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参画研究者寄稿インタビュー|臨床心理学・神崎保孝先生「日本初、心理学とeスポーツの二刀流」

著者: 福岡eスポーツリサーチコンソーシアム


参画研究者の知見をご紹介する新企画「研究者の眼」。

記念すべき第一回は、日本トップレベルのeモータースポーツチーム「ニワカゲームス」の指導者であり、「ゲーム症/障害(通称:ゲーム依存)」が新設されたWHOのプロジェクトにも参加協力経験がある臨床心理学の専門家、臨床心理士・神崎保孝先生にリモート形式のインタビューでお話を伺います。


神崎先生は、学校や病院で指導やカウンセリングなどの臨床活動を行う傍ら、国内のeスポーツ業界初、心理学の臨床家としてeスポーツチームと顧問契約を結んだパイオニアです。

インタビューでは、eスポーツやゲームの現状・課題・可能性について、網羅的に解説して頂きます。


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■臨床心理学と臨床心理士

―――神崎先生、本日はリモートインタビューよろしくお願いします!まず初めに、臨床心理士について教えてください。


こちらこそよろしくお願いいたします。

臨床心理士とは、臨床心理学を学術基盤とする心理職の専門家資格です。

臨床心理学は、「臨床」の名が意味する通り、いわゆるメンタル面の不調と人間心理との関連性がテーマで、具体的には精神疾患や不適応の分析・支援・治療などへの寄与を目的としています。


有名な方で言えば、「ホンマでっか!?TV」にご出演中の植木理恵先生が臨床心理士だそうです。

また、「逃げるは恥だが役に立つ」のドラマで新垣結衣さんが演じた主人公の森山みくりは、大学院を出て臨床心理士資格まで取得したものの、臨床現場のカウンセラーとしては就職できず……という設定のようです。


なお、最近になって公認心理師という国家資格もできましたが、臨床心理士試験を受験するためには指定大学院の修了が必須であるのに対し、公認心理師試験は大卒+実務経験で受験することが可能なため、今から心理職を志望される方には、公認心理師の方が受験しやすいかもしれません。

ただ、将来的なキャリアアップとしては、是非とも臨床心理士を目指して頂ければ個人的にはうれしく思います。



―――海外の映画やドラマではカウンセリングのシーンをよく見かけますが、日本ではまだまだ珍しいような気がします。神崎先生は、どうして臨床心理士になろうと思われたのですか?


学生時代の自分の体験がきっかけで臨床心理士を志しました。

元々は、将来の夢など特にないタイプの学生で、両親や親族が九州大学出身で公務員や大学教員なので、何となく自分も同じような進路に進もうくらいに思っておりました。

しかし、進学校だった高校生時代に、ふとしたことから心身の不調が続いて学業が遅れてしまい、結局は遅れを取り戻せずに進路を見直さざるを得なくなりました。


そんな時に、大学の先生の面談と、心療内科の先生の診察と、臨床心理士の先生のカウンセリングを、それぞれ受ける機会がありまして、そこで感銘を受けて……と言いたいところですが、正直に申し上げますと実際は、大学の先生からは自説をひたすら語られ、心療内科の先生は薬のことで話が終わり、臨床心理士の先生は私が何かしゃべるまで終始無言という、三者三様の時間でした。

その中で、高校生の身としてはカウンセリングの時間が一番「マシ」に感じましたので、臨床心理士という職業に興味を持ちました。


思い返してみれば、小さい頃から色々と考え事の多い性格で、例えば小学生時代に青空を見上げた時、「今見えている青い色は、本当にほかの人が見ている色と一緒なのだろうか」「もしかしたら、ほかの人には空が真っ赤に見えているのに、ほかの人は赤のことを青と呼んでいるので、一周回って見え方の違いに気付いていないだけなのではないか」などと考え込むことがよくありました。

心理学を学ぶようになってから、この概念に「逆転クオリア」という名前が付いていることを知り、とてもスッキリしたのを覚えておりますが、答えの見つからないことをあれこれと自問自答しがちな少年でしたので、心理学に興味を持ちやすい素地はあったのかもしれません。


その後は、当時新設されて間もない臨床心理士指定大学院があり、学界の権威の先生方が集まっておられましたので、そちらの大学院を修了して臨床心理士資格を取得しました。



―――まさに「人に歴史あり」という志望動機で、とても興味深いお話です。「逆転クオリア」という概念も初めて聞きました。たしかにそう考えると、人間の心理とは本当に不思議なものですね。その心理学がご専門ですが、普段はどのようなお仕事をしていらっしゃるのですか?


