっと多くの学校に通うことができない児童や若者が存在していることが推測されます。


また、ストレスフルな環境が原因の現代病とされている「適応障害」も増えています。それは、子どもに限ったことではなく、働きだしてからの適応障害も問題視されていることは、いうまでもないでしょう。


このように、近年は、学校や所属するコミュニティに馴染めず抑うつや適用障害の発生や不登校が増加しているほか、不登校の子どもを受け入れる「フリースクール」の利用料を補助する自治体も増加。「子どもや若者の生きづらさ」は社会問題化していると言えそうです。また、とくに発達障害やグレーゾーン※4と呼ばれるような子どもたちや若者は、その特性によって学校や組織に馴染めず、社会性の習得やその後の生活が困難な状況に置かれてしまうことも少なくありません。


当社とomniheal社は、以前より介護・福祉エンタテインメントの実証実験を行っており、その取り組みの中で、介護福祉施設へのヒアリングなどを通じて、このような実態を肌で感じることとなりました。本来、若者が学校やコミュニティに所属することで培われるはずであった社会性が、不登校などにより獲得できず、より社会から隔絶するという悪循環につながってしまうことを知り、このゲームの開発するに至りました。


※3 文部科学省「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果 」

※4 発達障害の特性がいくつか見らえるものの、診断基準を満たしていない状態

 

 

ゲームを通じた追体験で社会性の習得をサポート

前述の通り、当社はomniheal社と合同で放課後等デイサービスや就労支援施設向けのオリジナルゲーム『ゼツミョーション』と『うんこメンコ』を開発。2024年4月にリリースしました。


このオリジナルゲームは、介護福祉施設にヒアリングを重ね、とくに強いニーズがあった「相手の気持ちを読み取ること」「気持ちを整理・落ち着かせること」の2点を養いつつも、施設の中で限られたスペースで気軽にできる遊びです。



『ゼツミョーション』は、相手の気持ちを読み取る力や自己の感情を理解し、言語化する力を養うことができるゲームです。「人の気持ちは、状況や見え方で複雑に変化する」ということをゲーム内で追体験し想像力を養える点と、相手に自分の気持ちを理解してもらえるように説明のトレーニングができるように開発されています。



また、『うんこメンコ』は、キャッチーなキャラクターがデザインされ、メンコを投げる動作やたたきつける音、メンコがひっくり返るといったインタラクション(反応)によって、ストレス発散や心身のリフレッシュを促進します。癇癪(かんしゃく)やエネルギーの発散が上手ではない子が室内や限られたスペースでも楽しみながら、気持ちを落ち着かせることができます。


これらのゲームは、単なる娯楽ではなく、社会的スキルや心の健康を促進する手段として設計されています。参加者はゲームを楽しむことで、自然と社会的スキルや心の健康を向上させることができます。


我々は、こうした諸問題の解決に、ゲームの要素やデザインを活用して、人々の行動や意欲を引き出し、行動を促すゲーミフィケーションの手法は有用だと考えています。

ゲーム体験やそこで生まれたコミュニケーションを通じ、人々の社会的なつながりや人とのかかわり方を学び、健康な心へと促すことができると信じています。

 

 

面白さは、人々の視点を変え、多様性と思いやりを学ぶきっかけに

2024年5月、福祉に関心を抱いた生徒自らが選ぶことのできる自由選択科目として「社会福祉基礎」を設けている神奈川県立藤沢清流高校にて、今年度選択履修をしている16名の生徒の皆さんと先生方に、『うんこメンコ』と『ゼツミョーション』を遊んでいただく機会を持つことができました。


教師も生徒も交じり合い、チームに分かれてゲームをしていただきましたが、どのチームも大盛り上がり。先生や学生などの立場も関係なくゲームに熱中する様子や、コミュニケーションが盛んになる様子に、ゲームがもたらす一体感を生み出す力を実感させられました。


ゲームで遊んだ後に、学生の皆さんより感想をいただいたので、その一部をご紹介します。


一人目:

ビジネスや社会課題にゲームを活用する会社があるとは知らず、驚いた。互いの価値を認め、ともに寄り添い生きる「共生」を目指す気持ちをみんなが持つことが大切だと思う。自分も他人もきっと特別だから。伝えることは障がいの有無に関わらず、人類にとってとても大切なことなので、胸に刻んでおきたい。まずは人との対話を大切にして、偏見を持たず、「個」として考えて人と関わろうと思った。


二人目:

メンコは音がパンパン鳴って、楽しいし、何より「うんこ」だからそれだけで面白い。年齢の低い子でも投げるだけで簡単に遊べるから、チームを作ってバトルをしても面白そう。『ゼツミョーション』は、お題の絵とそれに合わせる顔で想像できる感情も人によって違うので、相手がどのように感じるのかを知るのにも、うってつけだなと思った。誰でも聞いたことがあるゲーム会社が、そのノウハウを福祉領域にも活用していて、すごいと思った。

障がいを持つ人たちに対するコミュニケーションをする手段は手話やジェスチャー等あるが、今回の授業を通じて、ゲームもコミュニケーションの手段になり得ると思った。ゲームを一緒にやることで仲を深めたり、相互理解が深まるからだ。障がいを持つ人たちのことを誤解なくしっかりと理解し、深く考えて行動できる人が増えれば、思いやりや気遣いの輪が広がり、社会全体が良くなると思う。


三人目:

『うんこメンコ』をやってみて思ったことは、簡単にできて、面白いイラストで興味の出るような見た目になっている点に工夫を感じられた。ストレスが溜まっているときに遊ぶと発散ができて、とても良いと思った。『ゼツミョーション』も、ルール自体は簡単で覚えやすく、楽しくできた。シーンのカードと感情を組み合わせることで様々なシーンができて、人によって受け止め方が違うのが面白かった。


ゲームも前半はまず遊ぶことを重視していたが、後半は障がいのある人をどうやって参加してもらい、一緒に楽しむことができるのかを考えながら遊んでいた。ゲームと同じように社会のあらゆることもやり方などを変えて、みんなが楽しく色々なことをできるようにすることが、とても大切なことだと思う。


 

最後に

~ゲームやエンタテインメントがもたらす面白さは、世界を良くする衝動を生み出す~


「ブラジルで飛ぶ蝶の小さなはばたきが、めぐりめぐって影響し、米国でタイフーンが起きる」これは“バタフライ・エフェクト”として知られている有名な言葉ですが、私は藤沢清流高校の学生の皆さんがゲームに熱中する様子や、そこで学んだ多様性や思いやりの視点に触れ、ゆくゆくは世界をより優しく、フラットにするための小さな羽ばたきのように感じました。


このゲーム体験で引き出された学生さんたちの気持ちや学びは、まさにゲームの力を証明するものであり、彼らが多様性(ダイバーシティ)についてより深く考えるきっかけとなっただけでなく、クラスメイトや先生との距離を縮め、コミュニケーションを円滑にしてくれるということを、改めて学ばせてもらいました。これは、一筋縄で解決できない「誰一人取り残さない(社会的包摂)」という問題を解決するために最も必要な要素だと確信しています。


ゲームやエンタテインメントがもたらす「面白さ」は、人と人の距離を縮め、自分ごととして受け止め、より良くするために能動的に考えるきっかけを生み出します。

そして、今回の取り組みを通して、次世代の担い手である彼ら若者一人ひとりが、多様性を本当の意味で学ぶことで、「誰一人取り残さない(社会的包摂)」世の中になるのだと実感することができました。


今後も、ゲーミフィケーションやエンタテインメントの可能性を信じ、様々な企業とのコラボレーションを通じて、世界をより良くするために邁進してまいります。





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