新しいチャイムでコロナ時代の生徒の心をサポートできる?40年以上の実績のあるサウンドプロデューサーが見た、チャイムの知られざる影響とは
INTERVIEW
井出 祐昭 HIROAKI IDE
サウンド・スペース・コンポーザー
井出 音 研究所 所長
"今日も一日頑張ろうという気持ちになります"
"朝から安らぐことができるので、勉強に集中できると思います"
"他の学校にはないので、誇らしい気持ちになります"
これらの言葉は、ある高校の”とある変化”によって生徒から出てきた感想です。この正体、何でしょう?
そう話すのは、40年以上、音の専門家として音のポテンシャルを目の当たりにしてきた、井出 音 研究所 所長の井出 祐昭さん。
(井出)
正体は、実は「チャイム」なんです。授業の始まりと終わりを知らせるだけであるはずのチャイムなのですが、私は、この一音の変化が生徒たちに様々なイメージを涌かせ、意識を変えるきっかけとなる事実に気づかされました。実際に、生徒玄関で音楽を流す取り組みと共に不登校生徒を減らした実績もあります。
―学校のチャイムで何がそんなに変わるのでしょうか?実際の御経験を取り混ぜながら聞いていきたいと思います。
チャイムが気持ちの後押しをしてくれるのかもしれない
(井出)
ある県立高校では、校訓をイメージしたチャイムと生徒玄関の音楽で、登下校時の生徒の気持ちのサポートを試みました。というのも、聴くところによると、不登校生徒の中には、学校近くまで来ることが出来ても、生徒玄関から入ることが出来ずに帰宅してしまうこともあるそうなのです。
―確かに、特に登校時は漠然と嫌な気持ちになったり、倦怠感を持ちやすいですよね。大きな悩みを抱えていなくても感じることがありました。
(井出)
そう。そこで印象的だったのは、「生徒玄関で毎日快く迎え入れられることが、些細な救いになることもある」という先生方の言葉。これを聴いて、チャイムの役割ってこういうところにもあるのではないか?と思いました。時刻を伝えるだけじゃないと。導入後しばらくして、不登校生徒が一桁に減ったという話も聞き、その気持ちが確かなものになりました。
チャイムに託された可能性 ― コロナによる登校風景の変化を経て
(井出)
様々な学校のチャイム制作を重ねるたびに、チャイムのポテンシャルに気づかされてきました。
毎日、毎時間耳にする音であるため、生徒たちの中に愛着も湧けば、きっと授業に対する姿勢にも影響します。良くも悪くも、日々変化するデリケートな心境にも直結しているのだということが実感として分かってきました。
更に、自校のアイデンティティや誇りも投影されていきます。企業でいうと、サウンドロゴのようなものです。卒業してから思い出す学生時代の記憶の中には、チャイムの音がありませんか?通学中のみならず、生い立ちの一部として人生を通して関わり続けるものだと考えていいのではないでしょうか。
―毎日のことだからこそ、その時々の繊細な気持ちや、長い時間を掛けて残るアイデンティティにも直結するということなのですね。
(井出)
はい。 これらは音ならではの特徴とも考えられます。人間の耳の精度は数ミリ秒で音の快不快や情報認識ができると言われており、また、感性に直結していることから、記憶との結びつきも強いのです。悪い記憶や思い出と結びつきやすい音というのもあり、それを避けなければならないとも言えます。
特に気持ちの面で言うと、今はコロナの影響で学校生活がガラッと変わって生じている不安やストレス、孤独感も無視できません。実際に、いくつかの小学校から、やっと登校ができてきた生徒たちの精神的なサポートや学業への集中のために何かできることはないか、とチャイム制作の相談がありました。
分散登校や一方向を向いて食べる給食、行事の中止・小規模化など、当たり前のようにあった学校生活が「疎」に向かっており、気持を束ねるアイディアはないかと各校模索しているところだと思います。
これからの時代だからこそ、チャイムは大きな可能性を秘めていると思い「これはちょっと一発やるか!」という気持ちにさせられました。
あらゆる気持ちの人が毎日毎時間何年も聴く、チャイムだからこそ
(井出)
気持に寄り添うために制作の際に気を付けなければならない点は、様々な気持ちの人が耳にするという視点。そして、毎日毎時間何年聴き続けても飽きずにいられる、流行り廃りのないスタンダードなチャイムであること。
そこで取り組んだのは、すでに学校に根付いた校章や校訓などの力を借りて、チャイムのメロディをつくることでした。
例えば校歌の一部をチャイム化する方法。特徴的なメロディ等に、チャイムの機能を持たせてアレンジする方法です。
もしくは、学校の校訓などを音楽化することです。学校のイメージやカルチャーを音楽で表現したり、化粧品業界で世界一の賞を受賞した弊社独自の技術を用いた制作方法もあります。
―世界一ですか!どんなものでしょうか?