主に、教育や医療の分野でカウンセリングを行っているほか、教育委員会のスーパーバイザーや総合病院のアドバイザーなどを務めておりますので、教職員や医療従事者の先生方への助言・研修指導に携わっております。

ご招聘頂いた講演会や研修会は、福岡県内の個別の機関での研修講師から、年次の全国会議における記念講演者まで様々です。


また、事件・事故や災害が起きた際には、当該地域の各行政機関からのご依頼で心のケアに赴くことがあり、これまでに殺人事件や自死などのケースのほか、熊本地震の災害派遣の際には、福岡県内の他のスクールカウンセラーの先生方とチームを組み、益城町周辺の大津町や西原村の学校を数校受け持ちました。

そのほかには、裁判の鑑定人への選任を受けて第三者調査や心理鑑定を行ったり、国際的な心理検査の日本国内向けの適用調査に参加協力をさせて頂いたりなどしました。


最近で言えば、新型コロナウィルス感染症のPCR検査の陽性者の方を対象とした、オンコール【※病院外において緊急連絡に対応する形式】による遠隔地からのリモートカウンセリングを担当しております。

医療現場の最前線は本当に疲弊している状況にありますので、微力ながら職責としてメンタルヘルスケアに当たっているところです。


FM FUKUOKA「Have Fun!! e-sports」出演時の神崎保孝先生(右)とパーソナリティ西川さとり氏



―――医療関係のみなさまには、本当に心から感謝の気持ちで一杯です。神崎先生も、学校や病院を中心に九州内から全国規模のお仕事まで大変お忙しくていらっしゃいますが、eスポーツやゲームの分野ではどのようなお立場でいらっしゃるのですか?


国内のeスポーツ業界で初めて、心理学の臨床家としてeスポーツチーム「ニワカゲームス」さんと顧問契約を結ばせて頂きました。

ニワカゲームスは、福岡のIT企業のニワカソフト株式会社さんが運営するeモータースポーツチームで、国体プログラムとなった「グランツーリスモ」に取り組むeスポーツの活動だけでなく、プロレーサーの方のご協力を得てレーシングカー搭乗やスプリントカートレースなども実施し、eスポーツとリアルスポーツの融合によって心身の成長を図っている先進的なチームです。

国体の福岡県代表選手を複数名輩出し、おかげ様で茨城国体では銀メダルを獲得するなど、選手層・チーム環境ともに日本トップレベルです【※今シーズンは、国体福岡県代表選手を4名輩出したほか、プロレーサーも参戦した「JeGT GRAND PRIX」でもチーム優勝】。

私は、競技力の強化とゲームの健全かつ健康的な活用を目的として、選手のみなさんからは心理分析やメンタルトレーニングをお引き受けし、チームスタッフのみなさんには心理学的なアドバイザリーをご提案しております。


また、このほど「Gaming Disorder」がWHOの「ICD」という国際診断基準に新設されたことで話題になりましたが、そのWHOのICDの改訂プロジェクトに2013年から末席ですが参加協力をさせて頂きました。


神崎先生からメンタルトレーニングの個別指導を受けるニワカゲームスキャプテン古川拓己選手(左・2020年福岡県代表)



■「Gaming Disorder」(ゲーム症)

―――国体での銀メダル獲得おめでとうございます!ニワカゲームスさんのご活躍は有名ですのでテレビなどでもよく拝見しています。地元福岡が誇るeスポーツチームとして応援してますので、是非これからも頑張ってください!また、WHOの新しい診断基準については、一時期盛んに報道していたので印象に残っています。その「Gaming Disorder」とは「ゲーム依存」のことでしょうか?


