創業100周年を超える老舗 “ギムネ屋”「株式会社スターエム」。創業当初から変わらない想いを引き継いできた私たちのこれまでとこれから。
兵庫県三木市の「株式会社スターエム」は1923年創業の木工ドリルメーカーです。
2009年以前の社名は株式会社小林ギムネ製作所でした。
ギムネとは木に穴をあけるドリルのことで、そのはじまりは紀元前1500年頃。北欧のバイキングの船を作るのにスプーン形をした穴あけの道具がはじまりと言われています。北欧の古い英語でGimletはねじる、回すという意味がありそれが語源となって、日本に伝わりギムネと呼ばれるようになったと言われています。(※諸説あり)
三木市にギムネが伝わり「木」に穴をあけることにこだわった製品を作り続けてきた私たちがなぜ竹用ドリルの製作を行うことになったのか、そしてそこから竹用ドリルはどうなっていったのかをご紹介したいと思います。
スプーン形のドリル
今から約100年前・・・創業者小林元二が見出した「ギムネ」の可能性
「金物のまち」三木市でギムネの製造をはじめたのは1923年(大正12年)、小林元二と叔父の2人で町工場からスタートしました。
海外から入ってきた大工道具の中でギムネに着目し、この時点で手作りから機械化による量産まで頭の中で描いていました。1940年に「☆M(ホシエム)」マークの商標登録を申請しますが、この☆には「☆(スター)は世界共通。世界で通ずる星のように輝きたい」という願いが込められていました。
現在国内シェアは70%にまで成長しました。
そこから100年、現在は5代目社長となりますが、「たゆみない創意工夫を続け 最高の製品をつくり 社会に貢献し 明るく豊かな 我々の明日を築く」の経営理念は創業当初から変わっていません。
ギムネの製造においては、1949年頃から工作機械を導入し、切削加工法が確立されていました。新製品が開発されていく中で、自社での生産設備の開発技術も培われていきました。ギムネ自体が多くない時代でしたので、独自の生産設備を開発していけたことが現在の多品種にも対応できるようになったことにつながっています。
ほとんどの工程は機械化されていますが、それでもやはり「人」にしかできない工程があります。それが研磨・芯出し・刃付けという最終工程です。
以前、お客様に「木工ドリルを研げる機械があれば、一生食べていける」と言われたことがあります。それほどこの最終工程は刃の切れ味、安定した品質、手にくる感触に影響を及ぼす大切な工程であるといえます。
機械化が進む中でも先達から受け継いだこの技術とこだわりはしっかりと継承していかなければなりません。
創業者 小林元二氏
木に穴をあけるのなら鉄工ドリルでもあくのではないか?木工ドリルでなければいけない確かな理由
鉄工ドリルなら鉄にもあくのだから木にはいとも簡単にあくでしょう。
それでも木工ドリルがあるのには理由があります。
まず「先ネジの有無」です。ドリルの先端を見ると鉄工ドリルは三角形状ですが、木工ドリルにはネジがあります。このネジを「誘導ネジ」と呼んでおり、このネジのピッチで進み具合が変わってきます。
このネジピッチはすべての製品が同じではありません。用途や使用する電動工具に合わせて異なります。木工ドリルはこの誘導ネジがあるので推力を与えなくても引き込んでいき楽に穴あけをすることができます。先ネジがあるタイプは貫通穴をあけるのに適しています。
逆にネジがない場合は、推力を与えないと進んでいきませんので止め穴をあけるのに適しています。
次に「刃の形状」です。これは穴の入口がきれいかどうかに関係します。
