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今日が、残りの人生の最初の1日。

世界初 磁石を貼れないガラス・樹脂・木材・布面に“挟んで貼れる”マグネットフックが生まれるまで

著者: 株式会社マグエバー


はじめまして。マグエバー代表取締役の澤渡紀子です。

二つの磁石を挟んで使う「マグサンド」というマグネットフックを販売しています。2019年8月の発売以来、日本文具大賞優秀賞を受賞、数多くのメディアに紹介され、おかげ様で5万個のヒットとなりました。そこに至るまでのストーリー、今後の展望をお伝えできればと思います。

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  • 「磁石を愛す」ようにと言われ育つ


商品の説明の前に、私自身のことを少し説明させてください。私の父は磁石屋で、湯沸かしポットのコードの磁石や、牛の胃に入れるマグネット、ハンドバックの磁石の開発に携わった人間です。

湯沸かしポットはその昔、赤ちゃんがハイハイしてポットの電源コードをひっかけて大ヤケドをするという事故が多発して社会問題になりました。そこで電機メーカー様から依頼を受け、磁石式差し込みプラグのポットを開発し、大反響だったようです。


父は食事の際も、どこにいても、どんな時も磁石の話しをする人で、私は「磁石を愛す」よう育てられました。私が大学生だった頃、父の仕事についてよく中国の奥地へ連れて行ってもらいました。舗装されていない道に揺られながら、新しい磁石屋を発見した時は宝石を見つけたようなワクワクした記憶があります。そしてアメリカ、ヨーロッパ各地へ販売にもついて行きました。英語が出来ない父が、イギリスのメーカーと、磁石の現物を目の前に堂々と交渉しているのを見てとても刺激的でした。

大学卒業後は不動産会社のディベロッパーに就職し、勤務のかたわら、大好きな演劇の道に進みました。しかし数年後、母が病で倒れ、急遽父の会社へ入社することになりました。


  • マグエバーを立ち上げる。


最初は母のもとで総務や経理の仕事をしていました。

ある日、横浜の加工工場へ行くと、帰り際、数人のパートの女性から「紀子さんこれからも毎週来てほしい。」と頼まれました。工場は数年前から荒れ放題だったのです。

工場を仕切っている工場長に工場が腐敗している旨を伝えると「心配しないで、大丈夫だよ。紀ちゃんには関係ないから、俺に任せていればいいんだよ」と言います。父に話しても、「仕方がない、あきらめるしかない」と話しになりません。私の中にあるスイッチのようなものが押されて、工場長たちとの長い闘争が始まりました。そして1年後、工場が目に見える形で改善されました。


はじめて、「仕事って楽しい!」と実感した出来事でした。それからは俄然仕事に夢中になって、父や工場長に「磁石屋の娘なのにこんなことも知らないのか!」っと、怒鳴られながらも必死に磁石の勉強をしました。父の会社で10年ほど勤めた後、もっと自分のやり方で自由にやりたい、磁石をつかった自社ブランドを販売したいと思うようになり、起業することを決断しました。


  • 飛び込み営業と行商


しかし、やはり現実はそう甘くはなかったのです。自社ブランド商品をつくるにも、まずはそのための資金を作らねばなりません。時はリーマンショックの不景気で、顧客はゼロ。毎日、ただひたすら営業。磁石を使ってくれそうな会社にメールと電話営業、飛び込み営業などもかたっぱしから。「女性が社長の磁石会社さん!?」と嫌な顔をされたこともありました。大量の磁石を車に積んで、ずっしり重い車で静岡、名古屋から大阪、そして岐阜、北陸、長野へ行商の旅。山道で大きな猪に出会い、叫び声をあげたり、雪道で車が動かなくなったり、スピード違反でつかまったり…。



  • 自社ブランド商品を作りはじめるも、失敗の連続


自社ブランド商品の販売もあきらめず、平行してシリコンマグネットの開発も続けていました。自社ブランド商品は、「シリコンマグネット」をコアにして作ろうと最初から決めていました。なぜなら世界最強と言われるネオジム磁石は磁力は強いけれど、割れる、錆びる、ズレやすい、という欠点あり、それらをすべてカバーするのがシリコン樹脂でネオジム磁石を完全に被膜した「シリコンマグネット」だからです。

しかし、その要であるシリコンマグネットがどうしてもきれいに被膜できない。また、フック部とシリコンマグネットとをどう一体化するか、それにデザインも決まらない。あっという間に1年、3年、5年と月日が流れていきました。


  • シリコンマグネットの開発にこだわった理由


私がシリコンマグネットにこだわるには理由があります。20年前、半身不随だった祖母が「マグネットフック」で手にケガをしてしまいました。最強と言われるネオジム磁石は大変強い磁力を持っていますが、祖母のように力の弱い人は怪我をする危険性があるとわかり、とてもショックでした。

これまで磁石商品をこれまでたくさん見てきましたが、「強さ」と「やさしさ」を両立したマグネットフックの商品は存在していませんでした。でも「だったら、自分で作ればいい!」とその時思いました。お伝えしたとおり、父は赤ちゃんの事故をなくすために、電器ポットのマグネットプラグを開発しました。私もその想いを受け継いで、祖母のような力の弱い人達の為に「強くてもやさしい、理想のマグネットフック」を作ろう!と、決心しました。


  • マレーシアでオリジナル商品第1弾が完成!