応援ありがとうございます。

選手全員の豊かな個性と弛まぬ努力、そして、ご関係各位のシームレスなサポートの結実です。

ニワカゲームスは、ラボと呼んでいるグランツーリスモのトレーニング施設を完備し、選手・ご家族、スポンサー各位、チームスタッフが一丸となって、本気でeモータースポーツに取り組んでいる熱量あるチームです。

選手の年齢構成も大人から小学生までと幅広く、そこにプロレーサーの方や私が監修やアドバイザーとして参画しており、多様な学びがあることも強化方針のひとつです。

また良いご報告ができるよう精進します。


Gaming Disorderについては、日本国内では「ゲーム依存」という言葉が一般的に出回っているようですが、日本の専門学会が提唱している訳語は「ゲーム症」もしくは「ゲーム障害」ですので、ゲーム依存という呼び方ですと、あくまでも通称・俗称になります。

Gaming Disorderに限らないことですが、メンタルに関連する情報にはただでさえ誤解や偏見が多い中で、ややもすれば差別の助長にもつながりかねませんので、一臨床家としては正式にゲーム症・ゲーム障害と呼びたいと思います。


プロレーサーも参戦した「JeGT GRAND PRIX」優勝トロフィーを持つニワカゲームスキャプテン古川拓己選手(中央・2020年福岡県代表)荒木祐樹選手(左・2019年/2020年福岡県代表)龍翔太郎選手(右・2019年国体準優勝、2020年福岡県代表)



―――たしかに、メンタルについての偏見や差別は社会問題ですし、お立場上それらを防ぎたいというお気持ちでいらっしゃると思います。それでは神崎先生のご配慮にそって、本記事では「ゲーム症/障害」という呼び方で統一したいと思います。まずは、ゲーム症/障害の診断項目について教えてください。


診断項目の要点としては

  • 「ゲーム使用の時間や頻度などのコントロールに障害が見られること」
  • 「ゲーム使用が他の生活上の利益や日常の活動よりも優先されていること」
  • 「否定的な結果が生じているにもかかわらずゲーム使用に継続やエスカレートが見られ、学業や職業などにまで著しい障害がもたらされていること」

が挙げられています。


なお、オンライン・オフライン両方ともに対象とされ、重症例以外、原則的には一連の状態が少なくとも12か月間にわたって明らかであることで診断に至るとされています。



―――イメージ的には、当てはまる方が多いような少ないような、どちらにも感じるのですが、診断項目に実際に当てはまる方はどれくらいの数いるのでしょうか?


おっしゃる通りで、学生年代でゲームがお好きな方々は、特にコントロールや優先度の項目には比較的当てはまりやすいのではないかと思います。

2018年時点でWHOからは、疫学に係る情報としてゲーム症/障害はゲームに関わる人々のごく一部のみとアナウンスされていますが、結論的には、まだ正確なことは分かっていません。


まず前提として、今回ゲーム症/障害が新設されたICDは、第11回の改訂版ですので「ICD-11」と呼ばれますが、現行として臨床現場で使われているのは、ひとつ前の版の「ICD-10」であり、こちらのICD-10の中ではゲーム症/障害は存在していないためです。


ICD-11は、テドロス事務局長のもと2018年の発表を経て2019年のWHO総会で採択されましたが、正式な発効は2022年と予定されています。

目下、日本国内においても適用へ向けた準備が進められている段階で、2019年時点ではその作業に1~2年を要するとの見通しが示されていましたので、運用そのものはまだ少し先になる見込みです。



―――大々的に報道していたので、もう既に新しい診断基準に切り替わったのだろうと思っていましたが、まだ少し先の話なのですね。テドロス事務局長のお名前は、新型コロナウィルス感染症関係のニュースでよく拝見しています。しかし、ICD-11への切り替えはまだ先と言っても、ゲーム症/障害が新設されたことについては不安になります。


