別れの夜はペヤングカップ焼きそばと共に

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ホームステイ最後の夜。

僕は一人キッチンでペヤングにお湯を注いでいた。

「これで最後かぁ。」

ホストハウスには僕一人。荷物をまとめたスーツケースはすでに玄関に置いてある。

「ホームステイ最後の夜が一人って…」

そのペヤングは、いつもよりしょっぱかった。


(画像はイメージです。手前は僕ではありません。)


ホームステイ。それは運。

子が親を選べないのと同じように、ホストファミリーは選べない。

ホームステイ。それは修行。

まったく知らない文化に、身一つで飛び込んでいく。

ホームステイ。それは自然。

時には優しく、時には厳しく牙を剥く。


ホストファミリーとは家族のように。別れの日は涙を流し再会を誓う。何不自由なく、本当に親切に接してくれる。

運のいい半分はそうだろう。しかし残り半分は…。


シアトルでの1年間、最初の5ヶ月はホームステイだった。

メキシコ人のホストマザー、ナタリアと、オランダ人のホストファザー、ダニエル。

それに10歳のジョージと7歳のボブという2人の息子。犬のジョン。


この4人と1匹との共同生活は、おそらく生涯忘れないだろう。


初日。アメリカを知る。


留学、日本から来た僕を家で出迎えてくれたのは3人と1匹だった。ナタリア、ダニエル、ボブ、そしてジョン。

ジョンは僕に向かって吠えまくっている。慣れるまで一週間はかかるらしい。まじで吠えまくっている。

ジョージはボブにいじめられて部屋にこもっているらしかった。兄なのに。兄なのに…。


兄弟間の力関係がわかってきたところで、ナタリアが「昼食にしよう」と声をかけてくれた。

事前にもらっていた手紙では『No Junk Food』とあった。アメリカ家庭にしては珍しい。

渡米前には友人から「絶対太るよ!」とよく言われたが、ジャンキーなものが出ないのなら太るはずもない。

ジャンキーではないアメリカ家庭の食事とはどんなもんなのかと食卓へ行ったら、


宅配のピザとコーラが並んでいた。


僕「…。ジャンクフードは食べないんじゃないの?」

ナタリア「?これはピザよ?小麦粉とトマトの何がジャンクなの?」


なるほど。一理ない。

僕の陳腐な常識はここでは通用しないのだと一瞬で理解させてくれた。


横ではやんちゃなボブが「これがアメリカンボーイだぜ!!」とかいいながら頭からコーラをぶっかけている。

そして部屋から泣き叫びながら出てくるジョージ。


吠えまくるジョン。泣きまくるジョージ。コーラまみれでピザを食べるボブ。それを慣れた様子で対処するナタリアとダニエル。


カオス…。


これがアメリカか。この日から僕の壮絶なホームステイライフが幕を開けた。


家のルール


この家には厳格なルールがあった。

ナタリアは「私達とは家族だと思っていいのよ」と最初に言ったが、とてもそうとは思えなかった。


1. 「21時以降は上に上がってきてはならない」


この家は2階建てだった。中間である中2階に玄関があり、階段を上った2階が生活スペース。トイレシャワーキッチン冷蔵庫すべては2階にあり、もちろん食事も2階。家族が寝るのも2階。

僕が与えられた部屋は階段を下りた1階部分。そこには犬のジョンの部屋と、空き部屋が一つ。その空き部屋が僕に与えられた。

そして言われたルールが「21時以降は絶対上に上がらないでね」。トイレに行きたくなっても、喉が渇いても、上には上れない。一度どうしてもトイレに行きたくなって21時半くらいに2階に上ると、敏感に起きて来たナタリアにものすごい形相とものすごい大声で怒られた。「私を寝かせろ!!」って。怖かった。

そして僕に一向になつかず、依然吠えまくるジョンとの1階共同生活が始まった。


2. 「朝のシリアルは無味無添加のものを食べること」


これが朝ご飯のシリアルよ。と指差されたのはケロッグなどの味がついたものではなく無味無添加のもの。ちょっとがっかりしたが、そんなもんじゃへこたれない。男の子だから。朝ご飯がもらえるだけとても有り難いのだ。


そして初めての朝、僕は意気揚々とそのシリアルを食べる。子供達も起きてくる。テーブルに座る。彼らの朝食が出てくる。…あれ?

「ケロッグだ…。」

僕以外の家族の朝食はしっかり味のついたケロッグだった。

あれ、でも棚には無添加の奴しか…。

と思ったら家族のシリアルはしっかりみなさんの寝室から持って来ていました。

僕には絶対食べさせないぞ!という気概を感じますね!ええ!


「なんでおれのだけ違うんだよ!」とも言えず、やも言えぬ疎外感を味わいながら無添加のシリアルも味わう。そんな朝食。


3. 「ボブの機嫌を損ねないこと」


なぜかこの家はボブが絶対的な権力を持っていた。初日にコーラを頭からかぶってみせたボブだ。

特に兄のジョージは絶対にボブに逆らえない。いつもやられっぱなしだった。

殴られても我慢。お菓子をとられても我慢。おもちゃを壊されても我慢。

抵抗しようものならボブは怒り狂い両親はジョージをしかる。「お兄ちゃんでしょ!」と。かわいそうなジョージ。

あまりにかわいそうなので僕が一度僕の分のお菓子をあげようとしたら、「それはボブにあげて…」と言われた。

なんなんだこの絶対王政は…。過去に何かあったのか。ボブのものはボブのもの。ジョージのものもボブのもの。を地でいっていた。


かくいう僕もよく強制的にサッカーの相手をさせられていた。勉強中だろうが彼女とスカイプ中だろうが関係なく彼はやってくる。

「しょう〜!サッカーやろうぜー!」

まぁしかし、そこはやはり7歳の子供。無邪気にボールを追いかける姿はかわいい。

まあ軽く相手してやるかとボールを蹴ると、彼は言った。

「前のやつの方がだいぶうまかったな。つまんねぇ。」


危うく彼の頭を蹴り上げるところだった。


楽しみな夜ご飯


ナタリアの夜ご飯はとても個性的だった。

メニューはバリエーション豊かに3種類。それをローテーションしていく。

1種類はメキシコ料理。豆を煮たスープと、ご飯。

もう2種類はアメリカン。市販のウィンナーを市販のホットドッグパンに挟めてケチャップとマスタードをかけたホットドッグ。とご飯。僕はこれが一番好きなメニューだった。

そして最後はステーキ。牛肉をウェルダンに焼き上げる。ウェルダン過ぎて、食卓に出るそれは黒い。ホントに黒い。これは決して盛っていない。ほとんどコゲと化したステーキを、家族はおいしそうに食べている。少し見苦しいですが写真が残っていました。




そして3ヶ月ほど経ったある日、メニューがもう一種類増えることとなる。


ある日、帰ると家族は出かけていて、テーブルの上に僕の夜ご飯を置いてくれていた。

お腹がすいていたのですぐにテーブルに座り、皿から銀紙を取る。

そこに現れたのは、

生のレタスのような野菜。とご飯。あとドレッシング。のみ。


これだ…





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