著者: 高津 諒

彼は

音もなく

影もなく

盗人のように忍びよった


ただ、その時が来た


祈りは届くのだろうか

救いはあるのだろうか

光はあるのだろうか


ある者は言った

お前は知っている

罪を知り罪を成したことを

何故、罪を受け入れたのか


そこに救いはない


またある者は言った

お前は怠った

罪を償うことを

何故、罪を受け入れなかったのか


そこに光はない


またある者は言った

お前は善を行った

しかしそれは悪である

何故、悪を知ろうとしなかったのか


そこに祈りはない


またある者は言った

お前に裁きが下る

誰がお前を裁くのだろうか

神か、社会か、民か

誰が裁きを下せるのだろうか

誰がお前を裁かねばならないのだろうか



彼は言った


闇へ沈め

裁きの時は来た 

もう、お前は覚めることはない と



贖うことは出来るのだろうか

否、それは不可避だと悟る

引きずり込まれる

ゆっくりと、確実に

海底へと沈みゆくように

息が苦しい 出たい

必死にもがき続けた

夢中でもがき続けた


上へ、外へ

出してくれ 助けてくれ


声がする


あぁ、無常な様よ

お前は、裁きをも受け入れないのか

裁かれてなお、贖うのか

裁かれてなお、慈悲を乞うのか

誰がお前を裁けるのだろうか


ふと、一筋の光が

彼を照らした


死ぬのならば、助からないならば

こんな仕打ちをする者よ

貴様の顔を

貴様の顔を目に焼き付けてやる

死んでも呪ってやる






彼の顔は


僕だった


僕は、僕に殺される


僕は、僕に裁れる






誰を恨めばいいのだろうか


誰を呪えばいいのだろうか






目を覚ました僕は 顔を洗って 鏡を見つめた

著者の高津 諒さんに人生相談を申込む