ご不安になられるのは無理もありません。

ゲーム症/障害は、これまでなかった新しい診断名ですし、正確な有病率などの全貌が見えてこないこともあって、不安心理がつのりやすい状況です。

例えば、私のところに相談に来られる保護者の方の中でも、お子さんのゲーム使用に関する相談件数が最近増加傾向にありますので、潜在的に心配しておられる保護者のみなさんも多いことと思います。


また、ICD-11におけるゲーム症/障害の新設の賛否をめぐっては、専門家の間でも未だに国際的な議論の最中ですので、私としても経過を注視している状況にあります。


eスポーツやゲームの健全かつ健康的な活用を目指したい



■3つの注意点

―――ゲーム症/障害にならないようにするためには、家庭でどのようなことに気を付けたら良いのでしょうか?


まずは初歩的なことですが、ゲーム時間などの利用ルールを、ご家庭の中で本人と話し合って決めることが第一歩です。

そして、ルールとは「決めるため」ではなく「守るため」にあるものですので、当然ながら、決めた利用ルールはしっかりと守られるようご指導をお願いいたします。

ちなみに、私が小学生時代の神崎家では、ゲーム時間は最初は30分間でした。

その後、例えば「勉強を頑張るので、テストで○位以内に入ったら○分増やしてください」「その代わり、○位以下に落ちたら○分減らします」という形で、両親と時間交渉をしていきました。

本人の学業などへのモチベーションを維持向上させるため、利用ルールをうまく活用して頂けると戦略的です。


第二に、ご家庭での利用ルールを、協力・対戦プレイの相手と適宜共有できれば効果的です。

もちろん、ランダムマッチングの相手とまで共有する必要性はありませんが、学校の友人などと一緒にプレイをしている場合には、あらかじめ予定時間の同意を得ておくことで、利用ルールを守りやすくなるものと考えられます。

ただ、思春期年代のお子さんの場合は、「家でゲームの利用ルールが決められていること」を友人などに知られることに対して抵抗を感じる可能性がありますので、例えば「○時からは○○の予定がある」など、本人の自尊心を損ないにくい別の伝え方をご指導頂いた方が良いかと思います。

もしも、それでも必要に応じた伝達まで拒む場合は、先述したように元々の本人の対人関係の課題がゲーム上にも持ち込まれている心配があり、日常的に学校などでも本人が友人に意思をうまく伝えられないなどのケースがあるかもしれませんので、ひとつのサインとしてご観察頂ければと思います。


そして第三に、ガチャの項目でお伝えしたように有料ガチャとPay-to-Winの組み合わせがあるゲームに関してはギャンブル様の射幸性の高さが認められますので、利用そのものを避ける方が無難です。

ただ、有料ガチャの有無は確認しやすい一方、そのゲームがPay-to-Winに該当するか否かは、実際のプレイ経験がないと判断が付きにくいかもしれません。

そのような場合は、可能な限りお調べ頂くとともに、本人から課金の希望があった際、「課金したら強くなるの?」との質問に対する答えがYesならば、おおむねPay-to-Winと捉えて差し支えないと考えられます。


なお、念のために申し上げますと、決して「課金=悪」ではなく、「課金が止められなくなること」が不幸です。

例えば、私が小学生時代に買ってもらったスーパーファミコン用ソフトの「ストリートファイターII」は、定価9,800円でした。

つまり、ソフトを手に入れると同時に「9,800円の課金」をしたことになりますが、もしもこの課金を悪とするなら、それは経済活動の否定と言えましょう。

一方、近年のゲームには、ダウンロードからプレイまでは基本無料で、アイテムなどの販売によって収益を得るビジネスモデルがあります。

有料ガチャも広い意味ではここに含まれますが、キャラクターの見た目のカスタマイズ用アイテムなどの勝敗を左右しないアイテムを、ガチャの方式を取らずに販売しているものもありますので、そちらのタイプへの課金であれば有料ガチャでもPay-to-Winでもありません。


競技性の高さを追及するeスポーツと「Pay-to-Win」は全く相容れない



■見過ごされている要因へのアプローチ

―――3つの注意点への取り組みは、本当に大切だと思います。特に、家庭でルールを決めていても、いつの間にかなおざりになってしまいがちなので、そこも気を付けなければと思いました。おっしゃる通り、「物の購入=物への課金」だと言えるので、そこにギャンブル性がなく、お小遣いの範囲などで納まるようなら、ある程度は問題ないような気がしました。もし、教えて頂いた注意点に取り組んだ上でも、我が子がゲーム症/障害かもしれないと不安になってしまった時は、どうしたら良いのでしょうか?


