水を止めずに工事を可能とした大発明 老朽化する公共インフラ「下水道」を支えるSPR工法とは?
【撮影者 白汚零】
各地で「下水道使用料値上げ」の発表が続いている。理由は人口減少による料金収入の減少ということもあるが、施設の老朽化による維持・管理費の増加も挙げられている。下水道の老朽化は日本全体で深刻化しているのだ。
下水道の老朽化が日本全国で進み、道路の陥没事故などの要因となっている
下水道は地下の深いところを走っており、造り替えづらい。下水道が原因で道路が陥没するケースもある。実際、都市部における道路の陥没要因において、下水道の割合は高い(下図参照)。
都市部における道路の陥没発生件数とその要因(令和3年度) 【出典】国土交通省道路局(r1-r3kanbotu.pdf(https://www.mlit.go.jp/))
道路が陥没してしまった例
国土交通省によると全国の下水道管渠の総延長は約49万km。そのうち標準耐用年数50年を経過した管渠の延長約3万kmが、8年後の2031年には約9万kmと3倍になる。下水道機能確保のため、維持管理や改築事業の実施は喫緊の課題なのだ。
管路施設の年度別管理延長(令和3年末現在)。老朽管が急増している。 【出典】国土交通省(https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/crd_sewerage_tk_000135.html)
水を流したまま下水道の更生工事ができるSPR工法
下水道が経年による老朽化や地震などの災害で漏水や破損、腐食などの問題が発生した場合、それをそのままにしてしまうと道路が陥没したり、下水道管が詰まり下水が逆流したりするなど大きな問題へ発展する危険性がある。
問題のある下水道管は修復する必要があり、これを更生工事という。自宅やマンションで下水道工事のため一定期間、トイレなどの水が使えずに困った経験がある人もいるかもしれない。
この更生工事の方法はさまざまあるが、その一つがSPR工法で、水を流したままで工事をすることができる優れた技術だ。積水化学と東京都下水道サービス㈱、足立建設工業㈱の3社で1986年に共同開発した。
SPR工法は、水を流したまま(使用したまま)更生できるだけでなく、道路を掘り返すことなく再生できる。このため、道路も使用し続けられるため、交通渋滞も起こさず、そして掘り返すことによる大量の廃棄物も発生しない。
SPR工法
具体的には、既設管の内部にプロファイルと呼ばれる塩化ビニル製の帯状の材料を送り込み、らせん状に巻いてつなぎあわせ、塩ビのパイプを既設管の内側に形成するという仕組みだ。形成したパイプと既設管との間にモルタルを充填して強度を確保する。簡単にいうと、下水道の管の側面に材料を送り込んで、新しい管を内側に作るイメージだ。既設管をそのまま利用するために開削の必要がない。老朽化した下水道管をそのまま生かして再生させる。
実際にどのように再生していくのか映像で確認してほしい。SPR工法(日本SPR工法協会)https://spr.gr.jp/spr%e5%b7%a5%e6%b3%95
無限の課題に工法の進化で挑む
冒頭に挙げた通り国内の下水道の老朽化は待ったなしの状態だ。すべてにSPR工法が適用できたら良いが、これまでは劣化が著しかったり、一部崩落してしまったりしているような管路は対応できなかった。既設管の残存強度を含めて強度設計しているためだ。
そこで新しく開発したのがSPR-SE工法である。これはSPR工法で巻く材料(プロファイル)の強度を高めて、それだけで自立できるようにするというもの。硬く強度の高い材料にあらかじめ巻き癖をつけてから施工をするため、硬く強度の高い材料での製管を可能とした。
SPR-SE工法で使用されるスチール補強されたプロファイル
SPR-SE工法
一方で、下水道管路の老朽化とともに日に日に進んでいるのが、少子高齢化に伴う人手不足の深刻化だ。積水化学はSPR工法で、さらなる短工期、省施工化が必要と考え、2019年にSPR-NX工法を開発した。これは徹底した施工機材の小型化と、支保工という施工途中での土圧を支持しておくための仮構造物の設置工程を不要にしたものだ。
SPR-NX工法
SPR-NX工法の支保工レス施工
地面の下にあり、普段はあまり気づかないが、生活を支えている下水道管。その老朽化更新は人間の生活が続く限り課題となる。各種SPR工法による下水道管更生の普及、そしてその先にはSPR工法で更生した管をさらに更生する時がくる。積水化学の挑戦はこれからも続いていく。
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