鉄工ドリルは先端に切れ刃がついているのに対して、木工ドリルにはケガキ刃とスクイ刃と呼ばれる刃がついています。スクイ刃は木を削り取っていく刃です。そしてケガキ刃は木をケガク刃です。この刃があるので木工ドリルであけた穴の入口はバリといわれる木のささくれが少ない美しい穴あけが可能になります。鉄工ドリルで穴をあけると入口にバリが生じるのはこのケガキ刃がないためです。
そして「溝(ラセン)」です。鉄工ドリルと比較すると木工ドリルの溝は深め。この溝はスクイ刃で削り取った木屑が排出されるのに必要です。この溝に沿って木屑が排出することもスムーズな穴あけのポイントになります。ドリルの種類によってこの溝形状も異なっています。
鉄工ドリルはこの溝が浅いため、木屑が排出されにくく詰まってしまいスムーズな穴あけができません。
突如舞い込んだ「竹」に対応したドリル開発の依頼。試行錯誤を繰り返すうちに・・・
そんな木工ドリルメーカーに「尺八をつくるのに、竹にあけても割れないドリルがつくれないか」というお問い合わせが舞い込んできました。
竹は繊維質のため、通常の先ネジタイプの木工ドリルでは割れてしまいます。それなら先ネジではなく先三角タイプのドリルならあくのではないか。当時既に弊社には先三角ショートビットというドリルがありました。ケガキ刃があるので入口のバリは軽減され、割れずに穴もあきます。しかしスムーズに穴があくかというと「重い」のです。加えて尺八の良い音色は穴の美しさに左右されます。先三角ショートビットでは構造上そこまでの精度も求められません。
お客様が求められるドリルは ①割れない ②穴精度が良い ③入口がきれい ④出口がきれい ⑤スムーズな穴あけが必須条件となります。
そんなドリルできるのか?木工ドリルは裏側にバリが出てしまうものだ
尺八に穴をあける「竹」に対応したドリルの開発がはじまります。
開発にはそれまでにも数々の特殊ドリルを開発・製造してきた職人が中心となって行われました。
試作品をつくり検証していくわけですが、一番の課題はやはり「バリ」です。
竹は木のように修正ができませんし、尺八の場合筒状になっているので裏側からの加工もできません。
両側からあければ表も裏もバリのないきれいな穴があくでしょう。しかし片側からあけた場合、表面にバリが出ないようにしたら裏にバリが出てしまうのです。
先端の形状、ラセンの形状、過去に製作した特殊品からもヒントを探します。
そうして試行錯誤の末、竹にスムーズにきれいな穴をあけることのできるドリル、竹だけではなく木材にもこれまでにない感覚で穴があくドリルが完成しました。
従来の木工ドリルの特長のひとつである「先ネジ」はないのに木材に対してスーッと入っていく不思議な感覚。竹の繊維を二枚の刃でスパッと切削することで入口も出口もバリの少ない、抜群の精度の穴をあけることができる。しかもあけた穴の内側も美しい。これまでの木工ドリルの概念を覆すようなドリルです。
尺八用のドリルとして製作したので製品名は「竹用ドリル」としましたが、これが後々我々をちょっと悩ますことになります・・・
限定された竹用ドリルというネーミングが裏目に出るも徐々に広がりを見せ、年間売上本数は初年度の6倍に
「竹用ドリル」という製品名で10サイズの発売を開始したのが2009年。
ここで問題になってきたのが「竹用」と限定された名前でした。どうしても竹専用と捉えられてしまうので、製品には自信があるのに広がっていかない。初年度の売上本数は約5,000本に留まりました。
お客様からも「名前が悪いな」「竹専用になるとなぁ」というお声もありました。それでも少しずつですが製品の良さが伝わり、サイズ展開のご要望もいただくようになりました。
広がっていくにつれ「こんな素材にも穴があけられた」「これにあけても割れなかった」など、ユーザーさんのお声から竹・木以外の材質にも穴あけが可能なことがわかってきました。嬉しいことだったのですがこれが悩みにもなったのです。
やはり製品名を変えた方がいいのか?