少しケーススタディで申し上げますと、逆説的ですが「本当にゲームが原因で現在の状況に至っているのか」という視点に立って、俯瞰で全体像を見直すことから始めると良いと思います。

例えば、小児や学生の不登校のケースにおいて、自宅でゲームへの没頭が観察されると、ゲーム症/障害の状態に当てはまるのではないかと疑われる傾向にありますが、そのようなケースでは必ずと言って良いほど「学校に馴染めない他の要因」がどこかに隠れています。

その要因とは、いじめを含む対人関係上の問題の場合もありますし、学力適性とのミスマッチの場合などもあります。

メンタル面の関与では、各種の発達特性が影響している場合や、「心身症」というストレス相互性の様々な身体疾患がネックとなっている場合なども多く見られます。


気の毒なことにこれらのケースでは、本人としては学校に行きたい気持ちがあっても、対人関係や心身の状態が不安定なため結果的に登校できない「失敗体験」が繰り返されることで、自宅でただただ休んでいるだけのように見えたとしても、実のところは自己嫌悪や劣等感・不安感などの蓄積に人知れず耐え続けているということが少なくありません。

そして、そのような時に気を紛らわせてくれるのがゲームである場合があります。


こうした前後関係にあるケースを「ゲームが原因の不登校」と呼ぶのは不正確で、むしろゲームの存在は、本人にとって救いとなっている側面が見立てられます。

私の臨床持論ですが、全ての行動には、たとえ傍から見れば「問題行動」であっても、実は本人にとっては「必要行動」「防衛行動」であるという多面性があります。

すなわち、ゲームへの没頭という行動によって、本人は「どのような必要性を満たしているのか」「どのような物事から身を守っているのか」という臨床心理学的な分析を行っていく作業が、本例に象徴されるようなケースに際してはとりわけ重要であると考えます。


なお、スクールカウンセラースーパーバイザーとしての立場からの私見ですが、このような一連の対応をご家庭の中だけで行うことは難しいと思いますので、各学校に定期来校されているスクールカウンセラーの先生にご相談頂くのが良いと思います。

ご相談の中で状況を整理して頂き、必要に応じて助言を仰いでください。

受診すべき状態か否かについては、一般的には、スクールカウンセラーの先生のご所見にて必要性が認められた場合、医療機関への紹介などの然るべき対応をお取り頂けるものと思います。

ただ、いずれにしても、単に本人からゲームを遠ざけて矮小化するのではなく、申し上げたような見過ごされている要因へのアプローチとセットで支援を行うことが、本人のためには不可欠です。



■eスポーツ選手と子どもたち

―――対応の具体例について、ケーススタディで教えて頂きありがとうございます。「問題行動」に見えても「必要行動」や「防衛行動」だというのは、まさにおっしゃる通りだと思います。不登校のケースも、おっしゃるようなゲームが先か不登校に至らせてしまった要因が先かという根本的なことに気付けないのは、私たち大人の責任なのではないだろうかと感じました。今の時代は学校にスクールカウンセラーの先生がいらっしゃるので心強いです。ちなみに、もし我が子がeスポーツの選手になりたいと言った時は、どのように対応したら良いのでしょうか?


