あなたを選ぶ新人作家のストーリー

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才能はあるのに、チャンスが無い。


才能はあるのに、時間がない。


才能はあるのに、お金がない。




だから才能はあるのに、意味が無い。




そんな作家さんは日本にゴロゴロいます。


あなたの周りにもいるかもしれません。




本を出したい。


でも、どこの出版社も取り合ってくれない。


実績が無いから。




ウケそうにないから。




せめて読んでから判断して欲しい。


あなたにも。







【同じ時の中で】 作者:一家佳仔

(いちいえ かこ)




息が切れる。けれど、歩いていたら、絶対に間に合わない。



腕時計を一瞥して、少女――藤堂結菜は駅の階段を駆け上がってゆく。



大丈夫……まだ、間に合う。)



自分に言い聞かせて、改札を駆け抜けた。




そのままホームへと続く階段を半分くらい駆け降りた所で、


まるで何事もなかったかのように立ち止まっていた。



(間に合った……。)





肩で息をしながら、階段の端へと避ける。と、カバンを握り締めて、ホームを静かに見つめていた。
 


結菜の視線の先には、クラスメイトの高瀬大樹が立っていた……手元の教科書に視線を落としている。
 




大樹は、この時間にいつもいる。結菜と同じ電車を待っている。


いや、結菜の方が大樹の乗る電車に合わせているだけ……ほんの十数分だけでも、一緒の時を過ごしたいから。
 


じっと大樹を見つめる。気付かれないようにしていても、心のどこかでは気付いて欲しい感情も渦巻いている。



(きっと、私が見ている事なんて気付いてない。でも、それでも構わない。気付かれた所で、どうせ……。)
 




結菜は少しだけ沈んだ顔をする。別に付き合いたい訳じゃない。


けれど、好きと言う感情が希薄な訳でもない。


むしろ、誰よりも大樹の事が好きだと言う自信があるくらい。


それでも、自分が大樹に好かれると言う自信はない……。
 




小さくため息を吐いて、少しだけ顔を上げた。大樹を見る。



大樹は相変わらず教科書を読んでいる。試験が近いからだろうか。



(勉強してる。何の教科かな。)
 




少し首を傾けた。瞬間、大樹が顔を上げた……結菜の方を向く。



(気付かれたかも……。)



結菜の心配を余所に、大樹はホームの時計を見ただけだった…




…今度は線路の向こうを見遣っている。
 


大樹の仕種にホッと安堵する。と、うつむいていた。
 




もう直ぐ、電車が来る。電車の扉が開いたら、急いで大樹のいる所まで行って、こっそりと同じ車両に乗り込む。先に乗っていた友達と大樹が話している時に、自分は近くに素知らぬ素振りで立っている……それが、結菜の楽しみだった。





大樹の事を考えた時、フワッと風が階段を駆け上がってきた。咄嗟に顔をしかめる。



風が収まると、結菜は口を尖らせて制服の裾を正した……


続けて、手鏡を取り出す。




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