しかしこの時すでに竹用ドリルという製品名を変更することは難しくなっていたため、台紙で適用材がわかるようにすることで対応していきました。
2011年に6サイズを追加、2016年にさらに3サイズ、2017年にさらに3サイズを追加し、2018年の売上本数は30,000本を越えるまでになりました。
ロングセラー賞も受賞した竹用ドリルに訪れた大きな転機。日本の文化「竹あかり」との出会い
2020年の第56回 JAPAN DIY HOMECENTER SHOW 2020の『日本DIY商品コンテスト』ヒット商品部門ではロングセラー賞を受賞しました。
そんな竹用ドリルが大きな転機を迎えたのが2020年「みんなの想火プロジェクト」の開催です。
2020年みんなの想火プロジェクト アドベンチャーワールドにて点灯された竹あかり
プロジェクトリーダーは熊本県で竹あかり総合プロデュース集団として活躍する「CHIKAKEN(ちかけん)」
このプロジェクトは東京オリンピックの開催にあたり海外からのお客様を日本の伝統である竹を使ったあかり「竹あかり」でお迎えしようとはじまりました。47都道府県にひとりずつサムライと呼ばれるリーダーを募り、サムライを中心に竹あかりをつくります。残念ながら東京オリンピックは翌年に延期となったため当初の目的は果たせなかったのですが、「自分たちのまちは、自分たちで灯す」という意思の元、地域一体となって竹あかりづくりがはじまりました。
このプロジェクトは2022年まで3年間開催されました。力強くもあり、やさしくもあるその灯りを目の前にした時人は何を想うのでしょう。きれいだと感動する人もあれば、涙する人もいる。見る人の心に寄り添う竹あかりには不思議な力が宿っているように思います。
各地で灯されたあかりを見て、自分でもつくってみたい、地域のみんなでつくってみたい、学校でつくってみたいというお声も多くなりました。
「竹あかりづくりは竹用ドリルでなければできない」
竹あかりを作ってみたい多くの人が竹用ドリルを手に取ってくださいました。
弊社のwebサイトからもデザインがダウンロードできるようにしました。
竹あかりづくり以外でも、職人さんや木工作家さんやDIYerと竹用ドリルを使ってくださる方が増えていきました。これまでの木工ドリルとは全く違う感覚の穴あけに驚かれ、その切れ味に他のドリルに戻れないというお声もいただいています。
竹あかりも、竹用ドリルもSNS、口コミで広がっていきました。
CHIKAKENさんは学生時代に「うすき竹宵」という竹灯籠のお祭りで竹あかりに出会い、そこから竹あかりを作り続けています。
竹あかりのお祭りを地域のみんなで作り上げていく様子に、竹あかりをつくることが地域の活性化につながっていると感じたと、その時の思いが「自分たちのまちは、自分たちで灯す」につながっているそうです。
誰でも竹あかりが作れるようになるには、竹用ドリルが必要です。
日本の伝統であるはずの「竹」が時代の流れで使用量が減り、昨今は放置竹林に悩まされる地域も多くあります。
竹林から竹を伐採し、竹あかりを作り、役目を終えた竹は竹炭や竹チップにして自然に還す。
竹あかりをつくることがSDGsの取組みにも繋がっています。
DIYを日本の文化にして、DIY人口の底上げにつなげたい
発売から15年経ち、2023年度の売上本数は80,000本を越えました。
竹用ドリルの誕生は木工ドリルは先ネジタイプ、先三角タイプは強く推力を与えないと進んでいかないという概念を変えてくれました。
先ネジではないのに驚くほどスムーズにすぅーっと材に入っていく、これまでの木工ドリルとはまったく違う感覚の新しいドリルです。
さらに先ネジタイプでないのでグイッと引き込まれません。はじめて穴あけをされる方やお子さんでも使いやすいドリルです。
現在弊社では、この竹用ドリルを使ったワークショップを月に一度開催しています。
竹用ドリルをもっと多くの人に使って欲しい、スターエムのことをもっと知って欲しいという気持ちはもちろんありますが、それ以外にも理由があります。
このワークショップを続けていくことで、ものづくりの楽しさを知ってもらいDIYを日本の文化にしていきたいという思いです。
そしてそのためにも全国のホームセンターさんでこの竹用ドリルを使ったワークショップを開催してもらいたい、そんな願いがあります。
ホームセンターはDIYのテーマパークです。そこに行けば作りたいものの材料がほとんど揃います。人々の生活に密着したホームセンターだからこそワークショップ開催が可能になるのではないでしょうか。
