長男君が生まれた日のこと《プロローグ》

次話: 長男君が産まれた日のこと《前編》

導かれた妊娠


結婚して6年目の夏。

無性にピンク色の服が着たくなった。

それまでの私は黒かグレーの服しか着なかったのだけれど、なぜかピンクが着たくてたまらなくなり、似合うとか似合わないとかそんなことは全然無視して、その夏は欲望のおもむくままに浅黒い肌にピンクの服を着続けた。

全身ピンクのその装いはさながら


「お前はパーコか!」


と突っ込みたくなるような、目を覆いたくなるいでだちではあったが、小汚いオタク女子から多少は女子度がアップした夏であった。

周りからイタいおばさんと思われようが、私としては欲望が満たされて大変満足である。


さて、それからひと月程経った頃、今度は無性に占い師に観てもらいたくなった。今思い返せば、私のターニングポイントはいつも占い師だけれど、とにかくその時も、こちらの意思とは全く関係なくあっというまに占い師のところに行く手はずが整ってしまった。


義妹が行ってきたというデパートの一角にある占い師の所に行き、小さな紙に名前と生年月日を記入して占い師に手渡した。そこの占いは四柱推命で、生年月日と生まれた時間をコンピューターに入力するとその結果が紙に印刷されて出て来る。一瞬、

え・・・コンピューターで占うなら、この人いらないんじゃ・・・

と思ったけれど、どうやらこの結果を踏まえた上で、手相なども見ながら総合的に判断するらしい。この女性はただ占い結果を読み上げる人ではないようなのでとりあえず安心した。


仕事運を占ってもらうと、

占い師
あなたに一番ぴったりなのは出家することね!


と言われて「そりゃないわー!お金稼ぎたいのに・・」などと当惑していたが、話を聞くうちにこの占い師が突然聞いてもいない子供運のことを話し始めた。


この時、私たちは結婚して6年が経っていた。

子供はいなかったけれど、私自身は子供は欲しいともいらないとも思っていなかった。

子供を育てるという経験が必要であれば出来るだろうし、そうでなければ出来ないだろう。すべては神任せだ。


こういうところがあるから「出家しろ」と言われるんだろうけど。


とにかくこんな風に思っていたので、正直なところ、子供が出来るためのアドバイスみたいなことを言われるのは少し迷惑に感じていた。

しかし、この占い師の話を聞いているうちにそうとも言っていられないような気持ちになってきたのである。

占い師の話はおおむね以下のような内容だった。


占い師
あなた達の子供はそうね・・・出来なくはない。ただ、あなたのご先祖の中に望まれずに生まれた末に大事にされず、幼いうちに死んだ子がいる。その子があなたの家系に子供が出来ることを邪魔しているから、その先祖を供養しなさい


考えてみれば、たしかに私の家系は子供が出来ないとか流産・死産が多い。それにしたって、


先祖のタタリってそんなのアリなの!?


疑いつつも、やはりタタリは怖い。

ちなみに霊感の強い甥っ子は、家の廊下の隅に髪と手をだらりと垂らしてこちらをにらんでいる女の人がいると言って、小さな頃によく泣いていた。

トイレのあるその廊下に近づくのは小学5年生になった今でも実は怖いらしい。


その女の人が私達子孫を恨みまくってる姿を想像すると私でもやはり怖い。うぅ。

自分が子供が欲しいかどうかはともかく、そういう先祖がいて成仏できずに今も恨み続けているのであればやはり素直に気の毒だと思う。

これは供養してもらった方が良いだろうということで、その日のうちに母に電話をした。


すると母からの返事はまたしても驚くものだった。


「あら〜!そうなの!?実は2、3日前に、ご先祖様のお墓の掃除をしていたら今までに見たこのない墓石が突然現れてビックリしたのよ。もしかしてあの墓石がそのご先祖様なのかしら!?」


と言ってきた。

いくらなんでもタイミングが良すぎるだろう、母よ・・・。


墓石に彫られた年号をみると慶長○年などと普通に書いてあるから、私の実家はそうとう古くから続く家系なのだろう。丸い石に年号が彫られた墓石がゴロゴロと転がっている。

その墓石が突然一つ増えたというのだ。


だ〜か〜ら!そんなのアリ!?

後日、その墓石を確認に行ったら確かに墓石が1つ増えている。

しかも、その墓石にはお坊さんが赤ちゃんを横抱きに抱きかかえている姿が彫られていた。

母はすぐさま先祖供養に行った。


ちなみにこれは後日談だけれど、長男君が生まれてから私はこの墓石の写真を携帯カメラで撮って常に持ち歩いていた。

それで祖母の伝言を聞きに行った時に実はこの写真のことも霊媒師にみてもらっていたのだ。

すると、この霊媒師もまた


霊媒師
たしかにこのご先祖様が邪魔しとったようやな。この子はこのご先祖様に守られとるから、このご先祖様の分も大事に育てなあかんよ。

この子にはちゃんと墓参りもさせて。


と言われた。

だからきっとあの占い師が言ったことも本当だったのだろう。

私はいつもご先祖様や亡くなった親族に操られる・・・(このお話はまた今度)


先祖供養が終わってしばらく経った頃、今度は無性に家飾ってあった水辺の絵画を処分したくなった。

とても気に入っていた絵なのだけれど、どうしてもそこにあってはいけないような気がしたのだ。

それで泣く泣く処分した。


それから数カ月経った、その年のクリスマスイブの明け方。

私は不思議な夢を見てガバッと飛び起きた。


その夢とは、なんとも言えぬ美しいオーラをまとった女の人に


「あなたに男の子の赤ちゃんを授けますね」


と言いながら赤ちゃんを手渡される夢だった。

有無を言わせぬその迫力に迷う暇もなく赤ちゃんを受け取ったところで目が覚めた。

その時は、単なる夢だと思ってその夢のことは気にも留めていなかった。


それなのに

それから2週間後の1月6日。長男君の妊娠が発覚した。

そこでようやく、


そういえば、クリスマスイブの朝方に赤ちゃんを受け取る夢を見たわ!

と思い出したのだ。


あとで色々調べてみたら、無性に身につけたくなる色というのは、その時に必要となるオーラの色を補強しようとする本能であるらしい(ちなみにピンクは母性愛)。


そして、海辺や水辺の絵は風水的にみると流産などを意味するそうで、妊娠したい女性にはなるべくそれらの絵や写真は飾らない方がいいらしい。


本能が勝手に妊娠準備を始めていたのか?


なにがどう作用し、それらの事実が妊娠と関係あったのかどうかは全く定かではないけれど、とにかく結婚6年目に私は妊娠した。



それから8カ月後の8月24日。

とてもとても暑かった日の朝方4時22分。私は赤ちゃんを産んだ。

夢の中の女の人が言っていた通り、生まれてきた赤ちゃんは男の子だった。

実はこの妊娠が発覚する前後2カ月ぐらい、赤ちゃんが出来るような事実はなかったのだけれど、まあそういうこともあるのだろう(あるの?笑)



その長男君ももうじき7歳になる。

生まれてから4歳ぐらいまではお誕生日のその時刻になるといつも泣き出していたっけね。

時間がかかってお互いに大変だったもんね。


生んだ後の病室がキラキラと光って見えたのは今でも鮮明に覚えているけれど、ブログに書いていたあの日の日記を読み返したら、美しいだけではなかったことも思い出した。


これはそんな長男君の出産物語。


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長男君が産まれた日のこと《前編》

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