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【積水化学グループ】渋谷駅地下に巨大空間、新時代の都市型水害対策

著者: 積水化学工業株式会社

【写真提供:渋谷駅街区土地区画整理事業共同施行者】


再開発が進みますます便利になる、東京渋谷。ここは東京を象徴する街の一つで、渋谷駅前のスクランブル交差点は海外からの観光客がこぞって撮影に訪れるスポットにもなっている。多くの人が集まるエリア、渋谷はこのスクランブル交差点を底に「すり鉢状」の地形となっている。そのため集中豪雨などによる影響も大きかった。降雨時に雨水がたまりやすく、1999年夏の集中豪雨では、地下街への浸水被害も発生した。


「渋谷駅周辺には鉄道も多く、高層ビルなどの建物が密集しているため、整備は難しかったところ、渋谷再開発を機会とし、雨水貯留施設の整備が始まりました」


当時、営業担当をしていた 田畑雅(東日本セキスイ商事 経営管理部)


そう話すのは、当時営業担当をしていた東日本セキスイ商事の田畑雅だ。「渋谷再開発」は東急株式会社と独立行政法人都市再生機構が行っている大規模な市街地再開発事業の総称であり、「100年に一度の再開発」とも呼ばれる。再開発は2012年の「渋谷ヒカリエ」にはじまり、2015年から9つの高層ビル建設や鉄道3路線を移設する計画で仕上げの時期に来ている。


雨水貯留施設も、この渋谷再開発の取り組みとして2011年2月の工事着手から10年近い歳月を経て2020年8月31日に整備が完了した。雨水貯留施設は、暗渠(あんきょ)となっている渋谷川の下にある渋谷駅東口広場、そのさらに下にある。


貯留槽の広さは南北約45メートル、東西22メートルで容積は約4,000立方メートルだ。1時間あたり50ミリから70ミリの強さの雨が降った際に、雨水貯留施設に雨水をため、天候の回復後に排水する。これにより豪雨による水害を防ぐ。施設は地上から深さ約25メートルもあり、その底に雨水は落ちていく。雨水を流すパイプには積水化学のドロップシャフトを採用した。


ドロップシャフトの構造図


「勢いよく落ちてくる雨水の力をドロップシャフトで軽減させ、施設底部の劣化を防止します。また、貯水状況を確認できる計測器なども備えています」


ドロップシャフトとは、どのようなものだろうか?

積水化学「ドロップシャフト」の仕組みと強さ

ドロップシャフトは積水化学が1994年から下水道新技術推進機構と共同研究を行い開発した。この技術は、高低差を利用して水を効率的に地下深部へと導くシステムで、急速に大量の雨水を安全に貯留施設まで輸送できる。


ドロップシャフトはらせん状の案内路があり、そこで渦流を発生させる。水の流れるエネルギーを減らしながら滑らかに流下させ、施設の底や壁面の洗掘(せんくつ)を防ぐ。また、滑らかゆえに騒音や臭気を抑制できるメリットもある。


「都市部の公共下水道は合流式が多く使われています。これは汚水と雨水を一つの管で流す方式です。ただこれですと豪雨などがあると、許容値を超えてしまい、汚水と雨水が一緒に地上にあふれる事象が起きてしまう。そこでゲリラ豪雨などが増えている現代に合わせて、太い雨水管を新設する計画が各地で立てられました」


都市部は地下も地下鉄やビルなどで過密状態にあるため、太い管を新たに設置するためには、より深い所に入れる必要がある。結果として、地表部と地下深い雨水貯留施設の間にはかなりの落差が生まれるのだ。


「ドロップシャフトは渦を巻いて水を落としていくのでエネルギー衝撃を緩和します。滝をイメージしてもらえるといいのですが、滝が落ちてくる場所は滝つぼといわれるようにえぐられますよね。水の力はそれほどすさまじく、そのまま上から落とすと施設の底部を傷めてしまう。ドロップシャフトはまずそれを防げるわけです」


黒多寛了(積水化学工業 環境・ライフラインカンパニー 管材土木営業部)


