うさぎのおんがえし
満月の夜、見知らぬ者の声を聴き、うさぎは目覚めた。
「せつこ、起きろよ。」
隣りの部屋で寝ているはずの兄の声だ。
目を開けてうさぎの目に映ったのは、
髪を後ろで一つに束ね、落武者の出で立ちでベッドの脇に浮かぶ、
フォログラムのような男の映像であった。
「怖い!」
「誰か、助けて!」
叫ぼうにも、声が出ない。
金縛りの体を、必死に起こそうとしても、無駄なことだった。
目をつぶったうさぎの目の内側にも、その男の顔がアップになって映り込んでくる。
「何か悪さをしに来たのでなければ、立ち去ってほしい。」
うさぎの想いに答えるように、その男の映像は、ふっと消え、うさぎの体の上に乗っていた男の体重が感じられなくなるように、金縛りの体が解けて、自由に動けるようになった。
その晩、うさぎは二階の自分の部屋から、一階に寝ていたお父さん、お母さんの間にもぐり込み、眠った。
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