私は、大学・専門学校から高校・中学校・小学校まで各年代の学校の受け持ちがありますが、ご指摘のように、最近は学校現場において将来の夢がeスポーツ選手という話を耳にするようになりました。

小中学生では「専業」を、高校生以上では「兼業」を志望するという傾向の違いはありますが、eスポーツ選手という職業が徐々に市民権を得てきていることを肌で感じております。

新しい職業ゆえ、ご心配な保護者の方もおられることと思いますが、一般論として、夢があることは心の支えになり得ますので素晴らしいことだと思います。


現時点でeスポーツ選手を生業とするには、チームや企業からのスポンサードや、ゲームタイトルにおけるプロライセンス公認を受け、大会賞金・イベント収入・配信収入などにより生計を立てる方法が主流です。

本人のキャラクターやビジュアルなどの魅力も影響しますが、基本的には競技の世界ですので、一定の実力がなければeスポーツ選手としての活動は望めないことでしょう。

ですので、本人の適性を見るためには、安全であれば小規模のものやオンラインのものからで構いませんので、大会や練習会などにチャレンジさせてみるというのが現実的な対応かと思います。

リアルスポーツにおいて、地元のクラブチームや学校の部活動などに参加し、その中で他者との比較によって力量や将来性を見極めていくのと同様です。

本人としても、「eスポーツ選手は不安定な職業だから」と正論を言われるよりも、客観的に自分自身がどのレベルまで通用するのかを実感した方が、現在地は自覚しやすいものと思います。

もしも、グランツーリスモの大会や練習会などへの参加をご検討の際は、どうぞご遠慮なくご相談ください。


また、eスポーツ選手として活動する上でも、知性社会性は必須です。

ムラなくコンスタントに結果を残すためには技術だけでなく賢さが求められますし、チームや企業の看板を背負うためには広告塔に値する好印象な人間性が欠かせません。

したがって、eスポーツ選手になれるか否かにかかわらず、ひとりの人間としての教養や常識を身に付けるため、学業にはしっかりと取り組むようご指導をお願いいたします。

伝え方としては、「ゲームしないで勉強しなさい」と言ってしまうと、やる気が削がれて無気力になったり、進路の相談をあまりしなくなったりする心配がありますので、「ゲームも勉強もしなさい」とのメッセージが伝わる方が良いと思います。


神崎先生のメンタルトレーニングの個別指導には小学生の受講者の姿も



■社会参加のプロセス

―――「ゲームも勉強も」という伝え方は、とても良いなと思います。eスポーツの選手になるかどうかという職業選択の問題と考えてしまいがちですが、その前にひとりの人間として教育やチャレンジが大切だと改めて思いました。そのeスポーツがメジャーになってきたことにも関係しますが、eスポーツやゲームの今後の可能性について、神崎先生のお考えを教えてください。


臨床的には、精神疾患の心理療法、身体疾患のメンタルヘルスケア、認知機能のトレーニングなどをはじめとして、ゲーム活用に適応が報告されており、このようなアプローチは今後ますます増えていくことが予想されます。

また、eスポーツには、障害の有無や年齢などにかかわらず同じフィールドで競い合えるという独自性がありますので、心身にご事情のある方々やご高齢者のみなさんが一緒に競技参加できることはもちろん、本来なら我慢や苦痛を伴うトレーニングやリハビリなどを、少しでも楽しみながら行えるツールとしても、非常に活用可能性が高いと考えております。


そもそもゲームとは、「何らかの問題解決を、様々な工夫・演出を用いてモチベーションの維持向上を図りながら行う作業」にほかなりません。

また、ゲーム開発に際しては、クオリティと同時に、操作性などに配慮したユーザビリティも求められます。

このようなゲームの構造的な特長や技術的なノウハウを応用した「ゲーミフィケーション」と呼ばれる取り組みは、教育や医療などの分野でも間違いなく加速していくことでしょう。

例えば、パイロットの訓練や外科手術の支援において、既にゲーミフィケーションが活かされていることは有名です。

特に、そう遠くない未来、次世代移動通信システムやXRなどのインフラ整備や技術開発がさらに進めば、果てしなくその展望が広がっていくものと思いますので、大変な魅力を感じております。


それと、私自身の学生時代の話で恐縮ですが、当時はまだSNSがありませんでしたので、個人が開設しているゲームファンサイトの掲示板に、あるスポーツゲームについての感想やアイデアを書き込んだところ、その書き込みを見た大手ゲーム会社のプロデューサーさんからご連絡を頂き、「面白いアイデアなので是非詳しくお話を聞かせてください」というご依頼を頂きました。