現在、田畑から引き継ぎ、ドロップシャフトを担当する積水化学の黒多寛了は話す。傷みを防げば改修などのメンテナンスコストを抑えられるのはもちろん、劣化による想定外の事象も起こさずに済む。


「さらに、もう一つの機能として空気を持ち込まないことが挙げられます。滝の話でたとえを続けると、滝の落ちている場所には白い泡がたくさん見えます。これは水に空気が混ざっている状態。こうなると水の体積が増えてしまう。水1に対して空気も1となれば、2倍の量です。体積が増えれば想定よりも早く許容値を超えてしまうことになります。ドロップシャフトは他の仕組みと比べて空気を連れていく率(空気連行率)が圧倒的に小さいのです」


積水化学のドロップシャフトは都市部で導入が広がり、2000年には100本、その3年後には300本、2024年現在では1,400本弱が日本国内で導入されているという。さらに積水化学のドロップシャフトはFRP製で鉄よりも強い優れた耐久性や耐候性を持っているほか、水による腐食を受けにくい特性もある。


「都市部では地下数十メートルに築造される雨水貯留施設が増えており、落差処理が求められています。落差のある施工では、これまで多段方式や渦流方式などがありますが、ドロップシャフトはそれよりも小さいスペースで設置できます。都市部の地下が過密状況である今、省スペースで施工できるのは大きな強みです」


従来工法との比較図

渋谷で得た経験をベースにさらに省スペースのドロップシャフトを

田畑は渋谷駅の施工を「渋谷駅という繁華街での工事だったので、電車やバスの運行が終わってから深夜の間に対応しなくてはならず、また道路にトラックの待機場所もないため、毎日、滋賀の工場からトラックで時間に合わせて運んでくるという繰り返しでした」と振り返る。設置の苦労もあった。


「上には当時、銀座線のホームがあり、その下に施設がある状態でしたから、クレーンで吊り上げてドロップシャフトを入れようとすると高さが足りず入れられないんです。そこで高さ4メートルのドロップシャフトを半分にカットして小刻みに入れていく必要もありました。当然手間もかかります。通常なら2日で配置できるところ、この現場では7日間かかりました。まさに時間との勝負でした」


このような課題に対応できたのは、積水化学のドロップシャフトは工場生産品だからだという。工場生産によって品質を安定化させることができる。工場で計算をした上で分割し、積み重ねて設置することで実現可能になったという。


現在は狭小地にも設置できるドロップシャフトも生み出されたという。積水化学の今橋拓志は次のように話す。


今橋拓志(積水化学工業 環境・ライフラインカンパニー 管材事業部)


「都市部の地下過密状態が続いているため、さらにコンパクトなドロップシャフトを生み出しました。これにより一般生活道路など狭いスペースでも導入を可能としました」


実際に大阪府吹田市の千里山地区に、狭小地でも設置可能な「中心筒昇降型ドロップシャフト」が採用されている。周辺は閑静な住宅街であり、雨水流入の騒音や振動も最小限に抑える必要があった。道路幅員が狭小でもあり、ドロップシャフトの省スペース性が評価された格好だ。



積水化学はドロップシャフトに限らず、さまざまな自然災害に対する製品開発を行っている。例えば阪神大震災による被害を受けた神戸市と共同で開発した災害時用の防災貯留型トイレシステムなどがそれで、人々の暮らしの見えづらいところの課題解決に積極的に取り組んでいる。


「私たち積水化学は災害に対する意識が高く、製品づくりでも一丁目一番地ととらえています。製品だけでなく、ノウハウも蓄積してきており、幅広い提案ができる体制になっています」


今橋によると、豪雨だけでなく、激甚化する自然災害全体に対して自社の製品がどのように効果を出せるのかも探っているという。「製品の企画開発はもちろんですが、我々の持つ既存製品の中にも自然災害の対策に使えるものがたくさんあります」

9月1日は防災の日。人々が安心して暮らせるように積水化学はこれからも豪雨対策はもちろん自然災害への対策を製品によって今後も積極的に行っていく。




【関連リンク】

エスロンタイムズ(ドロップシャフトページ)


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