投資にグラデーションを。鎌倉投信社長・鎌田が語る「自分らしい投資」
「投資とはいかにお金を増やすか」という常識に疑問を持ったことはあるだろうか。
自分の利益だけを追求するのではなく、社会にとっても「いい」投資は存在しうるのだろうか。
2008年に設立された鎌倉投信は、これらの問いに答えるように、これからの日本に本当に必要とされる「いい会社」に厳選投資する公募型の投資信託「結い 2101(ゆいにいいちぜろいち)」を2010年に立ち上げ、お客様から託された資産の長期的な成長と、社会の持続的発展の両立を目指した投資に取り組んできた。
その一つの集大成として、社長の鎌田恭幸が執筆したのが『社会をよくする投資入門 - 経済的リターンと社会的インパクトの両立 -』(NewsPicksパブリッシングより5月27日に刊行)だ。この記事では著者である鎌田へのインタビューを通じて、著書に込めた投資観やメッセージをお届けしたい。
分断された投資と社会 ー投資は社会をよくするのだろうか?ー
私たちの生活をより便利で豊かにする経済活動。その主体である企業に資本を提供する投資活動は、投資家の資産を増やすだけでなく社会全体を豊かにしているはず。
しかし、「投資によって社会がよくなる」と言われてもピンとこないのはなぜだろう。
その理由は、投資と社会が分断されているからだと鎌田は語る。
▼鎌倉にある社屋は築100年になる古民家。職人の技により環境を活かし、調和を大切に作られた社屋に、鎌倉投信が目指す100年先も続く投資信託の姿を重ねている。
「会社が立ち上がった時に直接出資している人、もしくはエンジェル投資家としてどこかの企業に投資をしている人は、直接会社が何をやっているか見られるし、会社がどう頑張って発展、成長しているかが見えます。
でも、それ以外のほぼ大多数の人が金融市場を通して間接的にお金を増やそうとしているので、なぜお金が増減するのか、お金が最終的に流れていく先が見えないんです。
また、投資した先のどんな取り組みが社会やお客様に評価され、売上が伸び、株価が上がっているのか、繋がりが全然見えない」
たとえば日経平均株価の上昇は自然現象ではなく、その会社や働いている人たちの努力によって業績が伸びた結果が反映されたもの。だが、資本市場を通じたお金の流れからはその「動き」を実感することは難しい。
そうした投資と社会の分断への危機感が、今回の執筆につながった。
投資のあり方にグラデーションを
資産運用の世界では、1970年代に生まれたモダン・ポートフォリオ・セオリー※が基盤になっている。これは極めて完成度が高い理論であり、金融の世界は「効率的にお金を増やすこと=正義」という極めて限定された判断軸の上に成り立ってきた。
※異なる二つの軸、すなわち投資する有価証券や投資商品の価格の変動を表す「リスク」と、投資したお金がどれだけ増えるかの期待値(リターン)を測り、取るリスクに対して得られるリターンを出来るだけ高くしようとする投資理論
鎌田はそんな資産運用の在り方に対して、「本当に世の中をよくしてきたのだろうか」「時代の変化も踏まえ、もっと多様な考え方があるのではないか」と問いかける。
「今回の本を出版することで、既存の考えをオセロのようにひっくり返すつもりは全くなくって。 そういう考えもあるんだとか、確かにインデックス運用とか効率的にお金を増やすことは必要なんだけれどちょっと違う考えも織り混ぜてみよう、みたいなグラデーションを、投資の考え方に加えたかったんです」
個人を含め資産形成に取り組んでいる人は何千万人もいるが、投資家層、資産形成層であれ、実際に納得感を持って「自分らしい投資」をしている人は一握りなのではないか。鎌田は長年資産運用業界でキャリアを積む中でそう感じていた。
だからこそ、周囲の情報だけを頼りに自分の軸を持たないまま投資を行っている人たちへと情報を届けていくことが必要だと考えた。
▼鎌倉投信がお客様と共に投資先企業を訪問し、その仕事内容を見学する「いい会社訪問」の様子。家族連れでの参加も多く見られる。写真は耕作放棄地を活用した貸農園事業を営む投資先企業へ訪問したもの。
「グラデーションを伴った投資のあり方に共感してくれる人たちは結構いるのではないのでしょうか。子どもを持つ親御さんもそうです。
子どもたちが大人になった時にいい社会であって欲しいと願う親御さんたちが、投資が未来の社会を作っていくことや子どもたちに資産形成や投資について学んで欲しいと思った時、「社会をよくする」という切り口はすごく説得力を持つんです。
そんな考えを持った親御さんが子どもたちに、S&P500を買いなさいとは言わないわけじゃないですか。でも今は圧倒的に情報が足りていない。だからそこに情報を届けていきたいんです」
鎌田が挑もうとしているのは、資産運用業界の海へ一味違う視点をスポイトでポタリと落とすこと。社会が変わりつつある今ならば、グラデーションのある多様で自分らしい投資のあり方との出逢いを、より多くの方に届けていけると考えているのだ。
「投資のあり方にグラデーションを」。鎌倉投信の取り組みによって、誰も想像できなかった未来が一歩ずつ現実になっている。もちろん、その道は決して平坦ではなかった。
貨幣の本質と、投資が持つ「資産形成以上」の価値
