【えりも方式の衝撃】第3話

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第3話〔冬が来る〕

 かつて襟裳は自然豊かな場所だった。しかし江戸時代の後半,襟裳の海の岩礁に生えるコンブを求め,人々は襟裳に移住を始めた。時代が過ぎ明治になると,政府が開拓移住を呼びかけたこともあり,開拓農民もそれに加わった。

 たしかに襟裳は自然が豊かだ。鮭を始めとする回遊魚が多く立ち寄るし,海鳥も集まってくる。アザラシも手の届くほどの距離で生息している。そしてなにより襟裳のコンブは最高だ。

 この地に開拓の夢を抱いた入植者は多かったのだろう。しかし,自然が豊かだということは,別の表現をすれば,自然が厳しいということでもある。

 北海道の冬を甘く見てはいけない。現在でも,凍死する人間がいるのだ。また襟裳岬の風はすさまじい。今では岬に《風の館》なる施設もあるほどだ。この風が,人々の生活を,生命を脅かすことになるのだ。

 人々は自分が生きていくために,暖を取らねばならなかった。その材料はなにか。大地から生えている木々をいただくしかないではないか。こうして襟裳の木々は,どんどん切られていくことになっていった。

 明治も中期になる頃,政府の取る〈富国強兵〉策,〈殖産興業〉論,〈文明開化〉という幻影,〈日本型産業革命〉というイケイケ感あふれるフレーズにより,襟裳の広葉樹は,紙の材料として次々に切り倒されていった。暖房という生活必需に加え,大国へのステップアップのために,襟裳はまるはだかにされていった。そしてついに,砂漠となってしまったのだ。

 砂漠の砂が飛び,人々の生活に支障をきたし始めた。襟裳の強風が,大量の砂を巻き上げた。強風はまるで黄砂を発生させるかのように猛威を振るった。大地に水を蓄える“緑のダム”を失った襟裳は,雨がふるたびにその大地が削られ,海に流入し続けた。その結果,コンブは生えなくなり,回遊魚が来なくなった。海は“死んだ”のだ。世に言う《襟裳砂漠》の誕生である。

(つづく)

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