「ある7月の晴れたさわやかな日のできごと。」⑨

著者: 高橋 祐貴

西からの太陽光が膝に当たり、水面に陰を落とす。

さゆりはまどろみの中にいた。

意識はまだある。

陽光で照らされている部分とバケツの中の水に浸っている部分の温度差を強く感じていた。

ミーンミーンとせわしなく、セミは復弁を震わせている。

今年はオスが多いのだろうか。

小学生2年生の時、鳴くのはオスのセミだけだと父親が教えてくれた。

セミの鳴き声がうるさいと怒るさゆみに

「ああやってオスゼミは彼女を捜しているんだよ。さゆりにもいつか分かる時が来るよ。」

と父が話してくれたのをまだ覚えている。

その時もこうやって縁側でアイスを食べながら、足を冷水に浸していた。

あの頃の私はまだ、バケツの底に足がついていなかった。



バタバタと奥の方から足音が聞こえる。

詩織が起きたのだろう。

せっかくウトウトしていたのに目が冴えてしまった。


「お姉ちゃん、こんなところにいたんだ。」


「おはよ。大の字で寝てたけど、気持ちよかった?」


他愛もない会話が交わされる。



【⑩に続く】


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