鎌倉投信の会社としての業績は、お客様からお預かりする運用残高に比例する。そのため、運用残高がある程度の規模になるまで厳しい赤字経営の期間が続く。鎌倉投信は設立から赤字を乗り越えるのに約8年かかった。やればやるほど赤字が膨らむ地獄のような「死の谷(デスバレー)」を越えるまでを語る上で、外せない2つの経験がある。
1つ目は、東日本大震災の際のこと。株式市場がパニック売り状態となったにも関わらず、鎌倉投信の解約はほぼゼロ。さらには当時の水準で最大の入金件数があった。顧客から多く寄せられた声は「こんなときだからこそ少しでも貢献したい」だった。
▼東日本大震災の際に投資先企業の経営者から受け取ったお手紙
「僕は皆さんが働いて得たお金とは、命の裏側にあり、「お金=命そのもの」だと思っています。その大事なお金を祈りを込めて託していただいた。単なる投資、お金の流れでは言い尽くせない、本当に心からの信用、信頼したお金をその時預かったんです」
さらに、顧客からのメッセージを投資先の企業に伝えたところ、その企業の経営者から顧客に向けて「しっかり頑張る旨をお伝えしてほしい」という手紙を預かった。
「やはり信頼こそが貨幣の本質なんだと、その時お客様から教わりました。」
この経験を通じて鎌田が決めたのは、急いで結果を出すことではなく、目の前のことに向き合うことに意識を100%向けることだった。
2つ目の経験は、受益者総会など顧客と投資先の関係性を作る場で、顧客自身が変わっていく瞬間をたくさん目にしてきたことだった。
「今でこそ上場して有名になった経営者の方々も最初は普通の人だった。すべては、たった一人の想いから、たった一人の思考から始まっているんですよ。そしてその思考は現実になる」
決して有名な人や偉い人、財力のある人ではなく、強い想いと思考力を持った普通の人が自身の想いを実現してきたという事実に触れた瞬間、鎌倉投信の顧客はそのような会社を応援したい、自分でも何か小さなことができるのではないかと考え始める。
そしてボランティアや寄付を始めたり、贈り物をする際に意味のあるものを買ったりと、行動変容が少しずつ起きてくる。その姿を見たとき、鎌田は投資やお金の本質を考え直し、「投資とは出会いを生むことである」と定義し直した。
「最大の出会いとは、まだ気づいていない自分自身との出会い。投資を通じて、何に心を動かされ、何を本当にやりたいのかなど、潜在意識の中に持っていた自分の生き様に気づいた瞬間に人は変わっていくんです。
これが、投資が持つ別の力であり、資産形成を超える価値があると思いましたね。」
そうした経験を経て「デスバレーは必ず乗り越えられるし、 お金はなんとかなる」と腹を括り、結果乗り越えることができた。
鎌倉投信が見据える「次のステージ」
今回の著書出版における動機を、鎌田は次のように語る。
「今回本を書いた理由の1つでもあるんですが、 健全な意味で鎌倉投信はもっと大きくならなきゃダメだなと思っています。少なくとも今の10倍ぐらいの影響力を持ったときに、もっと社会がよくなるかもしれないという、 次のステージに向けたイメージを持ち始めました」
本来あるべき投資の形を純粋に追求し続けてきた鎌田だったが、「グラデーションのある投資の在り方」が社会に広がりはじめ、鎌倉投信自体がデスバレーを越え一定規模の会社になったいま、自分達の事業がさらに成長することで「社会を変える力」となる可能性を考え始めるようになった。
もちろん企業が成長を志向するのは当然のことだが、「健全な意味で大きくなる」という言葉が表すように、そこにも鎌倉投信ならではの視点がある。
▼鎌倉投信とお客様、投資先企業の3者が一堂に会するイベント「結い 2101」受益者総会の様子。
「社会が変わる、変える力になれると思ったのは、震災の時や受益者総会での出来事でした。 今、鎌倉投資のお客さまが2万人ほどいますが、その2万人の行動変容が起きると、1人あたり5人としてさらにその周辺の10万人に影響を与えるんですよね」
鎌倉投信が大きくなることは、単純に自社の規模が拡大することではなく、「自分らしい投資」がひとりひとりの行動変容として広がっていくこと。その結果、社会が変わっていくことだ。
そしてその変化は、鎌倉投信が「資産運用」という業界で生きる覚悟をもって歩んできたからこそもたらされるもの。
「鎌倉投信がどういう考えで投資をするかによって、投資先の会社のスタンスもじわりと変化したり、鎌倉投信が大きくなって影響力を持つようになったら投資してもらいたいという会社もそれなりに出てきてます。
そうなると会社もよくなるし、社会をよくする「いい会社」が発展・成長すれば社会もよくなる。 投資家の幸福感も高まるでしょう。鎌倉投信が投資を通じて育むこうした関係性の資産が広がり、一人ひとりの投資家や一つ一つの会社の中で芽生える小さな変化が大きな集合体となったときに、掛け算で社会と未来がよくなっていくと思います。
このインパクトの生み方は、自分たちの事業がお金という、変幻自在なものを扱うからこそできるんだと実感しています」
現状を批判するだけでは変化は訪れないからこそ、自分たちの手でできることから働きかけ、世の中を少しずつ、かつ大局的に変えていく。「いかに効率的にお金を増やすか」が当たり前であり続けた資産運用業界において、鎌倉投信は「自分らしい投資」が自然に存在する、投資のあり方にグラデーションのある世界を目指し、今日も歩みを続けている。
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