それで、企画書と呼べるような大したものではありませんでしたが、自分なりの構想をまとめて提案したという経験があります。

残念ながら、当時のゲーム機のスペックでは、私の企画を実現するのは技術的に難しいということでお蔵入りになったのですが、学生だった私にとって、第三者の大人に、しかも、専門の方に自分を認めてもらったような気がして、とても貴重な体験になりました。

ちょうどその頃は、冒頭でお話ししたように心身の不調がまだ続いていた経緯もあり、まさに私としては救われた思いがした次第です。


このような、ゲームを単に娯楽として楽しむだけでなく、その活動を通じて他者や社会と関われたり認められたりする社会参加のプロセスは、学校の部活動や社会人の余暇活動などと何ら変わりはありませんので、これからの時代の社会活動の選択肢になり得るものと考えます。

しかも、eスポーツやゲームはオンラインでも行えますので、国や文化などを飛び越えて交流できることはもとより、通信環境が良好なら遠隔地からでも参集して競技できるため、現在の新型コロナウィルス感染症の蔓延下にあって、実際に対面せずとも大会や練習会などのイベント開催を可能とする点も大きな強みです。

さらに、感染症が無事終息した後に、国際大会から草の根レベルに至るまでの各eスポーツコミュニティがオフラインで復活を果たせば、地域社会の活性化にも貢献が期待できます。


ちなみに、実はWHOも、新型コロナウィルス感染症対策の一環として、自宅でのゲームプレイを推奨する「#PlayApartTogether」というキャンペーンを現在展開しています。

この動きに対しては、ICD-11においてゲーム症/障害を新設したこととの整合性について戸惑いの声が上がっているのは事実ですが、個人的には、実情に応じた合理的な判断と受け止めており、支持しているところです。


心身の成長や地域社会の活性化にもつながる新世代のeスポーツ文化を



■eスポーツ選手へのメッセージ

―――学生時代にゲームの企画開発に参加していらっしゃったというのは、すごく貴重なご経験ですね。おっしゃる通り、eスポーツやゲーム自体はもちろんのこと、それらの活動を通じた出会いや経験にも大きな可能性を感じます。WHOが一転してゲームを推奨するようになったことにも、とても驚きました。それでは最後に、eスポーツやゲームに関わるみなさまに、神崎先生からのご提言とメッセージをお願いします。


僭越ながら、eスポーツ選手のみなさんへ学校教育に携わる者としてお伝えしたいのが、eスポーツ選手という「職業」は子どもたちの憧れになりつつありますが、選手おひとりおひとりも一職業人・一社会人という「人間」として、子どもたちのロールモデルになって頂ければという願いです。

単なる私の雑感にて恐れ入りますが、eスポーツ選手のみなさんは、技術とサービス精神は超一流ですが、時にサービス精神が過ぎるあまり、一部、言葉選びなどに不適切さが見受けられる場面があるようです。


古来からのゲームは、私も含めた一部のマニアック勢向けのニッチなコンテンツでしたが、国体やオリンピックにeスポーツが一プログラムとして選ばれようかという時代では、流石に昔と同じようには参りません。

服装の相応しさとして「ドレスコード」があるように、発言や立ち居振る舞いにも、良い意味での「よそ行き」があります。

我々福岡eスポーツリサーチコンソーシアムは、産官学の関係者が集結し、本気でeスポーツを応援しております。

eスポーツ選手のみなさんも、くれぐれもご自分でご自分の社会的価値を下げることなく、子どもたちに手本や規範を示して頂ければ幸甚です。


▼関連ツイート



■eスポーツと賢い選択

最後に総括としては、2018年は、「eスポーツ」という言葉が新語・流行語大賞トップ10へ選出されるとともに、WHOのICD-11にゲーム症/障害の新設が発表され、明暗両面において「eスポーツ元年」となりました。

そして、2019年には、日本最大のスポーツ大会である国体を舞台に「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」が初開催され、2020年では、WHOが感染症対策として自宅でのゲームプレイを推奨するなど、eスポーツやゲームを取り巻く状況は、ここ数年でまさに目まぐるしく変化しています。


