都内の医療法人理事長、かつ参議院事務局の産業医だった私が、「全ての人々が健康かつ幸福に社会参加する世界を創る」を掲げて起業するまで。
2011年7月、主に産業医業務を受託するため株式会社フェアワーク・ソリューションズを妻と起業した時、私たちが大切にしたかったのは、人々の公正な社会参加のために尽力したい、という想いでした。
駆け出しの精神科医であった20代の後半から2年間ほど通った慶応心理臨床セミナーで、「人生において大切な事は何か」と問われたフロイトが「愛することと働くことだ」と答えたと聞いて、とても感銘を受けたことを覚えていました。
〈ジークムント・フロイト〉
つれづれなるままに職業人生を思い返せば、精神科医として21年、クリニック運営者として12年、産業医として9年、上場を目指すスタートアップの経営者として1年ほどが経過しましたが、遙か昔の中学高校生くらいの頃には「物書きになりたい」と考えており、天文部のほか文芸部にも籍を置いて、具体的には小説家やコピーライターに強い憧れを抱いていたのでした。
「どうして精神科医に?」とは今でも年に数回は投げかけられる質問で、つど相手の顔色もうかがいつつ「言葉を使う仕事がしたかったんだ」とか「言葉の力で、患者さんや世の中に役立つ仕事が良いと思ってね」みたいな返答をするのですが、かりに運良く小説家やコピーライターになっていたとしても、職業選択の理由としては同じような答えを返していたのではないかと感じます。
日本語で「働く」というと、賃金労働が想起される場合が多いと思いますが、この「働くこと:Arbeiten」は英語では「Work」と訳され、単なる「労働」よりもっと広く「目的に向かって努力する、頑張る、勉強する」などの意味を含む概念のようです。
そこで社名をつける際、「公正な、美しい」という意味のFairを付与して、FairWorkという社名はどうだろう、と考えました。移民大国であるオーストラリアには、労働者保護の観点からその名称の法律や政府系機関があるようでしたが、調べた限りでは世界中に同様の社名の会社はなく、fairwork.co.jpのドメインも取得できそうでしたので、「公正な社会参加のための解決策(ソリューション)を提案する会社」、との意味で、最初の起業では、社名をフェアワーク・ソリューションズとしたのでした。
そして8年後の2019年9月、パルスサーベイ事業だけを独立させ、私が代表となるに際し、社名をより短く・力強く・覚えやすい「株式会社フェアワーク」とした次第です。
ところで、2010年に医療法人社団 惟心会を設立した時に作った法人理念は
(1) 健康で安心な社会の実現を希求する
(2) 社会的使命と個人の役割を自覚し、猛烈かつ誠実に、働くことを楽しむ
(3) 同僚を尊重し、公正な機会を与え、互いの強みを生かす
(4) 常に社会情勢に目を向け、自己研鑽と挑戦を続ける
(5) 個人と組織を成長させ、先進的なサービスを提供するために必要な収益構造を築く、というものでした。
医療法人の理念としては今でもじゅうぶんに通用する内容であると自負しているのですが、(建前上は非営利である)医療法人の代表から、エクイティファイナンスを通じて資金を調達し、上場を目指す株式会社の代表となる以上、経営理念は全社員が諳んじられるほどシンプルかつ普遍的、また可能であれば将来のお客様をはじめ多くの人びとにも覚えていただけるようなメッセージである必要があります。
熟慮の末、経営理念は
【全ての人々が 健康かつ幸福に社会参加する世界を創る】
ブランドスローガンを
【Data based Wellness!】
そして行動指針として
①【ソーシャル・ウェルネスの追求】
②【健康と幸福に関する自己決定の支援】
③【エビデンスとデータに基づいたサービス提供】
④【ステークホルダーへの説明責任】
と定めました。
改めて2法人の理念を読み比べてみると、フェアな社会参画、地域と社会のウェルネス、データとエビデンス指向、などこの9年間でほとんど変化していない部分と、社会情勢や技術革新それに潜在顧客層の広がりに伴い、医療法人ではいくぶん内向きだった理念浸透の対象が、株式会社設立に伴い微妙に外向きに変化したことがわかります。
とはいえ「初心不可忘」、私はシンプルな故事成句が好みなのですが、こちらは中国の故事由来ではなく、我が国の世阿弥の言葉だそうで、じつに味わい深く多くの示唆が得られる言葉だと感じます。
世阿弥は晩年に書いた『花鏡』の中で、”芸事の新人としての初心”、”歳とともに積み重ねる初心”、“円熟期の初心”と3つの初心に言及しており、私はそれらを「それぞれのライフステージ、組織に言い換えると成長発展の各ステージにおいて、常に“初心”がある。それを忘れてはならない」と解釈しています。
つまり私は精神医学や産業医学において新米ではなくなったけれど、歳と共に・かつ人生の円熟期に向かって、人々の公正な社会参加のために引き続き尽力すべき立場にあり、常に“初心”を忘れてはならない、ということです。
医療法人の運営から株式会社の経営へ、私たちはこれまでとは異なる舞台に立ちましたが、常に「初心不可忘」の気持ちで邁進する所存です。長文お付き合いくださりありがとうございました。
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