(井出)
ソニフィケーション(可聴化)と呼ばれる技術で、学校名、校訓、校章などを音に変換する技術です。例えば校章の形や特徴を抽出し、メロディに変換・美化してチャイムを作っていきます。結果として、「学校の校章由来のチャイム」ができると考えていいでしょう。
「誰かが創作したメロディー」は特定の印象を与えやすい一方、「学校のモチーフから生まれたメロディ」は、どのような心境にも寄り添いながら学校のアイデンティティを感じられるものになると考えています。
ー特定の印象を与えない方が良いということなんですね?
そうなんです。それに気づいたのは平成元年にスタートした元祖JR新宿駅・渋谷駅の発車メロディの開発でした。当時一日百万人以上の乗降者数がいただけに、特定の印象を持つ音楽は日々変化する百万人の心境を合わずかえってイライラさせてしまうことが懸念されました。
研究を重ねたところ、暗くも明るくもない、特殊な音響構造が鐘の音にあることを発見。自分の心境が音の聴こえ方で認識できる「鏡のような音」でした。まさに自分の心境に寄り添ってくれる音です。
鐘はチャイムのルーツですし、学校のチャイムにも応用したいと考えています。
チャイムを制作する理論背景となる鐘の音の音響分析(スペクトログラム)
おわりに
社会の状況、学校の校訓、
教職員自身の気持ち、教職員の生徒に対する気持ち、
生徒自身の気持ち、生徒が学校や生徒に抱く気持ち。
これらが交わるところって何だろう?と考えた時に、チャイムはその主たるものなのではないかなと思います。物理的なものでいうと、校舎がそうですね。
交点になっているので、点を変えるだけで全体に及ぼすことができます。
一つの小さいことなんだけど、実は全部に対して影響を与えている…チャイムはそんな存在なのではないかと思います。
交点の一点に光を落とす、このようなやり方そのものが、次の時代の音や音楽のアプローチの一つではないかと考えています。まずは、身近な存在として、先生や生徒の支援をすることが出来たら嬉しく思います。
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井出 祐昭 HIROAKI IDE
サウンド・スペース・コンポーザー Sound Space Composer
有限会社エル・プロデュース代表取締役
井出 音 研究所 所長
ヤマハ株式会社チーフプロデューサーを経て、2001年有限会社エル・プロデュースを設立。最先端技術を駆使し、音楽制作、音響デザイン、音場創成を総合的にプロデュースすることにより様々なエネルギー空間を創り出す「サウンド・スペース・コンポーズ」の新分野を確立。イマジネーションを最大限に喚起する次世代の立体音響システム“ELPHONIC”を開発し、医療・健康分野との関連も深めている。
主な作品として、30周年を迎えるJR新宿・渋谷駅発車ベル、愛知万博、上海万博、浜名湖花博、表参道ヒルズ、グランフロント大阪、東京銀座資生堂ビル、TOYOTA i-REALコンテンツ、TOYOTA Concept-愛i、SHARP AQUOS、立川シネマシティ、世界デザイン博など。
またアメリカ最大のがんセンターMD Anderson Cancer Centerで音楽療法の臨床研究を行う他、科学と音楽の融合に取り組んでいる。最近では、日本ロレアルと共同で髪や肌の健康状態を音で伝える技術を開発。米フロリダ州にて行われた化粧品業界のオリンピックである第29回IFSCC世界大会、PR分野の世界大会であるESOMAR 2017にてグランプリを受賞。
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