この中で、2018年にゲーム症/障害を新設したWHOが、2020年にはゲームプレイを推奨している事実は、「ゲーム=悪」もしくは「ゲーム≒悪」というステレオタイプからの解放とともに、ゲーム症/障害の本質は、「過ぎたるは、なお及ばざるがごとし」にあることを示唆していると言えましょう。

本来人間にとって不可欠な水分でさえ、摂取し過ぎれば「水中毒」に陥ります。

すなわち、「ゲームとの関係性」や「ゲームとの距離感」を合理的に調整し、人間がゲームに振り回されるのではなく、人間が主体的にゲームを活用してプラスに作用させることが、個人にとっても社会全体にとっても賢い選択であろうと考えます。

本日の内容がその一助となれば望外です。



【付記】

ご招聘を賜りました福岡eスポーツリサーチコンソーシアム会長 作花浩聡先生,理事長 磯貝浩久先生,事務局長 鈴木達朗先生,事務局 斉藤嘉子先生,

ご一緒させて頂いております九州産業大学教授 西薗秀嗣先生,九州工業大学教授 夏目季代久先生,福岡大学准教授 森田泰暢先生はじめ,他の参画研究者の先生方,法人・個人会員の皆様方に,心より深謝申し上げます。


また,戦友であるニワカソフト株式会社 古賀聡代表取締役,小田英天取締役,太田寛ニワカゲームスチームマネージャー,選手・ご家族の皆様方,スポンサー各位,

ご高誼頂いております福岡eスポーツ協会 中島賢一会長,事務局 黒川ゆうき様,ご関係各位に,記して御礼申し上げます。(神崎)


【神崎保孝】ニワカゲームスeモータースポーツチーム メンタルアドバイザー


臨床心理士指定大学院修士課程~博士課程を経て臨床心理士登録。

教育庁教職員メンタルヘルスカウンセラー・研修講師、教育委員会SCスーパーバイザー、精神保健福祉センター自殺対策・自死遺族ケアカウンセラー、急性期・回復期総合病院アドバイザー・カウンセリング専門外来、商工会議所アドバイザー、民事訴訟事件裁判鑑定人、政策研究ネットワーク委員などを歴任のほか、私立学校教職員・保護者の年次全国会議における記念講演者、近県の医療機関が参集する専門研修の特別講師などを務め、WHOのプロジェクト、熊本地震の災害派遣、殺人事件・人身死亡事故・自死・いじめケースの心のケアなどにも参加協力。


国内のeスポーツ業界初、心理学の臨床家として顧問契約を締結したeモータースポーツチーム「ニワカゲームス」は、茨城国体で銀メダルを獲得するなど日本トップレベル。

福岡eスポーツリサーチコンソーシアム運営正会員。

【連絡先:inquiry_kanzaki@yahoo.co.jp】






▼「eスポーツを科学する。」福岡eスポーツリサーチコンソーシアム(FeRC:フェルク)

■HP:https://www.ferc.jp

┣研究者の眼


┣西薗秀嗣先生(FeRC運営会員・九州産業大教授):https://www.ferc.jp/research/n20200806/

┣森田泰暢先生(FeRC運営会員・福岡大准教授):https://www.ferc.jp/research/jul07-2020/

┣磯貝浩久先生(FeRC理事長・九州産業大教授):https://www.ferc.jp/research/jul03-2020/

┗神崎保孝先生(FeRC運営会員・臨床心理士・ニワカゲームスアドバイザー):https://www.ferc.jp/research/may14-2020/


■Twitter:https://www.twitter.com/Fukuoka_eRC

■Facebook:https://www.facebook.com/FeRCesports

■Instagram:https://www.instagram.com/fuk_erc


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喫煙が敬遠されていく日本で、喫煙可能店が見つかるアプリを作ろうとした理由 
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花王株式会社(Kao Beauty Brands)
想いのままに美を追求できる社会を目指して。花王からの新ブランド「UNLICS(アンリクス)」誕生の舞台裏
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