しかし、商品化までには長~い道のりとなってしまい、結局10年以上にわたり試行錯誤を繰り返しました。結局、磁石製造国である中国では満足するものが出来ず、故あって知り会ったマレーシアの工場で製造することになりました。


このマレーシアで、今度こそ満足のいく商品ができなかったら、どこに行けばいいのか?また、別の工場を探して一からスタートしなければならない。

果てしなく不安な気持ちになり、やっぱり私の考えが甘かったのだと、起業する時の孤独な思いが脳裏をよぎり、心が折れてあきらめそうになる弱い自分との戦いの日々でした。1度目は被膜が破れて失敗。すぐにマレーシアへ飛んでいって、金型の修正をし、3度目でやっと商品として売れるものがようやく完成。


2017年9月、なんとかマグエバー初のオリジナル商品として、「シリコンマグネット i&jフック」を販売することができました。玄関やレンジフード、ユニットバス等で使える、割れない、錆びない、キズつけないというシリコンマグネットでできたフックです。





  • 実演販売開始~楽しく勉強になった日々~


「シリコンマグネット」は、お店に陳列されているだけでは売れないと思い、まずは店舗の方に商品を知ってもらう意味でも各店舗で実演販売を始めました。

やったこともない実演販売、見よう見まねでしたが、これが結構楽しく、生のお客様の声が聞くことができ大変勉強になりました。実演販売をしていて、お客様に「何これ!とても良い商品じゃない!」などというお言葉を頂戴すれば、思わずお客様に握手したくなります。お客様のお褒めの言葉は励みになり、こうだったらいいのに、こう使いたい、というアドバイスやアイデアは商品開発の参考になり、とても貴重な機会となりました。

そして少しづつお客様や店舗の方にも「シリコンマグネット i&j フック」の良さを知ってもらい、何より店員さんがこの商品を好きになってくれたのです。


  • 第2弾、挟んで使うマグサンドの開発に成功! 


店舗で販売していると、「家に磁石がつくところがないのよ」「どこに磁石がつくの?」といった声も多く、「磁石がつくところがないならば、作ればいい!マグネットで挟めばどこでもフックがつかえる!」と考えました。

私の家では昔からあたりまえのように、シリコンマグネットを2つ使って、フックとしてお風呂のすりガラス戸や、窓ガラス、そしてカーテンタッセルとして使っていましたので、それを商品化することを考えました。

2019年6月、マグエバーのオリジナル商品の第2弾として、挟んで使うマグネットフック「マグサンド」を販売しました。

二つの磁石を”挟んで使う“ことにより、磁石を貼れないガラス、樹脂、木材、布面にも貼れる、というコンセプトの商品です。

「マグサンド」はおかげ様で“第28回日本文具大賞2019”機能分野で優秀賞を頂くことができ、発売当初から大変好評で、テレビや雑誌などでも取り上げて頂き、たちまちヒット商品となりました。



  • 空中収納を世界に広めたい!


「マグサンド」は、2020年3月からはニューヨークの小売店で発売を開始しています。ニューヨークのバイヤーさんの目に留まったのがきっかけでした。 マグエバーの商品として初の海外での販売です。


消費大国のアメリカでも、こんまりこと近藤麻理恵さんがブームになるなど、いまや「モノを持たない生活」が支持されているのだそうです。狭いスペースを有効に活用する日本スタイルの収納術はそれには相性が良いでしょうし、今後ますます注目されると思います。マグサンドの販売を通じて、「空中収納」と呼ばれる磁石フックを使用して壁面に収納する新しい収納術など、日本スタイルの「磁石を使った収納とライフスタイル」を世界に広げていきたいと考えています。




  • 磁石の授業 子どもたちの好奇心と笑顔にパワーをもらっています


そして、もうひとつ大切にしていることは、創業時から続けている小学校等での「磁石の授業」です。子どもたちに磁石を実際に触らせて、磁石の不思議なしくみを伝えると、目をキラキラさせて磁石に夢中になります。子どもたちから「磁石って面白い!また絶対来てね!」という言葉を聞けば、嬉しくて抱きつきたくなります。


磁石は黒子として生活のさまざまなところで活躍しています。日本人は磁石の開発の歴史に深く関わっていて、フェライト磁石、ネオジム磁石は日本人が発明し、最も先進的な磁石の技術を持っているのに、多くの日本人はそのことを知りません。大人たちにはもちろん、子どもたちの未来のためにも磁石の素晴らしさ、面白さ、可能性をこれからも伝え続けたいと思ます。目に見えない力を持つ磁石は、このIT時代の今、本当に面白い!磁石は未来を変えるものだと思っています。

これからも志を持ち、不可能を可能にする、未来を変えるようなワクワクするものを作っていきたいとおもいます。


澤渡紀子





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