毎年夏に開催されるJAPAN DIY HOMECENTER SHOW でもここ数年弊社ブースにおいてワークショップを開催していますが、竹用ドリルを使ったワークショップのモデルケースにしていただければと思っています。
作り終えるとみなさん「楽しかった」「まさか自分でも出来るとは思わなかった」と笑顔で帰られます。
他のブースもワークショップは賑わっています。みなさん色んなことをやってみたいとは思っているけれどもきっかけがないだけなのかもしれません。
竹あかりづくりに関しては学校でも取り入れられるようになればと思います。
自然とSDGsについて考える機会にもなりますし、ひとつのものを作り上げることで、集中力・達成感を得ることができます。なにより子供のころから「ものづくり」が身近なものとなれば、日本のものづくりの未来もワクワクしたものになるのではないでしょうか。
ギムネ屋としての自信と誇りを胸に社会へ貢献していきたい
今後の展開としては、以前からご要望のあったサイズの追加を予定しています。
また竹用ドリルに関してはすべてのご要望にお応えできているわけではありません。
開発者は既に退職されていますが、今いるメンバーでなんとかそのご要望にお応えできるよう努力していきたいと考えています。
また、竹用ドリルに限らず穴あけの様々なお困りごとを解決できればと思います。
「穴あけで困ったことがあれば、まずはスターエムに相談だ」
今はまだスターエムのことをご存知の方はほんの一握りですが、これから5年後、10年後さらにその先、いつかそんな風に思っていただける日が来ることを夢見ています。
木工ドリルは鉄工ドリルやコンクリートドリルとは違ってニッチな業界です。かつて全盛期には50社近くあった国内製造メーカーも現在は弊社を含め数社となりました。店頭には国内製品だけではなく海外製品も多く並ぶようになりました。そんな中でもスターエム製品を選んでくださるお客様のために、ギムネ屋としての自信と誇りを忘れずにものづくりを行っていきたいと思います。
ギムネ(ラセンタイプの形状の木工ドリル)以外のドリルや周辺治具なども多く開発し、世に送り出してきました。別注品においては1本からオーダーを承っております。
また、近年主流となってきたプレカット工法に対応した「機械用ドリル」の製造や社寺仏閣の補修工事などに必要となる「芯抜き加工」も行っています。
スターエムのドリルであけた穴は地図にも歴史にも残りません。
それでも建築物があるところには穴があり、ものづくりを陰ながら支えています。
木工ドリルメーカーとして、最高の製品をつくり続けることが社会貢献にも繋がる。芯抜き加工のように弊社だからこそ貢献できることもある。
創業者の想いをしっかりと受け継ぎ、継承と変化を楽しんでいければと思います。
現在発売中の竹用ドリルのセット
◎日本唯一の馬具メーカーソメスサドルに鞄の製作を依頼。竹用ドリル13本とのセットをBASEにて発売中
使い込むほどに馴染む柔らかな革製、経年変化を楽しんでもらいたい。
◎「竹あかり wabisabi」という竹用ドリル4・8・12mmと図柄4種のセットを数量限定で発売中
パッケージには環境の配慮した積層段ボールを採用。図柄はこのセットだけのオリジナルデザインとなっており、3本の竹用ドリルで4種の図柄に対応できます
https://www.starminfo.com/jp/anniversary/sdgs/sdgs.html
毎月開催中のワークショップ
月に一度、弊社にてワークショップを開催しています。
竹あかりやウッドスピーカー作りを体験していただけます。
はじめて穴あけをされるという方がほとんどですが、みなさん楽しんでくださっています。
お申込み・詳細はこちら
https://www.starminfo.com/jp/ws/ws_miki.html
【ストーリー登場製品】
竹用ドリル:https://www.starminfo.com/jp/product/kagutategu/601.html
【株式会社スターエム】
代表取締役社長:小林富記子
創業:1923年10月
〒673-0444 兵庫県三木市別所町東這田722-47
ホームページ : https://www.starminfo.com/
【本件に関するお問合せ先】
株式会社スターエム
電話:0794-82-0200
FAX:0794-83-0373
メールアドレス : info@starmshop.com
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